コマンド・カルチャー  -米独将校教育の比較文化史

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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120047268

作品紹介・あらすじ

米軍は独軍の教育システムをどう理解/誤解したのか。2011年度米陸軍歴史財団優秀著作賞受賞。米海兵隊司令官・米陸軍参謀総長による将校向け選定図書。

感想・レビュー・書評

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  • 『コマンド・カルチャー(米独将校教育の比較文化史)』 イエルク・ムート著 大木毅翻訳
    「コマンドカルチャー」とは将校(自衛隊で言う幹部)が部下を率いる際の指揮統率文化のこと。転じて如何にしてしてリーダーシップを発揮する人間を育てる事ができるのかや、幹部を育成する際の文化とも解釈できる。

    批判的にアメリカ軍幹部とドイツ軍幹部の教育を比べて論ずるのが本書の狙い。日常生活で行うと逆張りと言われてしまうが、批判的思考(クリティカルシンキング)が好きな人や、軍人の教育に興味深い人や、ミリタリー系のオタクなら満足して読める本かもしれない。
    ただ兵器系が好きなオタクにはオススメできない。ほぼでてこないからだ。
    反対に軍人系が好きなオタクには垂涎の本になる。出てくる軍人の名前だけ上げると、「リッジウェイ」「マーシャル」「パットン」「マッカーサー」「グデーリアン」「マンシュタイン」「(小も大も出てくる)モルトケ」「ハルダー」など
    この挙げられた名前に3つ以上興味がある人には胸を張っておすすめできる一冊。


    大雑把に言うと、世界一民主的自由な国アメリカの将校教育がいじめや体罰や不自由や型にはまった古臭い詰め込みに満ちており、その正反対の、権威主義的なドイツは自由でいじめや体罰がほぼ存在せずと型にはまらないように育成された。

    大まかに、ドイツ軍が称賛され、アメリカ軍が非難されているようにも読める。ではなぜドイツ軍が負けたのか?についても言及されている。

    それは2つあって、ドイツ軍幹部教育が自他ともに認める素晴らしいものであった結果、傲慢になり常に敵を過小に評価するようになったこと。
    ハルダー曰く(当時参謀総長という軍人のトップだった
    「我々は明らかにロシアの軍事力を過小評価していた。開戦前、我々は敵兵力を200個師団と見積もっていたが、既に360個師団が確認されている(以下略)」(1941年8月11日の日記)
    41年6月22日ドイツはソ連に侵略した。2ヶ月も立たずにソ連軍自体を大幅に過小評価していたと認めた。

    権威主義的な体制で育ち、自由な将校教育という環境で教育された結果、後世から避難される、戦争犯罪や上司からの野蛮な命令に違和感なく従ったこと。
    (ドイツ軍将校には不服従の文化があり、戦理にかなわない場合や納得できない場合、命令に従わない自由があったため、上司からの命令といえども将校が従ったことは鋭く避難されている)

    「素晴らしい教育を施したドイツ軍人が何故負けたのか?」
    をメインテーマだとするなら、もう一つの本書のテーマが
    「天才は教育で作ることができるのか?」である

    ドイツ軍幹部教育の目的とは、歴史に名高い、天才ドイツ軍人を(当時の)現代でも育成することにあった。「モルトケ」「ザイドリッツ」「シャルンホルスト」など。
    ドイツ軍幹部のクオリティは向上したが、しかしこれにはことごとく失敗した。(グデーリアン、マンシュタインなどの作戦や戦術面で非常に優秀な軍人はいた)

    アメリカ軍幹部教育の目的とは、工業製品のパーツであって、ドイツ軍ほど重視されていなかった。しかし驚くべきことに、天才とは勝手に図書館などで自習し、なかでも「マーシャル」は45年ならヒトラーよりもドイツ軍に詳しい、と言われるぐらいドイツ軍通だった。
    他にもパットン、リッジウェイなどは全く教育されていなくとも、ドイツ軍の使う「委任戦術」に付いて通じていた。

    天才はアメリカ軍のような教育でも出てくるし、ドイツ軍のような教育でも任意的には作ることが出来ない。

  • ビジネスにチェーンストアにおける人材教育や組織理論が、もとをたどるとプロイセンの陸軍方式に則っているという話を聞き、その真偽を確かめるために読んだ本。

    1900年代初頭のドイツとアメリカの士官学校の教育を比較し、結論としては、ドイツの教育が素晴らしかったという話。ドイツの将校が、戦術に長け、戦略にも長け、誇り高く、道徳的であり、柔軟性も高かったとか。

    また、結果的に、じゃーなぜドイツが第1次世界大戦にも第2次世界大戦にも負けたのか、反対にダメダメ教育のアメリカが勝ったのか、という話もおもしろかったです。

    ビジネスにどう生かすかといえば、戦略大事、教育大事、近代的な戦術大事、創造性大事、道徳大事、奢りに注意、ということで、ざっくりと活かすことができます。

    以下、メモ
    -----
    ・教育において「どのように」「なぜ」は「いつ」「何を」(教えるか)よりも重要

    ●ドイツ
    キーパーソン:
     フリードリヒ大王の訓令がアメリカで重宝される
     大モルトケ
     クラウゼビッツ(戦争論)
     ロンメル:戦術
     
    教育法:
     若い将校が新しい戦車戦術を創案(アメリカでは過去の正解が重んじられ、独創性が禁じられる。型破りを抑制される)

    ・人間関係重視(先輩が新入りを守る、教官は戦友)
    ・着替え演習、監事長も共に着替える

    ・貴君(not お前)
    ・肉体的処罰、禁じられる(王によって)

    規律の維持に必要なのはリーダーシップ(not服務規定、ウェストポイントでは規則順守が尊ばれた。)

    ・まずは、道徳的に堅固たらしめる(優等生には自由が与えられる。オペラを見に行ったり。)
    ・いかなる問題も、部隊指揮の観点から考慮された(ある負う今日でどのように部隊を指揮するかが最重要)
    ・図上演習、指揮演習、歴史的な戦場や未来の戦場の訪問、議論、相互評価
    ・指揮、戦術、統率能力に重点を置く

    ・明白な解答とされるものよりも、決断力と創造性の方がずっと「重要であることを学ぶ
    ・同じ戦術的状況が二つあることはない、困難な問題に対して過去にも未来にも通用する図式的な回答を出すことは不可能、★いかなる問題にも、満足すべき、あるいは機能しうる、解決が多数存在する

    ・不意打ちの要素(足で考える、歩いてきた山道を地図で表す)
    ・戦術的奇襲、突然の配置転換


    ・自主独立性、伝統の一部、上官への不服従も容認

    ・伝統主義者、年老いて狭量になった将校も、教育の邪魔にはならなかった

    ★平時に「習っておいたことしか、戦争ではやれない」P200

    実戦時:
     最前線のリーダーシップ
     委任戦術、きわめて独立した形で指揮統率にあたる
      上官からの方針指示、けして事細かな統制はやらない
     
     ごく短時間のうちに戦術的な状況判断、ただちに命令を下すことができた
     長く前線に持ちこたえる
     敵にすさまじい損害を強いて、ヨーロッパ中に恐れられる

    試験

     最も重要なのは「応用戦術」:ある戦術状況に対する簡潔かつ正確に命令を書く。

     正しい渡河点を選び、工兵を連れて、手持ちの装備から適切なものをもっていき、間違いのない命令を下すことができるか

     攻撃、防御、退却において柔軟な思考を働かせられるのか

    手榴弾の投てき、45m以上は良

    膨大な情勢報告を受取り、その戦術「状況が図上演習として実施される前にメモして、決断しなければならない

    軍事に関する堅実な理解(not高度な教養、難解な知識)

    評価:
    分かりやすい等級に分けた明快な成績付け
    自らに能力があることを繰り返し証明しなければ将校には任官できない

    衰退の徴候:
    国家の中で最も名高く傑出した集団
    国民と外国の観測筋に共に称賛されてきた
     →過信、敵の過小評価


    参謀本部:
    創始者大モルトケ
    後継者たちは失敗
    二面戦争に反対すべきであった

    ・価値観:戦場では状況は常に変化する、どんな戦争でも新しい手段を持って行われる新しい戦争 →ナチスを受け入れる素地①

    ・民衆からの尊敬+自らに誇り → ヒトラーからの買収(高額報酬)を受け取る素地②

    ●フランス軍:
    規律や清潔の欠如

    ●アメリカ:
    ウェスト・ポイント陸軍士官学校
    授業の75%が自然科学と工学技術、数学(not軍事史、近代歩兵戦術)
    過剰な教練と乗馬、時代遅れ、

    将校進級システム:学閥による

    ・アイゼンハワー、騎兵の機械化に賛成論文→歩兵総監に撤回を命じられる 

    ・優秀な人:個人として、自ら訓練。信念、強烈な知識欲、成長力、自己規律の特性、傑出した存在になりたいという衝動を必要とした

    ・現代:人工衛星、追跡システム、カメラ付き無人機
        スマート砲弾(自動弾道変更)

    ・それでも指揮官が現場にいることは、たしかな意思決定をなすうえで変えがたい

  • 「Command Culture: Officer Education in the U.S. Army and the German Armed Forces, 1901-1940, and the Consequences for World War II」の翻訳(2015/04/30発行)。

    本書では、第2次大戦期におけるドイツとアメリカの将校育成について比較検証した書籍で、戦勝国であるアメリカの将校教育システムには権威主義的で硬直した内容であり相当問題があったこと、反対に敗戦国ドイツの将校育成システムはリベラルで、将軍といえども前線にたって部隊を指揮するなど優れた将校を育成していたとしています。 そしてアメリカがドイツに勝利出来たたのは、豊富な工業・経済力や、辛うじて(?)評価できる指揮幕僚大学の教育によるものが大きいとしており、アメリカ軍に対しては批判的ですが、逆にドイツ軍に対しては少し好意的過ぎると感じ、偏った印象を受けました。

    又、翻訳者の大木毅の訳が独特で、一般的な訳であるドイツ国防軍をヴェーアマハト、ワイマール共和国軍をライヒスヴェーアとしていたり、アメリカ軍の元帥を五つ星の大将としている他、微妙に判りづらかったり違和感を覚える訳が読みづらく感じました。

    第2次大戦前後のドイツ戦史は、第三帝国の陸軍参謀総長を務めたフランツ・ハルダーを初め多くのドイツ人が、歪曲したドイツ戦史を作り上げたことも有り、著者がドイツ人で第2次大戦期のドイツに好意的なのは微妙な感じがしました。

  • これまで合衆国陸軍とドイツ軍における軍人教育の詳細な比較研究はなかった。広範なリサーチから導かれる、両軍のシステムの利点と欠点。軍隊文化、学習制度、ドクトリンが明らかに。

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