やさしい猫 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
4.38
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感想 : 239
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  • Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120054556

感想・レビュー・書評

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  • 涙あり笑いありの軽めの恋愛小説のような気がしますが、それは違います。私は、読書中、ほとんどの時間を「静かな怒り」の気持ちと共に過ごしました。

    私は何も知らなかった。入管の問題はニュースで聞くことはあっても、ただそれだけだった。しかし、感情的になってはいけない。憎んでもいけないし目を背けてもいけない。どうしたらいいのだろう。

    混乱と衝撃の中にも、どうにか最後までページをめくれたのは、所々に登場人物の優しさや真面目さがあったからだと思います。ここで、私は、ちょっと思ったのです。「もし母親ののミユキさんが保母ではなかったら~」「もし娘のマヤが不良と言われる中学生だったら~」と。それでも、この結婚は認めるべきなんだと私は思うのですが、結果はどうなるんだろうと。そういう設定の場合、私は何を思いながら読み進めるのだろうかと。

    入管の職員の人達とか、検察官とか、「人としてどうなの?」と思うようなこともあるのですが、それも、その人にとっては仕事なんですよね。この辺りの感情の持って行き方が難しかったですが、それは素直に「嫌な奴」として読んでいきました。。。

    読書好きな人なら中学生から読めると思いますが、一番読んで欲しいのは20代の皆さんかなぁ。
    今年の私のナンバー1の本になりそうです。

  • 題名からほのぼのとした内容かと思いきや非常に重い内容。入管に関してはニュースで聞いてなぜ日本てこんなに非情な国なんだろうと腹立たしく思うことはあったが、実態が少しは分かった気がする。しかし、何故日本の入管がこんなに血も涙もないのか、入管側の立場も聞いてみたい気がする。このテーマで他の本も読んでみたい。

  • 第4回ほんま大賞受賞作です。
    ほんま大賞にあたり、帯コピーを考えました。

    『この物語はフィクションである。
    もしかしたら、一番“現実と違うところ”は、
    その結末なのかも知れない。』

    幸せな物語の、その先を想像してほしい。
    読んで終わりにする小説ではないと思ったので、このコピーにしました。
    少し言葉が強いかなと思ったけど。
    中島京子さんからいただいたコメントに『私がびっくりしたり悲しんだりしたことを、なんとか小説の形で読んでもらえるように』とあり、きっと中島さんを動かしたのもこういう気持ちなのではないか?と私なりに解釈した結果です。
    「入管に収容されてしまう男性と、その家族の物語」と説明すると、辟易する人もいるだろう。
    そういう「強い」話は読めない・読みたくない時期もある。
    ただこれは、そういう「強い」内容を中島京子さんが描かれることで、本当に奇跡のようなバランスで「やさしい」物語に昇華している。
    そこは、テーマがー社会性がーじゃなく、純粋に文学の、小説の、「読み物としての楽しさ」を感じられる作品。
    だから一気読みできるし、マヤがんばれー!クマさんいいやつー!で、お話に没頭できる。
    これはどちらが重くても軽くても成立しない。
    だから一年読んだ中で一番面白い「小説」を選ぶ、ほんま大賞にしました。

    この物語の力が、一人でも多くの人に届くことを願います。
    そして一人でも多くの人が、自分自身の身の回りの世界においてだけでもいいので、「やさしい猫」になれるように、願います。

  • 2022.04.26

    自分が本を読む人間でよかったなあと思うのはこういう本を読んだときだなと。
    映画化とかドラマ化とか、何かしら映像化して普段読書をしない人にも、もっともっとこのお話が広まってほしいと心から思う。

    家族愛のストーリーなんだけど、しっかりとした社会派小説。なのに読みやすい。

    ブクログの他の人の感想を読むまで、昨年収容中のスリランカ人が亡くなっていた事件のことをすっかり忘れていた。
    (この本を読んでいても思い出さなかった!)
    「収容」って言うくらいだから、その亡くなった方はきっと何か罪を犯していたに違いないと信じ切っていた。
    家族の方が抗議している映像もニュースで流れていたのに。
    なんとなく、「犯罪者なんだから、仕方ないんじゃない?」って心のどこかで思っていた。
    でもその人だって、本作のクマラさんみたいに、無実だった可能性があるんだよなあ。
    日本に住む外国人を取り巻く環境を知らなさすぎて、ニュースを見ても何も考えなかったんだろうな。
    ベースとなる知識がないと社会を取り巻く環境を理解できないと痛感した。

    この本の素晴らしいところは単に社会問題の定義だけじゃなく、ストーリーとして面白くて没頭してしまうこと。
    ミステリではないから、大掛かりな伏線はないけれど、それでもちょとした伏線をしっかり回収していくスタイルも気持ちよくて好き。

    個人的に良かったシーンは、クマさんの仮放免が認められなくて、受験が終わったマヤがミユキさんにキレたところ。
    妙にリアル。だって、普通の高校生は父親が収容とかされたって、受験は大事だし、「普通」の家庭に憧れるし、マヤはキレて当然。
    「クマさんとミユキさん」だけじゃなくて、マヤのストーリーも大事にされている。
    この描写がなくても物語に影響はなかったはずなんだけど、それでもマイノリティを生きる苦しさがこのシーンに凝縮されている気がする。
    何を隠そう、「これは言っちゃダメだな」ってわかっていながらキレて言っちゃって母親を困らせる、という経験は自分も若い時にしたことがあるからかもしれない。きっと誰しもがある・・・はず?

    もっと外国人労働者や難民について知りたいと思うきっかけになった。
    この本がもっとたくさんの人に読まれますように。


  • 面白かった。子どもの読者が想定されてて、それに話しかけてる設定なのかなと思いながら読み進めたけど、最後にそんなハッピーな話が待っているなんて!だった。
    指宿先生がかっこいい。若い訟務検事さんのやらかしもあるあるで、実話なんだろうなと思う。

  • やさしい猫、というタイトルは、スリランカの民話の一つだということは、すぐに分かるのだけれど。

    マヤちゃんが語りかけている「きみ」が誰なのかは、物語のラストまで分からない。

    ハラハラしたり、希望が持てたり、読みながら、全力で、マヤちゃん親子を応援していました。

  • 温かい涙がポロポロポロポロ止まりませんでした。こんないい涙をながしたことあったっけ?というぐらいの、優しくて温かい涙でした。
    しかし、その流した涙と同時に、日本の外国人に対する法律、この作品のテーマとなっている入管行政の実態に、衝撃を受けました。
    今まで、特に考えた事のなかった入管や不法滞在の問題などについて、考えさせられることになります。
    ビザが切れると入管施設に収容されてしまうこと、なかなか在留資格が与えられないこと、日本人と結婚しても、偽装結婚とみなされて強制送還の対象になること、日本では難民申請がほとんど通らないことなど様々な問題を知りました。
    その中でも一番衝撃を受けたのは、非正規滞在の子供が日本で生まれ、日本で育ち、日本語を話し、日本しか知らない子供にも在留資格が与えられず、職につけないことです。それが自分の国の法律なのか?と、大きなショックを受けました。
    そんな重たいテーマではありますが、語り手が女子高生であり、彼女の視点でとらえられていますので、内容も非常に分かりやすい、とても温かい家族小説でした。
    多くの人に読んでもらいたいなぁと思う一冊です。

  • 日本の入管制度に切り込み、その罪多き課題に向き合いつつ、物語としての昇華感もしっかりだす果敢な小説に仕上がっている。

  • 軽い気持ちで読み始めましたが(タイトルの猫につられた)とても重かった…
    でも一気に読んでしまいました

    この国の制度が情けなく、申し訳ない気持ちでいっぱいになった

    主人公もまっすぐ、周りの人たちが優しいのが救われる。

  • 衝撃的なお話し。知らなかったから…。でもやさしい語り口と温かい物語で、この本に出会えて良かった!

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中島京子の作品

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