- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121009784
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
1091夜
-
[要旨]
強大なカリスマ性をもって、絶対主義政策・中央集権化を支持する官僚・公家・寺社勢力を操り、武家の身で天皇制度の改廃に着手した室町将軍足利義満は、祭祀権・叙任権などの諸権力を我が物にして対外的に〈国土〉の地位を得たが、その死によって天皇権力纂奪計画は挫折する。天皇制度の分岐点ともいうべき応永の時代に君臨した義満と、これに対抗した有力守護グループのせめぎあいの中に、天皇家存続の謎を解く鍵を模索する。
<blockquote>はしがき
天皇家がなぜ続いてきたか、これは歴史家に突きつけられた解かれざる千古の命題である。最近、松本清張氏は極めて直截な形でこの疑問を歴史学界に投げかけられた。
いわく、
その間、天皇家を超える実力者は多くあらわれている。とくに武力を持つ武家集団、平清盛でも源頼朝でも、北条氏でも足利氏でも、また徳川氏でも、なろうと欲すればいつでも天皇になれた。なのにそれをしなかった(中略)。どうして実力者は天皇にならなかったのか。だれもが知りたいことだが、歴史家はこれを十分に説明してくれない。学問的に証明できないのだという。(「神格天皇の孤独」『文藝春秋』八九年三月号)
このような素朴な疑問、また余りにも正当な疑問に対し、歴史学界は真摯に応える必要があるだろう。本書は、松本氏の設問に対し、一中世史学徒として一つの回答を試みたものである。もとよりその叙述が成功しているか否かは読者の判断にお任せするしかない。
本書の構成は、武家の身ではじめて天皇制度の改廃に着手し、いわゆる“簒奪”寸前まで行った足利義満〔1358〜1408.51歳〕の宮廷革命を中心に叙述している。その理由は、天皇家存続の謎を解くカギが、この時期に集中していること、また義満の行実を追うことによって、天皇の権力・権威の内実がおのずから明らかになるからである。しかし、義満の急死という偶然的事情も重なって、結果的に簒奪は不成功に終わった。義満の強大なカリスマ的権威にも拘らず、当時の社会の中核的部分に、簒奪に反対する根強い勢力が存在し、“万世一系”維持へ大きな役割を果たした。皇家存続の謎は、一にかかってその辺の力関係に由来しているといってよかろう。織豊政権・幕藩体制が天皇制度を超克し得なかった事情も、その延長線上で解釈できるのである。戦後歴史学は、天皇制度維持システムの政治力学を、突きつめて考察することを放棄し、近年は非農業民や文化人類学的手法でこの問題を説明しようとしている。しかし天皇制度が、すぐれて政治的存在である以上、あくまで政治史の問題として分析する努力を持続することが不可欠であり、いくら民俗学・人類学的方法をもってしても、そこからは結果論的解釈しか得られないであろう。
</blockquote>
[目次]
天皇家権威の変化(親政・院政・治天の君;改元・皇位継承・祭祀);
足利義満の王権簒奪計画(最後の治天―後円融の焦慮;叙任権闘争;祭祀権闘争;改元・皇位への干与);
国王誕生(日本国王への道;上皇の礼遇;百王説の流布;准母と親王元服);
義満の急死とその後(義満の死と簒奪の挫折;皇権の部分的復活;戦国時代の天皇) -
メモ
天皇制度を考える上ではずせない一冊。
ある時は担ぎ出され、ある時は利用され、ある時は疎まれる存在である天皇。
天皇制度が日本で続く理由は、本人が望んでいるからではなく周囲の人たちが必要としているからじゃないのかな。
-
言わずと知れた中世後期政治史研究の必読文献。足利義満と天皇との壮絶な権力闘争を描く。
その権力描写は勇み足な点も多く、研究史的に継承された点は意外と少ない。しかし当該研究に絶大なインパクトを与えた記念碑的存在であることは確か。