アメリカ精神の源: 神のもとにあるこの国 (中公新書 1424)

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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121014245

作品紹介・あらすじ

リンカーン大統領は「ゲティスバーグの演説」でアメリカを「神のもとにあるこの国」と呼んだ。英国植民地から独立して二百年余りのアメリカが持つ精神文化は新大陸で突然形成されたものではない。旧大陸のキリスト教に形成された歴史を継承し、それも近代・中世ヨーロッパ、ローマ帝国、古代ユダヤへと遡る意識を現代アメリカ人は持つ。彼らの心のなかには、いかなる世界が広がっているのか、その多様な宗教生活を鍵に考察する。

感想・レビュー・書評

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  • けっこう納得感ありました。ぬけているピースがいくつかはまったような感じです。
    アメリカとは何か、アメリカ人とは何かを宗教を切り口に考える書です。
    ギリシャローマから連綿と続く、西洋史の一つの終着点として、アメリカをとらえていて、けっして、二百年の歴史しかない国とは扱っていません。
    キリスト教に根ざす精神が、奴隷制度反対を生み、女性解放運動を生んでいく。アメリカのキリスト教はある意味で大陸にはない普遍性をもつ独自の宗教なのである。
    キリスト教も、仏教やイスラム教と同様、分裂もするし、聖典に立ち戻るための原理主義にも陥る。一口にキリスト教徒いっても様々な教会に分かれているのである。
    マグダラのマリアという話が挿入されています。イエスの妻では?と思わせる。実際にそういう解釈もあるそうです。そういえば、イエスは妻帯しているともいないとも聖書には書かれていない。

    気になったのは、以下です。

    ・人間の中には、宗教組織に頼らなくても、ほとんど直観的に神と宇宙と人間の関係、あるいは、神と自分自身の生き方の関係について理解している人、悟りに達している人がいます。
    ・教会に行くということは、子どものときから人生の有限、死について、否応なく考えさせられる訓練を受けるということになる。宗教についてことさら考えなくても、アメリカの中で生きるかぎり、キリスト教の無数のイメージが意識の底に沈殿していく。
    ・イスラエルはキリスト教徒のアメリカ人にとっては、魂のふるさとでもあるのだ。エルサレムはキリスト教を生んだユダヤ教の聖地であり、かつイスラム教徒にとっても七世紀に「岩のドーム・モスク」が建立されて以来の聖地である。
    ・アメリカは、なぜ共産主義を悪と断定したのか。世俗的な権力闘争という要素ももちろん大きかったが、世論の支持を得たのは、共産主義が無神論という一般アメリカ人の神経を逆なでする教条に基づき、共産主義国での宗教団体、聖職者、一般信者への過酷な弾圧を繰り返したからである。

    ・十二歳のころ初めて新約聖書を読んだ時、もっとも衝撃を受けたのは、イエスが愛し信頼した弟子たちの一人のユダから裏切られることを予知しながら、その結果の処刑という運命を受け入れ、しかもユダをも含めた人類の罪を背負い、許しながら息が絶えたというくだりであった。
    ・毎日曜日、世界中のミサで読まれる聖書は旧約のどの箇所、使徒の手紙のどの箇所、新約のどの箇所とすべて同じで、一年を通じて、その週は何が読まれるということは決定さあれている。
    ・短期間のうちに、アイルランド人がアメリカ社会に同化したのみならず、政治的な力をふるいだした理由は、彼らの母国が英語であったこととよく言われる。しかし、もう一つの理由は、移民の受け皿としてカトリック教会がすでに救済手段を持っていたことにある。その背後には精神的な支えとしてカトリック教会があった。

    ・メイフラワー号の移民で生き残ったピルグリムたちは、上陸以来の自らの勤労による農作物の豊作と植民の成功を神に感謝するために、友好的だったインディアンたちを招いた食卓を囲んだ。その食事に四羽の野性の七面鳥が料理されたために、今でも感謝祭では七面鳥のローストが主菜である。
    ・日本は、キリスト教徒は、人口の1%なのに、聖書が長年のベストセラーという不思議な国である。

    ・ユダヤ教の預言者にはいくつかの特徴がある。まず、彼らは孤高の人間であり、民衆が聞きたくない現状批判をゆるめず、現状打破を呼号する危険人物である。
    ・キリスト教の礼拝の朗読で、もっとも重要な部分は新約聖書、それも四福音書にかかれたイエスの教えである。礼拝でも旧約聖書、使徒の手紙の朗読の時は信者は席に座って聞くが、福音書の朗読の時は、全員起立したままで聞く。
    ・異教徒への布教で最大の功績があったのはイエスの直弟子ではなく、しかも最初はキリスト教の迫害に熱心だったローマ市民のパウロであった。
    ・ユダヤ人以外の改宗を認めて以来、キリスト教は徐々にローマを中心としたゆるやかに統一された宗教へと発展した。
    ・本来「カトリック」という言葉は、普遍、一般という意味で、今でも、英語では小文字であればその意味である。教会の「カトリック」の場合は、大文字を使う。

    ・奴隷制に対して沈黙していたキリスト協会の偽善については、最初に沈黙を破ったのは、聖職者自身であった。組織として奴隷制度反対の声を上げたのは、当時、過激派とみなされていたクエーカー、なかでもジョン・ウールマンであった。
    ・奴隷制の悲惨さを描いた小説「アンクルトムの小屋」を書いたハリエット・ビーチャー・ストウ、この小説は全国で読まれ、南北戦争の引き金となったといまでいわれている。
    ・1960年代から現代にいたるまでのアメリカの男女同権運動、あるいは、女性解放運動は、百年以上前、宗教改革運動として始まったのである。
    ・個人的に大統領を支持しない人でも、アメリカ人は「大統領職」という地位に対して大きな尊敬を払う。その職は宣誓では神の保護を必要とするものである。神の前ではどのように権力ある指導者も一人の人間にすぎず、罪ある者として悔い改め、許しを乞わなければならない。
    ・奴隷制度も、婦人解放運動も、経済や政治が起因していることのみならず、宗教が一つのトリガーになっているのである。

    ・アメリカの宗教観:アメリカはいまだに未完成な国です。アメリカ人は常になにかに向かって、あるいは、どこかへ向かって歩み続ける集団ですね。だから我々は、静止しない人々と呼ばれているのです。この世に生きている限り、至聖の場所に到達できるかどうかはわからない。けれどもそこに到達したい。というのが、アメリカ人のやむにやまれない願望だと言えます。
    ・カリスマとはもともと、神から与えられた、他人を救うために役立つ超自然的能力という意味だ。

    ・マーティン・ルーター・キング師の説教は、アメリカ史の方向を変えた。キング師は、南部の人種差別を撤廃する非暴力運動を始め、全国的な人種平等運動の指導者となった。
    ・「私には夢があります。白人のあなたの子供と黒人の私の子供が手を取り合って、平和に暮らせる日がこのアメリカに来るという夢があります。私は約束の地を見たのです」
    ・「約束の地」は旧約聖書からの引用と、アメリカ人にはピンとくる。「私には夢がある」という短い句は、30年たってもアメリカ人の心をつかむ。

    ・この世でなにが正しいのか、正しくないかを判断するのは実に難しい。新約聖書ルカ福音書によれば、「人を裁くな。そうすれば、あなたがたも裁かれることはない。人を罪人だと決めるなそうすれば、あなたがたも罪人だときめられることがない。赦しなさい。そうすれば、あなたがたも赦される」

    ・モーセ五書とは、創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記を指し、ユダヤ教の聖典は、この五書に限られる。
    ・ユダヤ教は、オーソドックス(正統)、リフォームド(改革)、コンサバヴァティヴ(保守)の三派に大別される。
    ・ユダヤ人であることの証明は母系であり、父親がユダヤ人でも、母親がそうでなければ、子どもはユダヤ人ではない。
    ・過激派イスラム教徒が勃興したり、イスラム教国とキリスト教国の戦争のたびに、ユダヤ人は、標的となり、大量虐殺された。アメリカ人になった時、ユダヤ人ははじめて、「法の前には万人平等」という精神に守られるようになったのである。

    ・受胎の瞬間から、胎児は生命をさずかった人間であるとの解釈をする。だから、カトリックは人工中絶を認めない。一人の人間を殺すことになるからである。
    ・「中絶は悪いことではあるけれども、だからといって、中絶をした女性が刑法に問われるべきではないと思います。」
    ・アダムをそそのかした女、それがイブである。性欲、性交、妊娠、出産の繰り返しが有限な人生とそれを断ち切る死を生み出した。だから、キリスト教は女性を「原罪」とみなしている。
    ・マリアはイエスを生んだ女性であるが、処女のままでイエスを懐妊したことによって女性の「原罪」を背負わない唯一の女性となった。
    ・異端とされたグノシス派の隠れた教典にマリアの福音書というのがある。それは、イエスがマグダラのマリアだけに説いた教えをまとめた教典である。
    ・マグダラのマリアは、イエスの死、埋葬、そして、復活の時にも、そのそばにいた。同伴者と言われるそれは、ギリシャ語では単なる道連れではなく、正確には、「配偶者」を表している。イエスに妻がいたとしても、なんら不思議ではない。
    ・ユダヤ教の預言者の一人であるイエスと話しができた、女性の信者であるマグダラのマリアは、イエスが復活して最初にその姿を現した。マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4福音書にも、マグダラのマリアのことが記載されている。月経のために不浄とされた女性であってもだ。

    ・アメリカ文化には三重の層がある。一番上は、世俗文化、真ん中は、自己愛を戒め、この世は、あの世との過渡にすぎないというキリスト教世界、そして、一番下には、超意識とでもいえる、合理的科学的でない、神秘、超自然、夢、予感の世界である。
    ・イエスの不思議、聖書には、当時多くの歴史学者や書記がいたにもかかわらず、12歳から30歳までの18年間のことが記載されていない。誰も書かなかったのか、あるいは記録が残っていないのか。
    ・新約聖書の最後に位置する「ヨハネの黙示録」という不思議な書がある。恐らく、福音書のヨハネとは別の人物が書いたのだろうと本書はいっている。

    ・政教分離といっても、宣誓には聖職者の祈祷がかならずあり、神といっても、ヤハウェでも、イエスでもないのだが、キリスト教徒であるので、その存在は暗黙のうちに認められている。アメリカはキリスト教とともにあるのである。

    目次

    プロローグ
    第1章 魂の沈黙の旅
    第2章 感謝祭
    第3章 至聖の場所へ向けて
    第4章 さまざまな礼拝
    第5章 栄光と権力
    第6章 ダビデの星
    第7章 無償の愛
    第8章 マグダラのマリア
    第9章 天使の助け
    第10章 神のもとにある国
    エピローグ
    宗教史年表
    参考文献

    ISBN:9784121014245
    出版社:中央公論新社
    判型:新書
    ページ数:344ページ
    定価:900円(本体)
    発行年月日:1998年06月25日

  • ふむ

  • 文章は平易だが、流れが論理的でなくなにをいわんとしているかわかりにくい。広く浅くと言う感じは否めない。アメリカでの宗教観をほんのちょっと理解できたかな。

  • [ 内容 ]
    リンカーン大統領は「ゲティスバーグの演説」でアメリカを「神のもとにあるこの国」と呼んだ。
    英国植民地から独立して二百年余りのアメリカが持つ精神文化は新大陸で突然形成されたものではない。
    旧大陸のキリスト教に形成された歴史を継承し、それも近代・中世ヨーロッパ、ローマ帝国、古代ユダヤへと遡る意識を現代アメリカ人は持つ。
    彼らの心のなかには、いかなる世界が広がっているのか、その多様な宗教生活を鍵に考察する。

    [ 目次 ]
    プロローグ
    第1章 魂の沈黙の旅
    第2章 感謝祭
    第3章 至聖の場所へ向けて
    第4章 さまざまな礼拝
    第5章 栄光と権力
    第6章 ダビデの星
    第7章 無償の愛
    第8章 マグダラのマリア
    第9章 天使の助け
    第10章 神のもとにある国
    エピローグ

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