電撃戦という幻 (下)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120033650

作品紹介・あらすじ

巨大な包囲陣を形成しつつ、北フランスを疾駆するドイツ装甲軍団。しかし、連合軍殱滅の一歩手前で、ヒトラーは謎の停止命令を下し、掌中の勝利は幻と化した。この第二次世界大戦最大のミステリーを、ドイツ連邦軍軍事史研究局に所属する著者が厖大な史資料を駆使して検証する。精密な分析とスリリングな描写に彩られたドイツ軍事史の精華である本書は、伝統的なシステムと技術革新との相克という永遠の課題を照射する。

感想・レビュー・書評

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  • NDC:076
    海老名市立図書館所蔵

  • 電撃戦という幻、読了。上巻のレビューで述べた通り、著者はアメリカ人の戦略家、ジョンボイドの影響を受けたのではないかと推察された。新たに構想されたマンシュタイン計画での、シュリーマン計画の逆をつき、平地でのベルギー、オランダへの進軍を軍団レベルで囮に使うという欺瞞、一方アルデンヌの森を車両が通れないというフランス側の先入観につけこんで、メインの機甲部隊を集中展開し、狭くて起伏が激しい相手が来ないと思われる方向から運用し、フランスの要衝セダンに奇襲をかけ突破し、そのまま海岸線まで突破するというアイデア、プラスそれをグーテリアンがOODAループの高速回転によって、相手の思考速度を圧倒的に上回り、精神的に崩壊させ、味方と敵の犠牲者を極小に抑え、戦わずして、敗走するフランス兵の列を生み出し、まさに戦わずして勝つ、という構図を作り上げてしまった。追い詰めた連合軍に対しては、囮を金床とし、迂回挟撃を高速で行う軍団が金槌となり、まさに包囲殲滅戦の完成となるところであった。その影響はあまりの威力に味方であるドイツ司令部及びヒットラー達にも混乱を引きを越すことになった。味方の思考ループまで混乱させることになってしまったのだ。司令部側の疑心暗鬼、次々に入ってくる戦術面の勝利の情報は、かえって疑念を生む。(ボイドが情報の統合、情報は入ってもその統合を行うことが、一番大事だと説いた。統合はマニュアル化できない、特に統合を行う優れた人材をいかに見つけて訓練するかにかかっている。そこには優れた人材に恵まれるという運も絡んでいる。会社組織も一緒だ)作戦レベルで、指揮官が意思統一できていれば、(優れた統合機能が発揮できていたら)ヒットラーによるダンケルクを中心とした一連の進軍停止命令の介入もなく、その後のお互いの国が全てをすりつぶす全面戦争にはならなかったのかも知れない。お互い多くの戦死者を出すこともなく、40万人もの追い詰められた連合国の熟練兵士を人質として確保することで有利に停戦交渉ができ、そこで戦役は終わっていたかも知れない。連合国をフランスから追い出し、フランスを屈服させたことで、戦術面では成功を収めたかも知れないが、戦略面で包囲殲滅戦で連合軍を粉砕、屈服させることができずに、みすみすイギリスに撤退を許してしまった、ダンケルクの奇跡、である。歴史に、もしは無いが、あまりにうまくいきすぎたことが、ヒットラーを含む司令部の疑心暗鬼を生んだ、もしくはヒットラーと元々関係性の悪かった軍部からヒットラーは軍部からイニシアティブを取り返したかったから、愚挙に出たのか。著者は諸説をとりあえず説明しているが、、意見としては後者を採用している。ヒトラーは連合軍だけではなく、仲の悪かったドイツ軍参謀本部とも戦っていたのだと。このまま勝ってしまっては栄光は軍のものになってしまうという妄想が、狂わせたのだとの説を採っている。もしそうならば、なんと愚かしいものであろうか。もし、ダンケルクが陥落していたら、イギリスに継続戦闘能力はなかった。日本の第2次世界大戦への参戦もなかったかもしれない。西方戦役はほろ苦いフランス軍に対する勝利と、後のドイツ軍の敗北を決定づける、重要なターニングポイントとなったということだ。

    総括として、西方戦役のフランス側の敗因分析をしているが、「負けた理由は、社会が堕落したせいでも、軍隊が弱かったせいでもない。敗戦の理由は軍首脳部の硬直化である。」という言葉が別の意味で頭に刺さった。今の日本社会を見るようで、身を切らされる思いである。変化の目を摘み、異端を排除する、新しい勝利の可能性を排除する、なるほど、人間とは愚かしい動物なのだと改めて思った。
    一方ドイツ側の西方戦役の勝利の理由は、当方には委任戦術、優れたコマンダーを生むことにあると取られた。明確な概念化された目標を与え、自由度を与えられた優秀な軍隊が結果を出したということだろう。

    その後の戦いは血で血を洗う総力戦となり、結果、物量に勝るものが勝利したのはいうまでもない。これをして著者は電撃戦は時代に対する逆行であり、革命でありながらもアナクロニズムと結論づけたのが、冷徹な、悲しい結論であった。

  • 上巻で、フランスの失策に乗じ、アルデンヌの国境地帯を突破したドイツ軍が、なぜイギリス軍が撤退に使用したダンケルクに突入できず、フランスに派遣されたイギリス軍の帰還を許したかについて、考察を行っています。

    具体的な内容は本を読んでいただければと思いますが、元々電撃戦という概念が存在せず、若い装甲部隊指揮官が命令の隙を突いて進軍を続けていたドイツ軍は、フランスで経験した驚異的な進撃が定義されていないため最後の最後でトップレベルが混乱し、その結果装甲部隊の進撃が止められてしまったのではないかなと思いました。

    段取り踏んで仕事をしないと詰めの段階でケチがつく。それはちょっとした作業でも、ヨーロッパ大陸をまたにかけた大戦争でも変わらないのかな~なんて。

    図書館で借りました。

  • 上巻に同じ。

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