- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121010094
作品紹介・あらすじ
言語学者である著者はトルコ共和国を1970年に訪れて以来、その地の人々と諸言語の魅力にとりつかれ、十数年にわたり一年の半分をトルコでの野外調査に費す日日が続いた。調査中に見舞われた災難に、進んで救いの手をさしのべ、言葉や歌を教えてくれた村人たち。辺境にあって歳月を越えてひそやかに生き続ける「言葉」とその守り手への愛をこめて綴る、とかく情報不足になりがちなトルコという国での得がたい体験の記録である。
感想・レビュー・書評
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Amazonの本ランキングを見ていたら、こちらがベストセラーで目に留まった
著者は言語学である小島剛一氏
(最近はひろゆき絡みでネットを賑わしている)
1970年にトルコを訪れて以来、その地の人々と諸言語の魅力にとりつかれ、調査を開始
まさに言葉通り氏自身の足で歩き回って得られたリアルで得難い体験の記録だ
個人的に「トルコ」という国が好きなのと、実際に一年の半分近くをトルコで過ごした著者の体験が読めるということで惹かれたのだが、いたって地味な感じの(すみません)本書がなぜベストセラーなのか(無知のため)気になった
小島氏は1年の予定でフランス留学をするものの、永住を決意
トルコの諸言語はヨーロッパの言語に比べ、ほぼ未開拓の分野であったため、言語研究の中心地をトルコに
またトルコの少数民族の存在とトルコの自然と人に魅せられ、フランスに住み続けたまま毎年数回トルコを訪れる
1970年代である
当然ながら貧しかったようで、ヒッチハイクでの移動、テントさえ持たない野営(野宿)とのことでなかなかのサバイバルさがうかがえる
しかしトルコである
人々の半端ない親切心
好奇心剥き出しの人たちに囲まれ、チャイが(場合によっては食事も)すぐ出てくる
困ったことがあると、寄ってたかって皆に助けられる
これはトルコに行き、実際に現地の人に触れたことのある方ならおわかりになるだろう
(個人的な話であるが、トルコに行くとヒッチハイク的なことが日常茶飯事であり驚いた 私自身も空港従業員に真夜中、見知らぬ男性の車に乗せられそうになり(もちろん親切心から)何度も断ったが断り切れず恐々乗せていただいた経験がある 有難いがこのような親切を受けることになじみのない日本人にとっては、なかなか勇気が要ることなのだ!)
そのため小島氏の身に起きた驚くほどのトルコ人の親切心は、なんとなく想像できてしまう
さて言語学の方だが、あのオスマン帝国に意外にも公用語はなかった⁉︎ようで実に興味深い
アラブ語、ギリシャ語、アルメニア語、アッシリア語など各言語で問題なかったようだ
また第一次世界大戦後、敗れたオスマン・トルコ帝国は当時の版図の半ば以上失うことになりトルコ共和国へと変換を遂げるのだが、この際もともと多種多様な民族が混在していたところに、住民の言語とは無関係に、軍人や政治家が戦争の結果として引いた国境により民族が入り乱れる
またトルコ共和国はギリシャ、ブルガリアとの間に住民交換を行う
この辺りの背景からトルコには多数の少数民族が存在する
しかしながら一部例外を除き「トルコ国民はすべてトルコ人であり、トルコ人の言語はトルコ語以外にない、トルコ語以外の言語はトルコ国内に存在しない」というのが建国以来の歴史のトルコ政府の公式見解である
トルコ政府の「建前ではない部分」すなわち実はトルコ人ではない人たち(外国人という意味ではない!)の言語を著者は研究する
氏のすごいところは、(おそらく)バックパッカーのような身なりで村々にスルっとはいり、チャイを飲みながら雑談し、実際に友情を深め、そしてあくまで自然な形で、結果研究できてしまう…という姿勢だ!お堅い「教授」っぽさの無い雰囲気、人柄が功を奏している
そして実際にトルコ人ではない日本人の小島氏が、同国が多民族国家・多言語国家であることを証明し、トルコ政府の言論統制を打倒して国政を訂正させてしまうのだが…
実際に歩いて、会って、話して…という体験に基づき打破した内容のため、非常に深くそしてリアルである
ちなみに「国を持たない最大の民族」はクルド人である
また、クルド人の人口が最も多いのがトルコだ
しかしこの事実を理解しているトルコ人はこの当時皆無だったのではないだろうか
(他にも初めて聞く民族、言語が多数登場する)
もちろん氏の研究はトルコ政府には警戒される
実際に身の危険も及ぶ
しかし小島氏は非常に辛抱強く、トルコに対する愛情を持って、機転を欠かせ、知恵を駆使して一人で研究を続ける
国籍と民族の違い、宗教、言語の違い…
ほぼ単一民族に近い数少ない国の日本
島国で守られている日本国民には理解しづらいことが多い
そしてトルコ内において、トルコ人の他民族に対する過剰な反応に正直驚いた
信じられないほどの差別と拷問…
一般的な日本人が知るトルコはほとんどが観光地であり、どちらかというと西側に集中する
親日家が多く、子供たちに「日本人」というだけで、一緒に写真撮って!とせがまれたことさえある
先に記述した通り、人に対し親切で困っている人をほおっておけない体質だ
しかし、この国には我々の知らない奥深く、悲しく、恐ろしい対民族の闇があった
そうどこの国にも光と闇がある
とはいえ、ここまでとは…全く知らなかった…(かなりショッキングな内容も多々あり)
そう一般的なニュース等の情報ではうかがい知ることのできないトルコを良くも悪くも知ることになってしまった
体験談と合わせ、トルコの文化・言語・民族など、堅苦しくなく知ることができる
(特に前半は)海外の生活や体験談が好きな方には、言語学という堅い分野を意識せず読みやすく楽しめる内容である
しかし小島氏の生き様と彼のトルコ、言語に対する真摯な姿勢は重厚さと堅強さがあり、ある意味凄まじささえ感じるほどである
続編「漂流するトルコ」も読んでみたいが、呑気な日本人の自分にとってある意味覚悟のいる書であるのは間違いないであろう -
最近気になる中東の文化を紹介している本かと思ったら、言語学である著者によるトルコの旅の記録でした。めっちゃ面白い。言語学者による旅行記がこんなにもアドベンチャラスなものになるのか!観光ガイドブックのような表面的なものではなく、少数民族に焦点をあてながら自らの体験として紹介しているのです。それもそのはず。1970年当時トルコに魅せられた著者による少数民族調査旅行だったのです。強大なオスマン・トルコ帝国が西洋諸国によって分断されたのち単一民族国家という幻想で統一しようとしていた時期で、少数民族の虐殺・弾圧もある危険な時期。言語もばらばら、宗教もばらばらであることを認めない時期に少数民族の調査目的をひた隠して旅行を続けるのです。現地警察による逮捕だったり、政府からの妨害、人々とのあたたかい交流など物凄い体験がぎっしりつまった1冊です。すさまじい迫力の冒険記となっています。この告発本とも呼べる新書の出版が多言語民族国家を認めるきっかけになったとのこと。う〜ん、凄すぎる。言語=イデオロギーなのですね。単一民族国家とうそぶく日本にも黒歴史があるよね。心を一つにとか甘い言葉も行きすぎると危険な考えとなることに注意しなければならないと感じました。米国寄りにそまった日本の考え方が世界標準に沿っていて「正しい」なんて勘違いしない方がいいということも思い知らされます。
異なる文化背景にともなう翻訳の限界で情報が正しく伝わらないという情報誤差の発生は必ず考慮しなけれなならない問題としてとりあげられています。これはカタカナ英語で表現してなくなるとかではなく概念の話だし、AIで翻訳しても解決しない問題。自分で直接異文化に接することって大事だなと実感。素晴らしい旅本です。旅にでたくなるぞ。
なんと政治的配慮で削られた部分を補足する「補遺編」と続編「漂流するトルコ」もあるそうな。読みたい。 -
新婚旅行のためトルコに向かう機内で読んだ。正直、読むタイミングはふさわしくなかったが(なにせ、本文中に「この国の本当の姿は夜中に警察に連行されて尋問されないと分からない」というくだりがあるのだ)、内容は素晴らしい。トルコは多民族国家であり、共和国成立の過程も複雑である(第一次世界大戦後に欧米列強に分割統治されかかったところを、独立戦争をおこし自国を勝ち取った)。トルコは基本的には軍事国家であり、そのかすかな雰囲気は短い滞在中にも感じられた。
筆者のトルコに対する非難は抑制のとれたものであり、また少数民族に対する眼差しは抑えた筆致からも十分心に響く。トルコ人すら理解できない少数民族の言語を操る日本人がいたということが、また大変な驚き。 -
本書はフランス在住でトルコの少数民族が話している言語を研究している日本人の手記ですが、一貫して本人の体験談をもとに記述されているため非常に生々しい本です。題名にもあるように、イスタンブールやトロイ、カッパドキアなどとは違う、一般の人の目にはまず入ることのないトルコの側面を紹介しています。日本には方言こそあるものの基本的に日本語を皆が話していますし、方言は個性的なものとしてむしろ近年は良いものという風潮が大きくなっている気がします。一方本書が描かれた1980年代のトルコでは言語、方言というものが政治に密接に関係し、自身の話す言語次第では逮捕されることがある、という事実は衝撃的でした。民族、言語、宗教という言葉はもちろん知っていますし、意味もわかっている気がしていたのですが、本書を読んで改めて「民族」とは何か「言語」とは何か、「宗教」とは何か、がつくづくわかっていない自分に気がつきました。現在のトルコではどうなっているのかわかりませんが、本書トルコ理解を促進するためには必須の本と思います。
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トルコで読んでいて少し怖くなった。見えていない部分というのはあるものだ。民族とか宗教というのは、これほど重要視されて縛られるものなんだなあと思った。日本人がのんきだと感じるのは、日本の中で大多数の側の強者の側にいるからか?
それほどまでして、言葉を調べに行く著者の探究心というか研究者魂と人に対する想いに感心する。 -
学問に対してとことん誠実で、忖度も妥協もしないせいでトルコがフィールドなのにトルコに入国できなくなってしまう。かっこいい生き様です。
コメントありがとうございます!
今回も…ですが、アテナイエさんにコメントしたい!と思っているうちにアテナイエさんからコメント...
コメントありがとうございます!
今回も…ですが、アテナイエさんにコメントしたい!と思っているうちにアテナイエさんからコメントをいただきまして…
またしても先を越されました(笑)
アテナイエさんのトルコ絡みの2冊のレビューを興味深く何度も頷きながら楽しくそして少し複雑な気持ちで拝見致しました!
アテナイエさんもトルコ経験者さんなのですね!
あの親切心を受け止めるには日本人は慣れと訓練が必要ですよね(笑)
私は世間知らずの若かりし頃にトルコ人の知り合いの家に泊めていただいたのですが、親切心の度合いの凄さに戸惑いまして(笑)
そして印象に残ったことは、ケマルアタチュルクの肖像画が各家庭をはじめ多くの場所にあること、その後その知り合いのトルコ人と暫く文通が続いたのですが、突っ込んだ会話や話しはしない…という姿勢…です
日本でニュースになりにくい国ですが、複雑な歴史と感情が渦巻いており、知れば知るほど奥深い闇を感じてしまう国ですね
親切でお喋り好きな彼らはある一定の局面において貝のようにピッタリ口を閉じ、雨戸を閉め家に閉じこもってしまう…そんなイメージを受けます
でもトルコはやっぱり良いですね!ご飯も美味しいですし(笑)
また本書は今まで出会った本とはあらゆる面で異なるので新鮮で様々な角度から楽しめるのでオススメです!
特にアテナイエさんのようにトルコの知識と経験をお持ちの方には是が非にも…(笑)
レビューを拝見していると、とってもわかりやすくまとめられていて、しかもご自身の体験や...
レビューを拝見していると、とってもわかりやすくまとめられていて、しかもご自身の体験や思いがたくさんあるので臨場感にあふれていますね。
>日本でニュースになりにくい国ですが、複雑な歴史と感情が渦巻いており、知れば知るほど奥深い闇を感じてしまう国ですね
親切でお喋り好きな彼らはある一定の局面において貝のようにピッタリ口を閉じ、雨戸を閉め家に閉じこもってしまう…そんなイメージを受けます
いや~素晴らしいコメントですね。
もう遠い記憶ですが、イスタンブールの街の中心広場は、なぜあんなに人がわんさかいるのか?(待ち合わせ?おしゃべり?)私が眺めた感じでは、老いも若きも男性だらけで、女性の姿はあまり見かけませんでしたね。モスクの鮮やかで細密な美しさ、チャイやご飯がとても美味しい。例によって鯖サンドをパクつきながら海峡の橋を渡る(まだこんなことはしているのでしょうか…笑?)おのぼりさんツアーでしたが、歴史の古さや宗教の存在感を感じさせます。情勢が安定したら東の方にも足を延ばしたいです。そのまえに、この本をながめて旅に出かけたつもりになってみようと思います♪
再びありがとうございます!
鯖サンド美味しいですよね♪
海上の停泊した船で作っていたので、パフォーマンス的な食事だと思って...
再びありがとうございます!
鯖サンド美味しいですよね♪
海上の停泊した船で作っていたので、パフォーマンス的な食事だと思っていたのですが、美味しくてビックリしました(笑)
今もあるのでしょうか?
そしてどれだけ暑くても熱〜いチャイは最高でした(彼らほどたくさんのお砂糖は入れられませんでしたけど)
アテナイエさんの仰るとおり確かに飲食店のお客は男性が圧倒的に多かったです…
私もいわゆる西側観光地とアンカラしか行っておりませんのでいつか東側にも足をのばしてみたいです(なかなか気軽に行ける場所ではないですが…)。
トルコの懐かしい思い出話にお付き合い下さいまして、また楽しいひとときをありがとうございます♪