盤上の向日葵

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (563ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120049996

感想・レビュー・書評

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  • 苦しい。読了直後の第一声はこれに尽きました。

    まずは、できる限りネタバレにならないよう配慮しつつ簡単なあらすじを紹介します。
    ある山中で白骨死体が発見されますが、その懐には初代菊水月作の名駒(時価総額600万円相当)が沿えられていました。かつてプロ棋士を目指していた新米刑事・佐野とベテラン刑事の石破は、この白骨死体が誰なのか、誰が死体を埋めたのか、なぜ名駒が沿えられていたのかを捜査していくことになります。
    他方、将棋界では世間の注目を集める大一番の対局が行われていました。十年の一人の逸材と呼ばれた天才棋士・壬生芳樹と、将棋のプロになるための道である奨励会を経ずにプロになった異端の棋士・上条柱介の七番勝負の最終局、竜昇戦です。
    これら2つの出来事が並列的に描写され、加えて上条柱介(以下「柱介」とします)の過去とともに3つの時間軸をもって物語が進んでいくこととなります。

    本作のポイントは、豊かな表現力のもとに紡ぎ出される人間関係と心理の描写です。
    初代菊水月は、幾重の人物のもとへ渡り歩き、まるで将棋の分岐のように複雑な人間関係を作り出します。物語が進むにつれて明らかとなる柱介の過去に読者は感情移入せざるをえないでしょう。
    人間関係に重きが置かれている作品のため、読む人にとっては異なる場面で憤り、悲しみ、そして笑うことになると思います。
    ですが、最後まで読み終えた方は、冒頭の私の感情を理解してくれるのではないでしょうか。
    将棋についての事前知識は必要ありませんが、将棋の最低限のルール、そして将棋のプロになるということの厳しさを多少把握しているとより深い感慨に耽ることができることと思います。

    盤上に咲く向日葵が意味するものはなにか、将棋でも指しながら語り合うことでまた違った見方が出てくるかも知れませんね。

  • 2018年、本屋大賞2位
    個人的に以前に読んだ同年1位の辻村さんの「かがみの孤城」と引けを取らない作品と感じた。

    主人公である上条桂介の幼き日から人気有名棋士に至るまでの物語なのだが、それが不幸で辛い。
    読んでいて悲惨さからくる共感するような同情心を強くかき立てられる。

    自分の出生の事実から父親からの虐待を含む育児放棄。桂介のその人生を「向日葵」と隠喩するように表現する作者の感性に驚歎した。
    ゴッホの作品「向日葵」と同様、寂しさと儚さと狂気を含んでいる言葉だと納得する。

    「血」が向かわせる運命、その悲しい結末。その血の中にやはり「真剣」がどこにも潜んでいて「真剣」が桂介の人生ならば運命に沿った人生だと感じた。

    凄い作品だと思った。

  • 将棋の対戦の緊迫感や熱量が、人生の背景と呼応していると感じた。人にはそれぞれ背景があり、そこを共感することは難しい。ラストの向日葵はせつない。

  • 「テーマ:ひまわり#3」です
    ひまわりをテーマにした選書シリーズは3作品目にして現役メジャーリーガーの登場です

    柚月裕子さんの『盤上の向日葵』は彼女の代表作のひとつですよね

    それにしても、やっぱり柚月裕子さん読みやすいわ〜
    すいすい読めるわ〜
    引っかかりが全くない

    そして柚月裕子さんの(ひまわりめろんが思う)最大の特徴は、時計の進め方が抜群に上手いってことですよね
    プロローグの使い方と2つの時系列での情報を出す順番がめちゃくちゃ達者
    老練な詐欺師ですよ
    つまり餌の撒き方がめちゃくちゃ上手、気付いたら後戻り出来ないところまで誘い込まれてます

    柚月裕子さんのテクニックを堪能した一冊でした

    【ひまわり】はい、本作では「向日葵」というワードがなかなか出てきません
    初めて出て来るのが全563ページの294ページ目
    半分過ぎてます
    さらに「盤上の向日葵」の意味についてはかなり終盤まで引っ張りますが、そこまでもたせられるのも、「向日葵」という言葉の持つ強さかなと感じた次第です

    そして本作では「ひまわり」に万人が持つイメージのひとつが物語に重要な役割を持っています
    「ひまわり」と言えば…そう!ゴッホですよね!
    ゴッホの中に同居する力強さと繊細さ、そして狂気を将棋の棋士に重ねて表現してるんです
    棋士とりわけ将棋に命をかけるプロ棋士や真剣師に「ひまわり」を重ねているわけです
    「ひまわり」の使い方がこれまでに読んだ2作とだいぶ違いますよね

    それは本来の「ひまわり」の持つイメージが「ゴッホのひまわり」となった途端に全然違うものに姿を変えちゃうってことだと思うんですよね

    なんか凄いアイテムだなぁ〜って思いませんか?「ひまわり」

    • 1Q84O1さん
      「ひまわり」が凄いアイテム!?
      そりゃ、そうですよ!
      だって「ひまわりめろん」あなたが凄いんですから!
      師匠をベタ褒めw

      あれっ!?
      師匠...
      「ひまわり」が凄いアイテム!?
      そりゃ、そうですよ!
      だって「ひまわりめろん」あなたが凄いんですから!
      師匠をベタ褒めw

      あれっ!?
      師匠ってアイテム…?
      2023/07/06
    • みんみんさん
      どんな話だったっけ?
      将棋の駒の話か(・・?)
      どんな話だったっけ?
      将棋の駒の話か(・・?)
      2023/07/06
    • ひまわりめろんさん
      せやろな

      どんな話か知りたくば他の人のレビュー読んでくださいw
      せやろな

      どんな話か知りたくば他の人のレビュー読んでくださいw
      2023/07/06
  • とても重厚で読み応えのある作品だった。
    主人公の桂介があまりにかわいそうで、切なかった。せめて桂介の隣に彼を理解し支えてくれる誰かがいてくれたら…唐沢が生きていてくれたら…
    東大に合格するほどの頭脳、起業した会社をたった数年で年商数十億にまで育てる才覚、類い稀な将棋の才能、人はどれかひとつでも持ちあわせたならば、富と成功、名声を手に入れ幸せな人生を送ることができるだろう。桂介はその全てを持っていながらも一度も心から幸せを感じることはなかった。

    誰が悪いのか…
    桂介を虐待し続け将来を潰した父親?
    実の兄を愛し子どもを出産したものの、その罪の重さに自ら死を選んだ母親?
    桂介の将棋への情熱を利用し彼の人生を振り回した東明?

    わからない。

    物語に引き込まれて、かなり文量はあったがあっという間に読了。でも胸の中に何かどんよりと澱が溜まっていくようなもやもやした気持ちが残った。

  • 著者の作品、ブクログ登録は2冊目。

    著者、柚月裕子さん、どのような方かというと、ウィキペディアには、次のように書かれています。

    ---引用開始

    柚月 裕子(ゆづき ゆうこ、1968年〈昭和43年〉年5月12日 - )は、日本の小説家・推理作家。岩手県釜石市出身。山形県山形市在住。釜石応援ふるさと大使。

    ---引用終了


    で、本作の内容は、次のとおり。

    ---引用開始

    埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品である初代菊水月作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビが捜査を開始した。それから四か月、二人は厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる竜昇戦の会場だ。世紀の対局の先に待っていた、壮絶な結末とは―!?

    ---引用終了


    将棋界のことを丹念に調べて書き上げた作品ですねえ。
    執筆にあたり、棋士・飯島栄治さんの協力があったと、最後に書かれています。

    飯島栄治さんは、ウィキペディアに、次のように書かれています。

    ---引用開始

    飯島 栄治(いいじま えいじ、1979年9月16日 - )は、将棋棋士。桜井昇九段門下。棋士番号は236。「飯島流引き角戦法」で知られる。東京都江東区出身。

    ---引用終了



    以下は、ネタバレになります。




    第12章を読み終えたところで、上条圭介が殺したのは、東明かなと思う。
    ちなみに、東明は、本作p322に書かれているが、東明重慶(とうみょうしげよし)で、「鬼殺しのジュウケイ」と言われている。

    で、実際には、p555に書かれているように、東明は圭介との最後の1局を指し終えた後、自ら命を絶っていました。
    そして、東明の希望どおりに、埋葬したのでした。

  • 非凡な才能を持つ天才棋士、上条圭介。
    数奇な運命に翻弄されながらも、プロ棋士になり
    注目のタイトル戦、竜昇戦に挑む!
    この華々しいシーンから、物語は始まる。

    その会場に二人の刑事が現れる。
    埼玉県山中で発見された白骨死体遺棄事件。
    これに関与しているとみられる人物をさぐるためだ。
    死体と一緒に埋められていたのは、
    時価600万はするだろうという伝説の将棋駒。
    埋められたのは誰?
    そもそも、なぜ駒が一緒に埋められていたのか。

    癖のあるやり手刑事の石破と
    将棋経験者の若手刑事、佐野のコンビ。
    二人の地道な捜査が語られる章と
    上条圭介の生い立ちが語られる章。
    これらが交互に構成される。

    題名にある向日葵が登場するのは294ページ目。
    563ページの作品なので、ちょうど真ん中あたり。
    向日葵といえば、元気で明るく生命力に満ちたイメージ。
    ところが、ここで語られる向日葵は
    儚く、怖ろしく、妖しい姿を見せる。

    ずっとドキドキしながら読み進めてきたけれど
    終章で、さらに追い打ちをかけられる。
    最後の一行を読み終えて、しばし 放心。

    今回も 柚月裕子さんの重厚な世界観に
    圧倒されてしまった。

  • 柚月裕子『盤上の向日葵』中央公論新社。

    柚月裕子作品は外れが無いので、後でじっくり堪能しようと暫く寝かせていた単行本。

    将棋界を舞台にした珍しい警察小説。プロットが巧みさとストーリーの面白さ、登場人物の人物像、人間ドラマと謎に満ちたミステリー、どれを取っても一級品だ。

    埼玉県の山中の工事現場から発見された白骨死体は初代菊水月の作によるこの世に7組しか無い将棋駒を抱いていた。現場叩き上げの石破刑事とかつてプロ棋士を志していた若手の佐野刑事が事件を捜査するが……

    序章に描かれる平成6年の天童市でのプロ棋士の対局シーン、事件発覚はその数ヵ月前。ひたすら将棋駒の行方を追い掛ける捜査と同時進行する形で描かれる序章で対局するプロ棋士・上條桂介六段のの生い立ち……とても女性作家とは思えぬ程の度胸で、章を重ねる度に凄味を増していくストーリーは見事だ。そして、事件の真相と結末。そう来たか……

    本体価格1,800円
    ★★★★★

    • moon-miさん
      柚月さんの作品にはまってます。
      次に読んでみようと思います!
      柚月さんの作品にはまってます。
      次に読んでみようと思います!
      2020/03/04
  • 血。

    「白夜行」に似た、厳しさ•哀しさを伴い、
    真実を知る人間が、作中最小限に抑えられている、その構成が素晴らしい。

    柚月さんは初読。

    そして、女流でこんなにカッコイイ男たちを描ける作家に出逢ったのは初めて。

    他作品も含め、評価が高いのも頷ける。

    文体に余計なものがなく、端的で短い。

    ストレートに入ってくるし、作品全体が引き締まっている。

    珍しく図書館で目に付いて、「あ!」と思った瞬間手にしていた。

    560ページ超の作品だがスイスイ読めた。

    他作も追って行くことになるだろう。

    【作品の冒頭部】

    山中から男の死体が発見された。

    奇妙なのは、遺体とともに埋められていた将棋の駒。

    それは、名匠が作り上げた600万円もの値がつくものであった。

    元「奨励会」の巡査、佐野は、捜査会議を経て、優秀だが身勝手な石破警部補と組むことになった。

    佐野が見つめる画面には、七大タイトルの一つ、『龍昇』の最終戦を戦う若き天才棋士『壬生』と、実業家から転身した異色のプロ『上条』の姿があった。

    • autumn522akiさん
      shukawabestさん、こんばんは!
      興奮冷めやらぬレビューで素敵ですっ

      柚月さんの本に出てくる男性は、みんなカッコいいんですよ...
      shukawabestさん、こんばんは!
      興奮冷めやらぬレビューで素敵ですっ

      柚月さんの本に出てくる男性は、みんなカッコいいんですよ~
      まさに男が惚れる男って感じで、痺れる!
      2023/01/20
  • 1.この本を選んだ理由 
    会社の本棚を見ていたら、面白そうな小説があったので手にしました。
     
     
    2.あらすじ 
    物語は刑事2人が山形県で行われている将棋のタイトル戦の現場に到着する、今から始まる。その少し前に戻って、今に向かって捜査していく現代軸と、事件に関係する上条の子どもの頃から少しずつ成長を追う過去軸の2つのお話が交互に展開していく。

    今に向かって、じわりじわりと、謎が解き明かされていきます。ゆっくりと、昔の話と、少し前の話が交差しながら、事件の展望が明らかになっていきます。

    563ページ。長編です。


    3.感想
    すごい、じわりじわりくる。じわりじわりと真実に近づいていく感じがすごい。

    はじまり部分から、すごい哀しい結末がやってくる気がして、じわりじわりと、哀しさが積み重なっていく感じでした。ぜったい、哀しいラストだと、中盤で確信めいたものに変わっていき、読むのが辛い気持ちになります。

    登場人物達の立ち位置というか、人間味というようなものが全く違うので、人生感みたいなものも、考えてしまう作品でした。幸せとは何なのかと。

    章ごとの最後の感じが好きで、「小さな肩の感触が残っていた。」とか、「タクシーは走り出した。」とか、すごい、この作品の場面にいるような感覚を与えてくれます。じわりじわりと押しつぶしてくる感じと、もやっとした感じとが、混ざり合わさったような感覚でした。

    ほんと、素晴らしい作品でした。向日葵をみて、儚さを感じたことはありませんでしたが、この作品の中には、儚い向日葵が見えました。

    ただ、将棋の盤面のマス目はいらなかったんじゃないかと思います。将棋がわかる人が読むと、また違った側面が見えてくる作品なのかもしれないですが…


    4.心に残ったこと
    そんな人もいる、ということ。
    生まれた環境はどうにもできない。ここでも虐待がでてきて、何とかならないのか、と思う。

    自分の血のめぐりの悪さ、という表現。なかなか面白い!
    ものを知らないことほど、怖いものはない。正しい知識を持たなければ、正しい判断は下せない。その通り!


    5.主な登場人物  

    佐野直也 元奨励会員
    石破剛志

    上条桂介
    上条庸一 父
    上条春子 母

    唐沢光一郎

    東明重慶

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著者プロフィール

1968年岩手県生まれ。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。同作は白石和彌監督により、18年に役所広司主演で映画化された。18年『盤上の向日葵』で〈2018年本屋大賞〉2位となる。他の著作に『検事の信義』『月下のサクラ』『ミカエルの鼓動』『チョウセンアサガオ咲く夏』など。近著は『教誨』。

「2023年 『合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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