水危機 ほんとうの話 (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037115

感想・レビュー・書評

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  • はえー、ウォーターフットプリントのあたりとか勉強になった。
    社基の先生なのね、都市環境かと思ってた

  •  水文学の啓蒙書。濃厚。

    【書誌情報+内容紹介】
    著者:沖 大幹[おき・たいかん] 水文学。
    シリーズ名 新潮選書
    発行形態 書籍、電子書籍
    判型 四六判変型
    頁数 334
    ISBN 978-4-10-603711-5
    C-CODE 0351
    ジャンル 地球科学・エコロジー
    定価 1,620円

    [担当編集者のひとこと]
       「魔が差した」1冊
     この本を、少し違う角度から読んでみると、理系大学教授の日常が垣間見えてくる。
     大学の先生は、頻繁に海外出張をしているらしいが、いったい国際会議やシンポジウムで何をやっているのか? とか、学部の授業の他に研究室の指導教授として、学生たちに何をどう指導しているのか、などだ。
     著者の沖さんは、日本に「バーチャルウォーター(仮想水)」という概念を初めて紹介した学者として知られている。研究室の学生たちとディスカッションしながら、実際、どのくらいの量の仮想水が、どこの国から輸入されているのかを、卒業論文のテーマにしたらどうかと勧めたりする。たとえば、食用の牛肉1頭分について、牛のエサとなる牧草を育てるのに必要な水などの量が「仮想水」というわけだ。ある学生は、牛丼屋でバイトをしている友達から牛肉や玉ネギの重さを聞き出したりして、地道な作業で空白だった数字を埋めていった。さらに「理系女子」と形容された大学院生の一人は、牛などの家畜が生まれてから屠畜されるまでどんな餌をどれくらい消費するのかを積算するという気の遠くなるような作業を続け、修士論文を書いていった。
     そうした研究結果は、英語の論文として科学誌などに掲載されたり、国際会議で発表されたりして、海外の科学者たちの研究心に火をつけていく。そうして、各国がお互い触発されながらさらに研究は高みへ進んでいくわけだ。
     ある時、ストックホルムでの会議で、バーチャルウォーターの提唱者であるアラン教授と会い、こうした日本の研究に大いに関心を示されたことがうれしかったと、沖さんは正直に書いている。
     沖さんは今では世界の「水文学」研究者のメインメンバーの一人となっているが、こうした人が、未だ単著を書いていないことがとても不思議だった。その理由は、「あとがき」にも書いてあるが、やはり「研究第一」の毎日で、書籍の原稿を書く時間あるくらいなら、学生たちと飲みながら(この場合、もちろんお酒)、テーマに関してディスカッションする方が、有意義で楽しいのだそうだ。その意味では、著者にとって「魔が差した」1冊といえるのだろう。
     「今、僕の脳みそにあるすべてです」と著者が言い切るほど、中身の濃い一冊となっている。 (2016/04/27)
    http://www.shinchosha.co.jp/sp/book/603711/

    【目次】
    目次 [003-005]
    まえがき [009-017]

    第1章 水惑星の文明 019
    乾燥地にあった四大文明/地球は水の惑星なのか?/地球の水はどこにあるのか?/水の惑星でなぜ水が足りなくなるのか?/循環する水資源は無限か?/高い水、安い水/いったいどのくらいの飲み水が必要なのか?/健康で文化的な生活に必要な水――生活用水/生産のための水――工業用水/食料のための水――農業用水/水と光合成

    第2章 水、食料、エネルギー 083
    世界の水危機/水ストレスとは何か?/仮想水貿易とは/仮想水貿易は世界を救うのか?/仮想水貿易の推計と日本/工業製品を作る水は輸出超過ではないのか?/空気の次は水に課金される時代に?/水と食料とエネルギーのネクサス

    第3章 日本の水と文化 141
    日本は水に恵まれた国か?/日本と世界の豪雨/日本は地震国か洪水国か?/日本には国際河川がないから水をめぐる争いはないのか?/日本は大量の水の輸入国か?/日本はダム大国か? ダムは諸悪の根源なのか?/水は誰のものか?/日本の水需給のこれまでとこれから

    第4章 水循環の理[ことわり] 191
    木を植えると山の水源が保全されるのか?/洪水はなぜ起こるのか?/洪水と水害/洪水被害を軽減するには?/100年に一度の洪水とは

    第5章 水危機の虚実 230
    地球の水は枯渇するのか?/瓶詰水輸入の功罪/水マネジメントの民営化と水紛争/地下水の枯渇/なぜ気候変動問題なのか?

    第6章 水問題の解決へ向けて 274
    人工降雨――現代の雨乞い/雨水利用――水の地産地消/海水淡水化は万能か/水をきれいにするのは水を造ること/節水/統合的水資源管理とは/水をめぐる世界の政府の対応/水ビジネスは世界を救うのか/水問題解決へ向けて市民として何ができるのか?

    あとがき(2012年5月末、今年も雨季を迎えたタイ・バンコックにて。 著者) [309-312]
    参考文献、図表出典 [312-328]
    略語一覧 [330-331]
    索引 [i-iii]

  • 水文学という水に関する幅広い学問。人文社会科学にまつわる話を中心にわかりやすく説明、学者としての経験に基づいた話も面白い。
    水は安いが上にローカルな資源。輸送費がそのままコストの大きな増大になる。水の問題は飲用でなく洗うためで、生きるか死ぬかだけでなく文化的で健康的な生活が送れるかどうか。水へのアクセスがないのはインフラの問題。水問題が国家間の戦争に繋がったことはなく、融和等に繋がる場合の方が多い。食料の輸入はその生産に必要な水「輸入しているようなものなので仮想水貿易VWTと呼ばれる。人口が今後指数関数的に増えることはない。外国資本に山林を買い占められることは別に水源を奪われるといったことではない。現在の人口降雨技術では雲がないと降らせられない。

  • あんまり文体が好きではないが、水について世界がなにを考えているか、一冊で把握するによいと思う。漏水減らせば本当にいいのか、とか、循環する水においてはところ変われば何が正しいかも変わるのです。世の中正解あることばかりじゃないと実感するはず。

  • 雑誌の書評を見て、読んでみようと思った。環境問題に絡む話は、論者の主義主張に左右されて客観的事実に基づかないものもあるようだが、本書は、書評や実際に読んでの実感からは、科学的な内容のように思う。
    本書のテーマを超えた著者の主張や科学者のエピソードなどに脱線する部分も多いが、水問題と聞いて思い浮かぶような一種の常識が次々と覆されて、とても面白い。例えば、節水は良いことだが、いくら日本で節水してもアフリカの水不足の役には立たないし、水源林のイメージで植樹すれば水が豊かになるとは限らず、むしろ植物が地中の水分を吸収し蒸散させてしまう効果も大きいといったことが書かれている。
    中でも、仮想水貿易という考え方の本来の機能に関連して、水当たりの生産性が高い国から低い国へと食料が貿易されているという、貿易における比較優位の法則が水生産性に関しても成立しているという分析は、非常に興味深かった。
    本書は、多種多様な水問題を扱っていて、手を広げすぎの感がなきにしもあらずだが、水をキーワードとした包括的な入門書として、一読の価値があると思われる。

  •   職場の本屋の平積みから購入。
      
      いっていることが全う。

    (1)地球温暖化、地球環境の問題は、手段と目的が逆転している。(p265)

     本来すべての学問は、国民の命と生活を守り、改善していくためのも。それに対して、著者は、最近の地球温暖化ブームは、その目的を制限してまでも地球温暖化という手段を進めようとする意味で、手段と目的が逆転しているという。

     そのとおり。しかし、それと同じことを河川工学者や河川関係者はやってきたのではないか。住民の生活と命を守るために行うべき手段の一つである河川整備を、それ自体を目的として進めてきたのではないか。

     それが、今の被災地の海岸堤防の議論でもでているのではないか。

    (2)多国籍企業の水源地の買収について、水は輸送コストのわりに単価が安いので、日本の水資源を海外に輸送するよりは、海水淡水化プロジェクトの方が割安。(p248)

     中国人が土地を買っていると聞いたら、すぐ規制というと、ナショナリズムの人たちに受けるため、簡単に規制しろとかいうが、それが冷静な対応なのか、むしろ日本に投資してもらって地域にとっては、感謝すべき事柄ではないか。

    (3)エネルギー自給率が食料自給率より遙かに低い日本では、食料自給率を上げる努力よりも、そもそも食料やエネルギーを輸入できない事態の陥らないよう努力すべき。(p189)

     それもそのとおり。国民の生活を守るという観点からは、食料だけを議論してもだめだということ。

     そこまで大胆にいうのであれば、治水ももう大規模構造物を新たにつくるよりも、既存の施設の更新、長寿命化に投資をする、むしろ治水、津波、地震などの災害についても、構造物ではなくて、避難によって命を守る投資に特化すべきではないか。

  • 世界の水問題、いわゆる「21世紀の水危機」などとして認知されている問題について、専門的な立場から、われわれ市民がどのような認識を持つべきなのかを書いた本です。

    水文学という学問を専門にやってらっしゃる沖先生ですが、仮想水も概念の導入などからどちらかというとうまく使えていないローカル資源である水の消費の仕方に警鐘を鳴らしている立場なのかなと思いましたが、本書を読むとそんな単純ではなく、そういう印象自体がメディアに造られたもので沖先生自身もそういう傾向に非常にネガティブな印象を持っているということがわかりました。

    水消費の仕方というのは一元論で語れるものではなく、農業に適した土地があるのとまったく同じく、土地に即した水消費の仕方があるということ、水という財産に対して人々の持つ印象は実に特有なものと言えて、それぞれの事情をよく考えることは重要ですが、できないことを考えても仕方ない。
    そういう意味では風呂に入る、水洗トイレを使うのは善悪で語ることではないし、水も偏在する資源なのだから仕方ないということ。
    水ビジネスについても触れている一方、水道水は瓶詰のミネラルうぉーたーに比して格段に安く、水道事業で儲けるというのは必ずしも収益率の高い事業ではないことなども書かれています。
    まさに21世紀の水にまつわる様々なトピックに触れているので、なかなか興味深く読めると思います。

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