モノクロの夏に帰る (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120055515

作品紹介・あらすじ

海の向こうでは、戦争で毎日人が死んでいる。
でも遠くない将来日本からは、戦争を経験した人がいなくなる。
まだ若い僕たちは、この事実とどう向き合えばいいのだろう。

「僕は祖父の戦争体験を捏造したことがある」
戦時中のモノクロ写真をカラーにして掲載した『時をかける色彩』という写真集が刊行された。祖父母ですら戦争を知らない二十代の書店員がそれを店頭に並べたことで、やがて世界が変わり始める。保健室登校の中学生、ワーカホリックのテレビマン、アメリカから来た少年と、福島で生まれ育った高校生。遠い昔の話のはずだった「戦争」を近くに感じたとき、彼らの心は少しずつ動き出す。
平和を祈る気持ちが、小さな奇跡を呼ぶ。
読み終えたとき、少しだけ世界が優しく見える感動の青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • あなたの子供時代の写真は『カラー』ですか?それとも『モノクロ』ですか?

    さて、これは声に出すと年齢がバレてしまう極めて危険な質問でもあります。世界初の写真は1826年にフランスの発明家・ニエプスという人が撮ったものとされています。目の前のものを写し取るには精密な絵画に頼る他なかった時代に写真という画期的な技術が使えるようになった当時の人々の驚きが目に浮かびます。

    その後、1961年に『カラー写真』が生まれます。私たちの目に見えているそのままに記録されるようになった『カラー写真』。しかし、そんな『カラー写真』が一般化するまでに撮られた写真は全てが『モノクロ』の世界のままです。いかにも昔の時代を象徴する『モノクロ写真』を見ていると昔は色というものがなかったのか?とさえ思えてきますが当然そんなことはありません。昔だってこの世はカラフルに彩られていたはずです。単に技術がなかったために『モノクロ』の世界に押し込まれてしまったかつての色のある昔の風景たち。

    しかし、昨今のAI技術の進歩は、そんな『モノクロ写真をカラー化』できる時代へと世の中を変化させてもいます。本来その写真に写り込んだモノたちが纏っていたはずの色がそこに再現される時、そこにはどんなものが見えてくるのでしょうか?また、それを見た人たちはそこに何を思うのでしょうか?

    さてここに、リアル世界に刊行された『戦時中の写真をカラー化した写真集』からヒントを得た物語があります。元の『モノクロ写真』が色を帯びたからこそ今の人たちに訴えてくるものを感じさせるこの作品。元の『モノクロ写真』に写し込まれた光景自体の背景を描きもするこの作品。そしてそれは、『戦時下に生きていた人々の存在をより身近に、いい意味で生々しく感じ』るという写真の中に、今一度『過去の戦争に学ぶ』ということの意味を感じる物語です。

    『僕は昔、祖父の戦争体験を捏造したことがある』という『苦い記憶』が『どろりと蘇った』のは主人公の黒瀬飛鳥(くろせ あすか)。『これは、写真集ですか?それも、戦時中の』と訊く飛鳥に『玉松書房の営業担当・滝本舞』は『はい、戦時中の写真をカラー化した写真集です』と答えます。『ゲラとよばれる』『本の試し刷り』を見せられた飛鳥は『なるほど、モノクロ写真をカラー化したから、タイトルが「時をかける色彩」ですか』と捲ります。『戦前や戦時中、戦後すぐに撮られたモノクロ写真を集めて』『AIを使ってカラー化するプロジェクト』の成果を写真集として企画したと説明する滝本に、『確かにいい写真集ですね、これ』と飛鳥は『率直な感想を述べ』ます。それに『ですよね!』と反応する滝本は、『黒瀬さんの担当する二階のフロアでもどーんと展開していただきたい』と続けます。『この数ヶ月で、すっかり戦争ってものの印象が変わっ』たと言う飛鳥に『ロシアがウクライナに侵攻した』ことによって『私達は「戦争は現代でも起こるんだ」と思い知』ったと滝本は語ります。そんな滝本は『玉松書房としては「時をかける色彩」をヒットさせるべく』『黒瀬さんにもご協力いただきたい』と、『帯コメント』の執筆を依頼します。昨年刊行された『「震災メシ」と「十一月の約束」が大ヒットした』ことが『飛鳥の書いた帯コメントとPOPがきっかけ』だったことを持ち出す滝本。そして、『黒瀬さん、頼りにしてますよー!』と言うと滝本は店を後にしました。そんな滝本を見送りながら、『僕ねえ、祖父の戦争体験を捏造したことがあるんですよ』と聞いたら、滝本はどんな顔をするだろうと思う飛鳥。場面は変わり家へと帰った飛鳥は藤原の横に座ります。看護師をしている藤原とは『二人でいるときはできるだけ話をする』ということを『共同生活のルール』としています。そんな藤原に滝本から預かったゲラを見せる飛鳥は、『マッカーサーと昭和天皇の写真』を見せながら今一つこの作品に『熱量を込められない理由』を語ります。小学五年の時、『お祖父ちゃん、お祖母ちゃんに戦争体験を聞いて作文を書こう』という宿題が出たものの、祖母が戦後生まれで、祖父は幼すぎて記憶がなかったことから『このまま作文が書けないのまマズい』と思った飛鳥は『戦争の本を読んで』『嘘の戦争体験を』仕上げて提出しました。それが、『先生から好評』となり『市のコンクール』で『最優秀賞を取っ』たという展開。それに対して学校に両親が謝罪に赴いたことで『事は公』になり、それ以降『黒瀬、今度はネツゾーすんなよ』と友人から言われるようになった飛鳥。再度場面は変わり、認知症を患っている祖父の手伝いのために実家へと帰った飛鳥は、『おしっこ臭い』祖父の部屋で一緒に寝ることにします。『か細いいびき』をかきだした祖父の横でゲラを見る飛鳥。そんな中に『まあだ寝ねえのか』と起きた祖父に『太平洋戦争の頃の写真集なんだ』と『明治神宮に参拝する軍服姿の子供』など何枚かのゲラを見せます。そんな中に『ショウイチさん』と祖父が突然語ります。そんな祖父が見ていたのは『航空服に身を包んだ五人の青年を写した写真』でした。『離陸直前の特攻隊員』と記載のあるその写真。そんな物語の先に、カラー化されたモノクロ写真に隠されたまさかの真実が描かれていきます…という最初の短編〈第一話 君がホロコーストを知った日へ〉。物語のキーとなっていく”小説内写真集”「時をかける色彩」の存在を物語に絶妙に紡ぎ出す好編でした。

    “戦時中のモノクロ写真をカラーにして掲載した『時をかける色彩』という写真集が刊行された。遠い昔の話のはずだった「戦争」を近くに感じたとき、彼らの心は少しずつ動き出す。 平和を祈る気持ちが、小さな奇跡を呼ぶ。 読み終えたとき、少しだけ世界が優しく見える感動の青春小説”と内容紹介にうたわれるこの作品。四つの短編が”小説内写真集”「時をかける色彩」の存在によって鮮やかに繋がっていく連作短編となっています。

    そんな物語で外せないのは、やはりなんと言っても「時をかける色彩」という『写真集』の存在です。主人公が小説家である場合などにその小説家が書いたという想定で登場する小説。私はレビューの中で”小説内小説”という言い方をして、そんな小説が登場する作品をこよなく愛しています。そんな中で、この作品に登場するのは”小説”ではなく『写真集』なのです。これは、750冊以上の小説ばかりを読んできた私にとって初めての体験です。そもそもこの作品は文字で表現された”小説”です。そんな文字の世界に『写真集』を大々的に登場させるというのはとても大胆な試みです。しかもそれは普通の『写真集』でもありません。では、そんな『写真集』の特徴をまとめておきましょう。

    ● 小説内写真集「時をかける色彩」 発行: 玉松書房
     ※作品の元になったリアル世界での作品: 庭田杏珠×渡邉英徳「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」光文社新書

     ・『戦前や戦時中、戦後すぐに撮られたモノクロ写真を集めて、AIを使ってカラー化』した『東都大学』の『成果を集めた写真集』

     ・『元のモノクロ写真とカラー化した写真の比較や、聞き取り調査をして色味を修正していく過程も掲載』

     ・AIには限界があり『写真に写っている人や当時を知る人に聞き取り調査をして、人間の手で色を修正』

    どうでしょうか?正直なところ、この作品の元となったリアル世界の作品がとても読みたくなりました。昨今、映像加工技術と言って良いのかAIと言って良いのか、科学の進歩によって”昔の写真”の代名詞でもある『モノクロ写真』や”モノクロ映像”をカラー化する試みをよく目にします。この作品ではそんな『モノクロ写真をカラー化』する試みに光を当てていきます。そこからはさまざまなものが見え隠れし読みながら感心することしきりです。

     ・『モノクロ写真だと素っ気ないというか無機質というか、要するに自分の生活と地続きの世界のものだと認識できない』
      ↓
     ・『カラーになることで、戦時下に生きていた人々の存在をより身近に、いい意味で生々しく感じられる』

    編集者である滝本視点で語られるその見方は、リアル世界で私が目にしたことのある『モノクロ写真をカラー化』した写真や映像を見た感想そのままです。これは、今の世にわざと撮影した写真を『モノクロ』に変換した時に、別物の何かが出来上がったような印象を受けることからもわかります。私たちが朝起きて夜寝るまでに見続ける世界にカラーは当たり前の光景です。だからこそそんな色が取り去られた世界は特別であり、ある意味で自分たちと線引きされた先にある世界とも言えます。この作品の中ではカラーの世界と『モノクロ』世界を、文字ばかりの小説を読む中にまるでそんな写真を実際に見ているかのようにリアルに描き出していきます。特に生々しく感じられる描写を抜き出しておきましょう。

     『病院らしき場所を埋め尽くす被爆者達は、モノクロ映像でも皮膚がただれて焼け落ちているのがわかる。皮を剥きかけのバナナみたいに、人の体から皮膚がぶら下がっていた』、『黒焦げになった遺体の写真も何枚も映し出された』

    『原爆投下後の広島と長崎を映した』映像からの一場面ですが、この抜き出しだけでもそこに言わんとする感覚が伝わってくると思います。それこそが、

     『色のない映像も、写真も、心に入り込む速度が色を持つものより鈍い』

    というものであり、この作品が光を当てていくのはこの点です。

     『モノクロ写真に色をつける行為は、その〈鈍さ〉を取り払うことなのかもしれない』

    言葉の説明でなんとなく理解できても大切なのはその考え方が正しいという納得感です。文字だけの小説で、カラーとモノクロを比較する『写真集』を登場させるというこの作品。間違いなく表現力が試されるこんな難しい題材を取り上げられた額賀さんに深い敬意を表したいと思います。

    そして、この作品がさらに奥深いところを突いてくるのが、「モノクロの夏に帰る」と書かれた表紙に描かれた『青空を突き破るキノコ雲』です。『キノコ雲』と聞いた日本人の100%が思い浮かべるもの、それは一九四五年八月に広島の夏空を襲った原爆投下の惨劇だと思います。そうです。『戦前や戦時中、戦後すぐに撮られたモノクロ写真を集め』た写真集を登場させるこの作品は、なんと戦時中を描いてもいくのです。現代小説で戦時中を描く手法としては次の三つが考えられます。

     ①大河小説として主人公の人生を何世代かにわたって描くもの

     ②登場人物の思い出として過去を振り返る中に描くもの

     ③まさかの”タイムスリップ”で戦時中を体験するもの

    個人的には”③”の手法が好きで、藤岡陽子さん「晴れたらいいね」、汐見夏衛さん「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」など、私が過去に半期ベストに入れた作品が思い浮かびます。そしてこの作品が取る手法はこの作品ならではの斬新さをもって読者に迫ります。

     ④カラー化された元の『モノクロ写真』自体の舞台背景を各短編内で掌編として描く

    お分かりいただけるでしょうか?この作品では短編タイトルも意味をもって読者に迫ってきますのでその構成を合わせてもう少し分かりやすく整理します。

     ・〈第一話 君がホロコーストを知った日へ〉: 『煌星書店』店員・黒瀬飛鳥が主人公。玉松書房の営業・滝本から『写真集「時をかける色彩」』の『帯コメント』を依頼されます。そんな飛鳥は介護の手伝いで訪れた実家で、ある一枚の写真に見入ります。
      → 主人公・黒瀬の物語に↑の写真の舞台背景を描く掌編が登場

     ・〈第二話 戦略的保健室登校連盟〉: 中学生の喜多村紫帆が主人公。『戦略的』に『保健室登校』を続ける紫帆は一色松葉と知り合います。そんな紫帆は『去年も表彰された読書感想文』で今年は『全国コンクールの最優秀賞』を狙います。そんな中に一枚の写真に見入ります。
      → 主人公・紫帆の物語に↑の写真の舞台背景を描く掌編が登場

     ・〈第三話 平和教育の落ちこぼれ〉: 『番組制作会社』に勤める青柳守美が主人公。『広島出身の子は』『小さい頃から平和教育受けてる』という理由で『終戦記念日特番』の企画を任された守美は、人の繋がりの先に、ある一枚の写真に見入ります。
      → 主人公・守美の物語に↑の写真の舞台背景を描く掌編が登場

     ・〈第四話 Remember〉: 『九月にフィラデルフィアから埼玉に引っ越してきたばかり』で『私立高校生』のレオが主人公。『モノクロの写真に色をつけて展示する』という文化祭の取り組みの中に一人苦悩するレオは、自らも『モノクロ』写真を提供します。
      → 主人公・レオの物語に↑の写真の舞台背景を描く掌編が登場

    といった構成となります。おおよそお分かりいただけたかと思いますが、それぞれの短編の最後に挿入される掌編は短編そのものに直接関係するわけではない、戦時中の物語です。普通であればとってつけたようになるはずですが、一枚の写真をキーに一つの短編のまとまりの中に描かれていきます。これはまさしく構成の妙です。そして、四つの短編は登場人物が巧みな絡まり合いを見せながら見事な連作短編を編み上げてもいきます。この辺りも額賀さんの真骨頂です。

    しかし、それ以上にこの作品でどうしても外せないことがあります。それこそが〈第四話 Remember〉が見せる一つの風景です。それは、この短編の主人公・レオが米国人の父親と日本人の母親の下に生まれたハーフであり、高校の途中まで米国で育ったということにあります。そんな彼が日本の高校に編入後直面したのが文化祭に向けたクラスの企画でした。

     『モノクロ写真カラー化プロジェクト~戦争を知らない私達にできること~』

    日本人ばかりの高校のクラスの中にただ一人混じることになった米国で生まれ育ったハーフの主人公・レオ。そんな彼は『戦争を知らない私達にできること』というテーマの元に嫌が上にも第二次世界大戦の見方に晒されていきます。

     ・『この国で太平洋戦争という歴史を学ぶ上で、日本は〈酷いことをされた側〉、アメリカは〈酷いことをした側〉として描かれる』

     ・『日本は戦争で大変な目に遭って、多くの人が辛い思いをしてたところに、アメリカが原爆を落とした』

    そんな前提を前にして

     『大勢の日本人に囲まれる中、たった一人のアメリカ人として受け止めなきゃいけない』

    主人公・レオがいきなり背負うことになる厳しい現実がそこには描かれていくのです。この物語はその中に自身が今まで受けてきた米国での教育によるものの見方とは正反対なものの見方の存在を突きつけるだけでなく、日本人ならではの同調意識がそんなバックグラウンドをさらに演出してレオを襲っていきます。そんなレオの苦悩が描かれていく物語は読み応え十分に展開します。そして、そんな中に私にはある一つの作品が浮かび上がりました。小手鞠るいさん「ある晴れた夏の朝」です。米国の高校生が原爆投下の是非をディベートで争うというその作品の主人公は日本人をルーツに持つ日系人女子高生です。自分が当たり前に思っていることにも立場変われば違う見方ができる。しかし、立場変われども大切なことは何なのか…私の2022年の年間ベスト3に選出もしたこの作品は今もって私の中で大切な一冊として刻まれています。額賀さんのこの作品はそんな作品の視点を180度変え、日本を舞台に描くものとも言えます。そこに上手いと思うのはあくまで主人公は米国から来たレオであって、読者の感情移入先はレオになっていくということです。そんな物語に一体どんな結末が待っているのか、読者の戦争観が図らずも浮き彫りになることうけあいの物語は是非多くの方に読んでいただきたい物語だと思いました。

     『僕達は戦争を知る世代から直接バトンを受け取ることができる、最後の世代』

    『モノクロ写真をカラー化』した写真集「時をかける色彩」が四つの短編を編み上げていくこの作品。そこには、カラー化したからこそ今の時代に伝わってくる『モノクロ』の時代との繋がりを意識する人たちの姿が描かれていました。文字だけの小説に『写真集』を描き出すという巧みな描写に魅了されるこの作品。『モノクロの夏』に写し込まれたあの時代のことを決して忘れてはいけないと改めて感じるこの作品。

    “戦争を書くべき宿命や当事者性みたいなものが自分にはない”という”後ろめたさ”の先に、”現代から過去の戦争を見るような小説ならあり得ると思った”と執筆の経緯を語る額賀さんの強い意気込みの先に生まれた素晴らしい作品でした。

  • 戦時中のモノクロ写真を、AIを使ってカラー化した写真集『時をかける色彩』
    この本を巡る4つの連作


    戦争はいつだってモノクロだと、この本を読んで改めて気が付いた。
    戦争体験者の話を聞く機会がほとんどなくなった私達は、当時の写真や映像を見ても、心のどこかで「昔のこと」と遠い存在に感じていたのかもしれない。
    しかし色のついた写真となれば、不思議と身近なものに思えてくる。

    登場人物のひとり、女子中学生・紫帆の言葉。
    『モノクロ写真に色がつくことで、自分が生きる世界と太平洋戦争の時代が繋がる。
    教科書で学んだ歴史ではなく、自分が当たり前に持つ「昨日」を積み重ねた先にある過去の出来事として、戦争を見る。』

    うん、その通りだ
    昨日、昨日、昨日………

    自分なんか、戦争を語れる立場にいない。
    実際の戦争を、何も知らないのだから……
    今を生きる私達はそう思うかも知れない。
    しかし「僕達は他人を想うことができる」
    と、この本が教えてくれた。

    こちらも登場人物のひとり、日本人とアメリカ人のハーフの男子高校生・レオの言葉。
    『アメリカは、9.11が起きてからずっとアフガニスタンと戦争してた…いや、僕の感覚だと、まだ戦争してる。ロシアのウクライナ侵攻だって他人事って感じがしないし。戦争は僕が生まれてからも普通に起こってて、いつどんな形で巻き込まれるかわからないって感覚がある。』

    そして著者のインタビュー記事に、
    『今まで「戦後」だと思って生きてきたこの時代は「戦前」だったのかもしれない』とある。
    ちょうどロシアによるウクライナ侵攻が始まった頃のことだ。

    そうか、今は戦前かもしれないんだ。
    そう思うと、なんだかゾクッとした。




    先日「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」を読み、もう一冊読みやすい戦争の本をと思い、本書を手に取りました。
    (さてさてさんのレビューが心に残っていました)

    令和を生きる私達にぴったりの作品だと思います!

    • さてさてさん
      aoi-soraさん、こんにちは!
      私も何冊か先の大戦に関する作品を読んでいますが、起点は同じく「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」...
      aoi-soraさん、こんにちは!
      私も何冊か先の大戦に関する作品を読んでいますが、起点は同じく「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」です。この作品もそうですが、aoi-soraさんおっしゃる通り、読みやすさってとても大切なことなんだと改めて思います。戦争の作品と思うとどうしても意気込んでしまうところがあって、結果として手を出しづらくなりがちです。そういう意味でも額賀さんのこの作品、面白い視点から入っていってとても印象深い読書の時間となりました。昨今、モノクロ写真のカラー化が流行りで色々なところで見かけますが、”あの夏”はやはり大きいと思います。カラーになるだけで一気にリアルさを帯びてくる様は凄いと思うとともに、心にスーッと入ってくる分、とても意味ある、意義あることだと感じます。
      私もとても戦争を語れる立場にはありませんが、この作品、一人でも多くの方に読んでもらいたい、そんな作品だと改めて思いました。
      2024/01/28
    • aoi-soraさん
      さてさてさん、こんばんは^⁠_⁠^
      そうなんです、「読みやすさ」大事ですよね~。
      私は学校の授業もぼんやり過ごしていたせいで、歴史とか色々忘...
      さてさてさん、こんばんは^⁠_⁠^
      そうなんです、「読みやすさ」大事ですよね~。
      私は学校の授業もぼんやり過ごしていたせいで、歴史とか色々忘れてるんですよ(笑)
      なので、とっつきやすい作品を読み勉強中です(^^ゞ
      この作品は、私みたいな人も安心して戦争について考えられますね。
      良い本を紹介して頂き、感謝です(⁠*⁠˘⁠︶⁠˘⁠*⁠)⁠.⁠。⁠*⁠♡
      2024/01/28
  • 戦時中のモノクロの写真をカラー化した「時をかける色彩」この写真集から繋がっていく物語。

    戦争を若い世代たちは、どのように捉えてどんな気持ちで語るのか…とても興味があった。

    セクシャルマイノリティの書店員
    保健室登校の女子中学生
    家族にコンプレックスを持つテレビマン
    アメリカから来た高校生と福島から来た高校生

    それぞれが語ることに戦争を知らなくても今すべきことを考えることはできる。
    だからありのままに80年前の戦時下を生きた人々を、地球の裏側で苦しむ人々を想えばいい。

  • 白黒でしか見たことのない戦争の記録。
    それをカラーにした本が発売になる。
    その本の帯を書く若い書店員、広島出身の編集者、その本を題材に課題を書く中学生、文化祭の展示にそれを使う事になったクラスに転校してきたアメリカミックスの高校生。
    彼らが、カラーになってより鮮明になった戦争の記録とどのように向き合うのか、何を思い未来に向かうのか、戦争のエピソードの入った若者たちの話。

    ほんわかとしたストーリーの中に、戦争という重い題材が入り、一人一人の背景や考え方をじっくり読み解くような感じだった。
    戦争の内容はあまり多く無く、正直ちょっと肩透かしというか、もう少し突っ込んだ内容だと良かったかなぁと思う。
    差別や偏見の話も、もう少しグサッと刺さる何かが欲しかったかな。

    とはいえ、読んで良かった本。
    子供達と戦争について話す良いきっかけになりそうな本だった。

  • 額賀 澪 NUKAGA Mio|note
    https://note.com/nukaga30

    『モノクロの夏に帰る』 | 額賀澪 公式サイト
    https://nukaga-mio.work/monochrome

    モノクロの夏に帰る 額賀 澪(著/文) - 中央公論新社 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784120055515

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【編集者のおすすめ】『モノクロの夏に帰る』 現代の若者が感じた戦争 - イザ!
      https://www.iza.ne.jp/article...
      【編集者のおすすめ】『モノクロの夏に帰る』 現代の若者が感じた戦争 - イザ!
      https://www.iza.ne.jp/article/20220806-PGMLHS34ORJUJEKO74OIDNO4RU/
      2022/08/06
  • 265ページ
    1600円
    4月14日〜4月14日

    戦争を軸にした4つの短編集。物語が少しずつ重なっていた。いろんな立場の人から見た戦争について考えさせられた。『戦略的保健室登校同盟』の話が一番気に入ったかも。戦争を語れる人がいなくなることで、戦争が過去のことから歴史のことになるというのは、なるほどと思った。戦争は昔の話ではなくて、今も世界のどこかで起こっているのだけれど、自分にはどこか関係のない遠くの国で起こってることだって、それでも思っている自分に気づく。

  • 自分の戦争や様々な社会的な課題への向き合い方や在り方に疑問符がつきました。
    まず、知ること。
    これを忘れずに、誰にたいしても丁寧に接していきたいと思う。

  • 第二次世界大戦、太平洋戦争というものがどんどん遠ざかっていきます。
    子供の頃も既に遠い出来事でしたが浅草に行くと傷痍軍人が居たり、おじいさんは大体戦争に行った事ある人だったし、おばあちゃんと言えば戦争体験者であることが当たりまえでした。
    ナチスドイツの酷さを色々な映画や本で見ながらも、日本も同盟国であった事はどこか遠い出来事のようだし、被爆国でありながら日本人の多くはアメリカに悪感情は持っていないと思います。僕もその一人。
    自分たちが知っている、学んできた事と同じ時間軸で、他方では違った歴史が積みあがっている事実。そんな当たり前の事が思い浮かばないのが人間の愚かしい所だと思います。

    被害者の道理、加害者の道理。被害者が加害者に変わる事、加害者が被害者になる事。知っていながら目をつぶる事、被害者を置き去りに罪だけを追求する事。悲しんでいる事を続ける事を暗に求められ続ける事。よろこびを見つける事で悲しみを忘れていると非難される事。
    青春小説の形を取っていますが、そういううしろめたさを感じながら、皆知らなければいけないし、知るという事で過去未来の人々とつながっているという事を感じて欲しいというメッセージに感じられました。

  • 多くの具材がタップリと入った、多国籍料理みたいなストーリー。
    和風出汁はしっかりと効いていて、味にブレはない。と言った感じで読み終えた。

    第一話*同棲している二人の話。途中で「あれ?」同性か、と気付いた。
    第二話*保健室登校の女子中学生。離婚した父親との関係が鬱陶しい。
    第三話*広島出身、TV局制作スタッフの過去と現在。
    第四話*アメリカ人父と日本人母との間に生まれた高校生の息子。日本の文化祭を巡るあれこれ。東日本大震災の時の牛の話まで入り涙。桜太とレオが担任とバトルする会話は小気味良い。

    一貫して一冊の本と戦争で一つにまとまる四話。
    心に響く台詞が多く、付箋で本が厚みを増した。
    ☆は4.5としたい。

  • 時をかける色彩。戦時中のモノクロ写真をAIでカラー化した写真集から、広島を舞台にしていくつかの物語が進行していく。
    実際に戦争を経験した人がいなくなってしまう事態が目前となり、戦争は歴史の事実となろうとしている。世界のどこかで戦争で命を落としている人がいる現実。
    綺麗事でなく、僕たちは戦争をどう捉えていけば良いのか。
    考えさせられる一冊。

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著者プロフィール

1990年、茨城県生まれ。日本大学芸術学部卒業。2015年、「ウインドノーツ」(刊行時に『屋上のウインドノーツ』と改題)で第22回松本清張賞、同年、『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞する。著書に、『ラベンダーとソプラノ』『モノクロの夏に帰る』『弊社は買収されました!』『世界の美しさを思い知れ』『風は山から吹いている』『沖晴くんの涙を殺して』、「タスキメシ」シリーズなど。

「2023年 『転職の魔王様』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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