- Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105001131
作品紹介・あらすじ
ある日、ケント大学に通っている息子のネルソンが、女友達メラニーを連れて家に帰ってくる。彼女を家に泊めるかどうかで一悶着が起こる。古い世代のウサギには、二人の関係がうまく理解できない。やがて、ネルソンの子を身ごもったプルーという女性が出現する。ウサギも結婚以前に妻のジャニスを妊娠させた過去を持つ。ネルソンは親の通った道を確実にたどりつつある。ウサギは完全に枯れきってはいないが、行動よりイマジネーションの世界に生きることが多くなり、死への予感をおぼろげに感じだす年代になったのだ…。
感想・レビュー・書評
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石油危機。スカイラブの落下。息子の結婚。老いてゆく地球と星の光が透けるほど薄くなった自身のあたま。変わり続ける街並み。金庫に入りきらない銀貨。ラジオから聴こえるのは言葉を蔑ろにしたような音楽。
夏空の下カントリークラブハウスでの気だるい会話や息子の結婚式で流した喜びと憂いの涙と宴での混沌としたおしゃべりがするすると過ぎゆく、確実に死へと向かっているからっぽな時間をとおりすぎる。混濁していた自身の二面性は10年の年月を経てとけあい、赦すことのできる自身の器量をしったよう。哀しくさびしい諦念と燻っている欲望をいだきながら、父子の圧倒的わかりあえなさと自分の生命がじぶんのものでしかないという、心許なさをにぎりしめる。
息子から逃げるように手にした城で寒空の下、運命の人質となった孫娘の誕生と”神が味つけをした”この宇宙を憂う。愛の空虚を埋めるものはなんだろうか。父親(ハリー)からは昔から、大きな暖かい悲しい匂いがした。
「人生とは、われわれが最初に思ったとおり、大人を演じることなんだ。」
ついにわたし自身の年齢を通り過ぎていったハリーの物語。人生の哀歓と醜美のつまった普遍的だけれども特別である、そんな宇宙の矛盾を纏ったような彼ら(わたしたち)の人生の長い長いお話を誰かからずっと語りかけてもらっているここち。どうしてこんなにも惹きつけられるのだろう。わたしはやっぱりひとがすきなんだ。ただすこし、こわいだけ。
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