鶴見俊輔伝

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (566ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104444090

作品紹介・あらすじ

戦後日本を代表する思想家の93年の歩み。幼少期から半世紀にわたって行動をともにした著者による、初めての本格的かつ決定的評伝。後藤新平を祖父に、鶴見祐輔を父に生まれた鶴見俊輔。不良化の末、渡米してハーヴァードに入学。日米交換船で帰国して敗戦を迎える。その後の50年にわたる「思想の科学」の発行、「ベ平連」の活動、「もうろく」を生きる方法まで。あらゆる文献を繙き、著者自身の体験にも照らしつつ、稀代の哲学者の歩みと思想に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 鶴見俊輔という人が書く書物に出会ったのは1994年ごろだったのではないか。工科系の大学で学生時代を過ごしていたその頃、ほぼ直感だけで飛び込んだ学際的コースの課程において出会った「戦後日本の大衆文化史―1945‐1980年」というその書物は、有効な脳みその使い方をまだ良くわかっていない学生たちのためにいわゆる文系の教授陣が選択する読んどけ書物の一冊として目の前に現れた。

    その後何年かが過ぎそれを読んでいた当時の自身の想像力を超えるような格好で海外生活が始まり、気がついてみるとその本がまた手元にあった。きっと最初から持ってきていたわけではなくどこかのタイミングで実家から持ち出していたのだろう、一度再読をした記憶がうっすらある程度で、その過程において著者が北米で生活をしたことがある人だったということを改めて認識をしていたように記憶する。

    そんな背景を帯びつつ今年になってKindleのある生活が始まったとき、その選択肢のひとつとして飛び込んできたのが本書だった。出版は2年前とそう昔のことではない。没後三年を経て上梓されたということも読み進めているうちに知ることに至った。少し時間をかけて読み切ることになったその間、ふつふつと湧いてきた感情はまたしても自分はこうした先人の事についてその本質を知るのが遅すぎた…ということだった。鶴見夫妻が晩年を京都で過ごしていたという下りを読むに至ってその感情はさらに溢れ出す。つまりは自身がその著者による活字を追うだけのことにひぃひぃ言っていた頃、彼らはほんのすぐそばにいたということなのだ。もちろん当時の自分が彼に会えたからといって何かを感じ取れたかとうい保証はなにもない。むしろきっとできなかったはずだ。今となって確証をともなって言えることは、自分自身の感性のアンテナは常に磨いておかねばならないということ。

    まずはせっかく手元にあるその出会いの書に手を伸ばすことから始めてみようと思う。ちょっと骨の折れるであろうアンテナの錆落とし作業の一環として。

  • 戦後日本社会について、この人を抜きに考えることはできない。そう思える人が、たくさんいるだろう。しかし、三人に絞るならば、この人は外せない。そいうひとり、鶴見俊輔の評伝を書くのは勇気のいる仕事だったと思うが、傑作だと思う。ブログに書きました。
    https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/201906250000/
    https://www.freeml.com/bl/12798349/1075551/

  • 鶴見さん自身が語らなかったことがいくつも著者黒川さんの元で明らかになったように思う。黒川さんじゃなければ書けない作品だと思う。

  • 戦中・戦後から60年・70年安保闘争やベトナム反戦の時代、日本には数多くの偉大な学者や知識人が存在した、鶴見俊輔はその中でも圧倒的で特異な存在であったと思う。
    その人たち各々の思想や行動などが鶴見俊輔との関係の軌跡を通して時系列に網羅されている。
    俊輔の華麗な閨閥・父祐輔との関係、ハーバート大学時代・学問と人脈、戦争体験、プラグマテイズム、ライシャワー・ノーマン・都留重人・丸山真男・桑原武夫・竹内好等々俊輔とのやり取りが克明に記録されている。
    「思想の科学」を46年の創刊から途中休刊をはさんで96年に終刊する50年間の取り組みは、彼が哲学や学問を通して、価値ある人生をまっとうするための主軸であった。彼の思考・研究を踏まえた仲間たちとの議論や運動、そして自身の執筆や多くの人達からの投稿文の選別・編集等出版活動への取り組みの濃密さは出色である。いろいろな課題に感応し受容する包摂力も目を見張る。
    恵まれた出自への反発・そこからの自立という意識が「転向」問題へ関心を導く必然性についてはもっと分析されてもよかったか。安保闘争や「ベ平連」運動、特に米兵脱走援助の直接行動など反政府反米の活動は当局との軋轢を考える読み手をハラハラさせる。少年時代の不良生活やハーバート大学時代の勉学への熱中と優秀性からは想像もできない帰国後のダイナミックな活動の行動人生であった。
    ノーマンが自殺することになった都留との接点について、海軍勤務時の捕虜虐殺や慰安婦との遭遇体験、「思想の科学」事務員の清水三枝子との関係、安保闘争やベ平連活動での他の識者との異同等々日頃思っていた疑問がクリアーになった。彼がテーマとした転向問題や京大でのルソー研究についてはその著作を一度読んでみたい。
    作者の鶴見への思いの深さと誠実さが文体に滲み出て浩瀚で秀逸な評伝であり存分にあの時代に浸らせてくれた。



  • 優等生的な、卒のない評伝だと思う。小説的な仕掛けにも満ちており(例えば、重大な事件が起こったその日の天気まで克明に書き記すなど)、読みやすいが侮りがたし。鶴見俊輔という思想家はこうして読んでみると、確かに不良少年時代を経てハーバードで学び、日本で『思想の科学』を立ち上げるなど八面六臂の活躍(?)をした人だがその足取りを支えた彼の「主義」は(「ジキルとハイド」的な二重人格性を帯びていた、とは書かれているが)一本筋が通っていたことがわかる。彼にしか歩めない人生を彼なりの不器用さと真摯さを以て歩んだと言うべきか

  • 一面的にならない。
    盲信しない。

    軍国主義への反省を、思想と著作で体現する。

    リカルトランシス
    どうしようもない人間

  • 京都パヨクの源流をみた。侘助、ほんやら洞と言った同志社大学近くの喫茶店が出てくるのが懐かしい。

  • 289.1||Ts

  •  今、自分の本棚に鶴見俊輔の本は一冊も無い。これまで折に触れ求めたものの、いつの間にか、姿を消している。
     それだけに、この本の鶴見俊輔の挫けなさには、あらためて読み返したい思いを強くさせられた。
     言葉になりにくいものを、深く考えていく。そんな哲学の姿勢を。

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著者プロフィール

作家。1961年京都市生まれ。同志社大学文学部卒業。1999年、初の小説『若冲の目』刊行。2008年『かもめの日』で読売文学賞、13年刊『国境[完全版]』で伊藤整文学賞(評論部門)、14年刊『京都』で毎日出版文化賞、18年刊『鶴見俊輔伝』で大佛次郎賞を受賞。主な作品に『もどろき』、『イカロスの森』、『暗殺者たち』、『岩場の上から』、『暗い林を抜けて』、『ウィーン近郊』、『彼女のことを知っている』、『旅する少年』、評論に『きれいな風貌 西村伊作伝』、『鴎外と漱石のあいだで 日本語の文学が生まれる場所』『世界を文学でどう描けるか』、編著書に『〈外地〉の日本語文学選』(全3巻)、『鶴見俊輔コレクション』(全4巻)などがある。

「2023年 『「日本語」の文学が生まれた場所』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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