倫理学入門-アリストテレスから生殖技術、AIまで (中公新書 2598)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025982

作品紹介・あらすじ

「人は助け合うべきだ」と説かれて否定する人はいないだろう。しかし、なぜ助けるべきか、どこまですべきか、と問われたら返答に窮すかもしれない。倫理学は、一般に「善い」とされる価値について、立ち止まり吟味する学問である。本書は、その主要理論を紹介。さらに、医療、人工知能など最先端技術がはらむ問題や、戦争、移民、環境破壊などの課題をとおして、思索を深める。理論を説き、生き方を問う倫理学入門。

感想・レビュー・書評

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  • 倫理学というものに自分は疎い。そんな自分にとって「善と悪を問い直す」という帯の一言は、惹きつけられるものがあった。

    果たして、第一章から引き込まれた。

    > 事実に基づく学問は実証科学。自然科学や社会科学の多くがこれに属す。仮定に基づくのが数学や論理学。倫理学はどちらでもなく、現実を作り出す判断。

    現実を作り出す判断。なんともかっこいい。筆者は掴みが上手い。

    > 虐殺を主張するような場合、その主義は信条の自由や権利を侵害するものであり、自己矛盾しているので倫理とは呼べない。

    というのはなるほど。昨今の優生思想的な事件へのアンサーのような、納得感がある。

    それから第二章では、代表的な倫理理論が紹介される。ホッブズ、ロック、ルソーから始まるこの章は、学生時代に学んだ知識を思い出させる。しかし倫理という切り口で紹介されると、また違った新鮮味を帯びる。

    三章以降は「ひととひと」「ひとと身体」「ひととひとでないもの」について。多岐にわたる領域に関して、倫理的な解説が為される。

    ただし、2章の内容が頭に入っていないと、それ以降の内容を納得感を持って読むのは難しいのではないかと感じた。そこで書かれていることが、筆者の意見なのか、あるいは倫理的な見解なのか。判別が難しかった。

    そもそも、倫理的な判断自体が一枚岩ではないとうか。倫理理論が多様であるゆえに、その適用は難しいのだろうなと感じた。

    なかなか一読で全てを理解するのは困難な1冊。それでも、知的好奇心に訴えたける本ではあったと思う。

    (書評ブログもよろしくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E7%8F%BE%E5%AE%9F%E3%82%92%E4%BD%9C%E3%82%8A%E5%87%BA%E3%81%99%E5%88%A4%E6%96%AD_%E5%80%AB%E7%90%86%E5%AD%A6%E5%85%A5%E9%96%80_%E5%93%81%E5%B7%9D%E5%93%B2%E5%BD%A6

  • 倫理学の入門書。学問を学ぶ中で、どうも基盤が定まらないと感じていたところ、高校で未履修であった倫理学にヒントがあるのではないかと気付く機会があり購入した本書。
    新書サイズでありながら、副題の通り、古代のアリストテレスから現代〜近未来の生殖技術、AIまでを網羅的に取り扱っており、入門書として最適であった。
    理論の説明を踏まえた上で、現実の具体的な問題に踏み込んで理論を展開していく流れのお陰で、より我がこととして考えることができた。予想通り、多くのヒントを得ることができた。

  • 品川哲彦(1957年~)氏は、京大文学部哲学科卒、京大大学院文学研究科博士課程単位取得退学、和歌山県立医大講師、広島大学総合科学部助教授、関西大学文学部助教授等を経て、同教授。京都大学博士(文学)。専門は哲学、倫理学。
    本書は、前半で倫理学とは何かについて概説した上で、後半で、我々が現在直面している様々な問題について、倫理学の観点からどのように考えられるのかを解説したものである。
    章立ては以下の通り。
    第1章:倫理とは何か。倫理学とはどういう学問か。 1.倫理と倫理学 2.法・政治・経済・宗教と倫理
    第2章:代表的な倫理理論 1.倫理を作る~社会契約論 2.人間の尊厳~義務倫理学 3.社会全体の幸福の増大~功利主義 4.他者への共感~共感理論 5.善きひとになるための修養~徳倫理学 6.付論。責任やケアにもとづく倫理理論
    第3章:ひととひと 1.市場 2.国家 3.戦争
    第4章:ひととその体 1.私の体は私である 2.私の体は私のものか 3.科学技術による子への操作 4.これから生まれてくるひとのために
    第5章:ひととひとではないもの 1.人間の外なる自然 2.ひとが造ったもの 3.星界からの客人との対話
    第6章:倫理的な観点はどこからくるのか
    私は日頃から、資本主義、気候問題、環境問題、生命科学、AIに関わる問題等、数年~数十年というスパンで人類の未来に大きな影響を与えるといわれている問題に高い関心を持っているが、それらの問題の多くには、まさに倫理的にどう考えるべきかという論点があり、それらを整理する一助として本書を手に取った。
    一通り読んだ感想としては、前半の倫理学の概説については、予想以上に専門的な説明になっており、一部消化不良のところもあった。また、後半については、グローバリゼーション、再分配、ベーシック・インカム、移民、戦争の責任、インフォームド・コンセント、安楽死、遺伝的条件による子どもの選別、クローニング技術、環境と自然、生態系、AIの発達等、興味深いテーマが多数取り上げられており、参考にはなったが、其々のテーマがそもそも数頁で語るにはあまりに大きく、物足りなさが残った。
    新書としてはややスコープが広過ぎると思われるが、倫理学の概要、現代社会のどんなテーマが倫理学上の問題を抱えているのかを知る上では、意味のある一冊と言えるだろう。
    (2022年1月了)

  • 倫理学の中核的な問題と、応用倫理学的な側面の両方について解説をおこなっている入門書です。

    著者はすでに『倫理学の話』(2015年、ナカニシヤ出版)という入門書を刊行しており、そちらでは本書よりも倫理学の中心問題についてていねいな解説がなされているような印象があります。それに対して本書では、応用倫理学や倫理学と他の隣接する学問との関係についても目配りをおこないながら、あらためて倫理学に固有の問題がどこにあるのかということを規定しなおすことに焦点があてられているといえるように思います。

    倫理学について学びはじめたばかりの読者にとって、どちらがより容易に倫理学の世界に入っていくことができるかと考えると、当然読者によって好みが分かれるとは思いますが、個人的には前著『倫理学の話』のほうが親しみやすいと感じました。ただし、倫理学になにができるのかという問題に対する著者のスタンスは共通しているので、応用倫理学的な側面についても多くの議論が含まれている本書を併せ読むことで、いっそう倫理学という学問の意義について学ぶことができるように思います。

  • 「倫理、法、政治、経済は絡み合っている」アフターコロナに問います。付箋読みはなかなか進まないです。

  • 整理したいと思っていた頭の中の雑多な構成物をきちんと本棚に分類して置き直す、というような作業をした感があります。倫理学にこれといって関心や知識があったわけではないけれど、それこそ断片的な知見や議論をわかりやすくソートしなおすことができたような気がします。おそらく明日には書かれていた内容は忘れてしまうでしょうが、ここに書かれている、ということは多分忘れません。

  • ・1回通読。倫理規範のグルーピング、代表的な倫理理論がとてもわかりやすく整理されていて良かった
    ・後半の応用倫理の話は、どこかしらで耳にしたことのある議論が多かったので前半に比べると退屈したが、未来への責任、土地理論などは頭の中で色々と発展して楽しめた
    ・メタ倫理学の話はあまり書かれていないので別文献を参照することにする

  • 「入門」ということですが、第1章の倫理学の説明が私にはかなり難解でした。第2章でルソーとかベンタム(ベンサム)などの著名な思想家の思想がコンパクトに解説され(カントはやはり難解)、第3〜5章で現代社会における倫理的な問題が取り上げられています。こちらの方がまだ読みやすい内容でした。倫理学が現代及び未来の諸問題に深く関わることがよくわかりました。宇宙人との対話は大変面白かったです。

  • 倫理という分野の歴史を見ながら、答えが出ないながらも、正しさとはなんであるかを見出そうとしている様がわかる。

    そしてその活動が法を改定しながら、私たちがいま当たり前に享受しているものに結びついていることを知る。

    事実命題から規範命題は導けないというが、実際のところはなるべく納得ができて矛盾が起こらないようにたくさんの理由で支えている。

    現在の社会(つまり法)は功利主義的なものだと思っていたが、功利主義であれば所得をまったく同じにしないといけないのかもしれない。そしてそれをしてしまうと人々は努力をしなくなる。

    どの主義にも一貫性があって説得力がある。しかし、どれかの主義だけを採用してしまうとそれはそれでどこかしらで直観が拒否をする。

    法はそれらの主義をよい塩梅で採択しているのであろう。

    倫理規範の行き着くところは、結局のところ我々が不利益にならないように決まっているように見えた。歴史的には徳倫理学→社会契約論→共感理論→義務倫理学→功利主義という順番だが完全にそれまでの考え方を捨てるというわけではなさそう。近代社会ではあらたな問題が出てきて、既存の考え方では対応するできず、新しい考え方が出てきている。正確にいうと既存の主義では「悪」として扱われないが「悪」として扱ってもらわないと我々が困るパターンが出てきている。例えば環境の破壊などである。新しく出てきたものとしては生命倫理学や未来倫理学や環境倫理理論などがそれである。

    我々の大半は法は作らないが、ルールや規範を作ることがある。そのうえで倫理の知識はあったほうがよさそう。

    「数学・幾何学・論理学……」なんかは前提となるとりきめと論理規則だけでその真偽が決まり、「科学・物理学・心理学……」なんかは事実から事実を導いているが絶対的な心理ではない、「倫理学」なんかは価値判断が介入する。

    疑問が出てきたのは、「お前のものは俺のもの」というジャイアニズムは相互性がない(相手にも同じ倫理規範を適用しない)が、それは倫理といえるのだろうか。それらしい文節があったが、おそらくこれは矛盾しているゆえに倫理ではないのだろう。

    平等という概念も種々の主義があり、機会の平等もあれば、ロールズの「正義論」では平等な自由の原理として、結果に対しては不平等にしなければならないとしている(つまりよく働いてよい価値を提供できた人にはそうでない人より報酬を高くすべきという考え)。ソ連の社会主義を思い起こさせる。

    生まれたときの不平等は平等にすべきという考え方を取り入れている主義は多そう。努力に対する不平等を取り入れている主義も多そう。しかし、毒親に育てられたような人に対する処遇についてはどうあるべきなのか。

  • <シラバス掲載参考図書一覧は、図書館HPから確認できます>https://libipu.iwate-pu.ac.jp/drupal/ja/node/190

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著者プロフィール

品川 哲彦 1957年生。哲学・倫理学専攻。京都大学大学院博士後期課程修了。京都大学博士(文学)。現在,関西大学教授。著書に『正義と境を接するもの──責任という原理とケアの倫理』(ナカニシヤ出版),共編著に『自己と他者』(昭和堂),『科学技術と環境』(培風館),訳書にR.ヴィーチ『生命倫理学の基礎』(メディカ出版)等がある。

「2023年 『アウシュヴィッツ以後の神〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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