秘密資金の戦後政党史: 米露公文書に刻まれた「依存」の系譜 (新潮選書)
- 新潮社 (2019年12月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106038501
作品紹介・あらすじ
戦後75年、日本の民主主義を歪めた“公然の秘密”を明らかにする! 冷戦下、保革主要政党が米ソから密かに受けてきた違法資金。ハワイでの受け取り、迂回融資、工作員による手渡し……、手練手管を駆使して渡された闇の資金は、イデオロギー対立の狭間で、日本政治に何をもたらしたのか? 綿密な調査によって発掘された一級資料が暴く「政治とカネ」問題史上、最大の暗部。
感想・レビュー・書評
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Foresightでおなじみ名越さんの渾身の一作。戦後政治史の影の一面というか、光の当てられなかった部分というか。少なくとも戦後の一定期間においてほとんどすべての政党に外国からの資金が流入していたという認識は持っていてもよい知識なのかもしれません。
しかし、国務省の歴史家が公開しようとする文書についてCIAが反対するのはわかるけれど、わが外務省も積極的に反対するというのはなんとも反応に困るというか、なんというか。もちろんすぐに公開できない事情はすごくわかるけれど、相当程度の期間が経過したら公開し、あとは歴史の評価に委ねるべきではないかと思いますけれど。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
このような資料がアメリカやロシアに存在し、一般人が閲覧できることは当たり前のこととは言え、我が国の状況を見ると悲しい気持ちになる.自由民主党、日本社会党、日本共産党が当時の米ソから資金援助を受けていたことは事実だろう.戦後間もないころの各政党の発展のための重要な糧となっていたことは、ある意味で強烈な皮肉だともいえる.戦後の政党史を総括する意味で楽しめた.ソ連の資金が共産党から社会党に移ったことも興味深い.ただ、その金が党として還流していたのではなく、自民党では岸派、共産党では野坂派に集中していたようで、与える側と受ける側の癒着に近い形だったことも注目すべきだ.自民党にはその一派が存在していることから、影響が全く解消されたとは言えないと考えている.勉強になった.
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東2法経図・6F開架:315.1A/N26h//K
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戦後各党に米ソから資金が流れていたとし、両国の公文書や回顧録等から丁寧に追っている。自民は、確認できる限り50年代後半から64年にかけて米から。民社は60年前後に米から。共産は60年代半ばまでソ連から、野坂参三は戦中と戦後直後には米からも便宜供与を受けている。社会党は60年代半ばから共産と入れ替わるようにソ連から、友好商社を通じた形で。ソ連邦崩壊まで癒着。
蔵相と米大一等書記官が、また頻繁に総理と米大使が会い日本側から資金援助を求めるというのも現在ではちょっと考えにくい。また社共のソ連への金の無心ぶりは特に赤裸々だ。資金を得ることは相手の意に沿う活動をすることとイコールのようで、たとえば著者は、ミグ25事件の際の社会党による機体調査中止・即時返還運動を「こうした活動の目的は、人道でも、イデオロギーでもなかった」と断じている。
ただ、各政党は資金提供を受けたことを基本的に否定しているし(当時から公然の秘密だったという記述は本書に出てくるが)、そもそも公文書や回顧録の類は書いた人間の都合の良いようになりがちだ。また著者自身、米ソの主戦場は欧州だったこと、資金導入を担当したのは政党全体ではなく一部グループだったこと、公文書の内容自体が事実なのか誇張や歪曲はないのか、大国の他国への介入は冷戦後も続いていること、という4つの留意点を挙げていることにも注意が必要だ。