日本人の承認欲求 (新潮新書)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106109478

作品紹介・あらすじ

苦手な上司も、厄介な部下も、根っこは同じ!? 「承認欲求」と「テレワーク」、二つのキーワードを基に、組織研究の第一人者が日本型企業の問題点を解き明かす。ストレスフリーな「働き方」への画期的提言!

感想・レビュー・書評

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  • 快適だったテレワーク。でもコロナが少し落ち着いた頃、なぜか無性に出社したくなったのは何故か?の謎がようやく解けた。偉さを見せびらかしたい管理職、という表現にはやられた。

  • ■テレワークに切り替えることが困難な理由を深く追求していくと、技術的な問題よりも社会的・心理的な要因が大きな比重を占めていることが分かってきた。その中でも働く人にとってテレワークで満たされない大切なもの。それは、一言でいうと「刺激」である。
     会社に行けば無意識のうちに様々な刺激が得られる。通勤には多少の負担が伴っても、同時に新鮮な空気に触れられ、体を動かせば爽快感が味わえる。職場では同僚や顧客と仕事の話だけでなく世間話や情報交換もできる。その都度、脳は活性化される。
     職場で沈んだ顔をしていたら周囲の人が心配して声をかけてくれるし、悩みを打ち明けられる同僚もいる。時には苦手な人と顔を合わせることもあるが、好意を抱く人に会えば胸がときめく。お客さんからちょっとした感謝の言葉をもらって元気づけられることもある。客から苦情を受けても上司が後ろからサポートしてくれれば上司への感謝と信頼感が倍増する。
     仕事だけではない。昼休みに同僚とランチに行き、休憩時間にスイーツ食べながらおしゃべりをするのもささやかな楽しみだ。帰りにカフェに立ち寄ったり、仲間と居酒屋に行って仕事のうっ憤を晴らしたりしてストレスと解消をする人もいる。いずれも職場に行ってこそ得られるものだ。
    ■管理職特有の承認欲求とは
     マズローは承認欲求を二種類に分けている。
     一つは「強さ、業績、妥当性、熟練、資格、世の中に対して示す自信、独立と自由に対する欲望」である。(=自尊の欲求)
     もう一つは、「他者から受ける尊敬とか尊重と定義できるいわゆる評判とか名声、地位、他者に対する優勢、他者からの関心や注意自分の重要度、或いは他者からの理解に対する欲望」である。(=尊敬の欲求)
    ■コロナ禍でテレワークを始めた多くの人たちは物理的にも人間関係の面でも会社共同体から切り離された。それによって社員は経済的な面だけでなく、社会的、心理的にもどれだけ会社に依存していたかを実感したのではないだろうか。それはとりわけ日本人にとって会社という組織が圧倒的な存在感を持っているから。
     社員の視点から会社を見るとそこには二つの顔がある。一つは家族や村などの自然発生的で情によって結びつく「基礎集団」。
     もう一つは、特定の目的を達成するために結集する「目的集団」である。F・テンニースの「ゲマインシャフト」と「ゲゼルシャフト」、R・M・マッキーバーの「コミュニティ」と「アソシエーション」などの分類もおおむねそれに相当する。
    ■承認の相互依存が歪める人事
     日本企業では仕事の分担が不明確なので一人一人の成果を捕捉しにくく、その分評価者の感情や利害関係が評価に入り込みやすい。
     日本企業と欧米企業のホワイトカラーを対象として2001年に行われたある調査によれば、「感じのよい部下」に対して「甘い人事評価をつけることはない」という回答は欧米企業では75%、日本企業では29%。逆に「甘い人事評価をつけることがある」という回答は欧米企業で6%、日本企業で20%と大きな差がある。
     一般に個人的なつながりが深いほど特別扱いしやすいことは「内集団ひいき」や「ネポティズム」などとして知られているが、物理的な近接性も感情や利害関係を左右する。互いに近接しているほど相手に対する情報も、また承認の機会も多い。もちろんそこには正の承認だけではなく、負の承認も含まれる。
     そのため近接しているほど承認するにしろしないにしろ、相手に対するインパクトが大きくなる。つまり離れている人なら自分を認めてくれるか否かはさほど問題ではなくても普段接している人から認められるか否かには無関心でいられないわけである。
    ■承認の返報性原理
     多くの場合、承認する側もまた相手を承認することで承認される。即ち双方が相互依存関係、さらに互いに相手を認めれば相手からも認められるという互酬的な関係にある。
    ■筆者は承認を「表の承認」と「裏の承認」に分類する。
     優れた能力や業績、個性などを讃えるのが「表の承認」で、規律や序列を守り、輪を乱さないのが「裏の承認」である。端的に言うなら加点評価と減点評価に近い。日本社会では昔から、いくら能力や業績が優れていても欠点や落ち度があると認められないことからわかるように、「裏の承認」に偏る傾向がある。
    ■仕事に対する意欲や働き甲斐の指標として近年しばしば「ワーク・エンゲージメント」という尺度が用いられている。これはW・B・シャウフェリらによって提唱されたもので、活力、献身、没頭の三要素からなる。
    ■日本人の承認欲求の表れ方、満たし方には二つの特徴があった。
     一つは濃密な人間関係の中で仕事の能力や業績にとどまらず、全人格的に認められるということ。
     もう一つは、「偉さ」の序列が存在し、それを見せびらかすことによって承認欲求、とりわけ「尊敬の欲求」を満たそうとすること。
     二つとも共同体型組織という日本特有の組織を前提にしている。ところが、共同体型組織そのものがグローバル化やデジタル化、それに経済水準の向上や社会インフラの整備などによって時代に合わなくなってきた。そこへ突然やってきたコロナ禍とテレワークが共同体型組織の限界を決定的なものにしたといってよい。

  • 私が向かう現場たちが特殊なのか…❓

    著者が挙げているような「職場ではおとなしかった社員がテレワークになってから会議中にテキパキするようになり頭角現した」なんてこともないし「フリーランスがモチベーション高い」なんて有り得ない…だいたいがコミュニケーション不足…事前の相談擦り合わせなく思い込みで進めようとし…大きな手戻りや失敗をする。

    また、長時間労働が解消したなんて現場はあまりなく、隙間のコミュニケーションが取りづらくなったことで、滞留が生じたり、teamsなどのツールでチャットや特定の人へのメンションが集中してしまい却って嵩張ったというところが多かった。

    現場を知らない学者さんが書いた…という印象
    今度から衝動買いやめて序章だけは読もうと…久しぶりに失敗した

  • 承認欲求は程度の差はあっても誰にでもあると思いますし、自分自身にも実際にありました。
    ただいまはそのような欲求を満たすよりも、自分の本当にやりたいことを自分に許される制約のなかで精一杯やりたいです。

  • 背ラベル:336.4-オ

  • 筆者自身も「承認欲求とはそういうものだと考えておいた方が良い。社会現象を説明する上ではあまり厳密な定義にこだわらない方がかえって生産的な場合が多い」としているが、事象の原因をすべて承認欲求という単語に結びつけているような印象を受けた。

    承認欲求をめぐる職場の人間の考えの構造など、そもそも承認欲求とは何か、どのようなシチュエーションでいかに、発生し、他者に向けられ、本人においては、満たされ、満たされないのかということに対する分析がほとんどなされていない。
    上司の部下に対する承認欲求、部下の上司に対する承認欲求、同僚に対する承認欲求、すべて、異なるはずである。
    承認とは何か、どのような場合にどのようなメカニズムで成立するのか。
    欲求とは、どのようにどのような場面でどのように満たされ、また満たされないのか。

    これらのことが十分に説明されないまま、断片的なアンケート結果や事象について、全て原因は承認欲求であると大雑把に断定しているような印象を受ける。

    ただ、いくつか現実をうまく描写していると思われる記述もある。

    共同体型組織では内と外を隔てる分厚い社会的な壁ができる。
    そして、いったん社員になると安定した雇用と収入が保証され、独身寮や社宅、退職金、企業年金、各種手当などの手厚い福利厚生によって会社が社員の生活全体を包み込む。
    逆に言うと、会社の外と深く関わる機会も必要性も小さいことを意味する。その結果、社員とっては、実質上会社が自分と能力や個性を発揮し、認められる唯一の場となる。

    共同体はその維持と安定を何より優先するのでメンバーは仕事の能力だけでなく、人柄や対人関係などを含め全人格的に評価される。そのため、役職を中心にした社内の序列は単なる役割の上下関係にとどまらず、全人格的な序列、すなわち偉さの序列という性格を帯びてくる。

    日本人の会社に関する関わり方は他国の人たちと比べてもかなり特異であり、会社に対して全人格的に関与し、会社の中では全人格的に評価される。

    日本経済新聞私の履歴書について
    多くの人は一方的な自慢話と受け取られないよう、失敗談や自分の欠点を織り交ぜながら、自分の能力や人間性が優れてることを悟らせる手法を用いている。
    「謙遜しているけれども本当はずば抜けて優秀だったに違いない」と受け取ってもらえるだろうという計算が透けて見える

    共同体の中では承認もゼロサムである。
    そのため裏の承認に偏り、減点主義になりがちだ。また、序列が固定化しやすくされやすく、特に伝統的な企業ほど、一度、出席競争から脱落すると敗者復活が難しいトーナメント型であることが明らかになっている

  • テレワークで減衰する皆が欲しがる承認欲求。いかに復旧させるか、頭をひねりたい。と思わせてくれる本

  • 別紙参照

  • テレワークにより日本でも外部思考のコスモポリタン型の人が徐々に増えてきたというところが印象深かった。
    自分としてもそういった方向に移行していきたい。

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著者プロフィール

同志社大学政策学部教授

「2022年 『何もしないほうが得な日本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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