最後の晩餐の作り方 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900229

作品紹介・あらすじ

イギリスの高貴なる趣味人にして美食家が、南仏プロヴァンスを舞台として語る四季折々にふさわしきメニューの数々、幼少の甘き思い出。ブリニのサワークリームとキャヴィア添え、仔羊のロースト、桃の赤ワイン漬け、そして幾多の種類を誇るキノコを忍ばせたオムレツ…その絢爛たるレシピのあとにあなたを待つものとは?英文学界・料理界を騒然とさせた問題作。ウィットブレッド処女長篇小説賞受賞。ベティー・トラスク賞受賞。ホーソーンデン賞受賞。ジュリア・チャイルド賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 最後まで読むと分かるが、あまり感心しない邦題だ。原題はThe Debt to Pleasure。「快楽への負債」では、たしかに意味が通りにくいが、「最後の晩餐」は固有名詞化しており、キリスト教やレオナルド・ダ・ヴィンチへのミス・ディレクションを誘う。それと、もう一つ。ミステリ仕立ての本という体裁をとっている以上、結末を暗示させるようなタイトルは避けるのが賢明だろう。

    ミステリ仕立てと書いたが、裏表紙に附された書評子の評にそうあるからで、本文だけを読んでいれば、これは主人公の言う通り、料理百科事典と告白録、両方の特徴を兼ねそなえた書物としか読めない。かの有名なブリア=サヴァランの「料理学的哲学的自伝的著作」『美味礼賛』がヒントになっていることは、「序」に明らかにされている。

    少しややこしいのではじめに整理しておくが、「序」を書いているのは、作者ジョン・ランチェスターではない。劇中劇ならぬ本の中の書物を書いているのは、タークィン・ウィノットというイギリス人である。つまり、この本自体が架空の作者によって書かれた「料理学的哲学的自伝的著作」という体裁をとっているのだ。

    自伝風の回想部分から分かるのは、作者には芸術家の兄がいて、どうやら世間的には兄の方が有名であるらしいこと。兄は寄宿学校で学んだが、弟の方は「あまりに繊細で感受性が強すぎる」ので家庭教師に教育されたこと。ギリシャ・ラテンは言うに及ばず、西欧の文学・芸術からの衒学的な引用から分かる博識ぶり。さらには、イギリス人らしい諧謔の裏に仄見える一筋縄ではとらえきれないねじ曲がった性格。

    とりわけ、料理に関する蘊蓄の深さは並大抵のものではない。やたらとルビ付きで紹介されるフランス語の多さからも分かるように、大のフランス贔屓らしい。冬からはじまって四季それぞれの特選メニューが目次代わりに巻頭に掲げられているほどだ。詳細なレシピ付きで語られる世界各地の美味、珍味、食材についての講義はそれだけ読んでも楽しい。もっとも、話は常に逸脱し、少年時の回想、隣人の噂話、兄の近況と、料理に纏わる逸話が次々と繰り出され、いつの間にかもとの話はなんだったか忘れさせられてしまう。

    そうして読者を煙に巻きながらも、話のあちらこちらにさりげなく、終末に至るための目印が記されていく。すべてを読み終わったあとで、ああ、あそこに書かれていたのはこういうことを意味していたのかという感懐を抱かされるのが良質のミステリの条件だとしたら、その資格は充たしていると言ってもいいだろう。中でも、芸術家を自認する作者の、曰く「画家なら破棄した真っ白なキャンバスによって、作曲家なら沈黙の長さと深さによって」「芸術家は成さないことによって評価されねばならない」という芸術論が秀逸。

    処女作にして、こういう作品を書くのはいったいどんな人物かと興味を抱いたが、訳者あとがきにある本当の作者、ジョン・ランチェスターの閲歴を見て納得した。『デイリー・テレグラフ』紙で死亡記事、『オブザーヴァー』紙で三年にわたりレストラン批評を連載、書評紙『ロンドン・レビュー・オブ・ブックス』の編集委員を務めているという。一時期ブームになった南仏プロヴァンスの風光明媚な景色を背景に料理、文学、その他の蘊蓄満載の一風変わった「小説」。ペダンティックな作風が好みの貴方なら必読。

  • 最初は意味不明なんだけど、わかりはじめるとものすごく怖い。ぞーっとする。そして最後…この語り手はホントに異常だ。

  • グルメで博識な主人公タークィンの一人語りが途方もなく饒舌。料理について楽しく語る本なのかと思っていると、子供時代の思い出などが案外濃くて、所々に妙な描写が…主人公の身近で亡くなる人が多すぎるんですよ。書き方は時々吹き出してしまうような内容〜実はけっこうブラックな味わい。一行読み落とすとわからなくなるかも。ある意味ではミステリ?

  • 文章は読みづらくて(決して訳文が、ましてやオリジナルの文章が下手という意味ではなく、そういう効果を狙ってるんだろう)、だからサクサクと読み進められるというものではないけれど、読んでいくうちに皮がはがれるように「そうだったのか」と分かっていく感じ。

  • 読みにくい。電車の中で読んだり、ラーメン屋でながら読みなんかしたりしては、いけない。一つのセンテンスがとてつもなく長くて、すぐに主語と述語を見失うから。でも面白い。
    自分を天才と呼ぶいけすかない、独りよがりの主人公に漂う、かすかなユーモア。
    ここに書かれていることには、常に懐疑的な目を持って接しなければいけない。
    でも、レシピについてもそうなの?
    アリヨリソース、つくってみたいんですけど。
    2006.09.01-19

  • この作者の言葉の豊富さには凄く驚きました。水が流れ出る様にサラサラっと書かれていて、表現が豊かな人なんだなぁって思いました。出てくる料理もよだれモノで!でも、話の筋がつかめないままになっちゃって、そこだけが残念かな…

  • 完膚なきまでに胡散臭い主人公の薀蓄語りに振り回され眩惑され時に笑っているうちに、そうと気づいてからでは手遅れの流速で結末の深みにまで落とし込まれている。快感!<BR>
    [05.12.13]<t市

  • ずいぶんと凝った、ペダンティックな文章(とはいえ、それはペダントリーのためというより、ミステリアスな作品構造の仕掛けの一部になっていることは後になってからわかってくるのだが)、十九世紀的な古色蒼然とした言い回し、時制があっちゃこっちゃしたり、突然筋には(一見)関係のない食べ物や歴史についての蘊蓄に止めどなく脱線して行ったり唐突に元に戻ったりするので、通勤の満員電車の行き帰りに読むにはあまり向いていないというか、二週間くらいかかってしまった。おまけに途中まで読んでからわからなくなって一旦戻った。こんな本は久しぶり。いや、どちらかといえば、こちらの読解力がなくなっているのかも知れないが。

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