理論疫学者・西浦博の挑戦-新型コロナからいのちを守れ! (単行本)
- 中央公論新社 (2020年12月8日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120053597
作品紹介・あらすじ
2019年大晦日。西浦博は、武漢で未知のウイルスが流行の兆し、との情報をキャッチする。1月16日には日本で最初の症例が確定。急遽、北海道から東京へ向かうこととなる。のちにクラスター対策班につながる初動であり、6ヵ月にわたる予想もしない日々の始まりだった。
武漢からのチャーター便の帰国直後、ダイヤモンド・プリンセスが寄港。一気に感染者が押し寄せ、日本は流行に突入する。そして、2月22日、加藤勝信厚生労働大臣より「エマージェンシー・オペレーティング・センターを作るので、中心に立って流行対策にアドバイスしてほしい」と要請される。日本で初めて、感染症対策の専門家が政策決定の中枢に入る、画期的な出来事であった――。
厚生労働省クラスター対策班でデータ分析に従事し、「8割おじさん」と呼ばれた数理モデルの第一人者が、新型コロナ対策の舞台裏で繰り広げられた政治との格闘、サイエンス・コミュニケーションの葛藤と苦悩、科学者たちの連帯と絆まで、熱い本音を語った奮闘の記録。
(以下、本文より)
・・・川名先生から、ぽんとメールが届いたんです。僕が頑張っているのを川名先生は分かっているし支持していると。そして「西浦さんが発信する情報は専門家会議のクレジットですから」とまでおっしゃってくれました。つらい時には1人このメールを見て泣いたこともあります。
僕自身が折れると終わりだから、科学者は勇気を持って科学的事実を正確に伝えるのが間違っていないのなら、頑張らないといけないし、これはまだ第一波だから序の口だと思って、継続して頑張ってみようと、心新たにできました。感染症の数理モデルで定量的なものだったら、あるいは、データ分析をさせたら、日本では自分の右に出る者はいないだろうと自分自身を鼓舞します。ニコニコ生放送で何万人というような人が参加する中でプレゼンをするわけですが、自信を持ってやろうと決意しました。僕がこけると、感染症数理モデルをやっている同志や研究室の弟子たちがこける。僕がここで敗けたり折れたりするわけにはいかないのです。
・・・僕には脅迫状が届き、生まれて初めて殺害予告を受けました。一番緊迫した頃には、厚労省と新橋のビジネスホテルの間を歩くだけなのに警察の方に護衛してもらったことすらありました。
・・・厚労省とも仲違いしそうな時、尾身先生がテーブルをたたきながら、先生より若い我々専門家全員を叱るように仰ったんです。
「厚労省がちびちび書き換えるとか、そんなしょうもない話はどうだっていいんだ。責任取れと言われるんだったら俺が取るぞ。お前たちはそんなもんなのか」「今は流行しているんだから、流行を止めるんでしょうが。お礼参りは終わったらちゃんとやるから、今はとにかく流行を止めるぞ」と言いながら、目に涙をためてみんなをいさめてくれたことがありました。
感想・レビュー・書評
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姫路大学附属図書館の蔵書を確認する→
http://library.koutoku.ac.jp/CARINOPACLINK.HTM?IS=9784120053597詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
10月28日読了。図書館。
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コロナが出始めたころの貴重な記録。
かなり読みごたえがあります。読んで損しません!
デルタ株が出てくる前の記録なので、コロナに対する深刻さが全然違う。確かに世の中はこうだったなぁと。
この本に関しても続編が読みたいです。
西浦さんから見た、尾身先生、厚労大臣や知事たちの人柄、仕事ぶりもわかる内容でした。
西浦さんが、餃子好きだとか、痩せたほうがいいと言われたというエピソードも!
そして西浦さんが、1977年生まれだと知った衝撃!「8割おじさん」はもっと自分より年上かと思ってたのにー(涙)。 -
8月新着
東京大学医学図書館の所蔵情報
http://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2003569900 -
摂南大学図書館OPACへ⇒
https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50249803 -
専門家会議の内幕がわかって面白い。突然分科会に変わった(ように見えた)理由、専門家会議と分科会の違いもよくわかった。
2月14日に専門家会議はじまる。座長は脇田。厚生省内にできたクラスター対策班はエマージェンシーオペレーションセンターとして作ったとか。
当初専門家会議は、科学的分析のみ、厚労省とは、米CDCと保健省の関係を目指したが、後に政策までやっていると受け取られ、政治もそれを利用して責任転嫁していくこととなる。
当初、2次感染者数のばらつきが大きいのでこの感染症は絶滅しやすいと思ったという。そこから3密を避けようと言う呼びかけになっていく
DP下船者を電車で帰したのは、当時相当叩かれたし私も違和感を持ったが、今になってみると正しかったとわかった。当時からウイルスを排出する時期は分析できていた。
欧州から一日何人入国で流行がおこるよという予測。これは覚えていたが、このとき入管に関して相当やりあっていたのは官官の話なのでニュースになりにくかったからか印象にない。
「3月は空から次々と焼夷弾が降ってきているような状態」
海外からの渡航者はこう見えていたという表現が印象的。とすれば五輪で海外から何万人も入ってくるのは恐怖でしかないよなあ。やめてって話になるのは当然。
夜の街など感染源を名指しで発表するとき、小池も厚労省も逡巡し、西浦の口から言ってくれといわれる。
4月15日に出した死亡者42万人の予測は、厚生省内でオーソライズして出したのに西浦ひとりの説みたいになっている不思議。厚生省内でも出すなという意見が多かったので報道の際に責任を西浦に擦り付けるようなレクがされてたのかも。
厚生省はグラフは出しても数字は口にするなまで言ってとめようとした。パターナリズムと西浦は言うけど隠蔽体質じゃないかこれ。緊急事態宣言が4/7だったしそのときはもう減り始めてきていた。私には何をいまさら感があった。最悪想定だがその最悪コースからはすでに外れている時点なので。4/7の前にはできていたのでそのとき見たなら印象も違ったろう。最悪想定であることを理解しない批判は論外だがいまだに見られる。
渋谷健司などワイドショーでコードとデータを出さないのはおかしいという批判するのを気にする周りの人。データは出したいのに厚生省がOKしないので困ったとか。データのほとんどは都道府県の公開情報から作っているのにかかわらず(最重要の分析チームなので特別に内部データにアクセスできると思っていたので驚き)。
分野が近い人口学とか数理生物学の人は何も反応がない反面、物理や情報科学の人がどんどんモデルをいじくって予測を発表し始めたのはうれしかったとか。Nが小さいとき、人口学的確率性を使えばなおよいのだとか。西浦らは発症日ベースの数を、発症後日数別確率を使う複雑な方法で出していたのも再現できないといわれた理由のひとつ。
このころ西浦は、尾身、押谷とでほぼ毎日西村と面会していたという。アベノマスク発表のとき尾身は西村にマジ切れしていたとか。
3月ころから、厚生省に発表文書を勝手に書き換えられたり、
内閣から大事な話を前日通知され渋々通すしかなかったなど、思うような発信ができなかったとか。そのためにTwitterアカウントを作ったがそれにも一苦労。
専門家会議の解散は、「専門家の判断で決定」と西村など政治家が言うなど、政治が責任転嫁をする発言があいつぐのに反発する形で申し出たのが真相だという。彼らが卒論と呼んだ意見発表の会見中に初めて知らされる場面が記憶に残り、官邸が勝手にやったのかと思っていたが違った。
経済の専門家も入れ、政策提言を行う分科会をつくり、その下に厚生省アドバイザリーボートとして科学的分析のみするという体制になった。
ワクチン順位を問われて、初期の北海道のデータを使えば、高齢者からだが、第2波のデータを使うと若者から打ったほうがいいとなるのだとか。高齢者が自粛をきちんとした結果で、行動変容が感染動態をも変えるのが興味深いとか。
ただ自粛に協力しないことにより優先されるのは釈然としないし、極論すれば重症化する人口がすべてワクチンを打てばその時点で弱毒の感染症になってめでたしとも言えるわけで。 -
8割おじさんこと西浦氏が、新型コロナウィルス流行初期から第一波を乗り切るまでを振り返った本。
西浦氏や尾身氏といった専門家が真摯に取り組みまたコミュニケーションを図ろうとしても、官邸や官僚や自治体がそれをうまく扱えず、また責任を押し付けようとしていた事に、忸怩たる思いを感じた。 -
理論疫学に関する話がメインかと思いきや、本書に通底している問題意識はコミュニケーションのありようであり、市民がインフォームドデシジョンinformed decisionを行うためには何が必要で、それはどうコミュニケーションするべきか、という点に対する試行錯誤の記録であった。
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厚労省クラスター対策班「8割おじさん」がコロナ対策と日々の葛藤を語る。科学者の社会的使命とは何か? 半年間の奮闘の記録。