ケインズかハイエクか: 資本主義を動かした世紀の対決

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105063412

作品紹介・あらすじ

こんにち、自由市場の価値と政府の介入についての対立的な主張をめぐる論争は、一九三〇年代と同様に熾烈をきわめている。では、ケインズとハイエクのどちらが正しいのだろうか。八十年にわたって経済学者や政治家を分断してきたこの疑問に答え、この二人の傑出した人物の明白な違いが、現在まで続くリベラル派と保守派の大きな思想の違いに結びついていることを明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 英国人ジャーナリストによるケインズとハイエクについて歴史的に考察した本。ケインズとハイエクの考え方そのものを分析研究するのではなく、両者の交流や社会的な評判を時系列的に追っている。学術的とは言えないが、両者の性格や交流関係をよく理解できた。
    「(ベルサイズ条約)ケインズは、この条約は「ドイツを毎年毎年叩きのめす」ものであり、「文明史上、残虐な勝利者による最も非道な行為のひとつ」になるだろうとした」p28
    「ケインズは、権力ある立場の人々が正しい決定を下しさえすれば、人生は必ずしも本来のように厳しいものではなくなるという楽観的な見方を選択した。ハイエクは、人間の努力には絶対的な限界があり、自然の法則を変えようとする試みは、たとえ善意からであっても予想外の結果に終わるのが関の山であるとの悲観的な意見を支持した」p60
    「(ケインズ)投資額が貯蓄額を上回ると、景気が拡大するとともにインフレが起きる。逆に、貯蓄額が投資額を上回ると、景気が後退し、デフレと失業が発生する」p72
    「(ケインズ)われわれは悪循環に陥ろうとしている。金がないから何もしないと言うが、何もしないからこそ金がないのだ」p78
    「ケインズは、英国の乗数は2であると唱えた」p158
    「(ケインズ)大規模な不況を終わらせるのは戦争しかないと結論するだろう。これまで戦争は、大規模な公債支出の対象として政府が価値をおく唯一のものだったからだ」p161
    「(ハイエク)「自由の条件」での一般的な結論は以下のとおりである。第一に、個人が他者からの強制を受けないようにするには、国家が一部の人々に対して「他者に強制しないこと」を強制しなければならない。第二に、民主主義と資本主義は、私的財産の概念と、自由市場で機能する強制可能な契約の概念に基づくものであり、どちらの主義にとっても法の支配が不可欠である」p251
    「(ハイエク)政府は、まともな人々によって構成されているのであれば、厳格な規則によって過度に規制されるべきではない」p253
    「(ヴォルカー)若干のインフレによって経済が活気づくために、やがてもう少しの物価上昇が必要になる。人々がそれに慣れてしまうと、その効果も消滅する。抗生物質のように、また新たなものが必要になるのだ」p298
    「企業がすでに現金がだぶついている時に国の貨幣供給量を増やしても、結局は「糸を押すことはできない」という警句の意味が裏付けられただけだった。これは、景気刺激策としての金融政策の無力さについて述べた言葉で、いかに多くの貨幣が利用可能になっても、企業に投資を強要することはできないという意味だった」p323
    「さまざまなサービスのうちハイエクが民営化すべきと考えたのは、「教育から輸送、通信(郵便、電信、電話、放送サービスを含む)にいたる、いわゆる「公益事業」のすべてと、種々の社会保険、そして何よりも貨幣の発行」だった」p332

  • これを読むと、現在各国における積極財政派と規律重視派のスタンスが、そのままケインズとハイエクの性格の違いに起因することがよくわかる。前者は理屈よりも結果を重視し、政策の効果の良し悪しを柔軟に理論に反映させることができるが、悪く言えばまあノンポリだ。後者は理論にまず絶対的な信頼を置き、政策の効果が芳しくなければそれは理論でなく運用が間違っていたのだとする、頭の固い頑固者。本書で繰り広げられる米国経済政策のクロニクルを見てもわかるように、これら二つの立場のどちらかのみに完全に依拠する立場は現実的に取り得ないが、しかし政策ごとに見ていけばどの政権も必ずいずれかの経済観を採用している。この二大巨頭の個性の間を揺れ動くことで今日の世界経済の姿があるかと思うと感慨深い。

    個人的には、レーガノミクスに関しソローやガルブレイスの言が引かれているように、特に成熟した先進国において、小さな政府が標榜されているかに見えてその実ケインズ主義的な政策が実行されているケースが多くなってきているのが気になった。また、ケインズがハイエクとの論争で記した言葉「経済学では他の学問とは異なり、完全に相手を説得する事は出来ない」が、単なるニヒリズムを超えて経済学という学問の限界を物語っているようにも思えた。

  • ふむ

  • ケインズ、均衡理論について「長期的には、われわれはみんな死んでいる」
    ハイエクはオーストリアでインフレを経験していてインフレに対する嫌悪感が強かった。
    1930年頃の2人の誌上での論争は非常に不毛。
    全般的にケインズとハイエクの研究および思想の歴史的・政治的背景がよくわかる。

  • 経済学ではなく経済学史のノンフィクション。
    30年周期でおこる好況不況の波の中で2つの経済学派が入れ替わり立ち代り主流反主流に立ち国家経済の舵を取っていく様が、「ケインズ/ハイエク登場→出会い→ケインズとの論争→ケインズ派の隆盛/ハイエクの没落→ハイエクの復活→リーマンショックによる米国のケインズ復活」という流れで描かれる。
    私は経済成長の要因を人口増とイノベーションからしか理解できない程度の経済学理解なので、どっちが正しいとか言えるもんではないのですが、ケインズが舵を取れるのならケインジアンが適切な経済政策であるというどうしようもない学生時代からの持論を改めて確認しました。

  • 160416 中央図書館
    かなり面白そうなのだが、時間に追われパラパラ読みのみ。。

  • 経済界の2代巨頭である、ケインズとハイエクを、学説比較ではなく、出会いから論争を現代まででエピソード中心のまとめている。時系列にまとまっており、現代までつながっているので、ノンフィクションとしても読めると思う。

    結局は今の経済もこの2つの考えの中で揺れ動いているんですよね。目次は下記の通り。

    第一章 魅力的なヒーロー
    ケインズがハイエクの崇拝対象になるまで 一九一九~二七年

    第二章 帝国の終焉
    ハイエクがハイパーインフレを直接経験する 一九一九~二四年

    第三章 戦線の形成
    ケインズが「自然な」経済秩序を否定する 一九二三~二九年

    第四章 スタンリーとリヴィングストン
    ケインズとハイエクが初めて出会う 一九二八~三〇年

    第五章 リバティ・バランスを射った男
    ハイエクがウィーンから到着する 一九三一年

    第六章 暁の決闘
    ハイエクがケインズの『貨幣論』を辛辣に批評する 一九三一年

    第七章 応戦
    ケインズとハイエクが衝突する 一九三一年

    第八章 イタリア人の仕事
    ケインズがピエロ・スラッファに論争の継続を依頼する 一九三二年

    第九章 『一般理論』への道
    コストゼロの失業対策 一九三二~三三年

    第十章 ハイエクの驚愕
    『一般理論』が反響を求める 一九三二~三六年

    第十一章 ケインズが米国を魅了する
    ルーズヴェルトとニューディールを支持する若手経済学者たち 一九三六年

    第十二章 第六章でどうしようもなく行き詰まる
    ハイエクがみずからの『一般理論』を書く 一九三六~四一年

    第十三章 先の見えない道
    ハイエクがケインズの対応策を独裁に結びつける 一九三七~四六年

    第十四章 わびしい年月
    モンペルラン・ソサエティーとハイエクのシカゴ移住 一九四四~六九年

    第十五章 ケインズの時代
    三十年にわたる米国の無双の繁栄 一九四六~八〇年

    第十六章 ハイエクの反革命運動
    フリードマン、ゴールドウォーター、サッチャー、レーガン 一九六三~八八年

    第十七章 戦いの再開
    淡水学派と海水学派 一九八九~二〇〇八年

    第十八章 そして勝者は……
    「大不況」の回避 二〇〇八年以降

  • 【選書者コメント】経済学部だが教わっていないので

  • 学説の話よりも、エピソードがメイン。期待していた内容と違ったので、半分くらいで終了。

  • 2010年の中間選挙で勝利した共和党は、ケインズ主義的な景気刺激策によって財政赤字を増大させ、その一方で長期金利を低水準にとどめるために政府国債を、連邦準備制度が買い戻し続けたため、米ドルの価値は下落した。  これを読むと、今の日本の”アベノミクス”(ミルトンのマネタリズムとケインズ主義)の意味と、これからどうなるのか、なんとかくみえてきます。 学者ではなく、ジャーナリストが書いたものなので、分かりやすく解説されています。お勧めです。

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