立花隆 最後に語り伝えたいこと-大江健三郎との対話と長崎大学の講演 (単行本)
- 中央公論新社 (2021年8月6日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120054594
作品紹介・あらすじ
★「負け続けてもいい。自分の意思を持ち続けろ!」
知の巨人、立花隆氏の遺作
解説・保阪正康
立花隆が「どうしても最期に残しておきたい」と切望した遺作。未収録の「肉声」を中心に編んだ。
【第一部】は、ヒロシマ、ナガサキ、アウシュビッツの恐怖をなんとしても若い世代に伝えたいと、2015年に長崎大学で行った講演「被爆者なき時代に向けて」などを収録した。
【第二部】は、ソ連が崩壊した1991年に、21世紀を見通そうと大江健三郎氏と行った対談を収録。あれから30年が経過したが、二人の巨匠は、この先もますます深刻になるであろう環境汚染、人口問題、排外主義、格差拡大、核拡散など地球規模の危機をぴたり見通していた!
感想・レビュー・書評
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本書の「まえがき」にあたる部分を、立花隆の実の妹である菊入直代さんという方が書かれている。それによると、本書の発行意図は下記の通りである。
【引用】
2021年4月30日に兄・立花隆が亡くなり、80日あまりが経った。
本書は、時代を担う人々に、兄がどうしても伝えたいと切望したラストメッセージを、講演録や対談など書籍未収録だった「肉声」を中心に編んだものである。
【引用終わり】
そして、具体的な中身としては、第一部は、立花隆が2015年1月に長崎大学で行った講演「被爆者なき時代に向けて」を中心に構成されており、第二部は大江健三郎との2日にわたる対談を中心に構成されている。さらに、最後に保坂正康が追悼的な文章を書いている。
第一部・第二部で語られているテーマは、核兵器・戦争・地球環境などといった問題である。それを、立花隆は、「現在」「将来」の問題として、提起している。メッセージは、若い世代に向けたもの。
立花隆は、数多くのテーマを著作にしているが、若い世代に伝えたかったことの中心は、こういうことだったのか、と理解した。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今年(2021年)4月に立花隆が亡くなったあと、書籍未収録の講演・対談などを編んで出されたもの。
帯には派手な赤字で「知の巨人の遺作」とあるが、「べつに『遺作』じゃないだろ」と苦笑してしまう。
というのも、メインになっている長崎大学での講演(2015年)も、大江健三郎との対話(1991年)も、NHKの番組制作のためになされたものであり、書籍化を前提としていない内容だからだ。逆に言えば、立花が存命なら出なかったはずの本なのである。
それを「遺作」と謳って売ろうとするとは、何とも商魂たくましい。
ほかには、立花自身の「古希の祝い」でのスピーチまで収録しており、「『落ち穂拾い』で何とか一冊分になりました!」感がムンムン。
そうした成り立ちについてはさておき、内容にはキラリと光る部分も少なくない。
長崎大学での講演「被爆者なき時代に向けて」を中心とした第1部は、立花隆の反戦・反核への思いを軸にまとめられている。
一般に、立花に「反戦・反核の人」というイメージはないだろう。が、立花は長崎出身であり、教師であった父親は原爆で多くの教え子を喪っている。そうしたこともあって、反核への思いは強かったのだ。
講演は、〝紋切り型の反核メッセージ〟には終わらない立花隆ならではの切り口で、読ませる。
第2部の大江健三郎との対話は、ソ連崩壊直後に行われただけに、東西冷戦や共産主義についての卓見も多く、30年を経たいまでも一読の価値はある。
そして、何より素晴らしいのは、保阪正康による長文の解説である。
立花本人のみならず、橘孝三郎(立花隆の父の従兄弟で右翼思想家。五・一五事件で塾生を率いて東京の変電所を襲撃し、無期懲役の判決を受けたが、恩赦により釈放)や父・橘経雄とも縁を結んだ保阪は、その思い出を綴りつつ、立花隆の物書きとしての「核」に肉薄していく。
日本のノンフィクション史の中で、立花隆の仕事がどう画期的であったかという分析は、さすがの鋭さだ。
今後、立花隆について論ずる際には避けて通れない重要な内容であり、独立した価値を持つ名文である。
保阪の解説を得たことによって、本書の書物としての格は一段上がった。 -
『感想』
〇太平洋戦争について考える時、被害者としての日本の立場だけでなく、加害者としての日本の立場もあるんだ、そのことを忘れてはいけないという考えが印象に残った。
〇環境破壊と差別について、危惧されていたようだ。これは簡単に解決できない。人間である以上、どうしても自分に有利なようにしたい。地球や社会という観点で考える理想は分かっても、それがこなせないんだ。 -
2021.4.30に永眠された立花隆さん。彼の戦争の記憶を後世に引き継ぐという思い、大江健三郎さんとの対談での、環境問題、核拡散など地球規模での危機についての警笛が主に著されている。(保阪正康さんによりまとめられている。
「赤い屍体、黒い屍体」という話が印象的だった。赤い屍体は、満州引き上げの際、満洲人により皮を引き裂かれ真っ赤になった日本人の死体。黒い屍体とは、原爆により黒焦げになり亡くなった日本人の死体。前者は加害者として、後者は被害者としての視点。
日本人は黒い屍体(被害者)としての視点で戦争を語りがち。しかし、赤い屍体として戦争を語らないと、真の反戦運動にはならない。
もう一点、大江さんとの対談は、1991年に行われたもの。その際に語られた環境問題について、今も同じことを問題視して、何も対策を講じていない(進展がない)ということが、この問題の難しさなのか、取り組む姿勢が低いからなのか・・・。彼のやり残したことは多々あると思う。それは彼の残した課題なのかもしれない。 -
戦争について深い。
加害者被害者では終わらない。絡み合う話。
赤い死体と黒い死体
抑圧された者からの暴力。引き揚げの悲哀。
吉田茂の自問 小倉和夫
シベリア鎮魂歌 立花隆
ヒロシマ・モナムール マルグリッド デュラス -
2023年8月6日読了
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2021年に永眠した知の巨人・立花隆。1991年ソ連崩壊の年,大江氏との対談で語られたのは,核拡散,格差拡大,環境破壊の問題であった。これらは現代における地球規模の問題であり,立花氏が生涯取り組んだテーマ「戦争と平和」について,今こそ深く問いかけられる1冊。
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二大巨人に拠る対談、文明論。難解
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講演録よりも、タチバナ(橘)家について書かれた保阪正康による解説が印象的だった。