- Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104752072
感想・レビュー・書評
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☆☆☆2020年3月☆☆☆
実に刺激的な本だった。マルクスの資本論から「資本主義の何たるか」を解き明かし、資本主義の暴走を食い止めるための処方箋を示す。
結局「里山資本主義」でいくしかないのかと思う。
カネに依存せず、直接の人間関係を大切にする・・・なんて、まさに「里山資本主義」ではないか?
労働組合や宗教団体が力をもって資本主義に対応すべきという点も同意。
「資本主義」の基本条件はこうだ。農村が解体し、私たち一人一人が自分の労働力を商品として売ることでしか生きられなくなったこと。それが前提。
=労働力の商品化
一人一人の人間が、システムにという壁に囚われてしまったのか。
このことからも、資本主義に対抗できるのは人間関係だったり、中間団体だったりするのだろう。
★★★2021年4月★★★
前回は図書館で借りたものを読んだが、今回は書店で買って読んだ。
「労働力の商品化」というのが資本主義を知るうえで最も重要だと改めて思った。
僕も「労働力」を売って生きている階級である以上、搾取されることは避けられない。「搾取しない会社は一つだけ、それは倒産した会社」
搾取の度合いに差があるが、搾取自体は構造的なもので資本家もそれに苦しむことがあると。これが「矛盾」。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
佐藤優氏が、「資本論」について講義した内容を本にしたもの。「資本論」は既に読んだことがあったが、本書を読み進めることによって、理解が大いに深まった。すべてがわかったわけではないが、興味深い内容であった。佐藤氏の分析の深さに感銘を受けた。
「この本で、私は「資本論」を資本主義社会の内在的論理を解明した書として読むことにした。それだから、過去に大学のマルクス主義経済学の授業で「資本論」を読んだことがある人は、怒って、この本を机に叩きつけるかもしれない」p6
「ギャラリーに一定数の人がいる本で300年読み継がれている古典は、これから300年後でも読まれているのです。1000年読み継がれている古典は、おそらく1000年後にも読み継がれています」p16
「マルクスは「社会主義」という言葉をほとんど使っていません。「社会主義」という言葉を使う時は、だいたいネガティブなコンテキストです。マルクスが言うところの社会主義のイメージは、ナチスみたいな国家社会主義です。あるいは北朝鮮のような体制を指すときに、「社会主義」という言葉を使います」p30
「経済学というのは、資本主義時代にしか通用しないものです。なぜならば、経済を基準に社会全体が動くようになったのは資本主義になってからですから。その歴史的に特殊な資本主義時代というものの論理を、実証的かつ客観的に明らかにしていくのが経済学です」p32
「(資本家は搾取率を強化するもの)搾取自体は不正なことではなく、労働者はイヤであれば契約しなければいいのだから、搾取は収奪ではありません」p61
「「型破りの見解」とか「独創的な論文」という言葉は悪い意味で使われます。我々にまず必要なのは、型を覚えることです。型破りというのは、まず型を覚えて、それからその型を崩していく行為です。最初から独自主張をしていく、最初から独自説を唱えていくというのは、これはもう、ただのでたらめです。型を押さえていないと、何の説得力もない」p66
「「資本論」を読むと共産党を支持しにくくなるというのが、マルクス主義の最大のジレンマですね」p69
「税金泥棒という言葉があるように、国民はみんな潜在的に官僚階級を嫌っています。資本家も労働者も地主も、官僚が嫌いです」p87
「官僚なんてなくしちまった方がいいかというと、そうもいかない。国家がなくなって、日本がフラットな社会だけになったとすると、どうなるか? 日本の周辺には国家があります。その国家が自分たちの暴力装置を持って現れるでしょう。どこかの国家に我々は併合されて、終わりになるだけです。ですから、他の国家がある限り、我々も国家を維持しないといけない。ならば官僚もなくせない」p88
「国家は社会の外側にあり、本質において暴力的であり、やはり本質において官僚階級が恣意的に運営している。こういうシステムだということも「資本論」から読み込んでいけるのです」p88
「1992年1月、ロシアは物価統制を、基礎食料品のいくつかを除いて、撤廃しました。そうしたら、ものの1週間で、闇にしかなかったモノが商店にあふれるようになりました。その代わりロシア人が経験したことのない大インフレーションが起きました(年2500%)」p105
「ソ連時代、一番安い肉が牛肉。次が豚肉で、一番高いのが鶏肉でした。ブロイラーがなかったからですね。だからソ連からお客さんが来ると、焼き鳥とか鶏の唐揚げとか、そういう安い鶏を山ほど食わせて、あとはバナナをデザートにすれば「私をこんなに歓待してくれるんだ」と大喜びしてくれた」p106
「貨幣が財だとしたら、1万円あったら10万円もいらないやとなるはずなのに、人間は満足せずにいくらでも欲しがっていくのだから「限界効用の逓減」が起きない」p119
「大使館には裏金(X基金)があります。そこから3000ドルをその先生に渡したら、先生はそこから300ドルを抜いて、私に渡すのです。「はい、利子」どうもその世界では、お金を借りた時は先に利子を払う習慣があるらしい」p123
「(小説を読む大切さ)新自由主義、新帝国主義などと呼ばれる時代において、小説を読むことで鍛えられ、磨かれ、身についていく想像力や感受性、知性や品性は極めて大切になっていくと思います」p165
「競争がない社会を作り出すことはできないとマルクスは見ています。競争はある程度抑制することはできるかもしれないけど、資本主義は競争を過度に煽ってきます」p186
「(資本主義)過剰に欲望を刺激する形で商品をどんどん購入させないと、この社会は成り立たない」p188
「収奪の過程は「椅子取りゲーム」」p220
「低所得者層の子女の教育水準が衰えてくると、労働力商品の質は必ず劣化してきます。労働力商品の質が劣化することは、日本の資本主義が弱くなることと一緒です。この記事は、客観的な構造からみても、日本の資本主義を生き残らせるためには、行き過ぎた新自由主義的な流れに対して何らかの対策をとる必要がある、という「資本論」からのメッセージです」p222
「どこの会社でも、世のため人のために仕事をしていると言いますよ。それは建前です。資本は本質的に資本を生産する。剰余価値の生産のために仕事をしている。つまりカネ儲けのためにやっているんです。資本主義社会に生きている以上、カネ儲けを否定する論理は必ず負けます」p228
「われわれの社会は、資本家と労働者と地主だけいれば動くのです。しかし、そのうち価値を生産するのは労働者だけ。あとはその上前をハネて、搾取しています。しかし、搾取は合意の上でやっているのだから、これは合法的で、倫理的に非難されることではない」p237
「競争に勝つためには、何か自分の専門分野を作って、勝間和代さん流に言うならコモディティにならないようにする。単純な代替可能労働力商品として使われないようにする。熟練労働者として生きる。これが一つの処世術としてのカギでしょう」p242 -
『いま生きることは、楽ではありませんよね。その楽ではない状況を、どうやったらわれわれは生き抜くことができるのかと言えば、明らかに病んでいるこの社会の構造をまず、きちんと見極めることです。
病んでいる社会の構造はどこから来ているのかと言えば、労働力が商品化されることによって、すべてが商品となった。われわれの欲望というのは充たされることがない。過剰に欲望を刺激する形で商品をどんどん購入させないと、この社会は成り立たないのだから。こういう仕組みから来ているのです。』
「資本論」は途中で挫折したけど、これは面白い。ただ、「資本論」の引用の部分はやはり難解。 -
面白すぎる。「資本論」を読むコツ、ツボがわかる。
恥ずかしながら、宇野学派なるものを初めて知った。
それにしても、これまで出ている「資本論」の邦訳は難しすぎる。新訳が出ないものか。 -
この人、顔で損している気が…内容はかなりおもしろいです。ピケティ読む前に読みましょう。
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全6回、講座参加料1万9千円。佐藤優による、資本論の講義録。読んで損な訳がない。
講義内容の有用性は様々で、資本論的感覚は既に実社会で取り立てて考えなくても染み付いている事が多い。従い、思想の成り立ちや言葉の定義を理解する事は、さして実用的に利する中身とは思わないかも知れない。応用の必要性がなく、せいぜい教養と試験に役に立つ程度、と言い切って良いのではないか。
しかし本著が明確な意思を示し、際立つのは、資本主義の心情的限界とも呼ぼうか、理念的な刷り込みに疑問と気付きを投下してくれる点だ。筆者は、経済を媒介しない直接的人間関係を築く重要性、拝金出世信仰の問題を提起してくれている。そこに、本著を読む価値があった。 -
佐藤優さんによる「資本論」の解読(ピケティじゃなくてマルクスですよ)。
資本論は様々な読み方があるという前提で、○○派はこう読んでいる、○○派はああ読んでいる、などの考察が面白い。格差や少子化など資本主義の行き詰まり感がある現在、古典の資本論を振り返ると考え方が整理できる。 -
佐藤さんは西洋にかぶれることなく、日本人思想家や学者を引き合いに出すので親近感がわく。
本の内容も難解ではあるがシンプルな筋立てであるため、思考の整理がしやすい。
もう一度読み返して深く理解したい内容である。 -
佐藤優さんはものすごく頭のいい人という印象があり、資本論の本が読めるかどうか不安だったが、講義形式だということもあり、非常に読みやすく理解しやすかった。資本論のエッセンスを学びかじることができた。
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私は今まで資本論を2回読んだけれど、よくわからなかった。
私の場合はじめの方が読みやすいと感じてうしろの方になるにしたがってなんだか味気なく計算式もよくわからずもう流しているだけで終わった。はじめの方の理解は柄谷行人の作品で親しみがあったのが大きいのだろう。
佐藤さんによるとうしろの方はエンゲルスの文体らしい。エンゲルスの文体は味気ないということか・・・。マルクスの計算も彼は数学が苦手で四則演算のみで間違いも多いという。
それでなんだか読んでいるうちに感じていた違和感の理由はわかった。資本論第四巻にあたる剰余価値学説史を読んでみたく思った。
資本論を読んでいてよくわからなかったが印象だけは持った。それはマルクスの別の作品でヘーゲル法哲学批判序説というものがあり、そこに宗教の批判という部分がある。
●宗教の批判は、人間が人間にとって最高の存在であるという教えでもって終る。したがって、人間が貶められ、隷属させられ、見捨てられ、蔑視された存在となっているような一切の諸関係 - 畜犬税の提案にさいして、或るフランス人が「あわれな犬よ、おまえたちを人間並みにしようというのだ!」と叫んだ言葉でもっともみごとに描きだされているような諸関係 - をくつがえせという無条件的命令をもって終るのである。●
マルクスの資本論はこういった宗教の批判を根幹にしたものだろうという印象である。無条件的命令とは反省せよということである。そして反省の命令により服従を反省せよといっているややこしい話なのだが至極もっともな話でもある。
佐藤さんのいわれた単純だけれど最も重要なところは労働力の商品化についてだろう。労働力の商品化により全世界は資本主義に支配されてしまった。その支配の現実主義(リアリズム)は今生きていればひしひしと感じるものである。ではどうすればいいのだろうか?マルクスの言う無条件的命令である。反省の無条件的命令と服従することについて反省することである。自らが労働力商品であることを反省しなければならない。そこから形成されるだろう何かこそ人間の理想郷へ続く道である。
人間マルクスについての本も読んでみたい。