米国初代国防長官フォレスタル: 冷戦の闘士はなぜ自殺したのか (中公新書 1486)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121014863

作品紹介・あらすじ

J・フォレスタルはウォール街で成功を収めたのち、ナチス・ドイツがパリに無血入城した直後の1940年8月からノルマンディ上陸作戦直前の四四年五月まで海軍次官、47年9月まで海軍長官をつとめ、戦後、陸海空軍が統合されると、アメリカ初代国防長官に任命された。40年代を通じて「国防の最前線」にあった男が国防長官になったとき担わなければならなかったのは、「安全保障国家」という、矛盾に満ちた巨大な怪物であった。

感想・レビュー・書評

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  • フォレスタルの人物像を通してみた大戦前後の状況をまとめた、中公新書「現代史」らしい一冊。

    この新鮮な人選にもかかわらず、「現代史」シリーズでは大統領クラスを取り扱った書籍に埋もれてしまっていて残念。

    フォレスタルの暗殺説は根強い。本書では暗殺説には触れずに、自殺説を支持し、その理由としてウクライナとの関連で死に追い込まれたという新説を紹介している。

    暗殺説も含めて今後も新しい事実や説は出てくるだろう。
    近年では、イスラエル建国反対派の先鋒として、死の間際までモサドに監視されていたらしい事実なども明るみになってきている。

    本書はそれらの謎解きよりも、フォレスタルの実務について大きくページ数を割いている。
    第一次世界大戦においては、平時の準備不足から対応が「ままならなかった」点や、また多くの兵士をインフルエンザによって失った点などを交えて当時の状況を語る。
    フォレスタルのウォール街で勝者となった時代についても語られ、その後の政界入りについてもかなり詳しく書かれていて興味が尽きない。

    フォレスタルにとっての安全保障の考え方は、「安全などというものは存在しない。この言葉は辞書から削除されるべきである富と同様に力も行使されるか失われるかの二つに一つだ」「ドイツ皇帝を残しておけばヒトラーの台頭はなかったかもしれない」など、「安全保障」の感覚が、まるで目の前に実在する物体であるかのように「現実」であり、頭の片隅に追いやったり、楽観的なものの見方はしないように感じた。

    ただ、冷淡な人柄かというとそうでもなく、たとえば「息子を安全な後方任務につけてほしい」という血縁者からの願いに義憤を燃えたぎらせるなど、かなり熱い想いを持っていたようだ。

    フォレスタルはアメリカの軍事機構の闇の部分を誰よりも知っていたのは当然である。その闇の重さに耐えきれずの自殺というのは、説得力があるように思える。
    自殺説を支持しきれないのは、彼の死に方が「本書を通して見た時の彼の生き様」とはあまりに大きく異なるように見えるからである。まるで別人のように感じる。

    ただ、自殺という死に方はそういった不可解な部分をいつでも(いつまでも)持つものだし、「フォレスタルという別人が、フォレスタルという自分を殺した」といえなくもない。

  • 関内ブックオフで購入する。再読です。数年前に読んだ記憶があります。最後まで読み通した記憶がありません。そのため、全く内容を覚えていません。興味深い本でした。この本のテーマは、アチソン国防長官です。著者は、同志社大学の先生です。興味を持った点は、アメリカのエスタブリッシュメントの構造です。一流大学は、エスタブリッシュメントへのパスポートだったようです。ただし、その成績は関係ないようです。また、この時代においても、ウオール街からワシントンへの移動は、容易だったようです。どうも、ここら辺がわからないところです。財務省等の経済官庁、国務省はわかります。何故、海軍省も、こんな人事が可能なのでしょう。また、ワシントンではなく、ニューヨークで、Foreign Affairsが生まれた背景がわかります。ウオール街の大物、そして、それに連なる人物が、外交政策に携わるポストに、簡単に、就けるのですから、当然です。

  • 前半で第二次大戦までを、後半で戦後を描く。フォレスタルを中心に当時のアメリカの環境が、多くの登場人物を招きながら展開されてゆく様は非常に賑やかで、読んでいて面白い。その反面、後半以降で描かれるフォレスタルの内面の落ち込みは前半との対比もあって非常に心に来る。月並みな間奏になるが、フォレスタルにもう少し支えがあれば、もう少し家庭があればと感じずにはいられない。軍統合問題の難しさがひしひしと伝わる。

  • タイトルにもある通り、本書は、米国国防省初代長官となったフォレスタルの生涯が、全般に渡って描かれている。
    しかしながら本書は、その個人の単なる伝記に留まることはない。米国が、二つの大戦をまたいで模索してきた「国家の安全保障の在り方」をも、一人の登場人物――フォレスタル――に光を当てることによって、巧みに描き出している。
    冷戦の闘士の自殺、彼の様な死があること自体が悲劇であるのか。あるいは、その様な死が、日本では未だかつて存在しないことが悲劇であるのか――私たちのこれからの安全保障を考えていく上で、非常に示唆に富んだ、好著であると言える。

  •  一般人にはまったく知られていない、アメリカ初代国防長官ジェームズ・フォレスタル。

     本書は、ペンタゴンの最初の主となったフォレスタルの生涯を追いながら、20世紀前半のアメリカの政軍関係を描いている。

     ウォール街で活躍することになるフォレスタルの前半生についてはさして面白味も無いが、後半の太平洋戦争期からはじまる米軍の統合問題は、本書の核心部であり、そして一番興味深い部分であると言える。
     海軍長官として独立不羈の大海軍の強硬論を抑えながら、軍全体の効率的な運用を目指すフォレスタルであったが、そこには大統領との軋轢、陸軍の反発、海軍内部の反発と様々な不安定要素が彼を悩ます。そして、その板挟みの中で精神を病んだフォレスタルは、16階から身を投げて、命を絶つに至った。

     第二次大戦・太平洋戦争で活躍したアメリカ軍人の動向について、多少なりとも関心があれば面白く読めるかもしれないが、一般の人向けでは無いように思える。

  • 村田晃嗣がまだ“タレント”でない頃の遺作。題名からすれば、単なる個人の伝記。その実は、アメリカの安全保障観の変遷(WW?〜冷戦)であり、統合問題なのである。ただし、後者については、国家安全保障法(1947)までに関してである。

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著者プロフィール

同志社大学教授

「2023年 『国際政治学をつかむ〔第3版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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