癌を追って ある貴重な闘病体験 (中公新書ラクレ 353)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (196ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121503534

作品紹介・あらすじ

父親と同じ前立腺癌を発見した著者は、全摘出手術を受ける。執刀医との遣り取りから、家族との交流まで、経済学者の厳正な目と温かい人間観察を併せ、あますところなく記した。

感想・レビュー・書評

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  • http://www.my-cancer.net/cafe/book/bs_049.html

    星野店主の書評
    1937年生まれの一橋大学学長が、癌研有明病院で前立腺の全摘手術を受ける。



    皆さん、こんにちは。店員のあきひです。
    前回に引き続いて、男性特有の癌、前立腺癌の闘病記を紹介します。 著者は、経済学者の石弘光さんです。この本からは「備えあれば憂い無し」とはいかないまでも「備えあれば憂い少なし」を学べます。 学者としての石さんが、自分の癌について探求心を持って観察し続け、「もしかしたらの日」に備えて周到に準備して過ごされた姿勢から感じたことです。

     実は、石さんのお父様も前立腺癌でした。 1960年代のことです。 今と違って本人への告知も無く、検査や治療法もまだ進んでいない時代でしたから、「前立腺肥大です」と言われて手術した時は、すでに骨盤に転移した末期の癌でした。お父様は自分が癌と知らぬまま骨転移からくる痛みを神経痛と思い、湿布を貼ったりお灸をしたこともあったそうです。最終的にホルモン療法や放射線治療を受けましたが、最後は体中、脳にまで癌は転移。この時、石さんは手遅れの前立腺癌の末期症状はつくづく悲惨なものだと痛感しました。

     家系・遺伝的に将来自分も前立腺癌になるかもしれないと感じた石さんは、癌を意識して若い頃から定期的に健康診断を受診。また、前立腺癌に罹りやすくなる50代になると、癌患者の闘病記や癌関連の書物から知識を養いました。

     そして、66歳の時の検査で ”前立腺癌の疑い有”と診断され経過観察となります。一般的に、前立腺癌の有無は腫瘍マーカーのPSA検査(正常域内4以下)で判明するそうですが、石さんの場合は1.0周辺の値でした。正常域内でもエコーや尿検査、直腸診など総合的に見ていくと前立腺癌が存在するケースが2~3割あるとのこと。結果として石さんもこのケースだったようです。

     数年の経過観察の後、石さん72歳の時に、ついにその日がやってきます。 「限局性、転移なし、ごく初期のステージの癌」と診断が下りました。 この時石さんは、10数年癌を追いかけてきて、初期で発見できたことは実にラッキーだと感じたそうです。

     そして、石さんは迷いなく根治を目指し全摘手術を選択します。 告知のずっと前から癌に向き合ってきただけあって、何故この治療を選択するのか、何故これは選択しないのか、その理由をご自身の中でクリアにして治療に臨まれます。 お父様が闘病された時代に比べれば、現代医学の進歩により前立腺癌の早期発見、早期治療が叶った石さん。 それだけでなく「もしかしたらの日」に備えて、癌に向き合い続けた努力も見逃せないと思える一冊です。

     最後に石さんの次のメッセージもお伝えしておきたいと思います。
    「中高年夫婦の奥さんには、夫が罹患する可能性も十分あるので一読してもらいたいと念じている。」

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著者プロフィール

石 弘光(イシ ヒロミツ)
一橋大学名誉教授
1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学経済学部助手、専任講師、助教授、教授、学長(1998-2004年)。退職後、2007-11年の間、放送大学の学長を務める。現在、一橋大学ならびに中国人民大学名誉教授。その間、政府税制調査会会長(2000-06年)、財政制度等審議会委員、経済審議会委員、金融制度調査会委員などを歴任。経済学博士。専門は財政学。財政、税制に関する主な著書として、『財政構造の安定効果』(勁草書房 毎日エコノミスト賞)、『租税政策の効果』(東洋経済新報社 日経・経済図書文化賞)、『財政改革の論理』(日本経済新聞社 サントリー学芸賞)、『現代税制改革史』(東洋経済新報社 租税資料館賞)、『税制改革の渦中にあって』(岩波書店)、『増税時代』(ちくま新書)、その他多数。

「2014年 『国家と財政 ある経済学者の回想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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