司馬遼太郎の時代-歴史と大衆教養主義 (中公新書 2720)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121027207

作品紹介・あらすじ

『竜馬がゆく』『坂の上の雲』『翔ぶが如く』など、売上げ累計が1億冊を超える大ベストセラー作家司馬遼太郎(一九二三~九六)。日本史を主たるテーマに、人物を個性豊かに、現代への教訓を込めて記した作品は、多くの読者を獲得。「司馬史観」と呼ばれる歴史の見方は論争ともなった。本書は、司馬の生涯を辿り、作品を紹介し、その歴史小説の本質、多くの人を魅了した理由を20世紀の時代とともに描く。国民作家の入門書でもある。

感想・レビュー・書評

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  • 今年は司馬遼太郎さん御生誕100周年。(今調べたら、何と今日からジャスト1ヶ月後がお誕生日との事!)
    本書は司馬さんの評伝だが、彼を取り巻いた環境・時代背景をメインに追っている。その中には小説やエッセイの一部も抜粋されているのだが……、やっぱり司馬さんの文章は読みやすいし、いくらでも読める!ワードチョイス以外にも何か理由があるはずだが、パッと出てこない…。


    読書が大好きで、大の学校嫌い。
    少年時代の司馬さんが『はてしない物語』の主人公 バスチアン少年にちょっとだけ重なった。この頃から新聞記者か小説家になることを夢見ており、結果どちらも叶えている。
    1940年代当時のエリート登竜門 旧制高校の受験に失敗し、「二流」の位置付けだった大阪外国語学校 蒙古語部にやむなく進学。戦後は夢の一つだった新聞記者の職を得たが、社の位置付けもこれまた「二流」だった。

    「二流」を生きる自分に満足していたわけではないだろう。
    でも(当時主流だった)「純文学」に心酔する同年代や出征先の戦車部隊にいた理不尽極まりないエリート将校と、「一流」と呼ばれるものに対する鬱屈も並大抵のものではなかったはず。
    所属されていた組織が綿密に分析されていたのと、兵役中に抱いた疑念が大半の作品に投影されている…というのが今回の大きな発見だった。

    「小説というものは自分で考えだして書くべきもので、『純文学』とか『大衆文学』とかいうふうに概念で分けて書くものではありません」
    「わたしにとって『小説』とは、まずわたし自身のためのものです」

    「司馬作品」「司馬史観」と呼ばれるように、彼の作品はどのジャンルにも当てはまらない。(没後数十年経っても本屋さんでは司馬さん専用のコーナーが設けられているくらいだ)
    それらは時に「自由主義史観」と批判されたりもした。日露戦争が題材の『坂の上の雲』では戦場と化した朝鮮や中国が度外視されていたりと、見落としている点が多数見受けられるという。

    こうした批判や議論は第四章にまとめられているが、正直どれも邪魔くさかった。司馬さんは歴史家ではないけれど、数多の史料を読み込んだ上で独自の視点を持って歴史と向き合っている。植民地側の被害についても決して無自覚ではなかったというし。
    そもそも歴史に「絶対」なんてないから、十人十色に視点が生まれる方が自然なのでは?だから侃侃諤諤と議論するのは時間の無駄では?…と思ってしまうのは単純だろうか。

    ご本人がどう受け止められていたのかは言及されていない。
    司馬さんが「正統」から外れた道を歩まれる中で見えていたのは、「教養主義者による、教養を持たない者への蔑みや驕り」だった。批判の中にも似たようなものを感じ取っていたのでは?と読了した今思う。

    あるビジネスマンは「史実と史観の調和が見事に取れている」と司馬作品を高く評価していた。思えば、自分が「読みやすい!」と感じた理由もそこにある。とはいえ、長編ものは結構頓挫しちゃってるから、どこかで必ず読み進めていこう。「おもろいねんから、しんどい言うてる場合やないで!」と司馬さんっぽく鼓舞しながら。

  • 司馬遼太郎著作って、あんまり読んだことがない。燃えよ剣と新撰組血風録くらいかな。
    司馬史観という言葉は聞いたことがあって、興味があったんだが。

    かなりコンプレックスと、軍の精神主義に対する批判、技術に対する信頼とかがベースにあって。

    書かれている小説自体も、その、司馬先生の主観を通した仕上がりになっているようだ。
    それは全然いいと思う。小説だし、面白ければ。
    教養主義、高度経済成長、文庫本化などが重なって広く読まれていったようなのだが、その、主観を通した「解釈」がいつしか歴史上の事実みたいに受け止められていったってことなのかな。

    多分、受け入れられやすく、分かりやすいパラダイムに基づくものだったのだろう。
    司馬史観「ワールド」に展開する「小説」であるということが忘れられてしまったのではないかと感じた。

  • また司馬作品読んでみるかな。

  • 司馬遼太郎の生い立ちや辿ってきた人生が知れたので、より彼の作品を楽しめる材料になりそうだ。また、小説の中のメッセージのようなものも読み取れるようになりたい。

  • 言われてみれば、そういうことね。という感じの本。途中の作品の抜粋がいい。あとはなぁ

  • 司馬の学歴・職歴が傍流であったことや軍隊経験が作風に与えた影響、作品がサラリーマン層にある種の教養主義として受け入れられた背景、没後に司馬史観批判が発生した理由等、司馬遼太郎を理解するための入門書として最適な一冊。得るものが多く、付箋貼りまくりでした。

    新聞記者時代に、政治や事件などを扱う花形部署ではなく、歴史・宗教や文化関係などを扱う比較的落ち着いた部署にいたため、読書の時間を確保でき(1日5時間!)、それが作家としての下地になったという話に、残業は糞だと思いました。

    司馬作品に滲むエリート批判、組織批判はただのやっかみではなく、ボロい戦車しか用意できないのを精神論で乗り切ろうとして(そんな戦車に乗せられて司馬自身も死ぬかもしれなかった)、結果として国家を破綻させた軍部の上層部に対する憎しみが根底にあると考えると至極真っ当なものだと感じました。

    司馬遼太郎没後の司馬史観批判は、戦後歴史学を自虐史観と非難して自由主義史観を唱えるグループが『坂の上の雲』を根拠としたことで歴史学者が危機感を覚えたことが要因。
    それまで歴史学者が歴史小説を批判するのは「大人気ない」ことであり、司馬以外の歴史小説家が槍玉に挙げられることも無かった。

    著者の福間良明氏も指摘してますが『坂の上の雲』が明治礼賛というのは誤読もいいところで、僕はこの作品を終電の電車で読みながら、組織というものがどれだけ糞であるか、戦場では個人の命がどれだけ容赦なく捨て石にされていくかを書いたものだと受け止めました。人は読みたいように読むわけですね。

    本書は司馬遼太郎について議論する際の前提知識としたい本です。
    ただ、著者の専門が労働者の教養文化史などのため、漫画アニメ等への影響の分析が無く、女性読者層の捉え方(企業勤めの男性が中心で女性読者はいても少なかった)も疑問があるので、その辺を分析した本がほしいですね。
    ちなみに僕が把握できてる範囲だと、るろうに剣心、銀魂、進撃の巨人はそれぞれ作者がインタビューとかで司馬遼太郎作品(燃えよ剣、坂の上の雲等)からの影響を話してます。

  • 売上げ累計1億冊を超える大ベストセラー作家の生涯と作品を辿り、その歴史小説の本質を時代とともに描く。国民作家の入門書でもある

  • 学歴職歴共に傍系だった事による本流やアカデミズムからの一種の自由、軍隊経験からくる組織病理への嫌悪、個人商店の生まれも影響したであろう経済合理性への肯定など、膨大な作品群に散見あるいは貫かれている要素が、司馬の前半生(作家になる前)を通じて丹念に描かれており、特に生い立ちや記者時代など知らなかった側面は、作品を読む上で新しい視点になり得る様に感じた。「坂の上の雲」が明治礼賛の様に言われる件などは、昭和の暗さを際立たせる(歴史家ではなく)小説家としての手腕に過ぎず、史実との齟齬含めた所謂司馬史観に対する議論は、賛否両論いずれも不毛に思える。後半部の、作品がどんな人達にどう読まれたか、の分析については、本書のタイトルである時代や教養にこだわり過ぎた観もあり。大衆に読まれるのは、分かりやすく面白いからで、必然、会社人や社会の変容に関わらず、今後も普遍的に読まれ続けるとしか想像出来なかった。

  • 【請求記号:910.2 シ】

  • 司馬作品が生まれる同時期に生きてきた私としては、福間さんの分析は納得できる部分が多々ありました。
    文学者ではない産業社会学部の教授が分析するのがよかったと思います。
    史実を司馬さんなりに分析・加工し司馬作品として世に問う。
    司馬史観、おおいに結構じゃないですか。
    読み手も、司馬史観にここちよく酔い、自分の人生を豊かに出来ていたら、それはそれでいいと思います(笑)。

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著者プロフィール

1969年、熊本市生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。現在、立命館大学産業社会学部教授。専攻は歴史社会学・メディア史。単著に、『二・二六事件の幻影』(筑摩書房、2013年)、『焦土の記憶』(新曜社、2011年)、『「戦争体験」の戦後史』(中公新書、2009年)、『殉国と反逆』(青弓社、2007年)、『「反戦」のメディア史』(世界思想社、2006年)、『辺境に映る日本』(柏書房、2003年)がある。

「2015年 『「聖戦」の残像』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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