物語 ベルギーの歴史 - ヨーロッパの十字路 (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社
3.70
  • (7)
  • (16)
  • (15)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 230
感想 : 21
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022790

作品紹介・あらすじ

ビールやチョコレートなどで知られるベルギー。ヨーロッパの十字路に位置したため、古代から多くの戦乱の舞台となり、建国後もドイツやフランスなどの強国に翻弄されてきた。本書は、19世紀の建国時における混乱、植民地獲得、二つの世界大戦、フランス語とオランダ語という公用語をめぐる紛争、そして分裂危機までの道のりを描く。EU本部を首都に抱え、欧州の中心となったベルギーは、欧州の問題の縮図でもある。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ベルギーは日本の関東地方とほぼ同じ広さで人口1100万人強で東京都の人口と同じくらいの小国。夏は涼しく夜九時頃まで明るい。冬は寒くて雪が多く日照時間が短くなる。北海道の気候に一番近い。昼休みを長くとり、日光浴を楽しみ、夜はゆっくりと遅くまで食事とビールを味わう生活。
    もっとも悩ませているのは言語、公用語問題とのこと。オランダ語を話す北方のフランデレン(仏語フランドル、英語フランダース)地方、フランス語を話す南方のワロン地方、人口の0.5%はドイツ語を話す多言語国家。フランデレン:ワロン=6:4 
    様々な国からの統治を受け、オランダからの独立は1830年、勢力均衡を保つため五大国要請による永世中立政策は1939年成立、西洋内では若い国。
    中立政策の紆余曲折、言語問題の解決のための連邦制導入、王室との確執、外交問題、コンゴ動乱などに触れ、独特の妥協や合意に対する苦悩を伴う現状にも言及。欧州共同体本部の設置場所が最後までもめてブリュッセルに至った経緯についても、両語圏という国内事情によるものとのこと(スパークの外交手腕)。
    ローマとゲルマンの境界線に位置するベルギーに新しい欧州の機関をおくことは戦後平和の象徴、ヨーロッパの首都となっている。
    ベルリンとパリを東西に結ぶ直線と、イギリスとイタリアを南北に結ぶ直線が、ベルギーで交差する「ヨーロッパの十字路」
    日本の天皇とベルギー王室との交流についても触れている。

    ゲーテ戯曲『エグモント』制作 フェリペ二世の恐怖政治、斬首されたエフモント伯ラモラルが主人公
    ルーベンス オランダ独立戦争激戦地アントワープでカトリック信徒 聖像を禁ずるプロテスタント抵抗し宗教画描いた宮廷画家、多言語習得した能力も認められ政治的な外交交渉も担った
    弟子アンソニーヴァンダイク『キリスト昇架』1610年『キリスト降架』フランダースの犬の少年ネロが憧れた。

    開催地をトーキョーと発表した国際オリンピック委員会会長ジャック・ロゲ氏はベルギー人で整形外科医。肥大化したオリンピック競技の適正化と見直しに努め、野球とソフトボールが除外されたらしい。

    2007年リスボン条約による欧州理事会常任議長設置の初代議長ベルギー首相ファンロンパイ氏は、日本通で俳句集を出版しているらしい。
    ある夏の日「めきめきと麦伸ぶるなり我多忙」
    EUノーベル平和賞受賞にて「ノーベル氏の宿題果たし平和の世」
    東日本大震災に想いを寄せて「震災後仁愛の風流れ込む」
    誰かとともに「地球には日当たりあるも我ら蔭に居り」

    長い苦悩の歴史があって、今がある。「自分の言葉で語れるように」ともう一度歴史を学びなおしたという著者の想い、物語を重視したということで今後も学んでいきたい。

  • 面白かった。
    ワロンとフランデレンの対立(かつて宗教今は言語)から常に分離の危険をはらむ小国の政治観(「妥協と合意の政治」)をよく理解できる。そして国王の存在感が今なお大きいことに驚いた(内閣を組閣する際の国王の役割)。
    常に大国の動向を窺いながら自国の舵取りをする点や、富める地域と貧しい地域の対立など、日本に当てはめても参考にできる事例が多く見られた。

  • 序章 ベルギー前史
    第1章 ベルギー独立
    第2章 帝国主義と民主主義
    第3章 二つの大戦と国王問題
    第4章 戦後復興期
    第5章 連邦国家への道
    第6章 分裂危機
    終章 「合意の政治」のゆくえ

  • 王室ヲタとして、「次に王制がヤバいのはベルギー」と聞いたことがある。それをきっかけにこの国に興味を持ったが、本書はこのようなライト層にまさにうってつけな「ベルギー入門書」である。さらに本書によって、「王制がヤバい」どころか、ある意味「一国として成り立っているのが不思議」なベルギー統合の象徴として、王家が並みならぬ求心力を発揮していることを知った。

    「現地の民族分布におかまいなく侵略者が引いた国境線によって、解放後も長く内乱に苦しむ」というと、現代では典型的なアフリカ像という印象になる。コンゴにとっては「悪魔」であったベルギー人もまた、他ならぬこの事象に苦しめられていたのだとは、寡聞にして初めて知った。「歴史はくり返す」と言うべきか、「歴史の皮肉」と言うべきか。
    読みやすく、わかりやすく、かつツボはひととおり押さえられている。おすすめ。

    2015/8/22〜8/24読了

  • ベルギーは1830年にオランダから独立した若い国。プロイセン・ドイツやオーストリア、フランスなどに挟まれ、大国の思惑に翻弄されてきた国。フランス語とオランダ語の2言語国家という不安定さがつきまとう国。
    このヨーロッパのど真ん中にあり、EUの首都を持つ国の歴史は面白いです。

  •  少なくとも20世紀半ばまでは、周辺の大国に翻弄されてきたのが分かる。独立及び初代国王すら、ウィーン体制下の五大国の意図次第だった。またレオポルド二世の植民地政策は、大国の狭間で富国強兵策を採った結果でもある。
     同時に独立以降の歴史を貫くのが、フランデレンとワロンの地域・言語問題。20世紀半ばまでは、国内問題に留まらず周辺国との関係でもあった。レオポルド一世のフランデレン保護はフランスの拡張主義への恐れが背景。WWIで国が危機に陥ると、愛国主義の高揚と同時に独との関係でフランデレン主義も高まる。WWII後、ブリュッセルに欧州機関を置いたのはここが「両語圏」であるとの理屈のため。
     ベルギーの妥協と合意の政治、という言葉が本書でも出てくる。しかし仔細に見れば、21世紀にもなお分裂危機は続いていた。欧州の先進国なのに、と思うが、だからこそ妥協と合意で何とかやってきたということか。
     また、政治面での国王の役割が大きい。国の形を作ろうとしたレオポルド一世。レオポルド二世の植民地支配は当時でも批判されるほどだったが、その富国強兵策でベルギーが恩恵を受けた点もあり。WWIで徹底抗戦を叫んだアルベール一世。逆にWWIIであくまで中立に拘ったレオポルド三世。戦後ボードゥアン一世は、国を守るため連邦化と分権化を進める。

  • ヨーロッパの十字路に位置しているため、古代から戦乱の舞台となり、建国後もドイツやフランスなどに翻弄され続けてきた国、ベルギー。
    19世紀建国の混乱、植民地獲得、二つの世界大戦、公用語をめぐる紛争、分裂危機までを描きます。
    EU本部を首都に抱え、欧州の中心ベルギーは、欧州の問題の縮図でもあります。

  • 以前住んでいたベルギーの歴史を今頃になって勉強。
    あちこちに挟まれた小さな国の大変さとシニカルなベルギー人を少し理解できたかな。
    ベルギーは道ではない、国だ。

  • ベルギーで興味深い点がいくつか。

    1.言語
    ベルギーは北部がオランダ語圏、南部はフランス語圏となっており、言語は一種のアイデンティティのような位置付けになってる。20世紀後半にルーヴェン大学では言語分裂が起きたり、選挙では国家分裂の危機に陥ったほど、両言語間の確執は深い。ベルギーが1つの国としてまとまるのは、サッカーベルギー代表を応援する時だけだと揶揄されるのも理解できる。首都ブリュッセルは例外的に両言語とも使用されるらしい。現地の雰囲気を実際に行ってみて感じてみたい。

    2.独立までの道のり
    世界史でうっすら習った記憶もあるが大部分を忘れていた。近代まではフランスやオランダの支配下にあったこともあり、現在国内に公用語が2つあり、文化も多少違ってくる。大戦期には中立を掲げながらも、ドイツに侵略される歴史があるなど、独立国家として地位を築き上げるには長い月日がかかった。

    3.王制
    ベルギーの歴史を語る上では、歴代の国王を外すことはできない。

    「注意深く周辺国との関係を見ながら振る舞ってきたレオポルド一世。国を(自分を)豊かにしようとして大概進出に夢中になったレオポルド二世。ドイツからベルギーを守ろうとして国民を鼓舞したアルベール一世。ベルギーを守ろうとしたことが裏目に出たレオポルド三世。「ベルギー」を維持するために連邦化に邁進したボードゥアン一世。そして、「分裂危機」のなか分離主義者と闘ったアルベール二世。」

    いつの時代もベルギーを守ってきたのは国王であった。

  • チョコレートやワッフルに隠れた真のベルギーの姿が描かれている。小国ベルギーについて書かれた本は少ないので、非常に貴重な一冊。

全21件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1965年愛知県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。現在、龍谷大学法学部教授。主な著作に、『ベルギー分裂危機――その政治的起源』(単著、明石書店、2010年)、『物語 ベルギーの歴史 ヨーロッパの十字路』(単著、中央公論新社、2014年)、『連邦国家ベルギー 繰り返される分裂危機』(単著、吉田書店、2015年)、『現代ヨーロッパ史』(単著、筑摩書房、2019年)、『教養としてのヨーロッパ政治』(編著、ミネルヴァ書房、2019年)、『現代政治のリーダーシップ――危機を生き抜いた8人の政治家』(編著、岩波書店、2019年)。

「2022年 『ベルギーの歴史を知るための50章』 で使われていた紹介文から引用しています。」

松尾秀哉の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×