市場社会の思想史: 自由をどう解釈するか (中公新書 1465)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121014658

作品紹介・あらすじ

一七七六年、アダム・スミスは『国富論』を著し、「見えざる手」による市場社会の成立を理論化した。歴史学派・社会主義者はこの自由主義に異議を申し立てたが、経済学の科学化は「パレート最適」を生み、自由主義経済理論は完成したかにみえた。しかし大戦と恐慌は各国産業を弱体化し、自由放任を補完する形での政府介入を説くケインズ理論が世界を席捲するものの、その反動が七〇年代現れる。「自由」への対応を通して経済思想史を展望。

感想・レビュー・書評

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  • コンパクトによくまとまった経済思想の通史。
    どこかのブログで推薦されていたので読んでみました。

    もともとは1991年に著者が放送大学で担当した「経済思想」講義のテキストで、加筆訂正されて1999年に新書として発刊されたもの。
    メモ代わりに書き連ねれば…

    アダム・スミスの古典派経済思想〜歴史学派(リスト)・社会主義(マルクス)による反動〜新古典派(メンガー、ジェヴォンズ、ワルラス)による限界革命〜ヴェブレンによる消費の分析〜ポラニーの「大転換」論による市場社会の相対化〜バーリとミーンズによる法人企業の変容研究〜ケインズ革命(有効需要、期待理論、貨幣論)〜ハイエクによる計画経済批判〜フリードマンらシカゴ学派のマネタリズム反革命

    …という一連の流れを概観することができます。
    まさに教科書的な一冊なので、常に手元に置いておけば有用だと思います(自分は図書館で借りたので返さなきゃいけませんが)。

    面白いなと思ったのは、古典派に対するアンチテーゼとしての歴史学派・社会主義者の登場。
    これって、現代の新自由主義・グローバル金融資本主義に対する反市場主義・反グローバリズムによる批判、という構図と完全に重なってみえます。
    右(歴史学派)左(社会主義者)双方からの批判である点も含めて。
    歴史って進歩しているようでぐるぐると周回しているようなものなのですかね。

  • アダム・スミス、ケインズをはじめとする経済思想家の経済理論について時代を追ってまとめたもの。市場について、社会主義について、貨幣について、マネタリズムについてなど、経済史上重要なテーマに触れ思想家の意見を対比させ解き明かしていく手法が面白い。興味深く読めた。印象的な記述を記す。
    「ヨーロッパはウィーン会議から第一次世界大戦勃発に至るまで平和な100年間を享受してきた。この100年間にヨーロッパ諸国の間に起こった戦争といえば、クリミア戦争を除くと全部でわずか18ヶ月間である。ちなみに、19世紀に先立つ2世紀をみると、1世紀平均で延べ60ないし70年間にわたって戦争が起きているのである」
    「利己心に基づく競争によって自然的自由の制度が実現すると考えたアダム・スミス、自由貿易の利点を説くリカード、スミスやリカードらの学説を総合したJ.S.ミル、および彼らの先行者たるマンデヴィルが、こうした経済的自由主義の代表的な思想家である」
    「自由主義の自由は法の支配下の自由であり、法によって保証された私的領域のなかで享受される自由である。ところが自由放任主義は自由を社会形成との関係で論じることがない。そうした事柄を不問にしておいて「もっと自由を」と主張するのが自由放任主義である」

  • 予想以上に密度の濃い内容。そして、個人的には刺激的な書。学生時代にケインズ関連書は読み散らかした(身についているとは到底言い難い)が、それにとどまらず、経済思想は奥が深いなぁという印象。特に、K.ポラニーのは目から鱗。インフレと失業率が増大しつつあった70年代以降、マネタリストの処方箋が一定の視座を与えたが、デフレと失業率の高値安定という21Cの問題は、同種の問題を抱えたポラニーへの回帰もあってしかるべきところだろう。それにもまして自由論。新古典派等の自由論に違和感一杯だった理由が本書で理解できた。
    法学での自由論は、主に憲法論の中で論じられるが、これは、人間の尊厳を保持・拡充していく上で自由が重要である一方、その自由を侵害するのは、力を持つ者(典型は国家権力)であり、その力に枠、箍をはめることを法は存在意義・目的とするというもの。ところが、新古典派の指す自由は資源の効果的配分の方法論に過ぎず、社会に根差したものとは言い難い(本書指摘によれば、社会性あるスミスの自由論とも異質らしい)。まして、マネーや市場が暴走し、人間の尊厳を破壊しても、これに枠をはめる発想が出るはずもなく、議論は噛み合わない。
    貨幣論にも重要かつ興味深い指摘がなされており、実に有益な時間であった。1999年刊行。著者は京都大学人間・環境学研究科教授。

  • 新書文庫

  • こと「経済」というと否が応でも意識される「市場」をどう捉えるか、そして「市場」において「自由」がどう扱われているかを、歴史上出てくる各学派や代表的な人ごとにその思想をまとめた書。

    簡単に言うとスミス以来、市場の自由化→制限→自由→制限、と絶え間なく市場の自由度において異なる意見が出てきているように感じた。
    少し乱暴だがまとめてみると、概略以下の感じかと。

    重商主義(ただ強者の論理。強者(イギリス)側の自由)
    →スミスの自由主義(ただし社会道徳、正義の法によるルール制限は有)
    →ドイツ歴史学派(制限。F・リスト)
    →古典派(制限付き自由。一部社会主義寄り意見有り。D・リカード、J・S・ミル、…)
    →社会主義(制限。サンシモン、マルクス、…)
    →限界効用学派(自由。ジェヴォンズ、メンガー、ワルラス)
    →S・ヴェブレンの制度主義(ちょっと異端。制限。貨幣、金融重視を批判)
    →K・ポラニーの「大転換」(制限。自由はありつつも計画経済志向)
    →ケインズの積極政府(制限付き自由。有効需要創出の公共事業をバンバン)
    →マネタリスト(自由。小さな政府。M・フリードマンら)

    ここでもやはり①ホッブズ・ロック的自由か②ルソー的自由かなど、前提として論者が求めている自由観によって、それを実現する交換調整機構としての「市場」のあり方も変わってくる、というもの。なお上記は時代の前後があったり、単線的でなく複合的に同時代を進んでいたりもしてます。
    経済学かじってましたけど、大変まとまりました。勉強になりました。

  •  本書は、社会経済学を専攻する1948年生まれの経済学者が1999年に刊行した学説史の入門書。放送大学テキストとして書いた『経済思想』を下敷きにしており、記述は簡潔。
     第1章は経済学がスミス(英)により体系化された点を述べ、第2,3章では社会主義と歴史学派の形成された背景を中心にしてリカード(英)、リスト(独)の理論を説明する。第4,5,6章は、19世紀の純粋経済学への動きとその土台である限界革命について。メンガー(墺)・ジェボンズ(英)・ワルラス(仏)を、経済学の科学化・功利主義・一般均衡などを併せて解説する。第7章はヴェブレンの消費社会論を、第8章ではポラニーを、第9章はミーンズの企業論を概説する。第10章から視点が経済学に戻ってケインズ革命を、第11章は不確実性、第12章は貨幣と、ケインズ理論の要点を紹介する。第13章は「社会主義計算論争」でのミーゼス(米)、ランゲ(波)、ハイエク(墺)らの主張を解説する。第14章ではマネタリズム。最終15章では、〈自由の循環の歴史〉てして経済思想史をなぞったのちに、経済思想における自由の概念が意味するものを考察する。
     こく薄い本ながら非常にまとまった内容になっている。概説書にありがちな手抜きも無い(=過度な簡略化や、現在目線の落としどころにまとめる等、がない)。学者や理論を当時の政治・社会を踏まえて解説する構成はこの本だけに限らないが、(それらの比重の大きさを調整し)上手くバランスをとって初心者に提示した完成度、また同時に薄い新書に収めた圧縮率は、素晴らしいものだと思う。

    著者:間宮 陽介[まみや・ようすけ](1948-)
     社会経済学、経済理論、経済思想。
    底本:『経済思想――市場社会の変容(放送大学教材)』

    【簡易目次】
    目次 [i-iv]

    第01章 経済学の誕生 001
    第02章 社会主義の思想 016
    第03章 市場と国家 031
    第04章 政治経済学から純粋経済学へ 043
    第05章 功利主義の思想 056
    第06章 一般均衡の思想 067
    第07章 市場社会の変貌――ヴェブレンの経済思想 078
    第08章 大転換―― K・ポラニーの経済思想 090
    第09章 法人企業の変容――バーリ=ミーンズの見解 1011
    第10章 ケインズ革命 109
    第11章 不確実性と「期待」 118
    第12章 貨幣について 131
    第13章 市場と計画 144
    第14章 マネタリズムとケインズ主義 154
    第15章 経済学における自由の思想 163

    あとがき [175-180]
    文献 [181-186]

  • [ 内容 ]
    一七七六年、アダム・スミスは『国富論』を著し、「見えざる手」による市場社会の成立を理論化した。
    歴史学派・社会主義者はこの自由主義に異議を申し立てたが、経済学の科学化は「パレート最適」を生み、自由主義経済理論は完成したかにみえた。
    しかし大戦と恐慌は各国産業を弱体化し、自由放任を補完する形での政府介入を説くケインズ理論が世界を席捲するものの、その反動が七〇年代現れる。
    「自由」への対応を通して経済思想史を展望。

    [ 目次 ]
    経済学の誕生
    社会主義の思想
    市場と国家
    政治経済学から純粋経済学へ
    功利主義の思想
    一般均衡の思想
    市場社会の変貌―ヴェブレンの経済思想
    大転換―K・ポラニーの経済思想
    法人企業の変容―バーリ=ミーンズの見解
    ケインズ革命〔ほか〕

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 1336夜

  • 2月?
    [内容]
    経済学が、自由ということいかに捉えてきたかと言うことをテーマに、時系列に辿っていく。放送大学での講義をもとにしているため、各章簡潔にまとまっている。第十五章から読むと、全章を概観してから読むことができると思う。

    [感想]
    一番興味深いと思ったのは、ヴェブレンの経済思想の部分である。今まで読んだ経済学の本では紹介されていることがあまりなかったように気がする。彼は、制度学派の創始者と位置づけられており、たとえば、「消費と言う行為は『慣習的な体面の標準にかなった生活をしようとする願望』から発するもの」とみているという。その分析はとても興味深く、とても示唆に富んだものだと思った。

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著者プロフィール

間宮 陽介
間宮陽介:京都大学名誉教授

「2014年 『日本経済 社会的共通資本と持続的発展』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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