入門 人間の安全保障 - 恐怖と欠乏からの自由を求めて (中公新書)
- 中央公論新社 (2012年12月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121021953
作品紹介・あらすじ
一九九四年、国連開発計画によって、国家ではなく一人ひとりの人間を対象とする「人間の安全保障」が提唱された。以来、頻発する紛争や暴力などの「恐怖」と、世界を覆う貧困や飢餓などの「欠乏」からの自由を目的に発展を遂げてきた。本書は、長年にわたり世界各地で緊急人道支援、地雷禁止条約策定交渉など最前線で活動を続けてきた著者が、自身の実践と国際政治学の知見をふまえて解説する包括的な入門書である。
感想・レビュー・書評
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ちょうどコロナの時期に読んでました。人間の安全保障って大事ですね!経済的困難の人に向ける支援ももちろん大事ですが、コロナが終息した後もし、また三密を避けなければいけない時がきたら、今はそれに向けて何かできないでしょうか。ネット販売、出前、ネット授業など、良い啓示になりそうですね!
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長 有紀枝(1963年~)氏は、早大大学院政治学研究科修士課程修了の政治学者、立教大学教授。
「人間の安全保障」とは、国家の安全に焦点を当てる従来の安全保障とは異なり、人間個人を対象に、軍事的脅威なみならず、環境破壊、人権侵害、難民、貧困などの生存、生活、尊厳を脅かすあらゆる種類の脅威を包括的に捉えた概念である。インドの経済学者でアジア初のノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センが唱えたケイパビリティ(潜在能力)論を下敷きに、国連開発計画が1994年の「人間開発報告書」の中で提唱し、その後国連などで頻繁に使用されるようになった、比較的新しい考え方である。
冒頭で著者は次のように述べている。「東日本大震災を経験した日本人としてだけではなく、二十一世紀に入ってもなお、武力紛争、言語を絶する人権侵害、虐殺が繰り返され、貧困問題や飢饉も国際社会の一員として、私たちは、どのように生きていくべきか、そのために何を知るべきか、そんなことを「人間の安全保障」という概念を手がかりにみなさんと考えていきたいと思います。」
そして、序章/私たちが生きている世界1章/国際社会とは何か~成り立ちと現況、2章/紛争違法化の歴史と国際人道法、3章/「人間の安全保障」概念の形成と発展、4章/「人間の安全保障」の担い手、5章/「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」、6章/「人間の安全保障」領域に対する取り組み、7章/保護する責任、8章/東日本大震災と「人間の安全保障」、終章/「人間の安全保障」実現のために、と、入門書に相応しく「人間の安全保障」について包括的に解説している。
本書の中で、第二次世界大戦時にナチスによるジェノサイドに対する救援と救出の訴えを看過した経験を持つ、赤十字国際委員会の元副委員長ジャン・ピクテが、戦後、「人道の敵」として「利己心」「無関心」「認識不足」「想像力の欠如」の4点を挙げ、「無関心は長期的には弾丸と同様に確実に人を殺す」と言ったことが言及されているが、我々は、今のこの瞬間にも、世界の各地に「人間の安全保障」を脅かされている人びとがいることに無関心であってはならないのだ。
世界の国々が、(コロナ禍の以前から)自国第一主義を掲げて内向きになっている今こそ、読んでおくべき一冊と思う。
(2013年8月了) -
災害とか戦争の被害を最も受けるのは弱い立場の人で、何も考えずに生きてしまうとその加害者に自分もなるのかもしれない。
少なくともまず知るとこが重要ではないかと感じた。 -
人間の安全保障が生まれた背景から取り巻く環境、定義、実現に向けての取り組みなど、とても分かりやすくまとめられている。特に印象に残った言葉をふたつ引用する。
『非暴力主義を貫きつつ、人々の完全を守ることを国家の手に委ねるのではなく、人びとが自ら行動を起こす、人々自身が自らの安全を守る主体となる「人間の安全保障」です』(P253)
『二つの「人間の安全保障」が矛盾する際に、、その矛盾を意識化、顕在化し、それを乗り越えようという営みを導入すること、自分以外の他者に対するまなざしを見直させる概念、平時の構造的暴力に光を当て、社会の周縁で苦しむ人を作らせない試みこそが、人間の安全保障の大きな特徴です』(P259) -
入門と付されるが、本格的な専門書である。座右に置いておきたい本。生存権の本とともに死守したい。
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なんでだろうか、この人の文章を読むと善が生み出す暗黙悪についての方が気になってしまう。トピック自体が自分に合っていないのだろうか。
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今の世界はどんななんだろうってとこから入って、ウェストファリア条約が今の国際社会の基礎をつくって、普遍的な国際社会として国連の解説。戦争観の変遷で、古代ギリシャに遡る正戦論、キリスト教の権威体系から解放されて以降の無差別戦争観とそれに伴って戦争に訴えること自体の規制(ユス•アド•ベルム)でなく戦争中の具体的な行為の規制(ユス•イン•ベロ)が主な関心の時代、未曾有の惨禍をもたらした第一次大戦で戦争の違法化が試みられるも戦意の表明を回避した侵略は起き、第二次大戦後の国連憲章で武力の行使を慎むべしとされる時代になったって話。それからハーグ条約とジュネーブ条約の概要、人間の安全保障とゆう概念の発展、担い手である国家、軍事組織、NGOなどそれぞれの強点や弱点、向き合わなきゃならない課題とその進捗、「保護する責任」、阻止できなかった人道危機、東日本大震災を通して見えた日本の問題点、これからの人間の安全保障について、わかりやすく解説。
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飢餓、貧困、ジェノサイド、感染症、紛争。構造的問題からもっとも被害を受けるのは貧しい人々、弱い国々。二つの世界大戦後の国連の成り立ちは今の国際社会から大きくズレているのに、それが正される可能性は限りなく低い。子ども兵の脱走して逃げる場所をなくすために誘拐するときに母親を殺させるくだりを読んで戦慄した。最低限度の人間の安全保証が達成されることだけでも課題は限りなく多く大きい。けれど確実に進んではいる。国際社会には国際政府はない。それは夢物語なのかもしれない。今の文明が弱者からの搾取で成り立っていることが怖い