先進国・韓国の憂鬱 (中公新書 2262)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022622

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。韓国ってそれなりに発展しているけど、どこか不安定というイメージがあるものだけど、金大中、廬武鉉、李明博、朴槿恵という4代の大統領政権下での、特に貿易・経済政策、社会保障・福祉政策をしっかり分析的に解説している。
    それによると、韓国という国そして各大統領ともまったく無策だったりあさってを向いた政治が行われていたわけではない。停滞も後退もせず、歩幅は小さいけれど着実に前進しているように読めた。韓国びいきの私としては溜飲が下がる。
    大きな前進とならないのは、大統領が大きな権限をもつものの1期5年で交代していくためか。そのうえ、ダイナミックな変革を目指すためにこの期間ではなし遂げにくいということもあるか。
    とはいえ、決して無謀で国民を無視した変革ではなく、ダイナミックな動きを好むのが韓国の国民性に合っているのだと思う。考えあぐね石橋をたたいて渡らない日本の国民性とは対照的に、止まっているくらいならとにかく動くことを国民があっけらかんと許す、というか選んでもいると思う。
    その好例が金大中政権下での早期貿易自由化交渉で、早々に水産業を自由化させてしまったこと。過程においては利益団体に自由化反対の言質をとろうとする行政の動きもあったが、利益団体が特に反対しなかったという痛快さ。その裏には、漁で食えなくなったらほかの仕事をすればいいという労働力の流動性の高さがあるという。
    また、一つの分野に専心せず多くの事業をもつ財閥などは、一見合理性・効率性に欠けているように思えるが、一つの事業分野が衰退すれば別の事業に注力分野を移すという生産要素の移動可能性が高いととらえることもできる。その変わり身の早さで韓国は世渡りしてきたということであり、このあたりは新大久保の店の変わりようや業態転換のあり方を見てもうなずける。
    遅れている韓国はまだ追いついてこない、また追いついてこないと日本が思っているうちに、韓国はまったく違う道を進み、いつか気づいたら日本より先を行っていたという日は来るのでないかと思っているのだが、その思いをまた強くさせるような言質になる一冊だった。衰退著しい日本の地方なども、労働力の流動性や産業の移動をうまく使って生き延びていくことができるのではないだろうか。
    この本は2014年に出ているので、朴槿恵政権に関しては政権序盤までしか触れていない。その後、一騒動あったわけだがそのあたり、この著者ならどう分析するだろう。

著者プロフィール

神戸大学教授

「2016年 『FTA・TPPの政治学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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