自衛隊は市街戦を戦えるか (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106108709

作品紹介・あらすじ

戦車だけじゃ、日本を守れない。サイバー戦に情報戦が加わった「新しい戦争」の時代に、自衛隊は何を目指すべきか。元自衛隊幹部が明かす組織の実情と「最強の部隊」を追求するための渾身の提言。

感想・レビュー・書評

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  • 自衛隊の組織、装備、訓練法などが現代の政治状況にあっておらず、実際に戦闘できないのではないか、という議論は今までもたくさんあった。

    本書も同様なのだが、もっと具体的に踏み込んで解説していることに価値がある。

    読了90分

  • ●引用、→感想

    ●せっかく訓練を改善して実戦で力を発揮できるようになりたいと意見を具申しても、全く取り合ってもらえない状態が続くと、隊員はモチベーションを失います。最低限の力を消費するだけで済む、受け身で流す訓練をやるように変化してしまいます。
    ●プロ野球やサッカーチームでは、いくら有名で有能な選手を集めたからといっても、必ずしも勝利するとは限りません。どれだけ能力があっても、各自の考えていることやイメージ、やりたいことがバラバラであれば、組織として発揮できる力が大きく低下してしまうからです。全員のイメージが一致しているチームは、選手同士が何本もの見えない線でつながっている状態です。まるで身体中に網の目のように神経が張りめぐらされ、そこに皆の行動をまとめる働きをする電流が迅速に流れるような状態だと言えるでしょう。だからこそ、多くのメンバーが素早く効果的に動き、あらゆる状態に対応し、組織力を発揮して勝利を掴むことができます。やるべき方向性が一致していて、格子状の神経でつながっているチームであれば、優秀な選手ばかりでなくても、かなりの強さを発揮することができます。
    ●当時私は連隊長として、官舎で中隊長と週2~3回のぺースで杯を交わしながら、練成訓練の考え方やどのような部隊を作りたいのか、皆でアイデアを出し合っていました。自分の頭の中にある絵と同じ絵が中隊長の頭の中に浮かぶようにと務めました。というより、そうしなければならないと考え、自らの「絵」を伝えていきました。たとえば、言われたことをただやるだけの中隊長と、頭の中に連隊長と同じイメージをもつ中隊長がいるとしたらどうでしょう。後者の中隊長はイメージ通りに行動するばかりか、状況に応じて柔軟に対処できる自由度を兼ね備えることになります。この二人の中隊長が率いる組織の能力には雲泥の差があるでしょう。そう考えたからこそ、連隊長として中隊長とは活発に意見を交換したのです。
    ●ありがちなのは、単純にパターンをいくつか覚えて、それでよしとしてしまうことです。例えば、3パターンの行動を覚えたら、覚えたパターンの範囲でしか思考と行動をしようとしません。新しい訓練場面に出会った場合、3パターンのうちのどのパターンが一番その状況に近いかを考えてしまいます。パターンに当てはめようと、新しい訓練場面や状況も単純化して考えようとしてしまうのです。こういう考えだと、訓練中に状況の変化があっても、選択したパターン通りにかたくなに行動してしまう。途中でまったくパターンから外れた状況に出くわした場合は、行動によりどころとなるパターンが使えなくなると同時に、部隊の動きは突然滑らかさを失い、混乱し、フリーズしてしまいます。なぜ、こうなるのでしょうか。それは、動けなくなり、おかしいと思った段階で訓練を一旦止めて、今の状況では何を決断し、どのように行動しなければならなかったかをチェックしなおすという訓練を今まで行なっていなかったからです。スムーズに見た目の良い行動を追究するのではなく、遅くても、地味でも、時間がかかっても、まず確実に状況を把握する。そして、次にどのようにすればいいのか修正をかけて戦っていくことから学びはじめなければなりません。→ポカミス発生の一因。
    ●40連隊の隊長になり、ショーのようにシナリオ通りに行なう訓練では、実戦で戦い抜くことができないと考えた私がまずはじめたのは、「我々はどのよう敵と戦うのか」という隊員の意識改革を行なうことでした。隊員の意識が変わらなければ、本気の市街戦戦闘訓練でなく、形だけの訓練になってしまうため、徹底した意識改革が必要だと考えました。意識を変えるということは、まず情勢認識を変えなければなりません。(中略)こうした内容を、連隊全員が集合する連隊朝礼、幹部教育(士官以上)、中隊長による隊員への教育の際などに、計画的に、ことあるごとに話すようにしたのです。こうして意識改革を勧めることによって、短期間で現実的な訓練を行う方向へ大きく舵を切ることに成功しました。
    ●部隊を構成する隊員の中でも重要な役割を担っているのが小部隊のリーダー。要となるのは自衛隊の階級で言えば2等陸曹、諸外国で言うところの軍曹です。「リーダーとなるのは隊長ではないのか」と思われるかもしれませんが、それはあくまでも戦闘全体におけるリーダー。軍曹は率先して最前線で戦闘を行う存在です。また、部下を育成し、彼らをその背中で引っ張っていく存在です。「小部隊の強さは陸曹で決まる」と言われ、小部隊のリーダーの重要性は、昔も今も、そして将来も変わりません。
    ●例えば、小部隊(小隊・分隊レベルのこと)の戦闘技術が世界水準に達しているかどうかを評価するとしたら、「できている」か「できていない」かの評価だけで行い、「できていない」ことを明確にし、次の訓練でやるべき内容を示します。訓練検閲を受けた部隊は、例えば「銃口管理」ができていないと判定されれば、銃口管理からもう一度訓練を行い、「できている」レベルに達するようにさせていきます。小部隊のどこが「できていない」のかを具体的に明確にし、「できていない」ところを中心的に訓練することによって、部隊としても効果的に訓練時間を使用することができます。このようにして、部隊の基礎を支える小部隊を効率よく強化していくのです。

  • 全く、市街戦の訓練を行っていなかったことに驚いたし、こんなに勝手が違うもんだってことにも驚いた。言われてみりゃその通りかと思う。
    陸上自衛隊はやっぱり官僚組織なんだな。
    冷戦後、目的のなくなった隊がどの様に訓練していくのか、それ自体が曖昧になっていたり、意味のない突撃、出世していくための、意味のない訓練とか、なるほどなあ。

    色々考えさせられる。
    でも、日本人て結構市街戦、合ってると思うんだけどな。なんとなく。

  • 大きい組織になればなるほど、めまぐるしく変化する環境に臨機に対応することか難しくなる。 
    陸自のような組織であれば尚更でしょう。 
    『効果があった素晴らしい改革』もキーマンが異動となると、あっという間に元の木阿弥になる。 
    組織改革あるあるですが、悲しいですな・・・。 
    作者のような「現場を知る元幹部」が世にアピールする必要があるのでしょうね。 
    一般企業と違って「自衛隊は国を護る組織」なのですから。 
    まずは、国民が現状を知ることから始めましょう。 

  • 結構な衝撃を得てしまう。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ、で国防を担って欲しい。自衛隊の今後に期待します。

  • ●自衛隊の訓練。冷戦時代は、仮想的であったソ連の圧倒的な機甲戦力と火力による侵攻に対処するため、陣地防御主体の訓練を行っていた。そんな訓練が、2000年初頭に大きな転換点を迎えます。「市街地戦闘訓練」へ移行したのです。
    ●米軍との共同訓練で、想像とは全く異なり、装備や戦い方が急激に進化していることがわかりました。
    ● 2014年のロシアのウクライナ侵略時の戦い方。ハッキングで発電、メディアを乗っ取り、レーダーも使用不能に、携帯電話も。その後フェイク情報を大量に流す。ハイブリッド時代に。

  • 現代のハイブリッド戦への移行を2014年のロシア軍によるウクライナ侵攻を例に挙げて説明する第一章が面白かった。

    戦いの形が変われば求められる能力や練兵の形も当然変わる。しかし、冷戦終了後に戦う相手を失い、何のために準備するのかその目標を失う中で、ハートブレイクリッジで描かれているようなシナリオありの模擬訓練を行うなど、戦場のリアリティからどんどん離れていった自衛隊訓練が行われていく。書かれていることは自衛隊の話だが、企業にも同じような話は起こりうるし、実際起こっているように感じる。

  • 国対国よりも、もっと局所的な戦いがメインになるのに、自衛隊の訓練は考えている以上に戦えないぞ

  • 愛される自衛隊とは何か、そして自衛隊の本分とはなにか?
    世界各地で紛争・.テロが蔓延している中、自衛隊に求められているものは、やはり国権の発動としての武力。
    国民を守る自衛力としての戦闘能力。

    元自衛隊幹部として、日本の自衛隊に不足している点を厳しく指摘し、愛されて真に頼れる自衛隊として生まれ変わるための厳しい提言。
    これらの話は過去であれば、タブーであったろう。
    しかし、いまそこにある危機に対応するために、話されなければならない真実が本書にはあると思う。

  • 標題がまちがっていたな。「自衛隊は市街背を闘えるか」ではなく、「自衛隊は、現代戦を闘えるか」であるべきだし、あるいは「第40連隊の栄光と挫折」であるべきだったかもしれない。

    まあ、著者が5章までかけて指摘した問題点と、6章で(一時的に)改善した事例が元の木阿弥になったそのままであるとは思わないが、自衛隊が、常により実戦を意識した組織になって欲しいものだと、国民の一人として思う。
    でなければ、抑止力として機能せずに、突撃して果てることになりかねないからである。

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著者プロフィール

■二見 龍(フタミ リュウ)
元陸上自衛隊幹部。現在は民間企業に勤めながらブログやSNS、ユーチューブでの情報発信から書籍の執筆まで、多岐にわたり活動している。

「2022年 『君にもできる刃物犯罪対処マニュアル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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