ガラスの宮殿 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (638ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900625

作品紹介・あらすじ

19世紀末、ビルマ最後の王朝が滅びようとするなか、インド人孤児ラージクマールとビルマ宮廷の侍女ドリーが出会う。あまりに幼すぎる11歳と10歳-。ラージクマールは無一文から成功を目指し、ドリーはインドへと追放された王家に献身的に仕える。やがてインド人エリート官僚の妻とドリーとの邂逅が、ふたりを再会へと導くが…。歴史の奔流にもまれながら必死で生きる三人の姿、彼らの子や孫が織りなす死と恋の綾模様、結末に至って明かされる意外な語り手。100年以上もの時の流れを、魔法のような語り口で描ききり、高い文学的評価とともに世界的ベストセラーとなった名作。世界屈指のストーリーテラーが魔法のように紡ぎだす、運命の恋のゆくえ、偏在する死の悲劇と20世紀の激動。

感想・レビュー・書評

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  • 抜粋したのは、特に政治的な部分や心理的問題に関わる部分だけれど、ラージクマールとヒロインの恋愛や、彼らの息子たちや、友人の子供たちの人生の悩みや恋愛、家族愛、戦争、国民の誇りなど、三世代に渡る物語は、国をまたがる地域の広がり、登場人物の人間関係の横の広がり、人物の子供らという縦のつながりがあって、多層でかなりおもしろい。
    インドとビルマの関係、インドとイギリスの関係、侵攻する日本……
    淡々と書きつつ、表現は美しいし人物の心理描写は巧みだし、読み応え充分。
    ちょうど日本が侵略していた時期への言及もあり、そこは読むのが苦しい。


    ※イギリスに攻められて追放された国王。その王妃に、侍女ドリーは仕え、追放された地にもついていった。

    p250
    ラトナギリのティーボー国王の声を彼女は思い出していた。晩年の国王は、宮殿の僧院の修行僧だった時代に学んだ教義について語ることが多くなっていた。国王がよく使っていた慈悲(カルナー)という言葉を彼女は思い出した――仏陀の言葉のひとつで、思いやりや、生きとし生けるものがそれぞれたがいのなかにあることや、たがいに似ているがゆえに命が惹かれあうことを意味するパーリ語だった。いつか来るだろう、と国王は少女たちに言ったのだった。お前たちにもこのカルナーという言葉の意味がわかるときが。そしてその瞬間から、お前たちの生は同じではなくなるのだよ。



    ※セポイなどインド人の部隊は代々イギリス将校を隊長としていた。それが、同じインド人が隊長となることに、文句を言っている。イギリスに支配されたインドの国民が、その一部隊が、自分たちの上役が支配者層であることに誇りを持っている屈折。イギリス人の言いなりになって、イギリス人を守り、インドの隣国や、ときには同じインド人を攻撃することに躊躇を覚えないという恐怖……作中では、セポイのありようにも反対を唱える人物が登場

    この小僧にC中隊を任せるということでありますが、我々は小僧の親父と知りあいでありますし、小僧の姉妹は我々の兄弟と結婚しており、小僧の家は我々の村の隣村にあります。この小僧を士官として扱うことができるだどと、上官殿はどうして思われるのでありますか。よいですか、この小僧は士官殿らの食事にさえ耐えられないのであります。こっそりと我々の食堂に忍び込み、チャパーティーを食べているのであります。
     この苦情にバックランド中佐はひどく動揺した。こうした陰鬱な感情に接して不愉快にならずにはいられなかった。自分の仲間しか信用しないということに潜在的な自己嫌悪があるのだとしたら、自分たちのうちのひとりだからというただそれだけの理由で、ある者が信頼できないと人に思わせる自己嫌悪はどれほど根深いものだろうか?
     バックランド中佐は下士官たちをきびしく叱責した。「貴様らは過去に生きている。インド人から命令を受けることを学ばねばならん時代が来たのだ。この男は、貴様らのかつての同僚の息子ではないか。……略……」



    ※ウマは、ヒロインが国王に従った地で出会った、外交官の妻。彼女は外交官の妻としての自分に疑問を抱き、彼と別れ、やがてインド人の独立を願う運動家になる
    この時点では、ラージクマールと、ヒロインの子供世代に話が移行している
    ヒロインは、現世の争いに疑問を感じ、人々への施しや宗教によって自分の心身を律することを欲するようになる

    p348
    「……略……でも私のみるところではね、私たちは二つの災いのあいだで板挟みになっている。二つの絶対的な悪の根源のあいだでね。私たちにとっての問題は、なぜ私たちがどちらか一方を選ばなくてはいけないのかということじゃないのかしら? あなたは言ったわね、ナチズムは暴力と征服によって支配するだろう、人種差別を制度化するだろう、言葉にできないような残虐行為を犯すだろうって。それは全部そのとおりだわ。まったく反論なんてしないわよ。でも、あなたが数え上げた悪について考えてごらんなさい。人種差別や、暴力と制服による支配といったことよ。こうしたことすべての罪が、大英帝国にはあるんじゃないかしら? この帝国が世界を征服していく過程で、あらゆる大陸を併合していくうちに、一体どれだけの人たちが死んでいったの? その数を数え上げることなんてできないと思うわ。さらに悪いのは、帝国が国家の成功の理想になってしまったことよ――すべての国家がそうなりたいと願うモデルにね。ベルギーのことを考えてごらんなさい。コンゴを押さえようと大急ぎで駆けつけて――一千万から一千百万の人たちを殺したじゃない。同じような帝国を作ることでなかったら、彼らが望んでいたのは何だったと言うの? 自分たち自身の帝国を作ることこそ、いま日本とドイツが望んでいることじゃないの?」

  • 一人のインド人の人生を軸に進む大河ドラマ。意外すぎる結末がほほえましく予測のつかない人生を感じさせます。最初の方に出てくるビルマ王妃のかっこよさがとても印象的。

  • 半分すぎたところから、格段に面白さが失われて、いったいどうしたことかと訝りながら読んだ。裏側からみたインドやビルマの歴史を語っているのだけど、冗長にすぎる。最後の100ページは苦行のひとこと。翻訳でもう少し読みやすくなったのでは、という気も。

  • クレストブックらしい分厚さで圧倒され、物語の壮大さにまた圧倒され。後半は読むのを止められなくなりました。ジャングルの白霧にまとわりつかれたような湿った感じと、倦怠感が読後に残りました。読書でこれほど疲れるのは久し振りです。やられた!という感じです。アジアの近代史はまったく無知だったので、年表(あまり載っていませんでしたが)を片手に学ぶことも多かったです。ラブストーリーとしても楽しめるし、登場人物たちはそれぞれ魅力的です。面白い本に出合えました。

  • 壮大で、とても好きな本です。
    かなり前に読み終わったのだけど、表紙もとても好きなので、ブクログに載せました。

  • [ 内容 ]
    19世紀末、ビルマ最後の王朝が滅びようとするなか、インド人孤児ラージクマールとビルマ宮廷の侍女ドリーが出会う。
    あまりに幼すぎる11歳と10歳―。
    ラージクマールは無一文から成功を目指し、ドリーはインドへと追放された王家に献身的に仕える。
    やがてインド人エリート官僚の妻とドリーとの邂逅が、ふたりを再会へと導くが…。
    歴史の奔流にもまれながら必死で生きる三人の姿、彼らの子や孫が織りなす死と恋の綾模様、結末に至って明かされる意外な語り手。
    100年以上もの時の流れを、魔法のような語り口で描ききり、高い文学的評価とともに世界的ベストセラーとなった名作。
    世界屈指のストーリーテラーが魔法のように紡ぎだす、運命の恋のゆくえ、偏在する死の悲劇と20世紀の激動。

    [ 目次 ]


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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • クレストシリーズは手にとった感触はいいけど表紙にさほど惹かれるものはなかった。
    でもこの『ガラスの宮殿』を見たときはゾクッとしましたね。
    アジア系映画のワンシーンを連想させます。
    高所恐怖症なんでこんな場所に行くのはいやなんですけどね。

  • ビルマ最後の王がイギリス軍に追放される所から、百年以上に渡る大河小説。
    宮殿に仕えていた幼い侍女ドリーは王一家と共に異国の孤立した館で軟禁状態に。
    インド系の孤児が宮殿前の屋台で働いていて、ドリーを忘れられず、中国系の材木商に雇われて金持ちになってから、初恋のドリーにはるばる会いに行きます。
    追放の地で孤独なドリーと親友になった高官の妻のウマは、やがてインド独立を目指す活動家へ。
    子や孫の代までの恋愛や不思議な縁がいきいきと語られます。
    映画的なシーンも多く、鮮烈。

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著者プロフィール

1956年、インド西ベンガル州カルカッタ(現コルカタ)生まれ。父の仕事の関係で幼少期をダッカ、コロンボで過ごす。デリー大学で修士課程修了ののち渡英し、オクスフォード大学で博士号(社会人類学)取得。帰国後、母校などで研究・教育にたずさわりつつ小説を執筆し1986年に『理性の円環』でデビュー。次作『シャドウ・ラインズ』(井坂理穂訳、而立書房)はインド国内で複数の文学賞を受賞。1988年以降アメリカに拠点を移し、SF作品『カルカッタ染色体』(伊藤真訳、DHC)でアーサー・C・クラーク賞を受賞、さらに大河小説『ガラスの宮殿』(小沢自然・小野正嗣訳、新潮クレスト・ブックス)の成功で世界的名声を得る。その後、アヘン戦争を背景とする「アイビス号三部作」やシュンドルボンを舞台とする『飢えた潮』『ガン島』などの創作にくわえ、本書や『ナツメグの呪い』などのノンフィクション作品で「惑星的危機」の問題に精力的に取り組んでいる。

「2022年 『大いなる錯乱』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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