新・本とつきあう法: 活字本から電子本まで (中公新書 1410)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121014108

作品紹介・あらすじ

本書は、長年、本づくりに携わってきた編集者が、自ら読む本にどう対しているかを、活字本、電子本、インターネット上の読書、図書館、というテーマごとに示す自在な読書のすすめである。

感想・レビュー・書評

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  •  著名人による読書本は数多くあり、いわゆる名著というものは古いのでどうしても内容が現代に追いついていない場合が多い。しかし読書の本質は変わるものではなく、要は「情報の収拾」ということ。その結論は多くの読書本がたどり着いているものであろう。本書は20世紀に出版されているので、その内容は古そうなイメージがあるが、現状のKindleまでは網羅していないものの電子本の可能性にまでしっかりと言及しており、しかもその本質についても見事に論じているのはさすがというところ。インターネットでの読書にたどり着いてから締めに図書館の利用法を持ってくるあたりはいかにも読書好きらしい。

     意見が分かれるところであるが「本は捨てる」人もいるし「本は捨てない」人もいる。書籍の本質を情報と考えれば前者だし、書籍の本質は情報が具現化した物と捉えれば後者になる。どちらが有益真実と言えるかは分からないが、そうした方法論にあれこれ悩んでいるうちに情報は流れていく。私の場合はとりあえず読んでみてそれから考えよう、というスタンスに落ち着いてしまった。落ち着いてないけど。

     本書をきっかけに図書館を見直すこととなる人も多いと想像する。情報収集として図書館はもっとも経済的なものではあるが、その便宜性ではインターネットに劣る。そこで本書で提案しているのは、図書館は従来のように「〜を調べる」ということではなく、ぶらりと入って目に入った本をパラパラとめくってみる。これはどうしても読みたい本があればAmazonnで検索して注文し、町の本屋へはぶらりと入って立ち読みして偶然出会った本を見つけて買っていく、という住み分けに対応している。

     情報と食は人間が生きていくのに不可欠なもの。着るものや住むところがなくても「絶対に生きていけない」というわけではない。水分や栄養がなければ「生物として生きていけない」。そして情報がなければ「人間として生きていけない」。最近は情報を安易に規制したりといった「情報に対する敬意」が欠けているように思える。もっともこうした情報をないがしろにしているヒト達は一部の情報については重要視している場合が多いのではないか。しかし情報に「良い悪い」はない。「正しい正しくない」もない。情報をすべて流したうえでその受け手が「良いか悪いか」「正しいか正しくないか」判断することである。これは教育という情報伝達手段でも変わることはない。子供に判断力はない、というヒトもいるかもしれないが、教育を受けた子供が重要な判断を下すのは成人してからである。パターナリズムというものは親切なようにみえて人間をコントロールする意図が潜んでいることは覚えておきたい。

  • 筆者が活字本、電子本や図書館についてどう考えるか、どう付き合っているかについて書かれたエッセイ。
    1998年発行の本だが、長年書籍と関わってきた筆者の目は確かだ。2023年現在でもこの本の内容はいささかも古びていない。

  • 元編集者による、本との付き合い方のエッセイ。
    20年前の本だが、当時最新「だった」読書環境を見ることで、答え合わせ的にこの20年の変化を窺い知ることができる。「この本をようやく書き終えようとしているころ、インターネットに「青空文庫」という小さな電子図書館が誕生した」(あとがき、p191)とある。その青空文庫で2019年公開されるはずだった作品たちは、著作権保護期間延長によりさらに同じ期間(20年)だけ眠ることになるのだと思うと、さらに象徴的。

    第1章「活字本とつきあう」:紹介される著者の読み方は、徹底して本を情報として扱うタイプ。モノとしての本の豪華さに関心がなく、必要な個所だけ破いて歩きながら読む。こういう読者が存在し、そういうニーズがあったことを思うに、やはり電子化による本の解体は必然だったと実感。
    第2章「電子本とつきあう」:論じられる電子本はCD-ROMのパッケージ系中心。ここが一番時代の流れを感じる。現在に通じていると思われるのは辛うじて電子辞書くらいで、この時期のパッケージ系電子本は今や閲覧(再生)どころか所在確認も困難なのではないか。
    第3章「インターネットでの読書」:コンテンツがボランティア精神=無料で提供されていることの価値が繰り返し強調されている。2000年代前半くらいまで、インターネットについて書いた本の雰囲気はこのように明るかったなと今では懐かしい。無償文化が商業化されていく過程について、同時期に読んでいたこの本を連想。[ https://booklog.jp/item/1/4532322189 ]
    第4章「図書館とつきあう」:第1章と同じ感想だが、この著者の図書館の使い方はやはり情報収集が主で、デジタルコンテンツの発展と相性がよさそうだ。一方で図書館のメリットとして挙げられている、新刊書店で出会えない本との出会い、貴重資料にぶつかる可能性、一つのテーマについてまとめて読めることという3点は、言い換えれば偶然性と一覧性。検索型のインターネットでは未だ少しカバーしづらい点だ。後半の30年後予測では、端末の使い勝手がそれほど向上することはないだろうと見込んでいるが、現在のスマホ・タブレット隆盛を見るとこちらは危うい。
    ハードウェアの進歩は予想を超えてくるが、人とコンテンツの関係においては依然としてそのままな課題もある。このへんに今後を考えるヒントがありそうでもある。

  • 「本は気軽に破って持ち歩いている。そうしやすいよう、裏表広告のページになるように作られている。歩きながら本を読んでしまう。
    必要とあらば握り飯みたいにぱっと二つに割(って同じ独房の活字に飢えた仲間と同時に読み後で交換す)ることだってできるのである。」

  •  編集者の著者が本(活字本・電子本・オンライン書籍・図書館)について考える。新~とあるが旧版は読んだ事がない。
     まずは活字本だが、雑誌や本を必要なところだけ破いて読むという、編集者ならではというか、思いつかないような読書の方法を述べている。真似をする気はないが、本を作品ではなく情報を伝えるツールと捉えるというのは従来の冊子至上主義に反対する概念で、次に述べられる電子書籍と関係がある。
     GoogleもWikipediaも青空文庫もない約15年前に出版されたので、今の電子書籍事情とは大部異なっているが、主に取り上げられている電子辞書のCD-ROMに関しては今と状況は変わらない。全文検索の可能性や保存容量の縮小は電子書籍において今日でも確かに長所として認められている。
     最後に図書館について述べているが、文献複写やOCRの話をするあたりやはり時代があわない。全体的に考え方としては突拍子だが、それはそれで貴重な考え方なので参考にしたい。

  • [ 内容 ]
    本書は、長年、本づくりに携わってきた編集者が、自ら読む本にどう対しているかを、活字本、電子本、インターネット上の読書、図書館、というテーマごとに示す自在な読書のすすめである。

    [ 目次 ]
    第1章 活字本とつきあう(雑誌は破りながら読む;ふつうの本も破る;本はパンフレットである ほか)
    第2章 電子本とつきあう(電子本は本ではない;電子本も本だ;マルチメディア本をたのしむ ほか)
    第3章 インターネットでの読書(タダの雑誌;知的財産に所有権なし;グーテンベルク計画のゆくえ ほか)
    第4章 図書館とつきあう(図書館散歩派;独学者による独学者のための…;コピーとOCR ほか)

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著者プロフィール

1938年、福岡県生まれ。評論家・元編集者。早稲田大学文学部を卒業後、演劇と出版の両分野で活動。劇団「黒テント」演出、晶文社取締役、『季刊・本とコンピュータ』総合編集長、和光大学教授・図書館長などを歴任する。植草甚一やリチャード・ブローティガンらの著作の刊行、雑誌『ワンダーランド』やミニコミ『水牛』『水牛通信』への参加、本とコンピュータ文化の関係性の模索など、編集者として多くの功績を残す。2003年『滑稽な巨人 坪内逍遙の夢』で新田次郎文学賞、09年『ジェローム・ロビンスが死んだ』で芸術選奨文部科学大臣賞、20年『最後の読書』で読売文学賞を受賞。他の著書に、『したくないことはしない 植草甚一の青春』『花森安治伝 日本の暮しをかえた男』、『百歳までの読書術』、『読書と日本人』など。

「2022年 『編集の提案』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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