ビスマルク - ドイツ帝国を築いた政治外交術 (中公新書 2304)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023049

作品紹介・あらすじ

一九世紀ヨーロッパを代表する政治家、ビスマルクの業績は華々しい。一八七一年のドイツ帝国創建、三度にわたるドイツ統一戦争での勝利、欧州に同盟システムを構築した外交手腕、普通選挙や社会保険制度の導入-。しかし彼の評価は「英霊」から「ヒトラーの先駆者」まで揺れ動いてきた。「鉄血宰相」「誠実なる仲買人」「白色革命家」など数多の異名に彩られるドイツ帝国宰相、その等身大の姿と政治外交術の真髄に迫る。

感想・レビュー・書評

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  •  厳格で、外交も戦争も内政もできる、強烈なリーダーシップを持ったカリスマ的指導者、それがビスマルク。読む前のイメージはめちゃくちゃかっこよかった。

     実際どんな人物なんだろうと期待に胸を膨らませて読んでいたら、上に書かれたようなイメージと全く違うのだ。当時の時代に流されず保守的であるし、内政も外政も思い描いたとおりにいっていない。引退してからも政治に顔を出してくるややこしいおじいちゃんエピソードもめちゃくちゃ人間的だ。

     だからといって、19世紀最大のドイツの政治家であることは間違いないし、政治手法やトラブルに対しての対処をこの本を通じて詳しく知ることができた。

     筆者はあとがきで、それまで抱いていたビスマルク像をアップデートしてほしいという思いを持って書いたと語っている。等身大のビスマルクを知れる、いい本だった。

  • 『鉄血宰相』のイメージが強かったのですが本書で生まれ持った考え方のベース、プロイセンの危機に対する外交手腕、彼の目指したものとその結果等の様々な事を知ることができました。
    最新の資料や研究を基に分かりやすい解説で書かれておりビスマルクを知る良い本でした。

  • ドイツ建国の立役者、19世紀最大の政治家とも言われたビスマルクの生涯について、最新の研究成果をふまえて記したもの。自分は高校センター世界史レベルの知識しかなく、若い頃のエピソードなどは面白く読めた。政治家になってからについても、一歩間違えれば崩壊してしまいそうなヨーロッパで、なんとか国をまとめるために四苦八苦している様子が、これまで抱いていたビスマルク像と異なっていてそのギャップもよかった。
    ただ逆に、研究的な視点から見てるせいか褒めることが少なく、彼のどこがすごかったのかわかりにくくなっている点はあるように見えた。

  • 東2法経図・6F開架:B1/5/2304/K

  • 恥ずかしながら、ビスマルクなる人物を
    深く知らなかった。
    ちらっと、歴史の授業で習ったか、
    どこかの書籍で登場してて、
    名前を知ってる程度の知識。
    なるほど、今のドイツの礎を
    築いた人だたんですね。

  • 本書を読むまではビスマルクに関する基礎知識がほとんどない身でした。帯にも書いてあるとおり、ビスマルク=鉄血宰相、というイメージしかなかったのですが、本書を読んで全然違うイメージを持つようになりました。本書によればビスマルクはドイツ統一を政治目的として掲げていたわけではなく、あくまで保守的な価値観からプロシアの強大化を目指し、プロシア強大化の帰結(あるいは手段)としてドイツ統一がなされたという解釈です。また本書を読む限りにおいてはビスマルクが最も卓越していたのは政治外交術ということで、その反対に内政面では全然思惑通りに事が進まなかった、といった話も記述されていて興味深く読みました。

     なるほどこういう風にビスマルクを解釈できるのか、と納得できた反面、おそらくビスマルクという人物は、批評家が簡単に表現できるような人物ではなく、本書で記述されているビスマルク像も「ワン・オブ・ゼム」なのだろうなという印象は持ちました。違う批評家が書けば違うビスマルク像が説得力を持ってあらわれる、という具合に。本書の冒頭に、ビスマルクは性格が全く異なる父と母のもとで育ち、その両方の特質を引き継いだ、というような記述がありますが、まさにこれこそがビスマルクを1つの枠にはめて語ろうとすることを困難にしているのではないでしょうか。それゆえにどのビスマルク像が他よりも「正しい」ということはなさそうである、というのが本書を読んだあとの印象です。

  • 鉄血宰相というのはマスコミが誤って作ったフレーズであり、本当は違う。誤解。

    ビスマルクは作られたイメージがある。

    激動の時代、一つの決定が陳腐化するのも早かった。

    というようなことが記載されており、ビスマルクに関する流れも同様だった。

    読了60分

  • 社会保険政策の始まりとされるビスマスク内政にふと興味を持って買ってみた。ビスマルクの生涯を考察する本だったので、社会保険政策に関する記述は少なめだったけど、高校の世界史を思い出しながら興味深く読めた。目的を達成するための手段の選択(近代的な広告手法やナショナリズムの利用など)と天才的な外交「術」に彼の特徴を見出すとともに、崇拝され、第一次世界大戦も経て神聖化された人物像を見つめ直し、客観的に考察している。内政外政において、全ての施策がうまくいった訳ではなく、むしろ当初の想定とは違う結果を招きながらも、場当たり的に対処していったみたい。

  • 一般的には、鉄血宰相と言われイメージが先行するビスマルクの人生を綴った1冊です。

    文章が少し硬いせいもあるのか、回りくどい部分もあるけど、傲慢でワンマンな政治家というより、"プロイセンの1ユンカーがプロイセン存続の為にオーストリアを手玉に取り、フランスを撃破し、ドイツ存続の為に同盟を重ねがけして言った"と言う視点にすることでより等身大のビスマルク像が浮かび上がって来ます。

    この人は"自分のスケールには身に余る19世期のヨーロッパの混乱をその外交センスと上からの革命を為すと言う信念だけで、時に自己を通しながら1つの形にして行ったのだ"、と。

    丹念にその半生を見ていくとこのイメージはスンナリと腹に落ちて来ます。

    因みにビスマルクの業績について、この本だけだと読むのに時間がかかるのでまずはYou Tubeで簡単な歴史を見てみると良いと思います。

  •  19世紀プロイセン及びドイツの稀代の政治家、オットー・フォン・ビスマルクの評伝。

     ビスマルクの主な功績としては、帝政ドイツの成立、そしていわゆる「ビスマルク体制」と呼ばれる、同盟網の構築によるヨーロッパ政治秩序の二つが挙げられるだろう。しかしながら本書を紐解けば、これら二つの功績が必ずしもビスマルクの意図した通りに進んだわけではなかったことに気付く。

     前者については、もともとビスマルクは北ドイツにプロイセンの覇権を確立する「大プロイセン主義」を標榜していた。しかし、19世紀のナショナリズムのうねりに抗うことができず、結局オーストリアを排除した「小ドイツ主義」という形でのドイツ統一に踏み切らざるを得なかった。

     後者についても、フランスを孤立させドイツの安全保障を確保するという点までは、ビスマルクの狙い通りであった。しかし、その外交と同盟網は、あくまでも「その場しのぎ」の産物でしかなかった。また、秘密外交に基づく複雑な同盟網の全貌を把握しているのはビスマルクとその周囲の一握りの人間という、極めて脆弱な秩序だったのである。

     ドイツの統一過程と、ビスマルク期の外交がわかりやすくまとめられてあり、近代ヨーロッパ外交史を理解する上で、大変有用な一冊。

  • 私の中でビスマルクは「ドイツ統一を推し進めた人物」というイメージがあったが、この本を読んで、一概にそうとは言えないのだということが分かった。

    彼は生粋のプロイセン・ユンカーで、伝統に執着し、あくまでもプロイセンを大国とするために動いていた。
    その手段としてドイツ・ナショナリズムを利用し、北ドイツにおけるプロイセンの覇権を確立させることに成功したが、同時に、元々は意中になかったドイツ統一事業に手を染めることになっていく。
    目的を達成するために利用したことで、逆に振り回されているようにも見える様子は、これまでの彼のイメージとは違っていた。
    そして彼は「伝統」と「革新」という二つの要素を持ち合わせていたのだということを知った。

    本書は、あとがきにあるように『一時期のように彼を弁護して著しく称揚することもしなければ、徒(いたずら)に批判して弾劾することもせず、最新の研究成果を踏まえつつ、一次史料に即して実証的かつ公平に論じながら、彼の実像あるいは等身大の「素」の姿を描くべく努めて』おり、フラットな立場からビスマルクを見ることができたように思う。
    また、噛み砕いた解説により、読者が置いてけぼりにならず、初心者の私にも分かりやすかった。

  • プロイセンの名宰相であるビスマルクの人物史本

  • 「ビスマルク初心者向け」を気にして書いたとあるが、「近代ヨーロッパ初心者向け」ではないようだ。ザックリ英独仏露だけじゃ「?」な箇所も、ちょいちょいあり。オーストリア、ハンガリー、ルーマニア、オスマントルコくらいはもう少し押さえてから、リトライしたい感じです。

  • 伝記でなく,ビスマルク研究なので,ドイツ史やビスマルクについてある程度知識がないと内容についていけない. まあでも読み進めるうちに,ドイツ帝政期以降の働きはよく分かることができた.

  • ビスマルクは伝統的なユンカー支配制度を守る志向を強く持ち、帝政の維持を第一とし、それらを守るために近代が生み出したナショナリズムを利用しつつ、自由主義勢力に対しては警戒を崩さない政治家。ドイツ統一、オーストリアやロシアとの微妙な関係の構築、フランスとの対立関係、また植民地獲得など、20世紀前半のドイツの骨格をすべて作り上げたともいえる。

    ビスマルクはむしろ状況の変化に対応する術(クンスト)を持っていた政治家との評価。外で発生した変化に対し条件反射的に対応することができた「政治的天才」。

  • 良くも悪くも中公新書。世界史リブレットよりは門戸が広い。部分的に深掘りされていて、つまみ食いしやすい。

  • 鉄血宰相とよばれるビスマルク。その武断的で神話的なイメージに対し、本書は巧みな手腕を持つ外交官、伝統的意識をもったユンカー出身という側面、状況に対応する天才的反射神経といった観点から位置づける。ビスマルクといえど、政権を維持するために外部状況に強く規定されながら存在していたというのは、一般論としては当たり前だが、具体的事例をあげつつにそのことを指摘した点は興味深かった。

  • 軍事力を背景に武断的な政治を行っていた印象のあるビスマルクだが、本書でそのイメージは払拭された。
    当然軍事力、秘密外交を駆使し、プロイセン、ドイツのナショナリストとしてその力を振るうのだが、
    決して完璧ではなく、思い通りでもなく、かろうじて母国の安全を作り出すため 苦心を重ねる様は、やはり大政治家であったと感じる。
    本書は従来のイメージにとらわれず、一次資料や最新の研究を元に、著者の考察をふくめてビスマルクの実像に迫っていく。19世紀を知る上ではずせないビスマルクの概ねの姿を簡潔に理解できたと思う。

  • オットー・フォン・ビスマルク。鉄(兵器)と血(兵士)こそが国力であるという有名な演説で鉄血宰相と呼ばれ、ヒトラーの前の時代のドイツを代表する政治家だ。強面なヒゲの風貌に加えて、皇帝とケンカして政治家を引退するエピソードもあり、傲慢な独裁者というイメージだが、通して見ると彼の人生の歩みは堅実だ。

    田舎の地主からスタートし、プロイセン国の代議士、外交官を経て、首相に。皇帝ヴィルヘルム1世に忠誠を尽くしながら、周辺の小国を率いて、ドイツ連邦を形成。やがてはドイツ帝国へ。

    ヒトラーのようにイケイケドンドンでひたすら領土拡大を目指すのではなく、適切なスピードで自国を発展させるビスマルクのバランス感覚に感心する。隣接する2大強国フランス、オーストラリアとの駆け引きやヴィルヘルム1世との関係は絶妙だ。

    本書で描かれるビスマルクは優れた外交、戦争センスを持ちながら、その能力に溺れずコツコツとドイツの発展に尽くした冷静な政治家。彼が唯一、我を忘れたのが、皇帝ヴィルヘルム2世との対立と政治家引退。

  • 政治家の動機と結果について考えさせられる本。ドイツ帝国の創建という輝かしい政治的業績が実は、本来彼が目指してきた政治的スタンスと大きく異なっていたことが明らかになる。また彼の外交手腕も、カリスマとして神聖視される割には状況に応じた「急場しのぎ」の連続で、絶体絶命のピンチも時々の外的状況の変化で運良く脱し、とりわけ内政面では必ずしも彼の思いを実現することは最後までできなかった。プロイセン君主主義を奉じ、伝統的な権益に執着する田舎ユンカー政治家が、十九世紀最大のドイツの政治家になるまでの軌跡は、圧倒的に面白い。

    もともとはドイツ帝国の樹立よりもプロイセンの大国化を目指していた。伝統的なプロイセン主義者であるはずが、それと相反するドイツ・ナショナリズムの祖となるのだからなんとも不思議。外野から見れば、明らかな矛盾や変節が、本人からすれば極めて自然な発展的融合であったりするのは、政治家や歴史を見ていく上で大切な視点であろう。超保守主義者にして、ニューディールの辛辣な批判者だったマッカーサーが、日本では若いリベラルなニューディーラー・グルーブに熱心に頼り、戦後日本の形成に驚くばかりの自由を与えていたのも思い出された。

    ビスマルクの「動機をめぐってはこれまでに幾度となく歴史家たちの頭を悩ませ、様々な解釈が登場して」いて、折に触れて著者は「的外れ」「一面的」だと批判するが、その割には出てきた新説は良いとこどりで目新しさに欠ける。そもそも編集部から、初めてビスマルクを知るかもしれない読者に向けて書いてほしい、と注意を受けたにもかかわらず、現代にビスマルクの生涯を蘇らせることに失敗している。

    紙数が限られているにも関わらず、各章こどにいちいち「先行研究」を紹介し、そのくせ最愛の妻にして、亡くなれば「パパもすっかりダメになってしまう」と言われたヨハナも、最期にさらりと触れる程度。医者の通告も聞かずに暴飲暴食の限りを尽くしてきたとか、彼の声の「高さ」といった人間的な側面は本文に落とし込まず、あとがきまで待たねばならない。辞任の一報は、イギリス首相をして悲痛の念を覚えさせ、国際社会に将来に対する不安感を感じさせたらしいが、同時代のビスマルク評をもっと読みたかった。

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著者プロフィール

駒澤大学文学部教授

「2022年 『国際平和を歴史的に考える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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