大いなる不満 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901097

作品紹介・あらすじ

ねじれたユーモアと奇想が爆発する、異色の新鋭によるデビュー短篇集。古代人のミイラに出会った科学者たちの悲喜劇。なぜか毎年繰り返される死者続出のピクニック。数多の美女と一人の醜男が王に仕える奇妙なハーレム。平均寿命1億分の4秒の微小生物に見る叡智。現代アメリカ文学の新潮流をリードする若き鬼才による、苦くも心躍るデビュー短篇集。プッシュカート賞受賞作2篇を含む11篇。

感想・レビュー・書評

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  • 非常に惹き付けられるタイトルだとは思うが、タイトルからしみでるユーモアと、この作品の持ってるユーモアは何か種類違う気がする。原題の「フラストレーション」がとてもしっくりきてると思う。
    扱っている内容(奇想)や皮肉な感じ、世の中とうまくシンクロしない感じ、自分が好きになりそうな雰囲気。だがしかし、大竹守さんの切り絵の表紙でなかったら、手に取ったかどうか。

    世の中に対する嗅覚はすぐれてる気がするし、玄人受けすると思うが、純粋に「本読むの楽しい」と言う気持ちからは共鳴しない、小手先器用感が何だか受け付けない。

  • 不条理なエピソード満載の短編集。

    表題『大いなる不満』の通り、この本は不満しか残らない。

    不条理に感じる物語というか、著者は不条理小説を書きたくて書いたんだろうな、と感じさせてくる不条理さがあって、物語に夢中になるというよりは不条理小説を書くための技法マニュアルが物語的手法をとっているという不条理さがあり、不条理な物語における不条理さとはこの類の不条理さであって、他の不条理が不条理であるためには別の不条理的視点を以って不条理であることを不条理にも定義付けた上で核心的不条理さに対して不条理な姿勢で接近するという不条理な必要性があり、従って弁証法的不条理によってのみ不条理の存在を不条理にも確認するという不条理さよりは、不条理である事を不条理にも納得したうえで不条理を以って不条理を超越する不条理こそが真に核心的不条理である不条理な所以を、不条理の不条理による不条理のための不条理小説として不条理に体験させるべく不条理不条理したこれぞ不条理という不条理を不条理に書こうとしたんだな、と読書が勘付いてしまう不条理な不満がある。

    つまり、面白くない。

    白々しい一人称が延々と続き、無味乾燥で色彩がない。

    限界まで薄めたカルピスのように味気なく、それでいて濁っている不愉快さ。

    読んでいるうちにだんだんと集中力が散漫になり、やがて本が手許から離れる、又は就眠する。

    眠るための本としては最適。

    狙った不条理は不条理と言えないんだな、と勉強になった。

  • ある種のファンタジーなんだけど、ファンタジーも面倒くさいというか高尚な文体を使うとそれっぽくなって偉そうじゃね?という典型的なもんかね。昔どっかの科学者が嘘八百を並べてでもすごくそれっぽい文体を駆使して論文を書いたら世の中騙されたってやつ、ソーカル事件、アレだ。っていうのと似た雰囲気だよね。
    と言っても幾つかはそれなりに面白かったんで、全部がダメってほどでもないよ。

  • 文章は明快なのに内容がよく分からない。読み進むごとにどんどん現実とズレていく。マルケス的スーパーリアリズムに似ているが、妙に晴れ晴れしている。このズレを楽しめると面白い。

  • あなたは絶対認知症にならないと、太鼓判を押してくれた人がいた。そんなこと解るものかと思ったが、最近海馬の底の方がモヤモヤしてきた。なにかを取り出そうとしても、おもちゃ箱のように雑多なものが見えるだけでなかなかな影が捕まえられない。”絶対”ほどあてにならないものは無いと思い当たる始末。その中に気になっていたこの本のかけらを見つけた、そうしたらずるずると付いてきたものがある。アメリカ文学最先端、セス・フリード。クレストブックスで面白かった「遁走状態」訳者の柴田元幸と言う名前。
      この本に納められている話が奇怪だとしたら、それは人間そのものの奇怪さの反  映なのだーー柴田元幸

    ねじれたユーモアと奇想が爆発する鮮烈なデビュー短編集。

    と紹介されている、実に見事なずれ感覚と溢れるような言葉の構築物と言うか、目にするものが一度脳に達した後、はきだすように書かれた文章が面白おかしく、ねじれたり変形して、刺激的で忘れられない読後感を残す。そして、読み終えた後は現実の平凡な日常の中ですっかり忘れてしまうような話だった。

    11編の目次から

    ロウカ発見
    7千年前のミイラ(ロウカ)が発見されて科学者たちは狂喜乱舞、しかし二体目が発見され・・・

    フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺(プッシュカート賞)
    ピクニックは恒例の行事で、みんなして山のふもとに出かけるが、そこで必ず襲撃されて、死者や重軽傷者が出る。だが子供は楽しみにし、大人もワクワクする、もう今更やめることが出来ない。集団の不思議な心理。

    ハーレムでの生活
    王さまの美女たちの中に醜男が一人選ばれて加わった。呼び出しを畏れながら待っている間に、女性に関する美意識や新鮮だった欲望が次第に変化していく。

    格子縞の僕たち
    僕たちは火山に投げ込む猿をカプセルにつめる仕事をしていたが、猿に近親感を覚えてしまった。ついに猿が叛乱を起こす。

    征服者のみじめさ
    穏やかな生活を夢見てはいるが、隙を見せると部下に馬鹿にされる、進むしかない。黄金を盗り女を犯し人格は分裂していく。

    大いなる不満
    エデンの園の動物たちは襲うことも襲われることもない安寧と平安の中で、次第に膨らんでくる本能の黒い影を感じ始める

    包囲戦
    長い間敵に包囲され、町は崩れ、環境は劣悪で荒れ果てている。どうしたらいいか考えることはあるが、まだ完全に征服されたわけでないと思う。
    だが起きてしまった事は仕方がないとも思っている。

    フランス人
    主役に選ばれた僕は図らずも頑張ってしまった。

    諦めて死ね
    父さんは生まれる前に死んだ、母さんは誘拐されて行方不明、様々な犯罪や凄惨な死に様や、自殺や、ありえないような事故の歴史を持つ血筋に生まれついた僕。

    筆写僧の嘆き
    「ベオウルフ」の写本作りをする僧たちは、修道士が演じる「ベオウルフの戦い」を見て書き留めることになるが、それぞれ違った記述になっていく。

    微小生物(プッシュカート賞)
    微小生物を観察し魅入られてしまう。名前をつけた固体はそれの持つ特性は奇妙でまた美しく、微小なせいで詳細が解明できなかったものたちも不思議な世界を見せてくれる。
    「ケッセル」の寿命は一億分の四秒なので生まれたかと思うと死んでいるその生涯を見たものがない
    「ミートライト」は対になって誕生する。細い巻きひげでつながっていて空に舞い上がり、切り離されると痙攣し身もだえし元に戻ろうとするそれが更に遠くに離されることになる。
    「パートレット」は存在が肉眼では見えない、存在反応もない、だがパートレットに 発見され認識されている。確認するには地上の存在が持つ特徴一つでも確認されればパートレットは存在するということである。
    など発見されて名づけられた極微小な生物の特徴を正確な言葉でありえない現状をしっかりと表現している。
    中でも「観察の原理」
    遥か遠方の惑星が実在するばしょであり、諸君が踏みしめている大地と同じく現実のものであるとは考えにくいのと同様に、微小生物の多くを実在の生物だと考えることはしばしば困難である。望遠鏡を通して見る惑星と同様、顕微鏡越しに見える微小生物は、物というより物のイメージであると見なされがちである。どちらの器具も物体を近くに見せたり大きくしたりといった、ひどく初歩的なやり方で現実を操作するにすぎないが、それでも我々は自分が見ているものは虚偽なのだと思い込んでしまう。 
    これは最高に面白い一編。

  • 映像が浮かぶ不条理劇。面白い!

    ロウカ
    7000年前のミイラ。ロウカの発見でラボが活気をおびたのに、別の発見で空気が変わる。

    フロストマウンテンピクニック
    楽しいはずのピクニックで繰り広げられる惨劇。楽しくないのに、楽しんでるふりをする人々。

  •  1983年生まれのアメリカ人作家による短編集。
     全11編が収められており、どの作品にも、滑稽さ、悲惨さ、愚劣さなどにまみれた人間世界の縮図が垣間見られるように思える。
     太古の昔に既に亡くなっている人間のミイラに翻弄される現代人を滑稽に描いた「ロウカ発見」、抜け出そうとしても抜け出すことが出来ず、結局同じこと(あるいは前よりも酷い状況)を行ってしまう「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」、どんなに頑張っても悲惨な境遇から抜け出すことは不可能だと諦めているような「格子縞の僕たち」、ジョージ・オーウェルの「象を撃つ」を思い起こさせる「征服者の惨めさ」、無邪気ゆえに背負ってしまったトラウマに怯える「フランス人」、イタロ・カルヴィーノ風な法螺話にまとめられた「微小生物集-若き科学者のための新種生物案内」等々。
     翻訳されている作品がまだ本書だけみたいなのだが、次の翻訳作品が出版されたら、是非読んでみたいと思わせてくれる内容だった。

  • すごくすごくいい。盛り上がる系ではないので、読了後しばらくたってからああもう一度読みたいなと思うほどに。
    いろいろの短編の中で「諦めて死ね」が最高にいい。タイトルからしてぶっちぎりにいい。
    あとは大いなる不満、フロストマウンテン、など。微生物のやつは飽きる。あのこじゃれた皮肉系科学雑誌風については、ライトで軽く書いた方が面白い。
    彼の書き方(あるいは訳文)は軽やかで、骨のようで、静か。みちていく不穏な。良くないこと(≠悪いこと)が起るのだろうという予感が、澱のように溜っていく、どうしようもなく、そのいざいざと不安感と緊張感の高まりが、たまらない。そしてこれらは暴発もせず、ただ満ちてく。だけ。
    不消化というより、未消化の結末は、後味が悪いというより、これに決着つけちゃったら逆にこっちが消化不良だわ、って感じもする。
    この、ひたひたと侵食するような、予感の書き方がすごく好み。フロストマウンテンは社会派味をいれちゃってて、ロウカはストーリーになっている。侵略者は最初なんじゃこれで流し読みしていたけれど、読み返して、そのどうしようもない無力さがあとからわかった。
    お気に入りの「諦めて死ね」は描線少なめの新聞雑誌とかでよく見るほっそいペン画とかのイメージ。「大いなる不満」は、匂いたつような、むせ返るような、熱で溶けるような原色画。
    諦めて死ねについてはあまりに良すぎてノートに写したぐらいに好き。熱狂的に好きと言うよりは、頭の片隅から離れがたい。使いもしないのに、引出しの一番上に入っている。

  • 猿をカプセルに入れる仕事、虐殺されるのを知っているのに毎年参加したくなるピクニック。不条理でブラックな短編集。

  • 1983年生まれ、作家の若さに驚くのはもうやめたほうがよさそうだ(笑)それにしても最近の若手作家は奇想系の作風が多く、リアリズムの影もない。セス・フリードもその一人ではあるが、ブラックなユーモア、”リアル”な人間社会への敷衍の巧みさにおいて優れている。つまりはとても面白い。
    ピクニックで馬鹿らしいほどの虐殺が繰り返される、しかしまた来年も楽しみに出かけてしまう「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」、架空の微生物の奇妙で恐ろしく悲しく愉快な生態を描写する「微小生物集」などは傑作だ。

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