- Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121020598
作品紹介・あらすじ
一九三八年七月、時の外相宇垣一成の私邸を八人の青年外交官が訪れ、所信を披瀝するとともに、彼らがリーダーと仰ぐ白鳥敏夫の外務次官起用を強く訴えた-ときに軍部以上の強硬論を吐き、軍部と密着して外交刷新を実現しようと行動した外務省革新派。彼らが主張した「皇道外交」は、満洲事変後の「世界史的大変動」の中で大衆に受け入れられ、世論を先導していく。戦争へ向かう時代を新たな角度で切り取る意欲作。
感想・レビュー・書評
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それまでの外務省の主流派だっただろう英米中心の国際秩序支持を現状維持と批判し、具体的内容は不明確な世界新秩序、独伊との同盟を主張した革新派。白鳥敏夫を中心に核心メンバーがいたのは確かだが、白鳥の強力なリーダシップらしきものは本書からは感じられず、むしろ白鳥ファンクラブのようだ。「派」の外縁もはっきりしない。白鳥自身は翼賛選挙に出ているが、革新派が陸軍はともかく他の革新官僚と結んでいる様子もない。
そして著者は、革新派の影響力は政策決定には限定的だったと言い切る。革新派の主張と軌を一にする三国同盟も、革新派を警戒した松岡外相が成し遂げたのがその一例だ。
ただし著者は、当時既に明らかだった陸軍との協力が彼らの影響力を大きく見せたこと、それに白鳥に象徴される外交世論の喚起が、国民の一部ではあっても外交の大衆化の時代では無視できない力を持ったことを指摘している。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
白鳥敏夫を筆頭とする外務省の革新派が主題。白鳥は外相未経験者としては唯一の文官戦犯。評者は、日独伊三国同盟期にイタリア大使だったこと、A級戦犯だったこと以外、白鳥についてはほとんど知らなかった。
外務省内での革新派の影響力はそこまでで、外交政策において重要な役割を演じた、ということもなかった。しかし、言論空間ではかなり好き放題やっており、外交がエリート独占から大衆化するにしたがって、軽視できない存在となっていった。白鳥はとりわけ対米戦以前は講演などを活発に行っており、自身の政治的な主張を積極的に発信していたようだ。
意外だったのは、三国同盟以前、独伊との提携強化について、ドイツ大使の大島浩よりも強硬な主張をしていて、日本政府に圧力をかけていたこと。戦犯指定の際、GHQはこの点を重視したんだと思う。 -
日米戦争への道を敷いたのは日本陸軍だけではなく、それを支える国民の声があったというところまでは認識していたのだが、さらに外務省革新派という人たちもいて、積極的に全体主義への流れを作っていったとのこと。
まずは、このことだけで驚くわけだが、それが省内でのディスカッションにとどまらず、国の外交方針に対する批判を含むさまざまま論文などを発表し、世論の形成にも寄与したという。
日本て、まったく「全体主義」ではないと思う。これだけの意見の多様性があるわけなので。。。。
とはいえ、外務省革新派の政策は直接的に外交政策に影響したところは少ないという。その影響は過大視されているのかもしれないが、暗黙のプレッシャーにはなっていたようだ。
戦後、革新派の何人かに戦犯になり、公職をパージされたりしたわけだが、結局、大使になったり、重要な役職についていたりしたらしい。
きっと頭の良い実務的に優秀な人たちだったんだろうな。
そういう優秀な人たちも、時流のなかでは、意味不明の右翼的、精神論的な言説を繰り広げていたということで、なんだかな〜と思う。 -
満州事変後の外務省革新派とよばれる外交官の派閥について書かれたもの。緻密な調査研究に基づき論理的かつ学術的に話が進められており、説得力がある。太平洋戦争に至る我が国の政策決定に与えた影響についてよくわかった。印象に残る箇所を記す。
「政党は政争に明け暮れ、党利党略にかまけて国民の要望に応えず、最も重大な国防を軽視しているように、少壮軍人たちの目には映った」
「利潤本意の資本主義経済や政党主体の議会政治は、既得権擁護に傾きがちで国民の要望に応えないばかりでなく、時代の要請つまり「世界史的大変動」にも対応できない、と彼らは批判し、経済の計画化と効率化、国民の経済的・社会的平等の実現、それを基盤とした国民の再統合を図る革新的な政策案を提示する」
「併しながら今日既に欧羅巴連邦といふ事が提唱され、東洋に於ても東亜連盟乃至共同体の主張を見るのであって、世界史は今後必然的にその方向に進展せざるを得ないものと信ずる」(文藝春秋1940.1)
「自給自足を営むのには、その圏内に於ける各国の間に、従来の如く小さい国も大きい国も絶対主権を主張し、国境を設け、税関を設け、貨幣を別々に持つ、さうして小さな国までが軍備を持つ、さういふことであってはならぬのであって、その間には言はば国境は殆ど撤去されねばならぬ」(白鳥敏夫、1940.10講演) -
まずは改めて満州事変の同時代における衝撃の大きさを痛感する。
幣原外交の寵児と言われた白鳥であったが、
満州事変を引き起こした者達の理念や理想をダイレクトに体感するこで
それまでの価値観がふっとんだことであろう。
理解を超えた事変の展開の中で、理想は実現可能なのだ、
世界は変革することができるのだと思ったことであろう。
それがどんどんエスカレートし敗戦前についに「世界維新」という
発想に至るとはなんて極端に突き詰めたのだとびっくりする。
これは革新派の性格にもよるのかもしれないが、
事変が勃発したり敗戦が濃厚となったときに従前の論理を覆し、
新秩序建設なり神懸り的言説なりが発信されているようだ。
ある見かたでは、ただ時勢の変化に対して後付けで様々理屈や根拠を
つけようとしているだけにも見える。
本書では章立てている個所では比較的に出来事を淡々と描写し、
逆にエピローグでは様々な革新派の性質についての考察をしている。
その影響力の限界や、背景にある大衆化社会についてなど。
先にエピローグやプロローグを読んでから1章に入ると読みやすいと思う。 -
本は旅の最良の友です。今回はそうではありません。知性の衰えもあるでしょう。それ以外があるのです。ビデオです。携帯プレイヤーに多くの作品が収納できるのです。興味深い本でした。しかし、心に響かないのです。原因は、作品にあるのか、僕にあるのかどちたでしょう。それだけです。
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【読書】1930・40年代の日本が戦争に向かう激動の時代。軍部と密着して外交刷新を実現しようと行動した外務省革新派。それを白鳥敏夫という一人の外交官を中心にみる。当時の政府内部の政策形成における雰囲気を感じる。