シンクタンクとは何か-政策起業力の時代 (中公新書 2532)

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  • / ISBN・EAN: 9784121025326

作品紹介・あらすじ

世界大戦や恐慌など歴史上の危機から生まれたシンクタンク。具体的な政策につながる革新的なアイデアを提言し、社会を動かしてきた。世界はいま、ポピュリズムの台頭や中国とロシアによる「情報戦争」の挑戦に直面している。シンクタンクの「政策起業家」たちはどう応えようとしているのか。そして「シンクタンク小国」日本の課題は何か。
米国のシンクタンクの現場で働き、現在は自らシンクタンクを率いるジャーナリストが、実体験をもとに知られざる最前線を描く。

感想・レビュー・書評

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  • シンクタンクとは何か
    政策起業力の時代
    著:船橋 洋一
    中公新書2532

    今日本に必要なのは、私企業を支援し、私利暴利を得るのに加担するコンサルティングファームではなく、複雑な社会全体の問題・課題に取り組み、それを解決に導く、シンクタンク、ドゥタンクである

    ■シンクタンクとは

    政策立案者と一般市民が公共政策についてのより良い意思決定を行うために、国内・国際問題の政策志向の調査・研究、および助言を行うための永続的な組織・機関である

    シンクタンクの共通の機能
     ①政策研究集団
     ②政策分析と政策提言を行う シンク・アンド・ドゥタンク
     ③政策課題の解決のために、多様なアクターを巻き込む活動する

    シンクタンクの活動
     ①長期、短期の調査・研究の実施
     ②本の出版、具体的な行動志向のペーパーに発表
     ③世論、政策当局者、メディアに訴える
     ④政府に継続的に人材を提供する

    多種多様な利害関心層を境界横断的に招き、多様な視点から問題検証の場を設定する
    タスクフォース、スタディーグループといった有識者会合を開催する
    ブリーフィング・ペーパー、エグゼクティブ・サマリーをタイムリーに情報発信する
    本や本格論文を刊行する
    「提案なくして敬意なし」オリジナルの提案を行いつづける。斬新であればあるほど、そのリスクを負う
    シンクタンク存続のためのエコ・システムを形成する
    政権への参画:入口、政権からの退場:出口。これを回転ドアという

    シンクタンクが提供するのは、政策研究者である
    インターンシップ、フェローシップが若手研究者を支える

    ■米国

    ・カーネギー国際平和財団
     国家間の紛争を一刻も早く廃止することが目的

    ・外交問題評議会(CFR)
     フォーリン・アフェアーズの発行
     太平洋戦争後の日本の青写真を作った
     マーシャルプランへ(欧州復興計画)への参画
     キッシンジャー

    ・ブルッキングス研究所
     税制金融政策のエキスパート
     FRBのバーナンキをヘッドハンティングする

    ・ランド
     ベトナム戦争での深刻な課題に直面

    ・戦略国際問題研究所(CSIS)
     外交・安全保障のトップシンクタンク
     アジア戦略への取り組み

    ・新経済思考研究所(INET) ジョージソロスのシンクタンク

    ・反シリコンバレー

    ・世界経済フォーラム(WEF) ダボス会議

    ・高等国防研究センター(C4ADS)
     AI,リーガルテック、ビッグデータ 情報、データのテクノロジストによる、調査・分析の新機軸を追求する機関
     
    ■中国とロシア

    <中国>

    21世紀に入って、イラク戦争、リーマン・ショック、ブレグジットで、西側はオウン・ゴール、中国の国際政治のパワーバランスが増大

    ・社会科学院
    ・中共中央党校
    ・上海国際問題研究院
    ・中国現代国際関係研究院(CICIR)

    党中央の考えを忖度する、中央政府の歓心を買おうというインセンティブが働いている
    すべてのシンクタンクは、どこかの政府、党機関に属している

    中国の3つの問題 経済リスクの軽減、貧困の撲滅、環境汚染の克服

    <ロシア>

    ・コンラート・アデナウアー財団(KAS)
    ・フリードリヒ・エーベルト財団(FES)

    欧州のシンクタンクに資金注入を行い、間接的に影響力を行使するケース
    ロシア政府が、欧州にシンクタンクを設立するケース

    ■政策起業家の素顔

    ・学問としての政策研究は危ない学問とされて、学者たちは政策研究の場は退却している
    ・その穴を埋めるのが、シンクタンクである

    ・ジョセフ・ナイ
     ソフトパワー概念
     冷戦後の同盟漂流
     クリントン時代の日米同盟の再確認

    ・グレアム・アリソン
     アテネとスパルタの「ツキジデスの罠」、つまり台頭国と覇権国との関係調整の失敗の罠

    ・フレッド・バーグステン
     キッシンジャ・ドクトリンに学ぶ
     自転車理論 各国が自由化の不断の努力をしなければ保護主義に傾斜してしまう

    ・リチャード・ソロモン
     中国通
     フィリピンの米軍基地問題

    ・ジェームス・スタインバーグ
     東日本大震災の米兵の支援

    ・マイケル・グリーン
     CSISの日本チェア
     アジア海洋透明性イニシアチブ
     中国の地政学的洞察

    ・ファリード・ザカリア
     文明の衝突
     視座革命

    ■日本の課題

    理念と政策が求めらている日本の課題

    上位100位に入る日本のシンクタンクは2つしかない
    ・日本国際問題研究所
    ・アジア開発銀行研究所

    日本には、外交・安全保障政策に関するシンクタンクが極端に少ない

    ・防衛省防衛研究所
     国際的レベルの研究者を抱える
     防衛省防衛政策局での職務経験のチャンスもあり政策志向の研究者の層が厚い
     政策研究大学院大学、パブリック・セミナー(大阪大学連携)

    ・高見澤將林(たかみざわのぶしげ) 防衛政策の権威 ジュネーブ軍縮会議日本政府代表 原東大客員教授

    ・日本の3つのない ユーザがいない、カネがない、ディレクターがいない

    ・深刻なのは、政策専門家集団としての霞が関の機能と役割、使命が空洞化。

    ・日本のシンクタンクが変わらなけれならない理由
     ① 成熟した民主主義国家では、政策決定者は、政策形成の議論を開かれた場で行い、差は買いへの説明責任を果たさなければならない
     ② 現在世界各国のシンクタングが政府と共同作業を行うなど、対外関係構築のアクターとして無視できない力を持ちつつある
     ③ 第四次産業革命の技術革新や、経済社会イノベーション、サイバーセキュリティなどのグレーゾーン型地政学的リスクの出現により、公と民の関係を再構築する必要が生じている
     ④ フェイクとポピュリスト的極論に侵食されつつある言論空間の中で、証拠本位の政策立案とそのための情報開示を行う必要がある
     ⑤ 医療・介護、地方創生、グローバル需要、成長戦略としての環境保護、災害対策とった多様なニーズと、社会サービスが増える一方で、財政規律を回復しなければならない

    人口政策 金融政策 労働政策 教育政策 医療政策 環境政策 
    エネルギー政策 地方政策 対中政策 日米同盟 米軍基地 南北朝鮮
    核不拡散 多国間防衛外交 地経学 第四次産業革命
    気候変動 ポピュリズム ナショナリズム 国境 フェークニュース
    メディア・ジャーナリズム 監視社会 監視資本主義 シルバー民主主義
    世代間構成 財政規律 税の受益と負担

    日本の政策起業力の課題

    ・シンクタンク自体が課題設定を行うこと
    ・事実とデータと分析に基ずく証拠本位の政策研究に徹すること
    ・利害関係者とオーディエンスの包摂力と、境界接続・横断性を心がけ、議論の場を主宰する力を発揮すること
    ・シンクタンクの独立性を貫くこと
    ・健全な楽観主義を持つこと

    目次
    第1章 時代がシンクタンクをつくり、シンクタンクが時代をつくる
    第2章 米国シンクタンクの政策起業力
    第3章 ポピュリズムの時代に
    第4章 進化と多様化
    第5章 中国とロシアのシャープ・パワー
    第6章 政策起業家たちの素顔
    第7章 日本の課題―公共と公共政策を政府と民間でともにつくる
    おわりに
    主要参考文献・資料

    ISBN:9784121025326
    出版社:中央公論新社
    判型:新書
    ページ数:320ページ
    定価:920円(本体)
    発行年月日:2019年03月
    発売日:2019年03月25日

  • 2019.4に読んだが、日本の営利型シンクタンクが「政策起業」にどのように関与していくべきかを考えなくてはと思い、再読。

    営利型シンクタンクの一番わかりやすい強みは、アイディアをDo(実装)に繋げていきやすいことだと思われるが、その前提となるアジェンダ設定を泥臭く企画することがより重要かと感じた。

    アジェンダ設定を主導するためには、まず前提として政策コミュニティとの繋がりが必要で、政策現場がリアルタイムで抱えている課題を可視化する必要がある。次に、アカデミアや組織内などのあらゆる知的リソースを動員し(Doの知見を素早く動員できることに、営利型の強みがあるかもしれない)、アジェンダ案を政策コミュニティにフィードバックし、徐々に洗練させていくことになる。その際、アジェンダのユニークさも忘れてはならないと思う(ふんわりした”無難な”ものに纏めてしまうのではなく、切り口を鋭くする)

    ただ前提として、やはり営利型なので、そのようなアジェンダ設定がしっかりと(お金が儲かる)Doに繋がるのか、という問いもまた避けられない。
    正直、すべてのアジェンダ設定が百発百中でヒットすることはないと思うし、それが仮に自分たちのビジネスを豊かにするだけなら、もはやシンクタンクとも言えないだろう。
    ただ一つ明らかなのは、ブランド力向上には繋がるだろうということだ。「シンクタンク」としてのブランド力は、優秀な人材を惹きつけるのにも役立つだろうし、一般の民間顧客に与える信頼感を高めるためにも非常に有効に機能すると思う。

  • h10-図書館2019.5.2 期限6/1 未読了  返却6/1

  • アメリカ型シンクタンクの話しがメインではあるが、欧州のものの紹介もある他、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの話もあった。
    総じて筆者のアメリカシンクタンクとの太いつながりを感じて印象的だった。

  • シンクタンクの方々には歴史含めて参考になりそうですね

  • アメリカのシンクタンク事情は勉強になった。

  • 私には少々難しかったです

  • 自身、シンクタンクを率いる筆者が、米国(対外政策、安全保障に的を絞っている)と日本のシンクタンクの現状を伝え、日本での課題を提言する。

    よく耳にはする言葉だったが、そういえば「シンクタンクって何だ?」と改めて思った。国によっても成り立ちや位置付けが異なる。国の政策に対して各種分析をして提言を行う機関、といったところか。非営利かビジネスかによって立ち位置がかなり変わってくる。

    ちょうどこれを読んでいる最中に日経新聞で「日本の政策コンサルは特定企業に偏り、コスト検証が甘い」という記事が載っていた。まず結論ありきの政策で、それを国民にうまく説明するための肉付け、あるいはアリバイ作りなのだろうか。その道に精通している人・組織がしっかりしていないと「偉い人にはわからんのです」となりかねない。

    日本の政府はもっとシンクタンクを活用すべきである、と海外からも言われているらしい。シンクタンクの使い方をコンサルしてもらう所から始めるべきなのかもしれない。

  • シンクタンクがどのような役目を担っているのかや歴史的背景まで欧米のシンクタンクの解説を中心に詳細に書かれている。シンクタンクは政策を受け身ではなく新たな社会を描き課題を解決していく姿勢で作っていくことが大切なことや、日本はもっと民間からの人が政策立案に関わるべきという主張が印象に残った。霞ヶ関は日本最大のシンクタンクと言われることもあるが、民間の専門人材や官僚も民間の考え方を知ることが政策立案の質を高めると書かれ、確かにそうだろうと思った。政策立案にかかわる人はいろいろな経験をして政策作りに反映することが今後大事だと思う。

  • 提案なくして敬意無し。
     現在の政策を否定的に精査し、
     オリジナルな代案を追求。

    ワシントンの入り口と出口の”回転ドア”。
     政治任命で4000人規模で参画。
     大学より現実主義的。

    逆風
     トランプ政権、ポピュリスト的極論では支配者側とみなされる。
     グローバルな組織内部にシンクタンク的機能。
     国家の道具としての動員。

    カーネギ国際平和財団
     1910年設立、戦争を廃止を目的。

    RAND
     米空軍の委託研究から始め、核戦略論へ。
     半分が軍事の外交安全保障のシンクタンク。
     数量的実証主義。

    CSIS
     時代に即し、変化するダイナミックな保守。
     アジア戦略にも強み。AMTI開設。
     論をたたかわす前に証拠を示す。

    営利系シンクタンク
    マッキンゼーGI

    C4ADS
     少人数。情報と方法。仮説検証アプローチ。

    中国のシンクタンク
     対外発言力=話語力
     好ましくない人物の政治的暗殺
     フェイクニュース+サイバー攻撃+メール+窃取+SNS拡散ポピュリズム
     中国マネー

    政策起業家
    専門性に加えて、起業家精神と新しい概念を生みだす冒険心。

    日本
    企業グループの傘下の総研系、ガラパゴス。
    外交、安全保障政策に関するものが極端に少ない。
    軍事研究のタブー。

    日本国際問題研究所14位、アジア開発銀行研究所26位
    防衛研究所 防衛分野世界ランク10位 予算28億円

    スパーリングパートナーがいない。
    霞ヶ関のキャリア官僚がシンクタンク=閉じた世界

    EBPM 証拠に基づく政策形成へ。

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著者プロフィール

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。法学博士。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社入社。同社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長等を経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。2011年9月に独立系シンクタンク「日本再建イニシアティブ」(RJIF)設立。福島第一原発事故を独自に検証する「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」を設立。『カウントダウン・メルトダウン』(文藝春秋)では大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

「2021年 『こども地政学 なぜ地政学が必要なのかがわかる本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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