ここに物語が

著者 :
  • 新潮社
3.35
  • (5)
  • (16)
  • (18)
  • (9)
  • (0)
本棚登録 : 420
感想 : 22
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104299133

作品紹介・あらすじ

何を、どんなふうに考えながら生きてきたか。物語を発見する日常を辿る。創る者も読む者も、人は人生のそのときどき、大小様々な物語に付き添われ、支えられしながら一生をまっとうする――どんな本をどんなふうに読んできたか。繰り返し出会い続け、何度もめぐりあう本は、自分を観察する記録でもある。思索と現実、日常にいつも共にある、本と物語をめぐるエッセイ集。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ここで取り上げられていたのは、私には難しいだろうなと思われる本が多かったが、書かれた背景まで洞察する読みの深さ鋭さに只々驚かされました。
    それに加えて、美しく潔い文章、曖昧さのない表現の素晴らしさったら!同じ日本語を使っていて、どうしてこれほど美しいのでしょう?

    実は梨木香歩さんの小説はまだ読んだことがなくて「読みたい本リスト」に何冊か入れているので、これから読んでいきます!

  • 確か産後の休暇中だったからもう7年近く前だと思う。梨木さんのエッセイを読んで、衝撃を受けた。こんなにも世界のいろんなことに日々考えを巡らして、それを文章にしている人がいるんだと。そんなに卑下する必要はないのに、「私なんか何も考えてないな。ぼーと生きてるな。」となぜか落ち込んだ。あんなに衝撃的だったのに、そのエッセイがどれだったのか思い出せないところが、また甚だ悲しいのだけれど・・・。本書は、このことを強く思い出させたエッセイだった。梨木さんの思考のよりどころとなっているであろう本や物語について書いたものを集めたもの。別の媒体に掲載された短めのエッセイを集めたものという感じ。

    本書で紹介されているものは知らないものばかりで、こういった読み物が梨木さんの精神的な血肉となり、作品に顕れてくるんだろうな~と、さらに梨木さんを雲の上の存在のように感じてしまった。

    ガルシア・マルケスの「百年の孤独」は、梨木香歩さんの愛読書のひとつと知った時から「いつかは読もう」と思っていたけれど、今回ちょっと内容に触れて、無理、と思った(笑)素晴らしい作品なんだろうけど、読みきる自信がない。

    本書では戦争のこと、アナグマのこと、チェルノブイリのこと、そしてコロナ禍についてなど、様々な資料からの梨木さんの思考が書かれているけれど、特に印象に残ったのは、「ハンセン病と自由について」。大変重要なことを知った、知って良かったと思った。
    かつてハンセン病患者のための隔離施設があったことはおぼろげながら知っていた。そして、それが実は不要なものであったという事実もなんとなく・・・
    しかし、恥ずかしながら、それらがナチスのゲットーなどと並ぶ「強制収容所」であったということは知らなかった。国立療養所長島愛生園の園長であった光田医師の業績は、本当のところは、そういうことだったのか。かなりの衝撃だった。そして、神谷美恵子は光田医師の熱心な信望者だったのか。「生きがいについて」を読んでいただけに、表面的なことしか知らなかったことに驚愕するとともに無知って怖いとひしひしと感じた。
    そして、「自分で考える」ことの重要さをいまいちど考えた。
    たとえ初めは知識が少なくて自分で考える自信がなくても考えないといけないんだと思う。右にならえ、上の人の言う通りに、ではダメなんだと。もし、それで間違っていたら、自分の考えを修正していけばいい。とにかく自分で考えること。頭を使うこと。個々が以前よりも重視される今、そうやって十人十色の考えがあれば、こんな強制収容所的なものや戦争のような間違いは起こらないんじゃないかと考えてしまう。安直に考えすぎだろうか。
    でも、その思いに手を差し伸べてくれそうな、この章の終わりを、ちょっと長いけれど引用しておきたい。
    「・・・私たちは確かに、一時的に激した感情に思考まで影響を受け、飲み込まれやすい傾向がある。自身で考えることを放棄するところから始まり、極端に奔れば自分の「激情」に後付けで論理の匂いのするものを与えていくーこれは恐るべき「短絡」であり、知性の「機能停止」状態ともいえる。この短絡は学歴や教養の多寡には関係ない。知性の代名詞のような人間にも、気を付けていなければ起こりうる。個を放棄して、一つに纏まりたい欲求を、他の民族より強く持っているのかもしれない。それが結局、自分たちの「自由」の首を絞めていくような結果になるということを、深く考えなければいけない時が来たのだと思う。
    ほんとうに人間全体のため、そして個々の人間にとってそれが正しいことなのか、冷静に考え抜くことー評論家ではない、学者でも文学者でもない、私たちそれぞれが、いままさにそれをしなければいけない時代に生きているのだ」

    少し難解に感じたところもあったけれど、思慮深いこのエッセイ集は、「自分の頭で考える」ことの大切さを再認識させてくれた。

  • 梨木香歩おすすめ作品10選【自然の中で生まれる癒しの文学】 | ReaJoy(リージョイ)
    https://reajoy.net/book-recommend/author-ranking/12816/

    梨木香歩 『ここに物語が』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/429913/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      『西の魔女が死んだ』梨木香歩は、どんな本を読んできたのか。 『ここに物語が』 | BOOKウォッチ
      https://books.j-cast...
      『西の魔女が死んだ』梨木香歩は、どんな本を読んできたのか。 『ここに物語が』 | BOOKウォッチ
      https://books.j-cast.com/topics/2021/12/20016800.html
      2021/12/20
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【GQ読書案内】1月に手に取りたい「本を読みたくなる本」3冊 | GQ JAPAN
      https://www.gqjapan.jp/cultu...
      【GQ読書案内】1月に手に取りたい「本を読みたくなる本」3冊 | GQ JAPAN
      https://www.gqjapan.jp/culture/article/20220117-gq-books-guide-january
      2022/01/18
  • 鳥を愛し、山を愛し、植物を愛する梨木さんは、じつは小説よりエッセイが気になる作家さんだった。この本で、梨木さんのより内面に深く案内された気がした。それは社会的な観点や世界観、歴史、人物に至るまで、深いのみならずなんと幅広い内面だったことだろう。当たり前だが、小説にはその全てが著されているわけではない。
    なかには学術的な本があり、簡単には取っ付けないものもあった。もう手に入りにくくなってしまって、大きな図書館へいかないと読むことができない本もある。それでも、こんな本があった、と知ることが重要、と梨木さんは言う。それは歴史の一部だし、この本のおかげでこうして遺される。
    学ぶことも多かったが、個人的には特に、何度か出てくる神沢とし子さんの「流れのほとり」佐藤さとるさんのコロボックルの物語が懐かしかった。

  • 梨木香歩さんが読んできた本。
    あらゆる分野にわたっての読書。
    こんなに深く深く掘り下げて読んでいることに圧倒された。選り好みせず読書するのは難しいから、私が読まないような本のことも知れてよかった。
    佐藤さとる著「だれも知らない小さな国」や、村岡花子訳「アンのゆりかご」は私も大好きな本だった。梨木さんが、「幼い頃からの愛読書がある、と言うのは幸福なことだと思う。」と書かれているように、再読するとその頃の自分に戻れる。そして、また新たな気持ちがわいてきたりと何度でも味わえる、ということに気づかされて、何だか嬉しくなった。たまには、好きだった本を読み返してみようと思った。

  • 「百年の孤独」や「だれも知らない小さな国」など、本編といっしょに楽しんだ解説もあり、懐かしく読んだ。著者や読者に寄りそうような、優しく、温かい紹介の文章が魅力的だ。梨木さんが読書を楽しんでいた少女時代の様子などもかいま見えてくる。

  • どんな本をどんなふうに読んできたか。本は、その時々の自分を観察する記録でもある。本と物語をめぐるエッセイ集。

  • 梨木さんが雑誌等で書いた書評・解説の類をまとめた本。2000年以降のものを集めてあるようだ。いろいろ読んでらっしゃるが、小説よりずっとノンフィクションが多いのがちょっと意外に感じる。

    「読書の不思議な力の一つは、生身の自分は決してその場に居合わせるわけがないのに、内側のどこか奥深く、その場を『生きている』確かな感覚が逃れようもなく生じることだ」
    幼少からかなり本を読んでいらっしゃったという話は前にエッセイでも読んだことがあるけど、「罪と罰」も小学生で読んだというからすごい。本に、作者に、登場人物に、すっと近づいて行ってぴったり寄り添うような、深く潜り込もうとするような梨木さんの姿勢。同情し、憤り、ともに楽しんで……とてもエネルギーを使う読み方だろう。「こころ」の話の洞察力はさすがだ。

    哨戒されているのは私自身はほとんど読んだことがない本ばかりで、片山廣子の「新編 燈火節」やアリソン・アトリーの本、アナグマの本など、読んでみたくなるものがちょくちょく出ててきてわくわくする。特に片山廣子は前にエッセイを読んで素敵だったので、詳しく人となりなど書かれていて嬉しかった。まだ読みたい本がたくさんあって、人生がとても足りない……。

  • 著者のお気に入りだったり手掛けた書評などが、伝えたい本として紹介したい本として今ここでの話題作としてなどたくさん紹介されている。すでに読んでいる本で有ればなるほどと思ったりこういう視点もあるのかと考えさせらたり、未読のものはさっそく読みたくなったりとメモ片手に楽しい読書だった。

  • 物凄い読書量に驚嘆した.さらにそれぞれの書評自体が一端の物語となっており、一つの論評として楽しめる.小生もブクログに簡単な感想を付加しているが、この著者までは届かないが、内容を深めて行きたいものだ.サンタクロースの話(p30-32)は、英語で読んだことがあり楽しめた.他にも数点、読んでみたい本があった.

全22件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梨木香歩の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×