宦官: 側近政治の構造 (中公新書 7)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121800077

作品紹介・あらすじ

宦官とは何か。身分差別のきびしい社会にあって彼らが後宮に奉仕し、皇帝の側近として権力を壟断し得たのはなぜか。これらの問いに対して、従来の通史は明確な解答を与えていない。本書は、この存在が過去四千年にわたる専制君主制と表裏して生きながらえた中国を中心に、その実体を初めて明らかにしたものである。この奇怪な組織の解明は、現代に対する新たな視点を与えるにちがいない。

感想・レビュー・書評

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  • 宦官の歴史。改版。
    古い本を読むときは、「なるほど、こうなんだな」ではなく「なるほど、こう考えられていたんだな」と読む必要がある。
    (新刊でもある程度はそうだけど古い本は特にその必要がある)
    歴史や思想や数字で割り切れないものなんかはどんどん新説が出て変わっていくからなおさらだ。

    天動説を読むときは「宇宙の中心は地球」ではなく「宇宙の中心は地球だと考えられていた」と読む。
    そうすると、なぜそう考えたのか、なぜそうではないと気づいたのか、なぜそうでなければいけなかったのか、と考えていける。

    50年モノのこの本も、そうやって読むべきなんだけど半世紀は微妙だ。
    明らかに古いのに過去になりきれていない。
    だから時々、つい今の感覚に引き寄せて読んで、どんびきしたり怒ったりしてしまう。
    ジェンダー関係は男の解釈が気持ち悪いし、上から目線はみっともないし、自国棚上げは恥ずかしい。
    昔の本ではあるけれど、未だにこの感覚で生きている人をチラホラ見かけるから、「昔のこと」と笑いとばせない。

    50年前の「今」の「男」の「日本人」の「健常者」の価値観で過去を解釈しているから、今の価値観で読むと変なところがいっぱいある。
    1909年生まれの人が1963年に出した本としては、十分良い面を見ようとしている。
    それでもやっぱり悪いことは「宦官だから」、良いことは「宦官なのに」で語られる。
    女や外戚や蛮族も同様に、最初から悪いものに設定されている。

    でも変だと感じるのは私が2012年現在の自分の価値観に基づいて解釈しているからだ。
    結局この本よりもっと前の、宦官が現役だった時代の人たちが宦官をどう解釈していたかはわからない。
    だから価値観の部分は本当はあんまり重視するべきところじゃない。

    価値観の部分に目をつぶることができさえすれば、本としてはすごく面白い。
    読み継がれるのも納得できる。
    いくつかの本でこの本とまったく同じ描写を読んだことがある。
    あれらはきっとこの本を読んで参考にしたのだろうな。

    ニュースでトンデモ発言をする政治家なんかを見ると、どうやったらこんな考えに至るんだろうと不思議に思う。
    こういう本を読むと、ああこれを真に受けて育った上に新たな知識の獲得を放棄したなら、ああなっちゃっても不思議はないなと思う。
    たぶん前都知事とか政界でハッスルしちゃってるおじいちゃんたちはこのくらいの時代で頭の更新をやめちゃってるんだろうな。



    「ブレンダと呼ばれた少年」http://booklog.jp/item/1/4895859371

  • 中国史好きの年寄りの蘊蓄話を延々グダグダと聞かされているような本。宦官が中心に語られるのは精々が第一章くらいで、第二章から大きく逸脱し始め、第三章以降はもはや「10秒でわかる中国史」の雰囲気が濃くなり、皇帝を一人一人順繰りに紹介していると気づいた時には興味もほとんど冷めていた。
    近世史が専門の自分にとっては古代中世の歴史は未知なのでその意味では面白かったが、控えめに言っても中国史は同じこと延々と繰り返しているだけなので、さすがに途中から欠伸が止まらなかった。「年年歲歲花相似,歲歲年年人不同」は見知った馴染みの顔が一人また一人と亡くなっていくことを歌ったものだが、王朝かわって、皇帝かわって、その度に登場人物の名前だけがかわってパターンはかわっていないのをみると、中国史の単調さを歌っているのではないかと思ってしまうほど。中公新書の担当者ももう注意して少し軌道修正うながすべきだったのでは。
    ただ、終盤になるとまた宦官に焦点が合うようになってきた。宦官に焦点があっている序盤と終盤、どちらも明清が中心なので、つまるところ、それより古い時代の宦官のことはよくわからず、かと言って知っていることだけ書くと数頁にもならない分量でおわってしまうから、関係のないところにまで木の枝をひろげていったのが中盤、ということなのだろうと勝手に推測した。正直、それならそれで中盤は省いてしまってよかったのでは。薄くなったって別に誰かに咎められるわけでなし。内容が凝縮されて却ってよいと思う。残念な本。

    ---

    p.41
    「……別の男と不義をむすぶことを意味する『  』という奇妙な文字が……」
    鉤括弧の中が抜けているので中公新書に問い合わせたところ、
    「㚻」
    という文字が脱落しているらしい。

    ---

    序盤より。宦官の製造工程がおもしろかった。

    「手術を受けるものは、炕(オンドル)に半臥の姿勢ですわる。……一人が腰を、他の二人が足を……押さえる。ここで刀をもった執刀者が自宮志願者の前に立ち、『後悔不後悔』……と念をおす。……承諾の意がしめされると、刀は一閃して、そこに宦官が出現する。」

    直後に詳しい手術の方法は説明されているものの、この突然宦官がジャジャーンと現れるかのような書き方に数分間、抱腹絶倒した。
    いやしかし、出だしからイエス・キリストも宦官反対ではなかったとあり、中国特産だと信じきっていた人間としては寝耳に水で唖然とした。しかも紀元前14世紀には既に中国に宦官が存在していて、清朝の滅亡が1912年、つまり20世紀だから、たすと34世紀、3400年はすくなくとも中国で活躍していたと。背筋が寒い。

  • タイトルにある『宦官』よりは、サブタイトルの『側近政治の構造』が主眼にあるようで、どうにも隔靴掻痒な感がいなめない。『宦官』自体に関しての基礎知識的なものは前半部で紹介されているのであるが、整理されているものではなく、実例を無作為に並べてあるだけのように感じる。後半は漢時代以降の中国史を政治史を扱っているのだけれども、その時代についての『基礎知識がある』という前提であるならば、説明が浅いように思うし、『基礎知識がない』という前提ならばあまりにも不親切で、歴史を学ぶにあたって大切な『時代の流れ』に対して無頓着であるように感じた。
    総じて、この時代にあった宦官の雑学が散見する本という感じで、中途半端であるように思う。
    日本には宦官という制度がなかったわけだが、この件に関しては『日本史は専門外だ』と前置きした上での記載で類推を記載するだけだったので、トータルとして『なんか思ってたんと違う』という感想になる本だった。

  • 後宮ものの小説を読んだら宦官が何人も出てきて気になったので参考文献として買ってみた。第一章で書かれている去勢の仕方が壮絶でゾッとした(もちろん現代の価値観に当てはめてはいけないが、読んでいて正直かなりきつかった)。繰り返される権力闘争の血みどろの歴史が恐ろしい。そんな宦官がつい百年位前まで普通に存在していたというのは改めて考えると驚きである。

  • 古い時代の著作なので時々ひっかかる表現はあるものの読みやすかった。
    中国にける宦官の成り立ちと役割の変遷、漢や唐でどのように歴史に絡んできたのか。
    司馬遷も宦官になっていたとは知らなかった。
    中国からいろいろな制度を参考に国造りをした日本だが、宦官が根付かなかったのも興味深い。

  • 宦官についてあまり注目したことはないが、中国の歴代王朝について考える上では重要な存在であると思った。
    ただ、あまりに古い本なのでそこは注意が必要だと思う。

    著者による、漢、唐、明の皇帝に対する評価が興味深かった。

  • 前半は確かに宦官についてだが、後半は宦官ではない話が多い印象。

  • 初出1963年なので、最近の研究も読んでみたい。

  • 『蒼穹の昴』(浅田次郎/講談社文庫)と並行してちまちま読んでいたのが『宦官 側近政治の構造』(三田村泰助/中公新書)でした。『蒼穹の昴』には宦官が登場するからです。

    宦官とは、後宮に仕える去勢された男性のことです。現在はいません。
    大昔、貧しい家に生まれ、少しでも身を立てるために自宮(自らの意思で去勢すること)して王朝に仕えたり、または罪に問われたときに課せられた刑(宮刑)によってはからずも去勢させられたりということがありました。

    本書はそんな宦官について書かれています。
    第一章では宦官の起源や去勢の方法、宮刑や宦官を輩出する地域について書かれています。第二章では宦官が仕える後宮の、后妃に関することや宦官の職務について。
    第三章では漢代の宦官について。第四章では唐代の宦官について。第五章では明代の宦官について書かれています。
    そして終章では、「宦官はなぜ日本に存在しなかったか」「現代における宦官的存在」で締められています。

    男性の方はちょっと背筋が震えるかもしれませんが、中国などの王朝で裏から世を動かした宦官について覗いてみてもいいかもしれませんよ。

  •  3章~5章は、漢・唐・明の歴史の中で、外戚・儒学官僚・則天武后といった他の登場人物もある中で宦官の分量が多めという程度である(当然、司馬遷・蔡倫・高力士・鄭和・魏忠賢といった有名宦官は出てくるが)。猟奇的趣味からは、宦官なるものの性格や生活について触れた1・2章が面白い。
     供給源としては、最初は征服された異民族、次いで宮刑、唐~宋以降は自宮が多くなるとのこと。同じ立場にある者として同族意識は強かったようだ。試験を受けたわけではない宦官がなぜ政治に口出しできるのか疑問に思っていたが、官僚が入り込めない宮廷内部の生活のあらゆる面を管理するため、職人的な仕事がそもそも膨大だったようだ。また、明代には宦官学校が作られたという。その中で、才知や政治的野心が豊富な者が出世していったのだろう。
     筆者は、宦官の存在理由として、もちろん後宮近くで仕えるということもあるが、非人間的な存在である専制君主とうまが合うのは非人間的な存在である宦官という意味付けを与えている。「内臣は宦官、外臣は首相以下の官僚」と指摘する文書も残っている。
     古代エジプトやトルコにもいた宦官がなぜ日本にいなかったのかについては、筆者は、異民族との幅の広い接触や征服・被征服関係がなかったことや、仏教文化の影響で残酷な宮刑は入ってこなかったことを挙げている。

  • 161006読了

  •  股間がモゾモゾする。根元から断つって(泣 現代のニューハーフって疑問もわくが妻帯者が大勢いたことをみるそうじゃないらしい。今よりも良い暮らしをするための手段であったり、異民族が暮らす国としての悲しい風習であったり・・・後半は流し読み

  • 後半、具体例になるとだれてしまったのが残念だが、前半は面白かった。中国宦官のおこり、由来について。
    終章にあるように、皇帝の秘書、社長室等の見方は参考になった。中公新書の世界史シリーズ。要チェックである。

  • ワンパターン中国史のワケは宦官にあり。

  • なぜ「宦官」という制度が作られたのか、またその歴史がわかってよかった。

    日本になぜ「宦官」という制度がもちこまれなかったのか、という点については、「あとがき」に筆者の短い考えとして書かれているが、それでもある程度、納得できた。

    古い本なので、少し時代を感じる部分(価値観?)もあるが、良書だと思う。

  • 中国の歴史に度々悪役として登場する宦官について、宦官の始まりから、宦官が活躍した漢、唐、明の代表的な宦官について書いてあります。
    どうも著者の女性観とか書き方に違和感を感じると思ったら、50年前の著作でした。
    個人的に一番疑問だった「日本には何故宦官がいなかったのか」については最後の方に短く触れてあっただけなのが残念です。

  • 第三の性と呼ばれる宦官。中国とトルコが有名だが、中国は特筆される。清王朝末期でも数百人はいたという。その異様な様子は、当時の西洋人が撮影した写真が扉絵に載せられており、図りしれる。額には細かな皺が刻まれ、顎は異様に細く、お婆さんのような顔立ちながらも、喉仏はある。声は嗄れた高音で聞くに耐えなかったという。それでも、歴史上には、権力を振るったものや、司馬遷のような歴史書を遺した人もいる。皇帝という神に近い存在には、人ではない別のもの(それが第三の性)が、近侍する考えになったようだ。

  • 漢、唐、明、清代の天子の側近としての宦官の活躍(よい悪いは別として)をまとめた一冊。清流派と異なり、傍流としてしか語られない宦官にフォーカスしていた点は興味深かった。ただ中公新書ができたばかりの50年前の書物ということもあってか、私見なのか何らかの典拠を以って語っているか不明な箇所が多く、信のおききれる内容となっていない点は残念。

  •  五十年前の著作を改版したもの。中国二千年の宦官の歴史。執筆された時代を反映してか,宦官に対する著者の嫌悪感がにじみでているのは仕方がないんだろうか。無学,がめつい,破廉恥,嫉妬深い,国を滅ぼす…彼らにつきまとう悪いイメージは歴史を記述する者によって不当に強化されてきた面もあるんじゃないかな。
     まあ漢,唐,明を中心に,宮廷に蠢く宦官たちの事績をまとめた内容は読み応えがある。自宮のやりかたも詳しくて,浅田次郎『蒼穹の昴』の当該場面はこの本に負うところが大とみた。政府公認の刀子匠が執刀し,切断した物を「宝」と呼んで後生大事に保管したとか。辛亥革命で消え去る運命を考えると虚しくも滑稽な何ともいえない感情をもよおしてしまう。

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