漢字の構造-古代中国の社会と文化 (中公選書 108)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121101082

作品紹介・あらすじ

漢字の成り立ちや字形の歴史から、そこに反映された古代中国の生活や風習、祭祀儀礼や社会制度などを説き明かす。

目次 第一章 古代中国と漢字の歴史/第二章 漢字の成り立ちと字源研究/第三章 原始社会の生活/第四章 古代王朝の文明/第五章 信仰と祭祀儀礼/第六章 古代の制度や戦争/第七章 複雑な変化をした文字

感想・レビュー・書評

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  • 漢字の成り立ちや字形の歴史から、そこに反映された古代中国の生活や風習、祭祀儀礼や社会制度などを説き明かす。

  • 漢字の成り立ちとその字義などの変遷について、これまでの代表的な字典や研究10種類や史料を参照しながら分かりやすく説明してくれている。

    漢字はその字形、字音、字義が長い歴史の中で変化をしてきたが、その系譜を追うことで、社会の変化も感じることができる。そのため、漢字には歴史の情報が詰まっているともいえる。

    本書では、殷王朝で使われた甲骨文字に始まり、主に西周代の青銅器に書かれている金文、東周の竹簡に書かれた簡牘文字、秦帝国が定めた篆書、後漢代に整理された隷書、そして唐代に整理された楷書と、歴史の順を追って文字がどのように変化してきたのかを整理している。

    全体では150文字が取り上げあれ、それぞれの時代ごとの字形が、異字体も含めて紹介されている。楷書では全く異なる文字だと認識していた文字の間に、共通の起源があったりするなど、とても興味深く読むことができた。

    また、文字というのは、音が同じ別の意味を表すために借りてきたり(仮借文字)、当初の字義からかなり広く派生して多義的な意味を持つ文字になったり(引伸義)と、非常に複雑な変化をしていくものだということを、改めて感じさせられた。

    小学校の頃に藤堂明保氏の「漢字なりたち辞典」を興味深く読んでいたが、その解説をより多くの史料と最新の研究で再び聞いているような印象だった。歴史や社会構造の変化とより深く照らし合わせることで、更に奥深い世界を感じることができた。

    また、漢字の中には古代の刑罰や生贄などの儀式、差別的な社会制度などを背景に持っている文字もある。

    そのような歴史の明暗や社会の多様性を考えると、現代においてそのような背景を持つ文字を無批判に使うべきではないという考え方もあるであろう。

    ただ、筆者も述べているが、文字の成り立ちに表れている人間社会の複雑性や多様性を認識しながら漢字と向き合っていくことが大切なのであろうと思う。そういった面でも、漢字の成り立ちの研究は非常に大切な取組みであると感じた。

  • ●漢字は古代中国において作られたものであり、当時の生活や風習、あるいは祭祀儀礼や社会制度などを表している文字も少なくない、と筆者は言う。漢字の構造が見せる古代中国の社会と文化を解説している。

  • 近現代の字源研究(戦後日本)
    ・加藤常賢 漢字の起源 字音と字源との関係づけが強引・無根拠
    ・藤堂明保 漢字語源辞典、学研 漢和大字典 200あまりのイメージ共有という非科学的手法
    ・白川静 字統2004年新訂版 呪術的要素を重視しすぎ
    3人の問題点は拙著「漢字の成り立ち」
    ・新漢語林 第2版 鎌田 字源解説は藤堂の影響あり、強引な解釈。
    著者は漢字の推定継承関係を矢印でつなぎ二次元の表として構成。
    利 穀物の収穫から
    年 穀物の収穫に関連する
    農 ふたつの木と農具の象形
    協 農業関連。2つの工作用農具と2つの犬
    口 器物の用法も
    品 器物を多数並べた
    口 鎌田等は口頭で祝詞を唱えること、白川は人が掲げた祭器
    多 祭祀犠牲から切り取った肉を並べた形
    血 皿と血液を表す小点
    真 人を犠牲にする儀礼(煮て殺す鼎)
    印 捉えた人を跪かせる。捕虜を押さえつける。
    民 奴隷の逃亡防止のために目を潰す様子。

  • 漢字の持つストーリーは本を読んでいるようでおもしろい。
    十の先行研究者の字典や辞典も比較しながら、著者の研究した漢字の成り立ちを見ていく。
    参考文献リストを見て気が遠くなった。
    字の蒐集、相互関係の表を作成するだけでなく、文明・文化・歴史に対しても深い造詣がいる。
    漢字研究者は、知の巨人だと思う。

    自分は白川漢字の本をいくつか読んでいる。



    「漢字の成り立ちと字形の変化の歴史には、古代中国の生活や風習、祭祀儀礼や社会制度などが反映されている。」
    先行研究の問題点も検証した、新しい字源研究。

    ①古代中国と漢字の歴史
    ・新石器時代
     集落とは…
     「構成員が同じ祖先を持っている」という神話を共有する集団。
    ・二里頭文化
     最初の王朝、青銅器の大量生産
     広範囲の支配や高度な技術の継承には文字が必要だったのではないか。
     →漢字の出現?
    ・殷王朝と甲骨文字
     現存最古の漢字資料
     「甲骨占卜」…王、政治利用
     →象形文字だけでなく、会意文字・形声文字など複雑な文字もあり、漢字成立から長く時間がたっている。
    ・西周王朝と金文
     中小貴族層が金文を作る
     青銅器などに記され、繁雑化した字形が増える
     象形性が弱まり、音声言語を表示する性質がやや強くなる
    ・東周王朝(春秋戦国時代)と簡牘文字
     春秋時代は金文が中心。
     戦国時代の官僚は、簡牘文字を主に使った
    ・秦・始皇帝
     文字の形の統一。「篆書」
    ・後漢時代
     「隷書」
    ・唐
     「楷書」王羲之
     ・清
     『康熙字典』

    ②漢字の成り立ちと字源研究
    『説文解字』
    成り立ち→象形・師事・会意・形声

    ・象形文字
     物体の形を視覚的に表現する方法
    ・指事文字
     記号表現をした文字、部位や状態を表す
    →定義が曖昧
    ・会意文字
     複数の象形を組み合わせて動作や様子を表現する
    ・形声文字
     おおまかな意味を表す部分である「意符」と、発音を表す部分である「声符」を組み合わせた文字の
    →現代の漢字の九割を占める

    ・異体字
     同じ意味でも、字が違う

    字音の歴史
    漢字の要素…字音・字形・字義
    漢字の成り立ちでは、上古音が重要
    →日本の漢字の音読みに、残っている。

    字音を重視した研究者…藤堂明保
    字形を重視した研究者…白川静
    21世紀の研究者…阿辻哲次、谷、李旭昇、李学勤

    ・先行研究の問題点

    ・新しい研究方法と字形表
     字形を網羅的に集める
     継承関係を矢印でつなぎ、表で構成する

    ③原始社会の生活
     研究者たちの字源を比較し、著者の作成した字形の表を示して、生活にまつわる漢字の成り立ちをひもといていく。
     最初期の漢字は原始的な生活を反映したものが多い。
     
    ④古代王朝の文明
     建築・器物・楽器・貝・衣服・政治・思想に関する漢字を、先行研究者たちの考えを比較し、著者の作成した表を示して漢字の成り立ちを考える

    ⑤信仰と祭祀儀礼
     多様な自然信仰
     祭祀儀礼に関する漢字を先行研究比較し、著者の作成した表を示して漢字の成り立ちを考える。
     「口」について興味深く読んだ。私の中では祭器で固定していた。

    ⑥古代の制度や戦争
     支配のための制度や軍事力。王朝経営の両論。
     上記に関する漢字の成り立ちを、先行研究の比較、著者の作成した表を示して考える。
     学問、命、令、使、法、軍事、官など。

    ⑦複雑な変化をした文字
     字形構造の変化の過程が類似している二文字。

    本書で使われている、甲骨文字のフォント欲しい。

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著者プロフィール

落合 淳思(おちあい・あつし):1974年愛知県生まれ。立命館大学大学院文学研究科史学専攻修了。博士(文学)。現在、立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所客員研究員。主な著書に『殷代史研究』『甲骨文字辞典』(以上、朋友書店)、『漢字字形史字典【教育漢字対応版】』『漢字の音――中国から日本、古代から現代へ』(以上、東方書店)、『殷――中国史最古の王朝』『漢字の字形――甲骨文字から篆書、楷書へ』(以上、中公新書)、『漢字の構造――古代中国の社会と文化』(中公選書)、『甲骨文字の読み方』『古代中国の虚像と実像』(以上、講談社現代新書)、『甲骨文字に歴史をよむ』(ちくま新書)、『甲骨文字小字典』『漢字の成り立ち――『説文解字』から最先端の研究まで』(以上、筑摩選書)などがある。ほか論文多数。


「2023年 『古代中国 説話と真相』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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