黄色い家 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.86
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本棚登録 : 10076
感想 : 740
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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120056284

作品紹介・あらすじ

十七歳の夏、親もとを出て「黄色い家」に集った少女たちは、生きていくためにカード犯罪の出し子というシノギに手を染める。危ういバランスで成り立っていた共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解し……。人はなぜ罪を犯すのか。世界が注目する作家が初めて挑む、圧巻のクライム・サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • 『このさき、自分がどこで生きることになっても、何歳になっても、どうなっても、彼女のことを忘れることはないだろうと思っていた』。

     あなたにはそんな風に思う人がいるでしょうか?

    私たち人間は他者とのコミュニケーションの中で生きています。とは言え、さまざまなものが機械化され、人と人とが直接関わり合いを持つ場面も減ってきたと思います。駅に入るのに切符に鋏を入れてもらう、そんな小さな関わりは確かに歴史の中に埋もれてもしまいました。また、ここ数年我が国をも襲ったコロナ禍は人と人とが距離を取ることを推奨した時代でもありました。『ほとんど人がいないね…自粛やばいわ』という中にはコミュニケーションを積極的に取ること自体がリスクでもありました。

    しかし、そんな時代も終わりました。またそれ以前の時代を見ても、やはり人は他者の存在なくしては生きてはいけないようなところがあると思います。そんな中には、冒頭のような思いを抱く関係性というものは大なり小なり誰にだってあるようにも思います。

    さてここに、『偶然に辿りついた小さなネット記事で』冒頭に記した思いが胸に去来した一人の女性が主人公となる物語があります。そんな女性が二十余年前の過去を振り返るこの作品。そんな時代にまさかの行動に突っ走った女性の過去を見るこの作品。そしてそれは、そんな女性が『すべて黄色の物たちが所狭しとひしめ』く中に『幸運の目盛りが少しずつあがっていく』未来を夢見た物語です。
    
    『このさき、自分がどこで生きることになっても、何歳になっても、どうなっても、彼女のことを忘れることはないだろうと思っていた』と、『偶然に辿りついた小さなネット記事で』、吉川黄美子という名前を見るのは主人公の伊藤花。『東京都新宿区内のマンションで昨年五月、千葉県市川市の二十代女性を一年三ヶ月にわたり室内に閉じこめ、暴行して重傷を負わせ』、『傷害と脅迫、逮捕監禁の罪に問われた』『無職・吉川黄美子被告(60)の初公判』が『東京地裁で開かれた』という記事を読んで『胸の奥から塊のような息を吐いた』花は、『黄美子さんだ。間違いない。あの黄美子さんが捕まったのだ』と思います。そして、『今、黄美子さんはどうなっているんだろう。これからどうなるんだろう。そういうのは、いったいどこで知ればいいんだろう』と思う花は、『今から二十年くらいまえ、わたしがまだ若かった頃の数年間を、一緒に暮らした黄美子さん』とその顔を思い浮かべます。そんな花は『あたりまえだけれど、わたしはこの事件には関係ない。心配することはなにもない』と、『自分に大丈夫だと言い聞かせ』ます。『あれから長い時間がたって、すべては過ぎ去って、終わったのだ』と思う花は、『バイト先のグループラインに』、『昨日から少し咳が出ています。熱はないのですが、念のため、今日はお休みさせていただけると助かります』とメッセージを送ります。『五日まえに緊急事態宣言が出され』たという状況の中『惣菜屋の販売スタッフとして働いていた』花。すぐに『お大事に』という返信があり休みとなった花は『押入れの棚から箱をとりだし』『まだ動くのかどうかわからない携帯電話に充電器を差し』ます。息を吹き返した携帯電話のアドレス帳から加藤蘭、玉森桃子という『ふたりの番号を記録』した花は『加藤蘭の番号に、電話をかけ』ます。『加藤蘭さんの…番号でしょうか』、『あの、花です』、『伊藤花って言って、昔、一緒に』と話しかけると『…あの花ちゃん?』と返す蘭。そんな蘭に『電話をしたのは、じつは黄美子さんのことで』と話す花は『黄美子さんが捕まったんだよ…いろいろがその、ばれるかもしれない…わたし、昨日からずっと不安で、その、警察に行って話したほうがいいのかなって思って』と続けます。それに『会って話したほうがいいかも』という蘭の提案で約束をして電話を終えます。そして、二十年ぶりに再会した二人。花は蘭に黄美子の事件について調べた情報を伝えます。それに『なんで花ちゃんが、そんなびびってるわけ?関係なくない?』と言う蘭に『黄美子さんの家に、たとえば当時の…ほら、カードの束とかが残ってたら、警察からしたら、これなんなのってことになるんじゃないかと思って』と気持ちを伝える花。『わざわざ警察に行って、昔の関係者ですって話しようと思ったわけ?』と返す蘭は『考えすぎだって』、『死ぬほど昔の、誰も覚えてないようなことで悩んでもしょうがないじゃん』と続ける蘭は、『終わったことだよ。何回も言うけど、昔のことだしね。ただの過去』、『ぜったい警察とかそういうのなしでね。まじ意味ないから。百パー余計なことになるからね。ほんと、花ちゃんそこはよろしくだよ…もう忘れてね。まじで』と花を『まっすぐに見据えて言い』ます。そして、『わたしの電話番号、消しといてくれる?わたしも花ちゃんからの着信、ちゃんと消しとくから』と言うと場を後にした蘭。一人残された花は『すぐに席を立つことができ』ないでいます。そして、『初めて黄美子さんに会ったのは、わたしが十五歳の夏だった』という二十余年前のことに思いを馳せていく花。そんな花が過去に経験した壮絶な人生とその先の今を語る物語が描かれていきます。

    “十七歳の夏、親もとを出て「黄色い家」に集った少女たちは、生きていくためにカード犯罪の出し子というシノギに手を染める。危ういバランスで成り立っていた共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解し…。人はなぜ罪を犯すのか。世界が注目する作家が初めて挑む、圧巻のクライム・サスペンス”と内容紹介にうたわれるこの作品。単行本で実に608ページという圧巻の物量にまず慄くこの作品の帯には”人はなぜ、金に狂い、罪を犯すのか”とも書かれています。内容紹介、そして本の帯から類推できるようにこの作品には金に狂った登場人物たちの”カード犯罪”の闇が描かれていきます。

    13の章から構成されているこの作品ですが〈第一章 再会〉と〈第十三章 黄落〉が現代、その間に挟まれた11の章には主人公の花が振り返る二十余年前の時代が描かれています。この時代の対比が絶妙な味わいを見せてくれますのでまずは見ておきましょう。この作品は2021年7月24日〜2022年10月20日まで「読売新聞」に連載されていたようです。新聞を読まなくなって久しい私としては新聞にこのような小説が連載されていたという事実にまず驚愕しました。当時リアルで読まれていた方にしてみれば結末を読むまで新聞を解約することができなかったのではないかと思います。昨今、発行部数が減る一方の新聞としては読者を減らさぬようにさまざまな工夫をされているんだなと本筋でないところにまず関心しました。少し脱線しましたが、ポイントはこの連載の時期です。この時期と言えば何をおいても『コロナ』です。現代を生きる私たちが味わった暗黒の時代、コロナ禍。そんなコロナ禍を扱った作品には島本理生さん「2020年の恋人たち」、寺地はるなさん「川のほとりに立つ者は」、そして瀬尾まいこさん「私たちの世代は」などなど数多の切り口から描いた作品がありますが、この作品で川上未映子さんが描くのはコロナ禍の始まり、世の中がまだ混沌としていた時期の描写です。

     ・『海外の報道にはだんだん恐ろしいものが増えてきて、先月末頃から今月の頭にかけて、日本もいよいよロックダウンをするとかしないとかの噂が流れはじめた』。

     ・『五日まえに緊急事態宣言が出され』、『ドラッグストアからはマスクとか消毒液とかトイレットペーパーがごっそり消えて、人もいなくなり、わたしのバイト先でも対応に追われることになった』。

    この辺りは今となっては懐かしささえ感じるコロナ黎明期の描写ですね。マスクはまだしもどうして『トイレットペーパーがごっそり消え』たのか、冷静に見れる今となっては意味不明な状況がありました。

     ・『客同士でマスクをつけるつけないで言いあいになったり、感染症対策が充分じゃないなど、クレームの電話もかかってくるようになった』。

    これもそうでしたね。もう思い出すだけで辟易です。遡ること10年ほど前には東日本大震災もありましたし、コロナ禍が終わったと思ったら、ウクライナ危機に、今度は中東危機、そして異常気象と私たちは人類の長い歴史の中のとんでもない時代に生まれてしまったものだと改めて思います。またまた話がそれましたが、これが今の時代を描くリアルさだとすると比較されるのが二十余年前の描写です。

     ・『ノストラダムスの大予言がどんなものかを身ぶり手ぶりを使って説明していた』。

    そうです。二十余年前と言えば世紀末。

     ・『再来年にやってくる二〇〇〇年はミレニアムと言ってなにかが起きるとか起きないとか言われている』。

    そんな時代でもありました。そこにあの時代を象徴するこんな内容を登場させる川上さん。

     ・『カラオケ画面に浮かびあがってきたのは〈X JAPAN「紅」〉という文字で、バラード調の、重厚で切ないような伴奏が流れはじめた』。

    それは単にこの一文で終わりません。

     ・『お前は走り出す なにかに追われるよう  俺が見えないのか すぐそばにいるのに』

    という歌詞が引用され、

     ・『激しい曲も素晴らしかったけれど「ENDLESS RAIN」というバラードには涙が出た』。

    と他の曲の話まで展開し、さらには、

     ・『元「X JAPAN」のギタリストが急死した』

    ということまでがこの小説内には記されていきます。昨今、『X JAPAN』のメンバーが個々に活躍されている姿は見ますがこのこだわりはどう考えても何か意味があるとしか思えません。作者の川上さんはその理由をこんな風に語られています。

     “おなじ夢をみて涙を流して狂騒に身をあずけ、やがて破綻する彼女たちの出会いの儀式にふさわしい楽曲は、歴史的な解散を経て、メンバーが非業の死をとげるX JAPANしかなかった”。

    過去の時代を小説内に描く作品は数多あります。私はそれぞれの作家さんが過去の時代を象徴する風景、出来事を何にされるかに強い関心があり、意識して読んでいます。しかし、その大半はあくまでその時代を読者に思い起こさせることで、その作品が描いている世界観をそんなイメージに結びつけていく、その起点の一つにすぎません。しかし、この作品では川上さんご自身がおっしゃっているように、この作品の描く二十余年前を語るには”X JAPANしかなかった”と、その選択に深い意味を込められています。これから読まれる方には『X JAPAN』の記述を流し読みするのではなく、是非とも引用された歌詞を含め登場人物たちの生き様に重ね合わせながら読まれることをおすすめしたいと思います。味わい深さひとしおな物語世界をそこに感じられると思います。

    そんなこの作品は、冒頭に花の思いとして語られる次の一文が象徴する、過去に出会った一人の女性との出会いと別れ、それが主人公の花の人生にどれほど深く刻まれているかを見る物語と言えると思います。

     『このさき、自分がどこで生きることになっても、何歳になっても、どうなっても、彼女のことを忘れることはないだろうと思っていた』。

    それこそが、『東京都新宿区内のマンションで昨年五月、千葉県市川市の二十代女性を一年三ヶ月にわたり室内に閉じこめ、暴行して重傷を負わせた』と、ネットと記事に記された吉川黄美子と過ごした二十余年前の数年間の出来事です。『父親はほとんど家に居つかない人』という中での母親との二人暮らしを送っていた花。しかし、そんな母親も『酒を飲むのが好きで、友達も多く、そして流されやすい性格をしていた』という中に、『朝起きて隣に知らない女の人が寝ている』という展開の末に黄美子と知り合った花は、その人生に深く関わりを持つことになります。物語はそんな黄美子のことをネットの記事で知った花が居ても立っても居られない状態になり、かつて共に時代を過ごした加藤蘭にコンタクトを取るところから始まります。ネットの記事はあくまで花とは関係のない犯罪により裁判の被告となっている黄美子のことを書いていますが、そこに『わたしは、黄美子さんが、わたしたちとの過去を話していないかどうかを、恐れていた』と過去の出来事の発覚を恐れる花の姿が描かれます。そんな花の脳裏に蘇るのが、過去の日々です。

     『あの家で、みんなで過ごした時間が、脈絡なく繋ぎあわされた映像みたいに甦る』。

    『あの家』と語られるものがこの作品の書名ともなっている「黄色い家」に繋がるのですが、その詳細はネタバレとなるため伏せます。しかし、『黄美子』という書名との関係性を匂わせる重要な登場人物の存在がある以上、最低限触れておきたいと思います。それこそが、『風水的にも、いいらしいです…黄色は金運アップなんです』と意味を持って『黄色』にこだわりを見せる主人公・花の姿です。

     『黄色は金運。金運とは、自分のところに金が入ってくる流れのことだ』、『そのときどきの努力もあるだろうけど、基本的には黄色の運のおかげであるという強い思いがわたしにはあった』。

    そんな花の思いと、『黄色』を名前に含む黄美子の存在。花は黄美子の他に蘭、桃子の四人で「黄色い家」に暮らしながら『金運』に任せて闇の世界へと足を踏み入れていきます。それは、とても奇妙な共同体にも映ります。『金運』に支えられた危ういパワーバランスの中に生きる四人の女性たち。

    “書きたかったのは家との相克というか、疑似家族のように暮らす女性たちの関係の変化です”

    そんな風に作者の川上さんがおっしゃる通りそこには女性たちの複雑な思いが見え隠れします。そこに世紀末独特の雰囲気感、上記した『X JAPAN』の描写などが相俟って物語は実に不安定な様、何か起こる感を読者に抱かせながら突き進んでいきます。そして、逃げ場のない焦燥感の先に花が見る世紀末の結末に描かれる物語、それから二十余年後の今を生きる花の『黄色』への思いを見る物語。単行本608ページという圧倒的な文章量が魅せる複雑な思いの交錯するその結末に、花の幸せを願いながら本を閉じました。

     『そう、黄色、黄色だ、黄色をちゃんとしなければ ー』

    『黄色』にこだわり、『黄色』を名前に含む黄美子との過去を振り返りながらコロナ禍を生きる主人公の花。そこには世紀末の世に極めて危うい橋を渡りつつ『金運』に支えられた人生を生きてきた花の姿が描かれていました。世紀末の世に『X JAPAN』が意味を持って取り上げられるこの作品。”カード犯罪”の恐ろしさとそれに関わる者たちの安易さに呆れもするこの作品。

    単行本608ページという圧倒的な物量にも関わらず、スピード感に溢れ、ぐいぐい読ませる川上さんの筆致に、あっという間に読み切ってしまった圧巻の物語でした。

  • すごいものを読んでしまった。
    内容としては、本の帯のコピー「人はなぜ、金に狂い、罪を犯すのか」これに尽きるのだが、改めて主人公の花の人生をふりかえるとき、どこかで抜け出すことができたのか。そもそも金を得ることなく、幸せに暮らすことができたのか。
    つらい環境を抜け出すために金を求め、一つ上の階段を登るために金を追い、維持をするために金に縛られ、気づいたときには金に人生が狂わされている。見た目や中身が別人と思えるほどに。金とは果たして何なのだろうか。
    読み終えたときに、ぐったりと疲れてしまった。

    余談だが、川上未映子さんらしい小ネタ(エヴァとか、ラッセンの絵や、その顛末とか笑)は今作も健在。通して重苦しい雰囲気ではあるが、箸休め的なアイテムになっていてよかった。

  • 感想のみ書きます。

    善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作ーと帯にありますが、黄美子は善だったのか、それとも悪だったのか…。

    行き場のなかった高校中退の花は黄美子がいなければもっと酷い目に遭っていたかもしれないと思います。
    十七歳はまだ子どもです。
    ひとりでは生きられません。


    P429より
    まともな仕事についてまともな金を稼ぐことの大事さ。でもわたしがわからなかったのは、その人たちがいったいどうやって、そのまともな世界をまともに生きていく資格のようなものを手にいれたのかということだった。どうやってそっちの世界の人間になれたのかということだった。わたしは誰かに教えてほしかった。


    花の気持ちは痛いくらいわかりました。
    私だっていつ花のような境遇になってもおかしくなかったです。
    けれど、周りがちゃんとやってくれたから今はこうしていられます。
    人なんていつどうなるのかわかりません。

    花には頼ることのできない(200万円も子供から平気で奪っていく)母親しかいなかったのです。
    黄美子さんと、黄色い家は一時、花の幸福の象徴でした。だからそれを守るために犯罪にも手を染めました。

    蘭や桃子は「わたしたちは黄美子さんに連れていかれたのだ」と言いましたが、花にとって黄美子さんとの関係はラストシーンが物語っている通りだったのだと思います。

    • まことさん
      naoちゃん♪

      来年度も参加、嬉しいです!
      Twitterを先にみたので、あちらにどうしても、言っておきたかったことだけ、DM送らせていた...
      naoちゃん♪

      来年度も参加、嬉しいです!
      Twitterを先にみたので、あちらにどうしても、言っておきたかったことだけ、DM送らせていただきました。
      こちらこそ、フォローありがとう!
      2023/02/27
    • naonaonao16gさん
      まことさん

      こちらこそありがとうございます!
      引き続きどちらでもよろしくお願いしますね♡
      まことさん

      こちらこそありがとうございます!
      引き続きどちらでもよろしくお願いしますね♡
      2023/02/28
    • まことさん
      naoちゃん♪

      また、講座に出たときは様子を訊かせてもらえれば嬉しいです。
      こちらこそよろしくね!
      naoちゃん♪

      また、講座に出たときは様子を訊かせてもらえれば嬉しいです。
      こちらこそよろしくね!
      2023/02/28
  • 長かった‥‥読み終わっての正直な第一声です。
    本を開いている間、ずっとしんどかった。
    四十歳の花が、ある時、ネットニュースで二十年前に一緒に住んでいた黄美子さんの名前を見つける。六十歳の黄美子さんが、二十代の女性を監禁し暴行した罪に問われ初公判が開かれたというもの。
    そこから、二十年前に花と黄美子さんの間にどんなことがあったのかが綴られていきます。もうずーっとずーっと長く長くしんどいほどにずーっと。
    でも、ネットニュースで黄美子さんに対する印象操作をされている読者は違和感を持ち始めます。黄美子さんって、あんな事件を起こしてしまうような人?と。

    この小説の中の大人たちも子どもたちも、犯罪に手を染めていくのですが、そうせざるを得ない状況、理由があり、誰が悪いのか分からなくなってきます。
    そして当人たちも悪いのは自分ではない、と自分に言い聞かせるかのように、自分に都合の良いストーリーを作り上げていきます。
    コナン君、真実は一つではないですよ‥‥真実は人の数だけある。さらに、自分に都合の良い真実を語る人が出てくると、もう部外者は何を信じたらいいのか分かりません。
    結局、第三者も自分に都合の良いものを信じるのでしょうね。その方が楽ですから。

  • ★5 お金、お金、お金… 少女が狂い、必死にかき集めたお金の行きつく先には何があったか #黄色い家

    ■あらすじ
    十五歳の夏、主人公の花は黄美子さんに出会う。いつも両親が居つかない家庭で育った花は、優しく大人な黄美子さんの魅力に惹かれていく。
    その後家を出た二人はスナックを経営し、友人たちとひとつ屋根の下に暮らし始める。しかし様々な不幸な出来事が彼女たちの暮らしを圧迫し、ついに花は紹介された犯罪に手を染めてゆく…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    お金って何だろうか。

    人を救うこともあれば、狂わせることもある。現実でもあり、可能性でもある。持っている量が少ないと周りから見下され、追い詰められ、争いまでおきてしまう。本作はそんなお金を中心に、幼いころ家庭に恵まれなかった少女が大人の社会を生き抜ぬいてゆく物語です。

    主にストーリー展開ではなく、きめ細やかに表現されている心情描写で読ませる純文テイストな作品。豊潤なセリフと強い情念を緩急つけた文章で綴られており、読み手を惹きつけてやみません。

    主人公である花の心の叫びが強烈で、生き抜くことへの執着、必死さと責任感が肌に痛くつきささる。普通の生活を送るということの難しさ、どうすれば一般社会に入っていけるかという疑問。本人は死活問題なのに、周りはあたりまえのようにやっていることが実現できない。

    そして彼女の間違った成長とそれでも変わらない純粋さの抗い。犯罪と分かっていても手を出しちゃう気持ちが分かり過ぎて… もちろん犯罪はしてませんが、私もかつて大学を途中で辞めて苦労したことを思い出しました。

    もう一人の主人公である黄美子の引力が強烈、もはや聖母マリア様。その日暮らしで無責任な人だけど、誰にでも無償の愛を提供してくれる慈愛の人。花にとっては大金なんかよりもずっと重要な存在で、人生を救ってくれた人です。

    愛では飯は食えませんが、愛がないと心と体が食われてしまう。花には黄美子がいてくれて本当によかった…

    ■ぜっさん推しポイント
    本作はお金に対する価値観を様々な登場人物の視点で語られている。

    お金とは…生活に必要なもの、贅沢をするもの、努力に関係なく不公平に与えられるもの、弱い者から奪い取るもの、唯一裏切らないもの、そして夢を実現するもの。

    お金を支配されてしまう人生と、お金がなくて不自由な生活を送る人生。どちらのほうが狂ってないのでしょうか。

    • 月詠さん
      読了お疲れ様でした。
      お金ってなんなんでしょうね?
      簡単にお金が欲しいと言いますが・・・
      本当は、お金で買える物やサービスの方が欲しい...
      読了お疲れ様でした。
      お金ってなんなんでしょうね?
      簡単にお金が欲しいと言いますが・・・
      本当は、お金で買える物やサービスの方が欲しいんだと私は思っております。
      秋様のレビューいつも楽しみにしております。
      同じ作品を読んだのに・・・
      自分の表現力の無さに落胆するばかりです。
      いつの日か、秋様の様なレビューを書きたいと思っております。
      2024/04/06
    • autumn522akiさん
      月詠さん、こんばんわです~
      コメントとお褒めのことば、ありがとうございます。
      本作は本質は純文学だと思うので、レビューは難しいですよ。苦...
      月詠さん、こんばんわです~
      コメントとお褒めのことば、ありがとうございます。
      本作は本質は純文学だと思うので、レビューは難しいですよ。苦労しました。

      お金があれば好きなものを購入でき、その先に幸せな時間や環境が手に入れられる。ということなんでしょうが、手に入れるためにどんな手段であってもいいんでしょうか。

      ただお金に苦労している人はきれいごとなんか言ってられない、でもその分、幸せを感じる心が薄くなっていく。まだ社会にでていない未成年には、あまりに酷なお話でしたね…

      レビューといえば、この本はおすすめですよ。機会があれば是非どうぞ。
      https://twitter.com/autumn522aki/status/1775493247839981655
      https://www.amazon.co.jp/dp/4799329502
      2024/04/06
  • フォロワーさんの評価が高かったので、これまた単行本を新品で購入(^^)

    あぁ。。。
    また毒親か。。。
    親ガチャに失敗した少女の話か。。。

    と何となくどょーんとした気持ちになったが読み進める。



    東村山のはずれの小さな町の古くて小さな文化住宅に母と2人で住んでいた花。
    水商売で人に流されやすい性格の母。

    母が花を置いてどこかに行ってしまったある日、花の横には知らない女性が眠っていた。
    黄美子さんというその人は、花を温かい気持ちにしてくれる人だった。
    しかし黄美子さんもある日突然居なくなってしまう。黄美子さんが居なくなると、母親が家に帰ってきた。

    花は学校を卒業したら家を出ようとバイトに明け暮れるのだが、必死で貯めたお金を母親の恋人に盗まれてしまう。

    そんなある日、バッタリ黄美子にでくわす。
    もう一度黄美子と暮らしたいと思っていた花は、黄色美子とれもんというスナックを始める。スナックで蘭と桃子と意気投合し、4人は同居を始める。



    正直、私にはきつい本だった。
    黄色は風水の金運の黄色。

    しっかりしている花は、よかれと思ってだんだんと4人のリーダー的存在になっていくのだが、、、

    いつのまにか、お金、お金、お金。。。

    あー、この負のスパイラルから花は抜け出せるんだろうか。。。

    花がお金を貯める度に、何故かヒヤヒヤしてしまう私。
    また盗まれちゃうんじゃ?ハラハラドキドキ。

    凄い苦しい本だったが、文体は読みやすく、情景も想像しやすく、リアリティを持ったまま頭の中にスイスイ思い浮かべることが出来た為、この厚みにも関わらず、かなりのスピード感を持って物語が疾走していった。

    • bmakiさん
      naonaonao16gさん

      おはようございます(^^)

      お疲れました(笑)
      終始暗くて、ちょっと幸せを感じられなくて、キツか...
      naonaonao16gさん

      おはようございます(^^)

      お疲れました(笑)
      終始暗くて、ちょっと幸せを感じられなくて、キツかったです^^;

      凄まじい物語で、物語の勢いというか、展開、情景も、世界観も凄かったし、読む時間によってはかなり自分に食いついてくるような作品だなぁと思いました。

      naonaoさんの感想の方が、みなさん心奪われると思いますよ(^-^)

      沢山の感想を、短い時間で流し読みしていますが、naonaoさんの感想って、ぱたっと目に留まりますもん。

      感想自体が一つの物語になっているからなんでしょうね(^-^)
      2023/04/17
    • naonaonao16gさん
      bmakiさん

      お金を稼ぎまくっている、華やかで煌びやかなシーンも、その先の転落が見えているから幸せな気持ちで読めなかったですよね…

      最...
      bmakiさん

      お金を稼ぎまくっている、華やかで煌びやかなシーンも、その先の転落が見えているから幸せな気持ちで読めなかったですよね…

      最後は、こちら側で強引に幸せを祈るしかないような世界観ではありました。

      それでも、ものすごくこの作品に圧倒されてしまって、やはりわたしはこういう暗い作品好きだよな~と、改めて感じさせていただきました笑

      わたしの長すぎるレビューを目に留めていただきありがとうございます!
      嬉しいです、引き続きよろしくお願いします!
      2023/04/17
    • bmakiさん
      naonaonao16gさん

      その先に転落があるのか、、、私には予測出来なかったのですが、それでも何だかずーっと怖い怖い怖い、、、と思って...
      naonaonao16gさん

      その先に転落があるのか、、、私には予測出来なかったのですが、それでも何だかずーっと怖い怖い怖い、、、と思ってしまいました。
      そのくらい身に迫るような臨場感ある物語だったのだと思います。

      naonaoさんの感想は、いつも圧倒的で、それはもう一つの小説と読んでいいものだと私は思っています。

      私は多分、あんまり苦労無く、ぬくぬくと育ってしまったタイプなので、気安くnaonaoさんの重厚な感想にコメント出来ていないのですが、いつも感心しまくりです。

      こちらこそ、今後とも宜しくお願いしますm(_ _)m
      2023/04/17
  • 2024年本屋大賞ノミネート作品
    途中までは面白かった。中盤で長いなぁって思いはじめて、結末も何だろう、普通。想像を越えなかった。
    読者がどこに感情を置いて読み進めるかによって、捉え方が変わってくるのかも知れません。
    普通って何?って感情支配されていく中で、人って正しい判断が出来なくなってしまう生き物なんですかね。ちょっと読み疲れました。

  • 10代の少女が貧しさから抜け出す為にカードの出し子をし、財産を築いたがいくらお金が貯まっても不安がなくなることはなくやり続けるしかない。本当に欲しかったのは仲間、平穏それを追求していくのが人生かなと思いました

  • 何度途中でやめようと思ったかわからない。
    決してつまらないからではない。
    辛いのだ。
    主人公の花さんがどんどん追い込まれ、
    泥沼でもがいているのが辛いのだ。
    川上未映子さんの小説にふれるのは初めてだ。
    これでもかこれでもかと深い感情を言語化する彼女。
    ドストエフスキーのようなおどろおどろしい文体ではない。綺麗な読みやすい文体でありながら深淵をえぐる。
    貧困に苦しむ若者があるいは行き場をなくした若者が犯罪に染まっていく。
    他に道がないかのように。
    最初のドキドキにもなれ、平坦な気持ちに変わり、
    最後には自分で選んだことを人のせいにして逃げていく。
    でも、花さんはちがう。
    犯罪に手を染めてもどこまでも人を信じ、自分の良心を失っていない。
    最後にはほんの少しだけ光が残った。

    • ゆっきーさん
      きれいな読みやすい文体だけれど、中身はつらく苦しかったですね…。
      最後のシーン、私も光を感じて、ちょっと泣きそうになりましたヽ(;▽;)
      きれいな読みやすい文体だけれど、中身はつらく苦しかったですね…。
      最後のシーン、私も光を感じて、ちょっと泣きそうになりましたヽ(;▽;)
      2024/02/28
  •  あぁ〜、どっと疲れる読書体験でした。久々に「凄い」と感嘆する小説でした。〝疲れ〟の原因は、物語の濃密さです。好き嫌いを超越する程脳内を痺れさせ、後を引きます。もう、読んでみてください! としか言いようがないです。下手に語ると陳腐になります。

     本作は、主人公・伊藤花の(封印していた)遠い過去の記憶、それも地獄のような黒歴史を回想する物語です。あらすじは基本的に割愛します。ただ、物語の主軸は、疑似家族の誕生から崩壊までの流れです。
     貧困の連鎖から追い詰められていく過程の描写が秀逸で、家・お金・犯罪を中心としたエンタメ性やスピード感にも惹きつけられます。
     加えて、最大の凄さが花の心理表現です。読み手は心揺さぶられます。「生きていくにはこれしかない。正しくはないけど間違ってはいない」ともがきながら、「お前の人生どうなんだ?」と自問する場面‥、切ないです。皆さん、花の心の慟哭を訊いてください!

     経済格差、(最近多い)闇バイト等についての問題提起の側面も痛感します。子どもが自力では変えられない、家庭環境の違いがあるのは今に始まったことではないでしょうが、コロナ禍で経済格差や教育格差の状況が深くなったのでは? とも言われていますね。
     せめて、子どもたちが将来悲劇を招かないために、どこかで立ち止まり自己修正力を発揮する術を身に付けてくれたら‥と切望します。それでも結局、幼少期からの親の指導なくして、こうした力は育たないんでしょうね。親の責任は大きい‥。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』で第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。2019年、長編『夏物語』で第73回毎日出版文化賞受賞。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。その作品は世界40カ国以上で刊行されている。

「2021年 『水瓶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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