ジョージ四世の夢のあと - ヴィクトリア朝を準備した「芸術の庇護者」
- 中央公論新社 (2009年12月11日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120040825
作品紹介・あらすじ
一九世紀前半、イギリスで摂政時代と呼ばれる時期があった。病で執務不能になった国王ジョージ三世に代わって、皇太子(のちのジョージ四世)が摂政だったためである。彼は、ナポレオン戦争後の国力疲弊の折でも、莫大な費用を惜しまずロンドン市街を改造、バッキンガム宮殿を現在の規模に造営し直し、大英博物館やナショナル・ギャラリーなどを整備した。そして、自ら選び抜いた美術品でそれらを飾っていった。ヴィクトリア朝でイギリスが真に世界の覇者となった背景には、この時代の基礎固めがある。放蕩三昧で評価の低い国王の事績を積極的に見直し、「ダンディの時代」の魅力を伝える一冊。
感想・レビュー・書評
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もっぱら稀代の放蕩者として言及されてきたジョージ四世の、都市整備・外交(栄典利用による)・文化芸術の庇護といった功績に光を当て、崩御の際には「タイムズ」にボロクソ書かれたという彼の再評価をめざした書。
今までが今までだからということか、例のハチャメチャな一面にはほとんど触れずに「なかったこと」の勢いであり、下世話な話が大好きな身としては、特に前半「翼賛報道…?」と錯覚するような無味乾燥さを覚えた。清も濁も併せ呑んでの「公正な伝記」だとは思うが、そのあたりは「濁」一辺倒の既存作をどうぞということだと解釈すれば、潔いと言えなくもない。
個人的な興味もあって、話題が建築(宮殿・都市・美術館)に振れがちだった前半は正直やや退屈だったが、勲章を(あえて言うなら)濫発しての平和外交に話が及ぶと、俄然面白くなってきた。これぞ「従来誤解されがちだった功績」であろう。
さらに——「ジョージ四世の伝記」という主題からは、いささか外れるのかもしれないが——次代のヴィクトリア女王と王配アルバート、その子で生育環境がジョージと似ているエドワード七世、ヴィクトリアのごとく夫婦円満だったジョージ六世と、即位の経緯がヴィクトリアを思わせる現エリザベス二世陛下、さらにはまたまたバーディと同じ育ちを髣髴させるチャールズ王太子殿下…と生まれも育ちもそれぞれの後継者たちの、栄光あふれる仕事の陰にジョージの影響を読み取る終章は圧巻だった。
次は「キャロライン王妃事件」を読む予定。かのお騒がせ選帝侯ゲオルク・ルートヴィヒから来たるべきウィリアム五世(予定)まで、まったくもって興味尽きない一族である。
2011/5/13〜5/16読了詳細をみるコメント0件をすべて表示