病める心の記録: ある精神分裂病者の世界 (中公新書 153)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121001535

感想・レビュー・書評

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  • 人間誰しも自分が病んでいるのでは無いかと不安になる事がある。衝動的に酒を飲んで暴れたり、普段冷静で落ち着いているのに何か変なスイッチが入ったかの様に怒りをぶつけてきたり。周りにもその様な人間が稀にいるが、本書を読み始めると幼い頃の記憶が蘇ってくる。
    私は小さい頃は泣き虫、それも毎日の様に幼稚園で泣いていた。幼稚園では太った先生が泣き出した私を窓際のロッカーの上に無理やり乗せ、クラスのみんなと「泣き虫毛虫挟んで捨てろ」と歌いながら、2階の窓から突き落とそうとする(今なら大問題だし、実際に落とされてはいない)。一方で知能検査では物凄いスコアで幼稚園中の大人達が驚いていたと言う話を母親から聞いた。いつも「お利口ね」の言葉を聴きながら自分が頭が良いと刷り込まれていただけかもしれないが。両親は共働きで3歳にして1人でバスに乗り遠い街の耳鼻科に通っていた。当時のバス事情か知らないが、毎日運賃を少しずつ誤魔化して乗っていたが、そのお金をどうしていたのかは記憶に無い。
    夜布団に入るとおかしな夢ばかり見る。心電図の様な一本の線がたまに上に激しく振れるが、ただずっと横に流れるだけの夢、前から次々と図形が自分に迫ってくる夢、頭の中で最初は遠くでヒソヒソ話が聞こえてくるが、そのうち何人もの人々が大声で耳元で話し始めて、煩さで叫ぶ夢(今では夢か起きていたのかわからない)。天井の模様が人の顔や動物に見えて襲いかかる様に天井に自分が吸い込まれていく夢。当時家は狭く、家族は川の字になってすぐ隣で寝ているのだが、自分が起き上がってトイレに行く姿を天井辺りから眺めている事はしょっちゅうだった。
    高校ぐらいまでは勉強では誰にも負けた事はなかったが(県でも有数の進学校)、いつも自分をどこか離れた場所から客観的に見ている様な感じがしていた。学校ではいきなり発狂したかの如く叫んだり笑い出したりした事もある。それでも学級委員長だったし、足が早かったからかよくモテた方だと思う。
    今それから数十年が経過し、何となくそれなりに「おかしな部分もなく」生活をしている。結局東大に行ったわけでもなく、仕事も人並み?程度で何とか数万人規模の会社で役職に就いてる程度の普通の人になった。
    本書は精神分裂病と診断された患者の記憶やスケッチを元に、精神科医が文章に焼き直したものである。読み始めは何かよくは判らないが、暗く汚く卑しい様な世界観が脳裏に浮かび、何故か前述した様な自分の記憶と結びついてくる。そこに出てくる登場人物達を自分の記憶の別の人に割り当てている自分に気がつく。いつの間にか本を読んでいるのか自分の記憶を辿っているのか、頭の中で何本もの道が交錯して渋滞している様な感覚に陥っている。正直なところ怖さよりも展開に懐かしさを覚えている。
    こうなると、自分がやけに妄想癖が激しく、人を断定的に悪者や善人扱いして、尚且つ嘘ばかりついていた小学校時代を思い出して吐き気と頭痛までしている。
    人はいつ人になるか判らない。自分という人間、今のあたかも普通に生活している自分がいつ出来上がったのか判らない。だが間違いなく普通に大学を出て就職し、家族を持ち、普通に生活している。この謎を再び強く考えるきっかけになった気がする。こう書くと読んで自分が崩壊でもしないものかと恐ろしくなる人もいるだろうが、一度自分の過去と人格の形成過程を振り返る上では非常に面白い本だと感じる。きっと誰しも未熟で確立されてない自分が、周囲の見えない糸によって操られていき、気づいたら何百本何千本の糸が操る人形、それが自分なのだと気づくであろう。本書に出てくるマネキンの様に。

  • ある精神分裂病者の世界 と副題がついている。十五歳の少年が自らの内面を記録していた。断片的なものだったが医師である著者の関与でまとまりのある物語となった。
    こうしてできた本書の第一部 はノンフィクションのはずだが、完全にサスペンス小説そのものになっている。そのことはよろしくないのだろうが、疑い、孤独、恐怖のため八方塞がりとなり、追い込まれていく様子は真に迫り、読んでいて息苦しいほどだ。
    半世紀以上前の古い本なので医師の対応に首をかしげることもあるが、それも記録と考えたい。

  • 15歳で統合失調症を発症したヒロシ少年の手記を、精神科医の西丸四方による解説とともに収めた本です。

    同級生の少年少女との付き合いのなかで、近所に住む古物商の男性に対する不信感がしだいに大きくなっていき、幻覚や被害妄想に苛まれて入院に至るまでの、少年の不安定な心の内実が示されています。

  • 看護学生時代、精神実習の前の課題がこの本を読むことでした。
    見たことのない、かんじだことのない世界が広がっています。

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著者プロフィール

(にしまる・しほう)
1910年生。1936年東京大学医学部卒業。都立松沢病院、東京女子医専講師を経て、信州大学・愛知医科大学名誉教授、北信総合病院顧問。2002年歿。主な著書『傑出人脳の研究』(長与又郎・内村祐之と共著、岩波書店、1939)『精神医学入門』(1949)『臨床精神医学辞典』(1974)『やさしい精神医学』(1975)(以上南山堂)『臨床精神医学研究』(1971)『精神医学の古典を読む』(1989)『精神医学の臨床から』『精神医学の人と書物』(「西丸四方の本」1-2、1991)(以上みすず書房)『西丸四方著作集』(全3巻、丸の内ハイデ出版社、1992)。訳書 ヤスペルス『精神病理学総論』(共訳、岩波書店、1953)クレッチマー『医学的心理学』(共訳、1955)ヤスパース『精神病理学原論』(1971)クレペリン『精神分裂病』『躁うつ病とてんかん』(共訳、1986)(以上みすず書房)ほか。

「2023年 『精神医学総論 新装版 精神医学;6』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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