- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120050114
作品紹介・あらすじ
夫・一俊と共に都営団地に住み始めた永尾千歳、40歳。一俊からは会って4回目でプロポーズされ、なぜ結婚したいと思ったのか、相手の気持ちも、自分の気持ちも、はっきりとしない。
二人が住むのは、一俊の祖父・日野勝男が借りている部屋だ。勝男は骨折して入院、千歳に人探しを頼む。いるのかいないのか分からない男を探して、巨大な団地の中を千歳はさまよい歩く。はたして尋ね人は見つかるのか、そして千歳と一俊、二人の距離は縮まるのか……。
三千戸もの都営団地を舞台に、四十五年間ここに住む勝男、その娘の圭子、一俊、友人の中村直人・枝里きょうだい、団地内にある喫茶店「カトレア」を営むあゆみ、千歳が団地で知り合った女子中学生・メイ。それぞれの登場人物の記憶と、土地の記憶が交錯する。
感想・レビュー・書評
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この本はある古書店でたまたま見かけて購入した。
都営住宅に関する物語のようだったので、興味を持ったのが正直なところである。
自分自身住んだことはないが、近所に都営住宅があり、住んでいる方からすれば野次馬的興味は迷惑なのかもしれないが、ずっと気にはなっていた…。
本書を購入してから、著者の「その街の今は」も思いだして読んだ。
その次に「千の扉」を読んだため、「その街の今は」の二十代の歌子がその後上京し、「千の扉」の千歳に接続しているかのような感覚もあった。
どちらの小説もその街の現在から、数十年前の同じ場所やその場にいたはずの人たちに向けた眼差しが大きな要素になっているという点で共通していると思う。
「その街の今は」の歌子は過去の大阪の街の写真を集めていたが、この小説では舞台が都営住宅に変わり、また、写真を通してではなく、語り手の千歳が都営住宅の内部やその周辺で出会った人たちを通して、過去のその場所のことが語られていく。ただ、小説のいわゆる地の文で、本筋とは一行の空白を置いて、唐突に過去の断片的なエピソードが入ることも多い。つまり、千歳が意識しないところで、千歳が関わってはいないところで、関わることのないはずの人たちの挿話が入り、二度とまた取り上げられることもない、そういうこともたくさんあった。
話の大きな流れとしては、三十代後半の千歳が、同年代の一俊と結婚し、怪我で療養中の義理の祖父の頼みに応じて、都営住宅内にいるかもしれないある人物を探す…というものである。
これまでに読んだ柴崎友香さんの作品からはあまり感じなかった、どこか不穏さというか、隠されたことか明らかになるのでは…、という予兆めいた雰囲気が、冒頭の方には感じられた。
ただ、ミステリ的に謎が深まっていくというより、一見して(そして実際にも、)本筋とは無関係な断片的な挿話が何度も出てくるので、序盤は少し展開が遅いようにも感じてしまった。
物語が進むにつれ、一俊や、同じ住宅に住む枝里などの過去や、抱えていた屈託のようなものが明らかにされていく。
少し気になったのは、周囲の人とうまく共感しあえない千歳が都営住宅やその住人たちに関心を持っているように見えるのは、本人いわく、「興味本意」なのかどうか、と言う点。もし本当にそうだとすると、物語としてやや浅く感じるようにも思うし、一方で、「その街の今は」のように、過去への眼差しを(どちらかというと)肯定的に捉えるのではなく、少し引いた、やや冷静な目で見て、自己のこれからを考える千歳の姿に、変化していったと見るべきなのだろうか?
あと、やはり著者の柴崎友香さんが大阪の方だからなのか、東京の街に関しての描写は、どこかやはり冷たさを感じるような気がする…。
歌子にとっての大阪は、生まれてからずっといた故郷だが、千歳にとっての東京はそうではない。最初は、不用意に他人に興味を持ったり、一方で自分自身のことにはどこか無頓着なところさえある千歳に、少し不思議な感じもしたが、彼女自身、両親や周囲とうまく馴染めずにいたことをうかがわせる描写があった。それで東京に出てきたのかもしれない。他人に対しても、自分に対しても、うまく距離感がつかめていない、そういう人物として描かれていたのではないかと思う。また、そのような千歳の物語だからこそ、単に過去の暮らしや人々を懐かしがるだけのノスタルジックな小説を超えた、感慨深い作品だと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
主人の祖父が怪我・病気の間、祖父の部屋(団地)を借りて住むことになる女、千歳。祖父は千歳に人探しを頼む。団地で会う人々の時間、祖父の時間、それぞれの記憶が交錯する。最初は日常が書かれているのか、探し物は見つかるのかと読み進めていたが(最初の方は読み進めることができるか自信がなかった、あまりにも起伏なく、たびたび話が切り替わるので)、次第に、時の重み、人生の色合いが深くになりそれがこの物語の旨味となった。誰かが生きていたことを誰かがしっかり受け止めている、繋いでいる、それ感じた物語でした。
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夫・一俊と共に都営団地に住み始めた永尾千歳、40歳。一俊からは会って4回目でプロポーズされ、なぜ結婚したいと思ったのか、相手の気持ちも、自分の気持ちも、はっきりとしない。
二人が住むのは、一俊の祖父・日野勝男が借りている部屋だ。勝男は骨折して入院、千歳に人探しを頼む。いるのかいないのか分からない男を探して、巨大な団地の中を千歳はさまよい歩く。はたして尋ね人は見つかるのか、そして千歳と一俊、二人の距離は縮まるのか……。
三千戸もの都営団地を舞台に、四十五年間ここに住む勝男、その娘の圭子、一俊、友人の中村直人・枝里きょうだい、団地内にある喫茶店「カトレア」を営むあゆみ、千歳が団地で知り合った女子中学生・メイ。それぞれの登場人物の記憶と、土地の記憶が交錯する。
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都会のマンモス団地の扉の内側には、扉の数以上の違う人生がある。そんな当たり前のことが、何とも不思議でかけがえのないことに思えてくる。現在進行形の登場人物たちの暮らしの狭間に、それぞれの来し方、ときどきの胸の裡が織り込まれることによって、生身の人間が生きていくことの一筋縄ではいかない様が、くっきりと浮き彫りにされる。著者流の淡々とした描写の中に、抱え込んだ屈託や、切実な願い、自分の内側への問いかけなどが詰まっていて、鼻の奥がつんとしてくる。大切なものを見逃がさないように丁寧に生きようと思わされる一冊でもある。 -
タイトル通り。ふわっと扉を開けると、ある人の人生が垣間見える。
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千の扉があれば千の人生があり、時代が違えばさらに違う人生が、語り口も変わったりと面白くよめた。
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積読にした。
途中まで読んだけど、うーん、なんか身にならない話が過去と現在で脈絡なく進むなぁって。
そんなに、箱のことも気にならないし、千歳の気持ちも気にならない。
時間を浪費するだけのような気がしてしまった。 -
家族の入院付き添い中に読んだ。
静かだなあ。柴崎友香さんの小説はとても静か。
団地と夏の話。勝男さんが優しくてなんか泣けた。 -
時間と語り手がコロコロ変わるので、何度か立ち止まりながら読みました。