- Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104629015
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
初古処誠二。
今の読者に読ませるために登場人物を今様に捻じ曲げる小説は好きじゃない。この本は違った。
今の人が共感できるような美化や先見の明は使わない。
今の読者に理解できるように書かれてはいるけれど、「この人は特別な聡い人」という逃げ方をしない。
今から見れば愚かに見える人物像を作り、なぜこの考えに至ったのかが描かれる。
同じ状況に置かれたら同じことを思うかもしれない。
そういう、地続きの過去がある。 -
沖縄戦を描いた小説。作者の古処誠二氏は福岡県出身で1970年生まれの若手作家だ。
その古処氏の描く沖縄戦は、凄惨な運命に翻弄された沖縄の苦悩を浮き彫りにする。
11歳の少年・弥一は日本軍が米軍に勝利することを信じて疑わない愛国少年。戦争が始まって早々に両親が避難してしまっても一人残って軍のために、徴用に精を出している。
それも天皇の兵士「皇軍」が敵を蹴散らしてくれると信じていたからだ。しかしそんな弥一少年の思いとは裏腹に世の中の歯車は少しずつ狂っていく。無敵のはずの皇軍が後退をはじめ、沖縄県民への差別意識を露わにする。戦線を離脱した兵士が山賊のように住民を襲いはじめる。護ってくれるはずの兵隊たちが無力な住民たちを壕から追い出していく。
何かがおかしくなっていた。何かがおかしくなり始めていた。そんな時、弥一は負傷した日本軍の中尉と上等兵を助ける。周囲の住民からは疎まれながらも彼らの世話をする弥一。彼らとの交流を経てやがて弥一は再認識する。やはり日本軍は崇高で気高いのだと。
沖縄という土地はあの戦争以来、日の丸・君が代への抵抗感が非常に強い。昭和天皇への感情も本土の人間とは一線を画すと思う。
しかしそれはあの戦争以降の傾向なのである。それまで沖縄県民は一刻もはやく「日本人」に同化しようと人一倍日の丸・君が代を愛し、天皇を崇拝し、日常生活においては方言まで捨てようとしていた。他県と比べても秀でて愛国心の強い県民だったのだ。
小説のラスト、あまりに悲劇的な事実に直面し弥一の心は引き裂かれる。我々はあの戦争を批判することはできても、少年の純粋な心を笑いとばすことはできない。「信じていたのに」裏切られた悲しみが11歳の少年の世界を打ち砕く。この世はあまりに残酷で無慈悲で、幻滅に満ちていた。
彼の姿はそのまま沖縄を反映している。日本を、日本人を信じてきたのに、あの戦争で沖縄県民の思いはあっさり裏切られてしまう。信じていたのに…。そのトラウマは戦後60年以上を経ていまだに我々沖縄県民の意識の根底に深く根をはっている。
終わりの数ページはまさに魂を揺さぶるような衝撃。最後に弥一が告げる一言が強く胸を打つ。
何度も書くが最も留意しなくてはならないのは、作者が沖縄出身者でも戦争体験者でもなく県外の若手新進作家であるという点だ。
この小説はあの壮絶な戦争を描きつつも、こんな言い方は不適切なのかも知れないが、娯楽小説として非常に完成度が高く仕上がっている。
戦後日本の文学界が戦争をもう一度捉え直す所にまで到達したのかも知れない。
従来の「戦争文学」にはない珍しい作品である。 -
桜の花の咲く頃に出会うはずのない二人が接近した…。凄惨な時代に
翻弄された十一歳の少年。歪みを知らない信念が守り通そうとしたもの
は何だったのか。極限状況の“沖縄”を研ぎ澄まされた筆致で描く、話題
の長編小説。
-
『ルール』読んで古処さん好きになって読んでみたらこれもまたすごく感動。主人公の弥一がとても切ない。『ルール』と同じく所持はしていません。
-
信じ続けようとする少年の姿に胸が痛みます。私も時々、何かを信じ続けることが出来ればどんなに幸せだろうと思うときがあります。
-
装丁最高。「ルール」に引き続く戦争ものですが、読後にはやはりタイトルの孕むものを考えさせられます。少年の危ういまでの真直ぐさ。私も持っていた筈なんですけど・・・あれ?
-
スパイの正体がすぐに分かるので「裏切り」と弥一が思うほど、読者が思わないのは欠点だろう。しかし、色々と考えさせられる話ではある。
-
桜の花の咲く頃。