痛みと身体の心理学 新潮選書 (新潮新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106035388

作品紹介・あらすじ

痛む身体は私たちに何を伝えようとしているのか?痛みを大切に味わうと、気付かなかった自分が見えてくる-それは、たとえば人間関係にどんなふうに関わってくるのか、病や死を前にどんなことが起こってくるのか。他者とのつながりから老いと死の問題まで、身体と「夢」を手がかりに「心身の闇」と向き合うプロセス指向心理学の知恵。自分をより深く知るためのセルフ・ワークも収録。

感想・レビュー・書評

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  • プロセス思考心理学について書かれた選書。

    寝ている間に夢を見ていても「それが夢かどうかわからない」状態であって、ほとんどの場合は目覚めて初めて「夢だった」と理解する。この目覚めている状態での認知も睡眠中の夢と同じく「ある種の夢」とすることで、自分自身への理解を深めるという内容。

    そして「こころ」とも「身体」とも異なる「もの」が存在するとする、という主張もある。

    基本的には自分自身に存在する二項対立を、その「もの」を使って解消していくことが中心なのだけど、この方法がかなりおもしろくてどんどん読み進んでしまう。たとえば完全に健康な人を目指すのではなく、不健康な痛みを抱える不完全な存在であることを受容することで自分自身そのものを知っていくことができる、そして「痛み」そのものを受容して解消していく、とかワクワクする。

    またプロセス思考心理学における場に関する主張もおもしろかった。これはいわゆるグループ・ダイナミクスのようなもので、フーコーの監獄のようにその場にいる人々になにかしらの影響を与えるものなのだけど、主に役割を重視している点で理解しやすいし受け入れやすい。

    怒りの感情の扱いについて、まずそれが本当に怒りかどうかを見極めたのちに対処するというのも常識的だったりするので。

  • アーノルド・ミンデルによって創始されたプロセス指向心理学の立場から、身体と心を一体のものとしてとらえる「ドリームボディ」の概念に基づいて、身体と心の両面に渡る悩みに向きあう方法を説いた本です。

    プロセス指向心理学は、ユング心理学やトランスパーソナル心理学に近く、従来の科学の枠組みには収まらないような内容をもっています。本書では、秘教的な語り方を抑えて、具体的な事例を引きながらプロセス指向心理学に馴染みのない読者でも比較的抵抗を感じることなくその内容を理解できるような解説がなされているように思います。

  • プロセス指向心理学に関する本。興味深い内容画沢山あったが、中でも昏睡状態の人へのワークとワールドワークが面白い。ワールドワークで「場」の役割を重要視しているのがとても印象的であり、また共感できた。

  • POPとう言葉を知って初めて読んだ本。
    目をそむけている事や、認めたくない事を、認識することの重要性が理解できた。意識/ドリームボディ、陰/陽、場、全てはバランスが大切で、何層にもなる自分(身体)それぞれに、耳を傾けて了得して生きていくことが出来たら、生まれてきた意味があるなと思った。あと、魂、瞑想、霊性など普通にスピリチュアルな言葉がでくる事に驚いた。
    面白かった。別の本も読んでみようと思った。

  • 諸富先生が尊敬しているという藤見先生の本。プロセス指向心理学の本で、心理学の中では前衛的な内容だと思う。特別な概念や言葉が多くて、全部は分からなかったけど、興味はある。機会があれば藤見先生のワークに参加するとかして、もっと勉強して、理解できるようになりたいなぁと思った。

  • プロセス指向心理学(POP)への、平易ですぐれた入門書である。私はプロセス指向心理学の創始者であるミンデルの着眼と、心理療法として方法、そしてその世界観に強く引かれ、共感する。この本でもその魅力が十二分に伝わる。しかもこの本は、痛みや症状から始まり、人間関係、死のプロセスを生きるコーマ・ワーク、 社会的・政治的問題を扱うワールド・ワークまで、プロセス指向心理学の幅広い領域を偏らずに紹介し、ミンデルの方法と世界観が、ミンデルや著者が扱った事例を織り交ぜながら、たいへん分かりやすく語られている。

    プロセス指向心理学の基本的な考え方を確認しよう。ミンデルは、身体と夢とを同じ本流から流れ出た支流と考えて、その「つながり」、「関係性」を注意深く見ていく。体の症状も夢と同じように無意識の創造的な発現である。夢に意味があるように身体に起こっていることにも恐らく意味がある。それは単に悪いものではない。夢=身体(ドリームボディ)における夢と身体との関係には、原因も結果もない。夢と身体には鏡を介在したような相互に反映しあう関係があるだけだという。 夢と身体症状は、お互いに分身であり、夢のイメージも、身体の症状も根元は同じと考え、その共通の根元を夢と身体の一体になった「ドリームボディ」と名づけた。

    そしてドリームボディは、心と身体の中間にある「第三の存在」といえる。これをサトル・ボディ(霊妙体、微細身)と呼んでもよい。つまり、物、肉としての身体とは異なる「もう一つの身体」ともいえる。そしてこの高次の実在の次元において、心身は究極的に一如である。それは心と身体の中間に位置すると同時に高次元(あるいは深い次元)において両者を超えて、統合する存在である。この「第三の存在」をユング派では「魂」と呼ぶ。

    このように、心と身体、夢や身体症状が、心身やドリームボディさらには魂のファクターであるなら、症状や夢は単に否定的なもの、病理的なもの、わけのわからないものではなく、そういった「高次元の存在」に至る、糸口あるいはチャンネル (通路)と捉えなおすことができるとPOPは考える。

    本書には、かんたんに取り組むことのできるセルフ・ワークが、1から13まで挿入されている。これを試みるだけでも、POPの考え方がかなり実感できるかもしれない。ひとつ例を挙げよう。 たとえばこんなワークがある。

    現在患っている身体症状などに気持ちを向ける。現在とくになければ過去に患い治ったものでもよい。その部位をていねいにじっくりと感じる。身体の感覚を保持したまま何かのイメージが浮かんでくるまで待つ。意識状態がふんだんより深まると、イメージが現れやすくなる。身体症状から浮上したイメージ、思い出された夢が、ドリームボディあるいは、その現れであるという。

    現れてきたドリームボディを、自分とは異なる命、意志、自律性をもった他者存在と仮定して、それが身体症状や病、身体感覚、夢、イメージという形を通して表現している意味や目的を、想像してみるのだ。 症状は夢と同様、私たちの生き方に訴えかけるメッセージとして出現するのだ。病 気や身体症状などのマイナスと把握されやすいものに隠されたメッセージ・知恵を 見て、それを自覚的に生きることによって全体性が回復されるというというのが、 POPの捉え方である。

    ワークの実際においては、見落とされがちな「起こりつつあること」がそのプロセスを全うできるようサポートする。そのプロセスに十分に自覚して関われば、症状や対人関係、身体感覚や動作などとの関係が深まり、統合され、症状が役割を終えて消失することも起こるという。

    夢、すなわちドリームボディは、夜眠っているときだけではなく、病や身体症状、さらに他者(との関係)のなかにも何らかの形で、常に介在している。現実の中に はいつも夢が流れていて、それは自らの表現する媒体を探しているのかもしれない。 私たちは、現実に生きながら、同時に夢の世界に足を踏み入れているのだという。

    これはまるで文学的な表現のようでありながら、POPの背景となる真実を語ろうとしている。こうした考え方にミンデルの奥深さとなんともいえない魅力がある。 「深さの次元」が、たえず私たちの周囲の現実にその表現を求めて立ち現れている、という捉え方は、私たちの心を揺さぶる不思議な魅力をもっている。そして、気づこうとする意志と注意力さえ持っていれば、それは確かな真実として実感されるのだ。

  • 心理学というよりも神秘学。体も心も目に見えないなにかによって外部と密につながっているのだということを教えてくれる。

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