カストロバルバ: エッシャー宇宙の探偵局

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120012419

感想・レビュー・書評

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  • 総合評価 ★★★☆☆
    「本格ミステリ・ベスト100」(探偵小説研究会)の94位にランクインしていることで,その存在を知り,長らく読みたいと思っていた作品。復刊もされず,古本屋での見つからないので図書館で借りて読んだ。
     「だまし絵」で有名な「エッシャー」という画家が描いた建築物が存在する「カストロバルバ」という世界で起こる事件を描いた短編集。それぞれ「物見の塔」,「無窮の滝」,「版画画廊」,「球形住宅」といったエッシャーの作品に出てくる建物を舞台に殺人事件が起こる。
     何かの書評で「ミステリとしては微妙な作品もある」とあったので,そこまで期待をしていなかった。そして,読んだ感想としても微妙。カストロバルバは外部の者たちが見た夢が投影されてできた街であり,街の人々の夢の投影を重ねているいわば複合夢の世界であるという設定。そのため,街の住人が目覚めるとその部分が崩壊する。そういった特殊世界であり,それぞれのエッシャーの作品の構造をプロット・トリックとしているという構想・世界観には魅力がある。とはいえ,個々のミステリとしてはトリックも陳腐。意外性もなく淡々と進む。文体も読解力を要するというか,とりとめがなく読みにくい。雑学的な知識がちりばめられている部分もあるが,短編の割に登場人物が多い,何を言いたいのか分かりにくい描写もある。意外なところに伏線がある仕掛けは楽しめなくはないのだが。読みたかった作品であるが,予想どおりというかミステリとしては期待ハズレ。おまけの★3で。

    サプライズ ★☆☆☆☆
     意外性はない。
    熱中度   ★☆☆☆☆
     読みにくい。読者を引っ張る工夫に乏しい。
    インパクト ★★★★☆
     エッシャーの絵画の世界におけるミステリという点でインパクトはある。
    キャラクター★★☆☆☆
     登場人物が多く,警察署長など印象に残る登場人物もいるが,さほど魅力的ではない。主人公も没個性的
    読後感   ★★★☆☆
     主人公が夢から目覚め,その部分についてカストロバルバが部分的に崩壊するというオチ。良くも悪くもない。
    希少価値  ★★★★☆
     絶版。古本屋でもほとんど見かけない。読むために葉ネットで購入するか,図書館で借りるしかない。ただしプレミアはさほどついていない。

    メモ
    〇 物見の塔の殺人 ★★★☆☆
     物見の塔で阿呆鳥侯爵が殺害される。夫人が容疑者。主人公である万治陀羅男が面識のない阿呆鳥侯爵夫人から容疑を晴らすためにカストロバルバに呼ばれる。阿呆鳥侯爵夫人が殺害したとしか思えない状況だが,阿呆鳥侯爵夫人と警察署長が不倫をしているため,捜査が続いているという状態。真犯人は牢屋に閉じ込められていた男。その母も阿呆鳥侯爵の家で家政婦として働いていて,牢屋の鍵を開けていたというトリック。キースという蜥蜴タクシーの運転手の話で,牢屋の男の母が家政婦であるという伏線が張られている。「伏線あったでしょ」という感じのミステリ。意外性はあまりないが,この4つの中では比較的出来がよい。

    〇 無窮の滝の殺人 ★★☆☆☆
     エッシャーのだまし絵の中でも有名な「無窮の滝」が舞台。密室殺人。またしても阿呆鳥侯爵夫人が容疑者になる。トリックは動物(蜥蜴)が閂を支える硬いソーセージを食べていたというもの。これをダミーのトリックとして,無窮の滝の流れを止めて大雨が来たときにふたたび動かすというトリックがメイントリック。真犯人洗濯女のマチルダと探偵長のエディプスさん(共犯)。蜥蜴の名前がノックスでちょっとだけ伏線になっている。もうちょっと分かりやすく書けばよいのに,きわめて分かりにくい筋書きになっている。蜥蜴のトリックで終わればよかったのに。★2

    〇 版画画廊の殺人
     版画画廊で女主人マーシャの息子であるラスリーニコフ少年が撃たれる。死には至らないが,その後,マーシャの母が撃たれて殺害される。容疑者は議員のトプカピ氏。マーシャと結婚したいがその母に反対されていた。真相はラスリーニコフ少年が犯人。トプカピ氏はラスリーニコフに銃を与え,犯罪後,銃を隠していた。探偵長のミネルバの父,カメレオン・タイムズの記者「ポパイ氏」。この人物が探偵長に手柄を立てさせるために電話をするなどしていたので,事件がややこしくなっていた。ミステリとしては弱め。意外な犯人のはずだがミスディレクションがなく意外性が低い。「版画画廊」の絵とミステリ全体の構造の関係も薄い。★2で。

    〇 求形住宅の殺人 ★★☆☆☆
     娼館で連続殺人事件が起こる。セヴリーヌという娼婦の客が殺害される。水銀・硫黄・塩という錬金術の材料凶器。この作品の登場人物の名前はケッセルというフランスの作家が書いた「昼顔」の登場人物の名前と同じ。犯人はセヴリーヌで,現実世界の影響で殺害をしたというもの。娼館はセヴリーヌが目覚めたために崩壊。物語のラストでは男女問題に悩む陀羅男がカストロバルバから目覚めるような描写で終わる。ミステリとしては平均点以下。トリックらしいトリックもなく,魅力的な謎もない。オチもイマイチ。★2で。

  • 昔この本の存在を知り、どこかで見つけて読んだ。
    エッシャーの世界で起こる犯罪を合理的に?解決しようとする作品。
    あの「滝」の絵の中とか。
    また読みたいなあ。

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著者プロフィール

1933年小樽市生まれ。早稲田大学で心理学、北海学園大学で土木・建築学を修める。日本SFの第一世代の主力作家の一人。1970年、SF評論『術の小説論』、SF短編『大いなる正午』で「SFマガジン」(早川書房)デビュー。以来、執筆活動に入り現在に至る。単行本著作数180冊以上(文庫含まず)。1990年代の『紺碧の艦隊』(徳間書店)『旭日の艦隊』(中央公論新社)で、シミュレーション小説の創始者と見なされている。1972年、第3回星雲賞(短編部門)を『白壁の文字は夕陽に映える』で受賞2012年、詩集『骸骨半島』で第46回北海道新聞社文学賞(詩部門)2013年度札幌芸術賞受賞2014年2月8日~3月23日まで、北海道立文学館で「荒巻義雄の世界」展を開催。2014年11月より『荒巻義雄メタSF全集』(全7巻+補巻/彩流社)を刊行。2017年には『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』(彩流社)を満84歳で書き下ろし刊行。2019年、北海道文学館俳句賞・井手都子記念賞、伝奇ロマン復活第一弾『有翼女神伝説の謎』(小鳥遊書房)を刊行(続編『高天原黄金伝説の謎』『出雲國 国譲りの謎』)。『SFする思考』で第43回SF大賞受賞・現在も生涯現役をモットーに、作家活動を続けている。

「2023年 『海没都市TOKIYO』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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