あの日の交換日記 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
4.09
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  • Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120052996

作品紹介・あらすじ

「クラスの大杉寧々香を殺します」

私は先生との交換日記にこう書いてみた。その時の先生の反応は?



手書きの日記で交わされる、謎&感動満載の1冊!

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『交換日記』をした経験があるでしょうか?

    “複数、又は1冊の日記帳を友人間などで共有し、順番に回して日記をつけたり相手へのメッセージを書き込んでいく行為”を指すという『交換日記』。かつてそんな『交換日記』をされていた方もいらっしゃるかもしれません。

    そして、ここに今まで誰にも話したことのなかった私の過去を発表します。

    ナンダッテー!=͟͟͞͞(꒪ᗜ꒪ ‧̣̥̇)

    ♡ さてさては、かつて中学時代、ある同級生の女の子と『交換日記』をしていました ♡ (あ〜あ、とうとう書いちゃった。爆弾発言(笑))

    ( ・o˙ )( ・o˙ )( ・o˙ )ポカーン

    こんなところに書いてしまったからにはもう開き直るしかありません。受験勉強なんてそっちのけで夢中になってやりとりしたあの瞬間のこと、今でも目を瞑ればあのトキメキと共に今でもはっきりと思い出すことのできるしあわせな時間。そんな『交換日記』自体は、”さてさてさんに持っていて欲しい”と言われて私が預かり大切に持っていましたが、結婚前夜に泣く泣くシュレッダーにかけてしまいました(涙)。今となっては、銀行の貸金庫でも借りてそこに隠しておけば良かったなと、かなり後悔をしています。はい、このことを思い出すたびに遠い目になってしまう さてさてです。

    ( *´・ᴗ・)/(._.`)ヨシヨシ

    さて、そんな『交換日記』は、

    『交換日記って、小学生の女子がやるものじゃないのか?大人同士でやってどうするんだ?』

    というのが一般的な認識かもしれません。しかし、

    『私たちが思いを伝え合う手段として、交換日記という方法はなかなか悪くない気がします』。

    というように、シチュエーションによっては、『交換日記』という手段は未だもって決して古臭くなどない、一つの大切なコミュニケーションツールとなりうるものなのだと思います。そしてここに、そんな『交換日記』という人の繋がりに光を当てた作品があります。『加害者と被害者』、『上司と部下』、そして『夫と妻』といったさまざまな関係性の一対一の人の繋がりの中に交わされていく『交換日記』を見るこの作品。他に類を見ないほどの伏線が巧みに物語に織り込まれ、最後に美しく回収される様を見るこの作品。そしてそれは、『交換日記』を交わすという行為のその先に、人と人の心が真に繋がる瞬間を見る物語です。

    『先生へ 学校で、交かん日記っていうのがはやってるって、教えてくれてありがとう!』という書き出しから始まる日記を書くのは主人公の愛美(まなみ)。そして、そんな日記に『たくさん書いてくれてありがとう。愛美ちゃんと交かん日記をするのを、先生もとても楽しみにしていましたよ』と返してくれた先生の日記を愛美は『つばめが丘総合病院の』病室で読んでいます。『なんとかリンパ、なんとか病』を患って長期入院をしている愛美。そんな愛美は『もうすぐ、先生が来てくださるわよ』という母親の言葉に、『先生と交換日記を始めたからね、早く渡したいの』と説明します。『まだ始めたばかりだけど、この交換日記は』『宝物』だと思う愛美は、『他にも、たくさんの生徒がいるのに』『同じくらいページを埋めてくれた先生のことが』好きになります。そんな先生が来てくれて『今日は漢字の練習から始めましょうか』、『でも、音読のほうがいいなあ』と、『愛美の声と先生の声が、交互に病室に響く』勉強の時間が訪れます。しかし、途中で顔色が悪くなり、『今日は終わりにしましょう』と先生との時間は終了しました。『本当に、元気になれるのかな。愛美の病気は…治るのかな?』と病院での日々を不安に思う愛美は、『さくらちゃんはね』『すみれちゃんは』と学校の友達のことを日記に記して、先生と話題を共有していきます。そんなある日、父親が病室を訪れました。『あのね、大事な話があるの』と語り出した父親は『これから愛美が受ける、治療のこと』と、『コツズイイショク』という『聞いたことのない言葉』の話をし始めました。『他の人のコツズイをもらって、それを愛美の身体に入れるんだ』というその話を聞いて『それをすると、病気が治るの?』、『コツズイイショクっていうのをやらないと…愛美は、死んじゃうの?』と質問を繰り返す愛美に父親は何かを言いかけますが『言葉は返って』きませんでした。『もう、寝たい』と言って布団をかぶる愛美の横で『治療を始めたら、もう後戻りは…』と小声で両親が話をするのを聞く愛美は『分かってるよ。病気を治すためには、頑張るしかないってこと』、『だけど ー 怖いものは、怖いんだ』と思い、翌日先生に日記を書きます。『先生、まなみは全然強くないよ』から始まるその日記に『治りょうが、次のステップに進む予定だそうですね』と書く先生は『愛美ちゃんはしょう来、何をしたいのか。ぜひ、しっかり考えてみてください』と返します。そんな先生の日記を読んで『もし、大人になれるのなら。どんな人に、なろうかな』と考える愛美。そんな愛美のそれからが描かれていきます…という〈第一話 入院患者と見舞客〉。とてもあたたかい気持ちに読者を導く物語の中に、大切な伏線の数々が数多く埋め込まれているのに読後気づくことにもなる好編でした。
    
    七つの短編が連作短編の形式をとるこの作品。七つの短編が絡まりあって一つの物語を作っていく絶妙な繋がりを見せていきます。そんな各短編には、もう、これでもか!、というくらいの伏線の数々が織り込まれ、最後の短編で怒涛の如く回収がなされていく様は圧巻です。しかもそこには、読者をわざと欺くための”偽伏線”が絶妙に織り込まれ、本来の伏線と対になって読者をミスリードしてもいきます。そして、物語の最後にはまさかの大どんでん返しが読者を待っています!私は今までに550冊を超える小説ばかりを読んできましたが、ここまで巧みに構成された作品はすぐに思い出せないほどです。また、あまりに自然に綴られていく物語に、”偽伏線”の存在に最後の最後まで気づくことが出来ず、最後の短編で全てが明らかになった時、思わず”ええーっ!”と声を出してしまいました。読書で声が出てしまったのは間違いなく初めての経験です。誰もいないところで読んでいたので助かりましたが、電車の中だったら周囲から人がいなくなったかもしれません(笑)。

    そんな物語は七つの全く異なる立場の人間同士の間で、書名の通り『交換日記』が交わされていきます。あまりにたくさんの日記が登場するので、さてさてのいつもの癖で”正の字”を書いて数を数えてしまいました。では、そんな七つの短編の内容を、数え上げた交換日記の数と、その相手と共にネタバレにならないように慎重にご紹介しましょう。

    ・〈第一話 入院患者と見舞い客〉: 『なんとかリンパ、なんとか白血病』により長期入院をしている愛美は、先生と『交換日記』をします。共通の話題として、学校の友だちのことを話題にする二人。そんな中、愛美は『コツズイイショク』を受けることになり、そのことを知った先生は『しょう来、何をしたいのか』考えるよう促します。
    ○ 愛美 → 先生: 5回、先生 → 愛美: 5回

    ・〈第二話 教師と児童〉: 『学校なんて、何にも楽しくない』という主人公の『私』は、先生がクラスの全員と『交換日記』を始めたことを斜めに見て、『適当なことを短く書き殴って』きました。そんな中、『先生を困らせてみた』いと考え、『私は人殺しになります』から始まる日記を書く『私』。そんな日記に先生は…。
    ○ 私 → 先生: 6回、先生 → 私: 5回

    ・〈第三話 姉と妹〉: 『学校を四日連続で休んでいる』妹のすみれが『今日も、部屋から出てこない』と思う姉のさくらは『あんな交換日記を始めてしまったせいかもしれない』と考えます。『一卵性の双子』の二人の日記は『すみれは、性格が暗すぎだと思う』、『さくらを見てると、イライラする』という誹謗中傷の応酬でした。
    ○ 姉 → 妹: 5回、妹 → 姉: 5回

    ・〈第四話 母と息子〉: 『ママ、交換日記やろう』と『息子の晃太が突然学習帳を差し出し』たのに戸惑うのは母親の真弓。ASDと診断されパニックも起こす小二の晃太。そんな息子の依頼を受けることにした真弓は、『授業の様子』が書かれる内容に『学校はたのしい?』と書く日々を送ります。そんな中、ある違和感に気付きます。
    ○ 晃太 → 真弓(先生): 5回×2、真弓(先生) → 晃太: 5回(5回)

    ・〈第五話 加害者と被害者〉: 『本当に申し訳ありませんでした。僕のせいで、こんなに長いこと入院させることに…』と謝る礼二に『そう硬くならずに…』と対応する先生。交通事故の加害者と被害者の立場になった二人は『私と、交換日記をしてくれない?』という先生の申し出を受けて『交換日記』を始めます。
    ○ 先生 → 礼二: 4回、礼二 → 先生: 4回

    ・〈第六話 上司と部下〉: 『昨日の営業日報を読み返し、小さくため息をつ』くのは篠崎進。前任の課長は激励を返してくれたのに、後任の葉山課長は確認印のみ。その一方で業務で関わることになった新任社員の宇野紘奈の存在に戸惑う篠崎。そんなある時、確認印のみだった葉山のコメント欄に宇山との関係について問いかけがされます。
    ○ 篠崎 → 葉山: 6回、葉山 → 篠崎: 7回

    ・〈第七話 夫と妻〉: 『切迫早産での入院』の日々を送る妻は見舞いに来た友人から『旦那さん、大丈夫そう?』と問われ『不意にそっけなくなることがある』と彼女に語ったことを思い出します。そんな妻は夫と『交換日記』を始めました。『交換日記は、人の心を映し出す鏡だ。その鏡に ー 夫は何をさらけだすだろう?』と思う妻と夫が記す日記にそれまで隠されていたまさかの過去が明らかになります。
    ○ 妻 → 夫: 5回、夫 → 妻: 4回

    合計81回分の日記が七つの短編に満遍なく散りばめられる中に展開していくこの作品。上記した通り、その物語は全体として伏線の山に埋もれる見事なストーリーが展開していきますが、この作品はそれぞれの短編の中でも見事などんでん返しを見せてくれるのもたまらない魅力です。その中でも一番驚かされたのが〈第二話 教師と児童〉でした。『入学してから六年間、いいことなんて一つもなかった』という今を生きる『私』は、世の中を斜めに見据え『自分を無条件に慕ってくれる生徒が大好きで、そういう子を増やしたがる』のが教師であり、そのために『交換日記』という方法を思いついたのだと先生が進める『交換日記』をマイナスの感情の中に捉えます。『私は絶対に、その手には乗らない』と思う『私』は、『私は人殺しになります』、『殺す相手は、このクラスにいる大杉寧々香です』と殺人予告とも取れる日記を書いて先生に手渡します。なんとも物騒な内容にどんな物語が展開していくのか、もうこの短編だけでも一つの長編物語に出来そうな内容ですが、物語は、なんと最後の二行で、まさかのどんでん返しを見せます。最後の二行がどんでん返しを見せる作品というと、乾くるみさん「イニシエーションラブ」が有名ですが、あの作品同様にそれまで見えていた世界が見事にひっくり返るまさかの物語がそこに展開します。短編でこれって凄いなあ!ともうこの二編目で私はすっかりこの作品の虜になってしまいました。以降、今度はどんなどんでん返しを見せてくれるのか、それも楽しみに読み進めていくことができます。短編ごとのどんでん返しと、物語通しての大どんでん返しが味わえる贅沢な作りのこの作品、もうこれだけでも”超”おすすめな作品だと思いました。

    そんな絶品の構成力の中に構築されたこの作品は、それ以外にも魅力を放っています。それこそが、書名ともなっている『交換日記』です。上記の通り、81回分もの日記、それも交換することを前提にした日記を読むことができるのはたまらない魅力です。あなたは、日記をつけているでしょうか?では、『交換日記』はどうでしょうか?日記をつけるという行為は、そこに自分自身の一日を振り返る時間をもつ行為でもあります。それは、自分自身と真正面から向き合う、自分自身に真摯に向き合う瞬間とも言えます。そして、『交換日記』はそんな瞬間により文章となったものをお互いに交換し合うという行為の先にあるものです。この作品の中で辻堂ゆめさんはその行為の意味を登場人物の日記の中でこんな風に記します。

    『文章って、不思議ですよね。本心を隠すことも、さらけだすことも、自由自在にできます。相手を癒す薬にもなれば、心臓をえぐるナイフにもなります。嘘をつくのも簡単です』。

    この作品では、そんな前提の中でさまざまな立場の人物が一対一の関係の中で『交換日記』を交わす様を見ることが出来ました。そう、この作品のポイントは、そんな本来二人だけの世界に存在する『日記』を全くの第三者である読者が見ることができるところにあります。他人のプライバシーの極みとも言える『日記』を、しかも相手がいる『交換日記』を見ることになるこの作品のシチュエーションはある意味で読者にとってとてもレアなものです。辻堂さんはそんな『交換日記』の意味をさらにこんな風にも説明します。

    『でも、私は思うのです。一文字一文字をノートに書き記すために使った、その時間だけは本物なのだと。内容がどうであろうと、手書きの文章の中には、相手への愛が絶対的に存在するのだと』。

    〈第一話 入院患者と見舞い客〉では、『コツズイイショク』へと治療が進み不安が募るばかりの愛美に対して、先生は『しょう来、何をしたいのか』考えるよう促しました。その真摯に綴られる文章は愛美の心を大きく動かしていきます。〈第五話 加害者と被害者〉では、『交通事故の当事者同士で交換日記をするなんて、きっと前代未聞ですね』という不思議なシチュエーションの中に本来憎み合う者同士が心を通わせていく様を見ることが出来ました。そして、〈第七話 夫と妻〉では、作品全体の結末が描かれると同時に『夫婦で交換日記をしたいだなんて、私が急に言い出したものだから、さぞ驚いたでしょうね』と始まった夫婦の間で交わされる『交換日記』。『どうか、本当のことを教えてください』と妻が願う先には、夫のまさかの過去が隠されていました。『交換日記は、友達同士、特に女子同士で自発的にするもの』というのが一般的に認識されるところかもしれません。しかし、この作品で取り上げられた『交換日記』をする関係性は多岐に渡ります。人はどのような関係であっても、まずは会話の中で相手の心を読んで関係性を作っていきます。しかし、この作品で取り上げられたような心の内は会話だけではなかなか引き出せないものです。それこそが、『一文字一文字をノートに書き記すために使った、その時間だけは本物』であるという辻堂さんの言葉の説得力が示す『交換日記』というものが持つ力なのかもしれません。

    『もしかすると、交換日記というのは、ペンや鉛筆を使うことが少なくなった現代にこそ、真価を発揮するものなのかもしれません』と、まとめられる辻堂さんの『交換日記』に対する熱い思いを感じるこの作品。緻密な構成力によって数多の伏線が鮮やかに回収されていく様に圧倒されるこの作品。

    とても読みやすく書かれた物語の中に、人が人を大切に想い、お互いがお互いをいたわりあう気持ちの尊さを強く感じた、まさしく絶品だと思いました。

    • こっとんさん
      さてさてさん、まことさん♪
      言葉を選んでアウトプットする‥‥ブクログはボケ防止に役立つんじゃないか?とこの頃思っています。なので、私もこれか...
      さてさてさん、まことさん♪
      言葉を選んでアウトプットする‥‥ブクログはボケ防止に役立つんじゃないか?とこの頃思っています。なので、私もこれからもまだまだお世話になるつもりです。
      今後ともどうぞよろしくお願いします!
      2022/08/13
    • megmilk999さん
      読んでみたくなりました。
      ちなみに、私の交換日記はまだ取ってあって、先日、友人に写メで送ったら、頼むから捨ててくれ、、、と言われました(女...
      読んでみたくなりました。
      ちなみに、私の交換日記はまだ取ってあって、先日、友人に写メで送ったら、頼むから捨ててくれ、、、と言われました(女の子同士です)だから、シュレッダーでも良かったかもしれませんよ。
      2022/08/15
    • さてさてさん
      megmilk999さん、こんにちは!
      はい、この作品とてもおすすめです。
      megmilk999さんは、取っておありなんですね。『交換日記』...
      megmilk999さん、こんにちは!
      はい、この作品とてもおすすめです。
      megmilk999さんは、取っておありなんですね。『交換日記』を続けていた時間は、おそらくお二人の気持ちは完全に一致されていたと思うのですが、交換を終えて時間が経つと温度差が生まれてくるんでしょうね。この温度差はどちらが正解とも言えない分なかなかに難しいです。なるほど、と思いました。
      2022/08/15
  • レビューを拝見して知った本です。ありがとうございます。

    第一話から第七話まで交換日記をする登場人物たちの連作短編集であり、全体を通して一つの大きな物語になっています。
    交換日記は主に小学生の女子がするものとこの本では定義されていますが、やっているのは、教師と児童、姉と妹、母と息子、加害者と被害者、上司と部下、夫と妻となっています。

    一編一編が独立した話でありますが、名前を追っていくと「ん?」となります。
    生徒の空想の中の名前だったはずのさくらちゃんとすみれちゃんが、後の話では姉妹だったり、先生の名前は井上先生だと思っていたら坂田先生だったりします。
    そして、第五話ではショッキングな展開になり、私はまた「ん?」と思い、誘惑に勝てず「この話は一体何の話だろう」と最後のページを先に読んでしまいました。
    そしたら、なんとなくわかってしまいました。
    先に最後のページを読むのはやめた方が絶対にいいです。感動が半減します(泣)。

    この作品は、ミステリーでもあったのです。
    さくらちゃんとすみれちゃんの謎や、先生が二人いたという事実もちゃんと、どういう理由か解明されました。

    キーポイントとなる第五話の被害者と加害者の話はやはり秀逸だと思いました。
    あ~ちゃんと、順を追って読めばよかったと思うことしきりでした。

  • 皆さんのレビューを読んで興味を持った本。期待通り面白かったし物語としても良かった。
    交換日記というやや古風な手法で様々な人間関係と当事者たちの心の内を描いていく。

    第一章「入院患者と見舞客」
    重病で長い入院生活を送っているらしき女の子と、彼女に勉強を教えに来ている先生との交換日記。

    第二章「教師と児童」
    クラスにいる子を殺すと予告する女子児童と、彼女を止めようと必死に訴える担当教師との交換日記。

    第三章「姉と妹」
    双子だが性格が全く違うために諍いばかりの内容の交換日記。

    第四章「母と息子」
    自閉スペクトラム症の息子が書く日々の内容にハラハラさせられ周囲にフォローに走り回る母親との交換日記。

    第五章「加害者と被害者」
    飲酒運転による交通事故を引き起こした加害者青年と入院中の被害者教師との交換日記。

    第六章「上司と部下」
    幼い頃にひどい言葉を投げかけて傷つけたまま別れてしまい、今は同僚として働くことになった彼女にどう接すればいいか分からない部下の青年と彼を気遣う上司との営業日報に添えた交換日記。

    第七章「夫と妻」
    夫にある疑惑を持っている妻と、何かしら後ろ暗いところのありそうな夫との交換日記。


    交換日記に綴られた双方の言葉と地の文とで構成された6つの物語。それぞれに叙述トリックが仕掛けられているのだが、交換日記の当事者たちがそのトリックを理解した上で書いている場合もあれば相手のトリックに気付かないまま書いている場合もある。
    その仕掛けが明かされた時にどんな結末へ導かれるのかが興味を引かれるところではあるが、その仕掛けを懸命に探すのも良し、無理して探さずにそういうことだったかと素直に驚かされるのもまた良し。

    いずれにしても悪い結末ではなくホッとするものが多いので安心して読める。人の死もあるが、それも一連の物語の重要な要素となっている。
    それぞれ独立した物語ながら連作ともなっていて、読み進めていくとそれぞれの物語や登場人物たちが上手く絡み合った一つの物語となっていることに気付く。

    最終話に書かれていた、文章であるがゆえの危うさと温かさに関するくだりがこの物語を通して作家さんが書きたいことの全てなのかなと思った。

    『一文字一文字をノートに書き記すために使った、その時間だけは本物なのだと。
     内容がどうであろうと、手書きの文章の中には、相手への愛が絶対的に存在するのだと。
     もしかすると、交換日記というのは、ペンや鉛筆を使うことが少なくなった現代にこそ、真価を発揮するものなのかもしれません』

    凝った仕掛けと温かい物語、両方堪能出来た。

  • 交換日記ってそんなに素敵なものだったんだ。

    今の時代LINEを皆使う。
    でも、それとは違う。
    手書きでストーリーがあって
    その中のことは実際に話してはいけない。
    交換日記だけでの物語。

    最後に全ての回線が回収され、
    一気に謎が解けた。その時の興奮は忘れない。

    感動の一作だった。

    読んで良かったと思える心温まる作品だった。
    ぜひ色々な人に読んでもらいたい。

  • 短編小説なのに、それぞれのストーリーの結末の完成度が高い。また、登場人物も綺麗に繋がっていて面白かった。それにしても、交換日記って懐かしいなー。小・中学生時代に流行ったけど、本作品みたいなエピソードはあまりなく、書く内容は本当に薄い内容だったような…。改めて、手書きで日記を書く良さを知った作品だった。

  • 面白かった。さすが辻堂ゆめさん。
    各章ごと、一捻りされていて、後から前を読み返すのも楽しい。最後までいって、もう一回、最初から読みたくなる一冊。
    おすすめです!!
    小学校教師 小林愛実さんを軸に綴られる交換日記の思い出。
    交換日記の七か条があり、それに沿ってお話は進む。
    入院患者と見舞い客、上司と部下 教師と児童 夫と妻、全部いいなかで、特に良かった。

  • 文字に込められた様々なものを味わえた一冊。

    さまざまな間柄で交わされる手書きの日記。

    まるで秘密を覗いているような背徳感を感じながらページを捲る。

    綴られた感情、ほのかに漂う謎、こぼれ落ちるような優しさ、温もりと、文字に込められた様々なものを味わえた。

    絵文字もない言葉、文章を綴る時間はもちろん、その向こうにある感情を読みとる時間も思えば素敵なことだ。

    全ての日記を確認した後は回線がカチッと繋がっていく感覚。まるで雲の合間から次第に青空が広がっていくような気分。
    こういうミステリ、構成、好き。

  • 小学校で、姉妹で、会社で‥‥色々な立ち場の二人が交換日記をするお話。
    小学校の女性の先生が軸になっていくつものお話、交換日記が繰り広げられます。この先生がとっても優しくて聡明で、こんな先生のクラスになりたかったな、こんな女性になれたらな、と思わせる人物です。
    前半はほんわかするお話が続くのですが、後半から人物相関図や時系列など、読者を混乱させていきます。途中で何度も前のページに戻ってしまいました。
    最終的には優しい気持ちで読み終えることができました。言葉ではなかなか素直に言えない本音や悩みを文字でなら伝えられることは多いかもしれないですよね。

  • 見事、術中にはまってしまった。
    全ての交換日記を読み終えて、全ての駒がひっくり返った感じ。
    騙されたのに悔しさよりも、スッキリした爽やかな気持ち良さが後に残る連作短編集。

    一人対一人で繰り広げられる7冊の交換日記は、入院患者と見舞客、教師と児童、姉と妹等と年齢も立場も幅広い。
    普段は面と向かって言いにくいことも、文章でなら相手に伝えやすい。
    書く前は何を書こうか戸惑うことも、一旦書き出すと、あれもこれもと止まらない。調子に乗ってつい本心をさらけ出したり、不本意にも相手を傷つけてしまったり、ついつい大げさになってしまったり。
    読む側も、そんな書き手の本心を推し量りつつ、ちょっとした駆け引きをして相手の出方を試してみたり。
    たとえ会って話す時間が少なくても、日記を読めば書き手を身近に感じられる。そこが交換日記の良いところ。
    どの日記にもいくつかの共通したキーワードがあって、それらを元にあれこれと推測したのに、結局作者にただ翻弄されただけとなってしまった。
    ゾクゾクしたりほんわかしたり、ととても面白かった。
    辻堂さんの他の作品をまた読んでみたい。

  • 連作短編集の形でありながら、全ての話に繋がる時系列のミスリードがあったりと、よく作り込まれたミステリだった。一つ一つの短編についても、しっかりと叙述トリックが使われていて、飽きさせない構成となっていた。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。東京大学在学中の2014年、「夢のトビラは泉の中に」で、第13回『このミステリーがすごい!』大賞《優秀賞》を受賞。15年、同作を改題した『いなくなった私へ』でデビュー。21年、『十の輪をくぐる』で吉川英治文学新人賞候補、『トリカゴ』で大藪春彦賞受賞。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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