アーロン収容所 改版 - 西欧ヒューマニズムの限界 (中公新書 3)
- 中央公論新社 (2018年1月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121800039
作品紹介・あらすじ
イギリスの女兵士はなぜ日本軍捕虜の面前で全裸のまま平気でいられるのか、彼らはなぜ捕虜に家畜同様の食物を与えて平然としていられるのか。ビルマ英軍収容所に強制労働の日々を送った歴史家の鋭利な筆はたえず読者を驚かせ、微苦笑させながら、西欧という怪物の正体を暴露してゆく。激しい怒りとユーモアの見事な結合と、強烈な事実のもつ説得力のまえに、読者の西欧観は再出発をよぎなくされよう。
感想・レビュー・書評
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「オリエンタリズム」の主張の先駆けだったのかもしれない。記述の面白さは、その時代、1960年代ね、群を抜いていた。サイードとちがうのは、何だかルサンチマンの結晶化のイメージが、やっぱり物寂しい。戦争での体験が、腹が立ってしようがなかった、そんなオヤジの気分が漂っていないか?
だから、単なる文化論を越えた名著なのだろうが、昨今跋扈する、でたらめな「歴史修正主義」とやらの、心性を育てた節がないでもないところに要注意。
でも、面白いよ。
https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/201906140000/詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
英軍捕虜として、ビルマの収容所で強制労働の日々を送った歴史家が、実体験から西欧の人種差別観を説く。名著を改版で読みやすく。
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東2法経図・開架 B1/5/3b/K
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Human beings are recognized (authenticated)by “ideology”.
①「東洋人に対する彼らの絶対的な優越感は、まったく自然なもので、努力しているのではない。」
→英軍の東洋人に対する家畜化は、英国の当然のイデオロギーによって疑う余地もなく遂行されていた。彼らは思想教育を施さない事で、東洋人を家畜の枠へと押し込めた。
→発展途上であると言う事実は、先進国の立ち位置を補償するために保持されている。
→資本主義の中で一次産業に従事させる。ある意味では合理的。
→人間でないものにヒューマニズムは必要ない。
しかしそもそも、”生物学そのものがイデオロギー的レトリックである”
②
近代ヨーロッパ: 美の独立性の主張(美に対する絶対的な自信)
日本: 全ての価値を美醜に還元。(美に対する劣等感)(例えば仏教の教義よりもその仏像の美しさに惹かれて信奉)
③
インド: まず自然を憎む事、それらの脱却を出発点として成長する。
日本: 自然崇拝と自然への帰依。
ヨーロッパ: 自然と友人になり、時には自然を支配しようとする方向に発展する。
•「人間には様々の型があり、万能の型というものはない。異なった歴史的条件が異なった才能を要求し、その型の人物で、傑出し、しかも運命に恵まれたものだけが活躍した。」
☞人間の価値など、その人がその時代に適応的だったかどうかだけにすぎないのではないか。
•収容所で均質化された状態から、また序列やヒエラルキーが生まれる逃れられない競争化のプロセスを垣間見た。
•国民性☞本来は存在していないけれど、政府や権力によって、”あるように見せかけられているもの”。→政府が国民を統治するためのレトリックに過ぎない。
痛切でありながらユーモラス。こうした歴史的文献をもっと積極的に読んでいきたい。
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戦場ルポとしては一級品,比較文化論としてはもう古いか
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数十年振りに読了。当時は「へーほーはー」って感じだったが、今読むとかなり穿った切り口だ。捕虜当事者としての視点は尊重に値するが、状況適合の視点が弱いかな...。多文化理解を推し進める上では、読んでおいて損はない。当時の状況を垣間見られる一冊。
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若い頃に何度か読んでは挫けた一冊である。その後、何冊もの書籍で引用されていることを知った。竹山道雄も本書に触れていたので直ちに読んだ。やはり読書には季節がある。それなりの知識と体力が調(ととの)わないと味わい尽くすのが難しい本がある。何気ない記述に隠された真実が見えてくるところに読書の躍動がある。
https://sessendo.blogspot.com/2018/09/blog-post_17.html -
大学図・1F開架 081.2/58/3a
東2法経図・6F開架 B1/5/3b/K -
「西欧の人種差別意識を暴き出した名著」となっていて、確かにそうなのだが、西欧批判の書としてよりも、日本人、イギリス人、インド人、ビルマ人など、それぞれの文化を持った人間の考え方の違いが、作者の経験したことのみをフェアに書くことによって、よくわかる面白さというか、興味深い文化論・文明論になっていて、多くの発見がある。ある種の滑稽さの中に、戦争のリアルも実感できる。確かに名著。