- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120056642
作品紹介・あらすじ
森林太郎(鴎外)は明治14年(1881)7月、満19歳で東大医学部を卒業。同年12月に陸軍に出仕するまで、千住で開業医をしていた父の診療を手伝っていた。卒業時の席次が8番と不本意なものだったため、文部省派遣留学生としてドイツに行く希望はかなわなかった。幼少時から抜群の秀才として周囲の期待を集め、それに応えつづけた林太郎にとって、わずか半年足らずとはいえ、例外的に足踏みの時代だったといえる。
本作は『鴎外青春診療録控 千住に吹く風』の続編。自分の将来について迷い煩悶しつつも、父とともに市井で庶民の診療に当たっていた林太郎が、さまざまな患者に接しながら経験を積み、人間的にも成長してゆく姿を虚実皮膜の間に描く連作小説集である。
著者紹介 山崎光夫(やまざき・みつお)
1947年、福井市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。85年『安楽処方箋』で小説現代新人賞、98年『藪の中の家 芥川自死の謎を解く』で第17回新田次郎文学賞を受賞。小説に『北里柴三郎 雷(ドンネル)と呼ばれた男』『殿、それでは戦国武将のお話をいたしましょう 貝原益軒の歴史夜話』など。医学・薬学関係に造詣が深い。
感想・レビュー・書評
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待ってました!
不幸なアクシデントで卒業試験に思うような成績を残せず、
父の診療所を手伝う若い日の鷗外こと森林太郎。
本書は父の診療所での日々の第二弾。
第一弾が面白かったので、期待していた。
良かったなぁ~~~
何が良いって、父と鷗外のやりとりがいい。
森家の静かな、ゆるがないあたたかさがよい。
今回もどれもよかったのだが、とりわけ印象に残ったのが、火事場の話。
「忘れえぬ声」。
火事場で足の悪い母親を助け出したのは誰???
から始まるストーリイ。
深夜、林太郎が火事場へ応急処置のため駆けつけ・・・
父は、重傷者のために、診療所で寝ずの番をする。
帰ってみると脱ぎ捨てたはずの着物がきちんと畳まれていた。
母がしてくれたのだった・・・
父も穏やかにほほえむ・・・
良いなぁ、うるさくない。
明治の家庭は、こんな風に言葉にしなくても、ちゃんと通じるんだね。
できれば、林太郎さん、ドイツへ行かないで、ずっと父上と
診療所にいて欲しい、と思ってしまう。
なぜか心に染みる小説。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
近藤勇。北里柴三郎。ほか、リアルな名前が並び父静男の立派な立ち振舞い。感動しました。
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父親の手伝いをしながら将来を模索する若き鴎外。今回は人との関わり合いと父親に対する尊敬と苦面して医学部で学ばせてくれたことの感謝が随所随所に書いている。家族を大切に思っているのと友人を患者を大切に思っているのがよく分かる。納得できなくても父親の鷹揚な接し方を模範にし丁寧を心がける。大塚製薬の広報のコラムだからか患者を大切にする、家族を大切にするを一貫して話が流れている。
そして関係ないが、底辺でもがいて一生を終わるより、てっぺんにいて経営者や著名人と交流する方がうるおいのある生き方だよなぁと
うらやましく思う -
淡々とした語り口で描かれる、明治の穏やかでささやかで逞しい庶民の生活ぶりと、その渦中の林太郎と教科書に載るような歴史的な事件や有名人との交差の様子が面白かった。漢方と西洋医学が混在している当時の医療や薬の事情が垣間見れるのも興味深くて。迷いつつ悩みつつ、20歳の林太郎の青春の日々が微笑ましかった。