ポースケ

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120045752

感想・レビュー・書評

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  • 「ポトスライムの舟」の続編ともいうべき作品。
    奈良の居心地の良いカフェを中心に、出入りする女性たちの人間模様を描いていきます。
    前のを読んでいなくても差し支えありません。

    「食事・喫茶 ハタナカ」を経営するヨシカ(畑中芳夏)は34歳。
    体格がよく子供の頃からしっかり者と見られてきた。
    ある日、ポースケというフィンランドのお祭りがあることを知り、何となく店でやってみようかと考えます。
    品数は少ないが日替わりで親しみやすい料理を出すお店のコンセプトは、一人で来てもくつろげる場所。
    店の奥には持ち寄りの本棚があり、借りて行ってもいいことになっている。

    店でてきぱき働く陽気なオバチャンのとき子さんは、3人の子がいる主婦。弁当工場などで働いてきた。
    今は末娘が求職中で、はらはらしながら見守っています。
    企業が見ることもあるからと娘がブログを作ったが、書く暇もないので代わりに書いているという。

    若い店員の竹井さんは、店から2分のところに住んでいる。
    電車に乗ることが出来ず、浅い眠りでは悪夢を見るため、疲れきってから倒れるように寝て、へんな時刻に目が覚めてしまう状態。
    会社で直属上司のモラハラに遭い、壊れてしまったのだ。
    この描写は迫力があります。
    何気ない日常がゆるやかに過ぎ行くうちに、希望の光が見えるのが嬉しい。

    ヨシカの友人りつ子の娘・恵奈は小学生。
    飼育栽培委員で、植物を育てるのが大好きなのだが、意地悪な先生の目を盗んで、苺を余分に育てている。
    学校の隅っこで起こるあれこれが妙に面白い。

    にぎやかな主婦のそよ乃も、ヨシカの友人。
    明るく人懐こいが、不登校になった息子のために奔走する日々。

    店の常連ののぞみは、大人しい会社員。
    強気な先輩やいい調子の後輩に挟まれて、いささか苦労している日々。
    ポースケに参加してみようかと、ふと考える。

    一人暮らしのゆきえは、彼氏のぼんちゃんとゆるゆる付き合っている。
    ところが元彼が妙な手紙をよこし、ストーカー化してきた。上からものを言っていた男は、自分がふられたのが納得いかず、いまだに支配したいらしい。

    ピアノの先生の冬美は、夫と二人暮らし。
    ピアノが好きでお試しに来た幼い女の子が、よく世話をされていない様子なのが気にかかっていた。
    母親が引きこもっているらしい‥

    登場人物が多くて、ちょっと混乱‥メモを取る必要があるかも。
    急いで読むことはなくて、楽しみにじっくり読めばいいのかな。
    どこにでもいそうな人の誰にでも、色んな悩みや事情があるんですね。
    ちょっとした出来事や美味しい食べ物に、親しみを感じながら読み進められます。
    こういうお店が近くにあったら、いいのに!
    登場人物の年齢や境遇の幅が広くなったため、誰でもどこかで共感できそうです。

  • 奈良でカフェを営むヨシカ。そのカフェに集う人々の日々をゆるやかに綴った連作短編集。
    母子家庭の小学生の娘、就活に苦戦する娘を抱える主婦、元彼のストーキングに悩むOL…皆がそれぞれ大なり小なり、生きていく上での煩わしさを感じている。だけど津村さんは相変わらず絶妙な距離感で、時にユーモアを交えながら、自然にそっと、立ち止まっていた登場人物らを歩ませてくれる。その押しつけがましくないところに救われる。
    毎回津村さんのフード描写は絶品なのであるが、今回はカフェが舞台であるからして、出てくるお料理がもうどれもおいしそうなのだ。いくつかのカフェを丁寧に取材したことが窺えるようなカフェの日常。ヨシカが提供するこの空間が、お客さん達の憩いの場所になっているということが自然に伝わってきて微笑ましい。それが存分に感じられるのが、終盤の「ポースケ」のシーンだ。ポースケって、当初「ポー助」みたいな誰かの呼び名かと思ってましたが(笑)ノルウェーのイースターのようです。でも、この「ポースケ」て響きが間抜けでかわいくって、津村作品によく合ってるなと思うのだ。カフェが舞台って描き方によってはしゃらくさくなってしまいがちだけど、ただおしゃれなだけじゃなく、書棚にノルウェー語の本やウミウシの写真集があったり、海外ドラマが流れてたりと、店の雰囲気にも「津村イズム」が感じられるのがまたいい。話の流れに絡む小ネタのチョイスも巧いです。
    そして、「一喜一憂を延々と繰り返すことこそが、日々を暮らすということ」というくだりが印象的だ。
    「えらい人は先々のことを見据えてどうのこうの考えられて、八喜三憂とかに調整できるのかもしれないけれども、我々しもじもの者は、一つ一つ通過して、傷付いて、片付けていくしかないのだ。そうする以外できないのだ。」
    ほんとにね、八喜三憂なんてやりたいけど(笑)私もまた要領のよくないしもじもの者だと自負しているので、小さいアップダウンに翻弄されながら暮らしていくのだ。そんな当たり前のことを再確認して、足もと見つめられたなって思える。津村作品を読むと。
    ところで本作は「ポトスライムの舟」続編ってことで、ナガセの登場が懐かしかった。「ポースケ」のみでも十分楽しめるけど、「ポトス…」と合わせて読めば面白さ倍増かも。「ポトス…」発表からだいぶ時間が経っているので、改めて読み返したいな。

  • 冒頭───
     その日の最後から二番目のお客は、店の奥に置いてある高さ一八〇センチの本棚を指さして、あそこに横積みしてある本って店主さんの趣味なんですか? 来るたびに様子が違ってるんやけど、と不思議そうに訊いてきた。若い、といっても三十代前半ぐらいに見える男のひとだった。最近の人は、よほどの年齢にならない限りは皆若く見える。わたしの本もありますけど、パートさんの本もあるし、お客さんが持て余してなんとなく置いていく本もあるし、とヨシカは答えながら、千円札を受け取り、興味のある本があればお貸しします、と付け加えた。
    ──────

    どうも最近は長編小説と言っても、章ごとに視点が変わる作品が多い気がする。
    視点が変わると、自分の頭の中でも脳内再生の切り替えをしなければならず、それがちょっと疲れる。
    少し時間を空けないと前の視点が頭に残ったままなので、切り替えがスムーズにできない。
    年を取ったせいかな。

    食堂とも喫茶店ともつかないようなヨシカの経営する店に集う様々な客たち。
    それぞれ、何かしらの悩みや問題を抱えている。
    章ごとに、ヨシカやその客たちの視点で自分の日常が語られていく。
    会社での人間関係に少し疑問を抱いているのぞみ。
    母しかおらず、学校で密かに苺を栽培している小学生の恵奈。
    どこでも寝てしまい、電車にも乗れないという奇病を抱えている竹井さん。
    別れた彼氏のストーカーまがいの行為に悩まされているゆきえ。
    就活で苦しんでいる娘を何とか手助けしてやりたいと願っている十喜子。
    夫婦仲に不満はないが子供ができないピアノ教師冬実。

    些細なことのようで深刻であったり、重い問題なのにさらっと軽く書き流したり、その辺りの津村さんの描写や心情表現がいつも上手いなと感心する。
    基本的に悪人は殆ど登場しない。
    みんな、心のどこかに少し傷を負った優しい人ばかり。
    悩みや問題も、最後には明るい光が射し込んでくる。
    完全に問題が解決したわけではないけれど、まだまだ頑張れば未来は明るい。
    それぞれの客のエピソードは、つらいことがあっても人間何とかなるものだと希望が持てるような展開だ。
    そして、最終章はみんなを集めて“ポースケ”というノルウェーで行われているという復活祭の開催。
    集まったみんなの少しはにかんだ笑顔が目に浮かぶようだ。

    ありふれた日常だけど、光に満ちた新しい明日は必ずやってくる。
    寒くて身体も心も冷え切っているときに飲む温かな一杯のミルクティー。
    そんな感じを抱かせる、心休まる秀作だと思います。
    いやあ、好きだなあ、津村さんの紡ぎ出す独特の作品世界。
    彼女の作品を読むたびにファンになっていきます。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      あー、読みたくなりました!
      「エブリシング・フロウズ」がとっても良かったので、他の津村作品も読んでみたいと思っていまし...
      こんにちは。

      あー、読みたくなりました!
      「エブリシング・フロウズ」がとっても良かったので、他の津村作品も読んでみたいと思っていました。
      これにします!!

      津村さんて「ポトスライムの舟」をずっと前に読んだきりだったのですが、ずいぶん印象が変わったような・・・。

      koshoujiさんの津村さんの作品レビューとっても参考になります(*^_^*)
      2014/11/27
    • koshoujiさん
      vilureefさん、コメントありがとうございます。
      津村さんの作品、面白いですよね。
      さりげない筆致のわりに関西風のお笑いが自然に盛り...
      vilureefさん、コメントありがとうございます。
      津村さんの作品、面白いですよね。
      さりげない筆致のわりに関西風のお笑いが自然に盛り込まれていて。
      彼女の文章が大好きです。
      だいぶ前に芥川賞とっていたなんて、
      「エブリシング・フロウズ」を読むまで全く知りませんでした。
      これから発表される作品も楽しみに待ちたいと思います。
      その前に、まだ読んでないものも読まなきゃいけませんが。
      2014/11/27
  • もう終わった過去のことを思いだしてイライラしたり、前に進めなかったり、わかるな。
    特別なことは起きないけど、頑張ろうって前向きになれる。

  • 能天気に見える中年女性も、さばさばと生きているような店主も、夫も職もあって困ることなどなさそうな30代も、小学生の女の子さえ、みんな人には言わないだけで、いろんなものを抱えて生きている。その彼女達が、ちょっとだけ前に進む話。

    読み終わったとき、世界が変わって見えることはないけれど、少し気分が軽やかになれる。

    女性が主人公だが、周りにいる男性がまた興味深いキャラクターで、ついほくそ笑んでしまう。

  • ポトスライムの舟、が好きなので、続編と聞いてワクワクしながら図書館にリクエスト。
    表紙の絵がかわいくて個人的にツボ。
    100%オレンジという方らしい。

    恵奈の章にサラッと出てきた、《選択的孤立者》になる時と場合もある。という表現がやけに気に入った。

    精神的な餌食にされる。って表現もうまいな。

    登場人物たちの胸の内と日常生活が、次々に明かされて行くのが飽きなくて面白い。

    このヨシカさんのお店が、うちの近くにあればいいのにーと何度も思った。

    個人経営の飲食店のバイト経験者として、
    あの時代を懐かしく思い出しながら読んだ。

    みんな人生いろいろありながら、それでも一喜一憂しながらひたすらに生きてゆく。
    人生ってそうゆうもん。
    と言われた気がした。

  • 34歳のヨシカさん営むカフェを中心にした人間模様。
    ヨシカさん含め7人の女性の物語。
    それぞれ平気な感じで日常を過ごしているものの
    誰にでも色々思い悩む事があり、生きにくさをなんとか
    やりすごして生活している。
    平和そうにみえてもみんな大変だよねって思いながら読む。
    淡々としているようで小さな事件などがそれぞれの章に
    盛り込まれているので読んでいて飽きない。
    推理小説のように先が気になってどんどん読みたい、
    でも読み心地がよいので早く読み終わりたくないと
    葛藤しながら読んだ。
    最後はポースケという北欧のお祭りのようなものを
    カフェで開催してそれぞれの女性達のその後が少しだけ
    わかるようになっていてとてもよかった。
    登場人物が多くてあれこれって誰ってページをめくりなおしたり
    しながら読んだので、もう一度じっくり読みなおしたい。

  • 群像劇が好きなのかもしれない。
    津村喜久子さんの本の中では、ディス・イズ・ザ・デイに続いて、好きな本になった。

    カフェに通う人たちの、緩い繋がりだけどなんとなくみんながみんなを大切に思っている感じが良い。

    それぞれ小さなドラマを持っていて、でもそれがオチがつくわけでもない。それがリアルさを感じた。

    ポトスライムの舟のナガセとヨシカだというのは後から気づいた。2人とも前作より幸せそうで良かった。

  • 話は淡々と進んでくんだけど、ちょこちょこ刺さることが書いてある。津村さんの小説には多い気がする。
    一個前に読んだ「この世にたやすい仕事はない」と同様、頷きながら読んでいた。
    当たり前の日常をこんなふうに描ける津村さんは本当にすごい。
    そして、意味を知らない熟語?単語?が4ページに1度は出てくるので、引き続き電子辞書を活用した。自分の語彙力の低さに泣ける…

  • よかったよ~~~~もう安定の津村さん。津村さんはハズレないよ。すごい。津村さんの良さがぎゅっと詰まった本。
    日々の何気ない行動とともに人はいろんなことを抱えてでもそれを表には出さずにするっとぬるっと生きている。そういうことを思い出させてくれるけど重くなく軽くなくちょうどよい肩の抜けた感じで進んでいくのがとっても心地よい。
    みんなそれなりに頑張って生きて、疲れたら時々休んで笑ろてまあ頑張っていこうや、みたいなね。津村さんの良さがわかる自分になれて嬉しい。以下抜粋、こういうこと。

    むしろ人生には一喜一憂しかない、と十喜子は感じていた。えらい人は先々のことを見据えてどうのこうの考えられて、八喜三憂とかに調整できるのかもしれないけれども、我々しもじもの者は、一つ一つ通過して、傷付いて、片付けていくしかないのだ。そうする以外できないのだ。

著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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