生命を捉えなおす 増補版: 生きている状態とは何か (中公新書 503)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (355ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121905031

感想・レビュー・書評

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  • 清水博(1932年~)氏は、生命科学、場所論を専門とする科学者。東京大学名誉教授。NPO法人「場の研究所」所長。諸学問を統合した視点から生命を解明する“バイオ・ホロニクス(生命関係学)”の研究に取り組んでいる。
    本書は、1978年に出版(増補版初版は1990年)されたロングセラーで、松岡正剛の有名な書評サイト「千夜千冊」でも、「この一冊が与えた衝撃は機関銃掃射のようだった。・・・一番の衝撃は「情報の動的秩序のふるまい」によって「生命」を捉えようとしていたことである。いまでこそこのような見方は生命論や生命情報論や自己組織化論の主流のひとつになっているが、当時はこんな見方をする科学者はほとんどいなかった。」と絶賛されている。
    本書は、タイトル通り、「生命とは何か」、「生きているとはどういうことか」を、普遍的に捉え、様々な側面から論じたものであるが、強いて整理するなら大きく二つの論点があるように思う。
    一つは、人間を含む生体にとって、「生きているとはどのような状態か」を明らかにしている点である。著者は、生物には、構成する要素は同じでありながら、「生きている状態」と「死んでいる状態」、即ち2つの「相」が存在するとし、①「生きている状態」とは、特定の分子や要素があるかないかということではなく、多くの分子や要素の集合体(マクロな系)が持つ「相」(グローバルな状態)である、②「生きている状態」にある系は、「エントロピーの増大則」に反して高い秩序を自ら発現し、それを維持する能力を持っている、③その秩序は、結晶に見られるような「静的秩序」ではなく、「動的秩序」であり、その秩序を安定的に維持するために、エネルギーや物質(負のエントロピー)を絶えず取り込む必要がある、と述べている。即ち、生きている相にある生命系には、秩序の自己形成をする能力があり、そこで生まれる動的秩序を伴った現象を「生命現象」というのである。これは、著者も書いている様に、オーストリアの理論物理学者・シュレーディンガー(1887~1961年)の名著『生命とは何か』(1944年)の発想を展開したものであり、最近では、「動的平衡」をキーワードに活躍する福岡伸一によっても広く知られた考え方である。
    そしてもう一つは、「生命」とは「動的秩序を自己形成する能力」であるという発想を生体以外に拡大し、様々な「系」を固有の「生命現象」と考えた点である。ある「系」において、個々の要素の運動や状態の変化が「系」にマクロな秩序をつくると、その秩序が逆に個々の要素に働きかけて、それぞれが協同して運動する力を与え、そのために秩序はますます高められ、それが要素の運動の協同性をさらに促すというようなループが回転することになるというのである。即ち、一生体に留まらず、自然における様々な系(生態系、気候系など)はもちろんのこと、さらには人間の社会や組織でさえも、そういう意味ではある種の「生命システム」であり、「生きている状態」があるのである。そして、その「生きている状態」とは「生きている状態にあるシステムは情報を生成し続ける」ということだと述べている。
    20世紀を代表する物理学者ファインマン(1918~88年)は、同世紀の科学の最大の成果を「物質は原子からできている」ことの発見と言ったが、ほぼ同じ時期に、アトミズム、要素還元主義の限界(もちろん、著者はその重要性についても強調はしている)を示唆した本書の先駆性・独創性は、松岡氏の言う通り驚くべきものである。
    (2020年4月了)

  • 1990(一部1978)年刊。本書の眼目は、科学的方法論として要素還元主義的見方を離れ、当該要素の関係に注目すべきで、生命はその典型、ということだろう。今風に言えば、複雑系論の嚆矢と評しうる。例として社会事象が挙げられているのはまさにそれ。と、ここまでは理解可能だが、本書列挙の具体例は個人的には難しいものが多い。特に六章「生体運動と動的協力性」、七章「リズムと形態形成」は…。またエントロピー崩壊を化学的な文脈で説明されても…。忸怩たる思いだが、再度アタックしたい。あと78年の本書刊行には脱帽である。

  • 「生きている状態」と「死んでいる状態」を分けるものは何かという問いに対し、本書は動的秩序という概念を持ち出して答える。
    生命現象に共通する特徴の1つに、「マクロ系に秩序が自発的に出現すること」があり、これは開放系において熱力学的ポテンシャルエネルギーの減少とエントロピー増大のバランスが前者に傾いたときに生じる。このような動的秩序の際に現れる秩序構造をプリコジンは「散逸構造」と名付けている。
    本書によると、動的秩序の形成条件は、1)ミクロな自己複製機構があること、2)複製が自己増殖的に進行する条件(=不安定さ)が系に備わっていることであり、2)の不安定状態を解消しようとして(=ポテンシャルエネルギーを減少させるため)、系に協同的におきる変化こそがマクロ秩序の駆動力となる。
    上記の動的秩序形成の例(自己組織化の例)としては、べナール対流やレーザー光などが挙げられる。なお、プリコジンも指摘しているように、このような複雑性は必ずしも生命現象にのみ限られているわけではない。生命のシステムの一側面を理解する上で「動的秩序」や「自己組織化」という概念は大きな助けにはなるが、これらだけを用いて「生きている状態」を定義するのは難しいだろう。

  • 情報を負のエントロピーに相当するものと位置付け、生命の仕組みをできる限り物理化学の概念を用いて説明してくれる。
    ただしそこには機械論や要素還元論とは違う、情報すなわち意志という視点がある。
    少し不安定な状態からより安定な状態へ向かう時に、選択肢が複数ある時により好ましい方へ向かうための情報が生命を支え続けてきた。
    清水の言わんとすることが把握できたわけではないが、既存の知見もすべて飲み込んで生命を見直そうという思いが伝わってくる。

  • 著者自身の研究成果を紹介しながら、サブタイトルになっている「生きている状態とは何か」という問いに向けて考察をおこなっている本です。

    広い意味でのシステム論的な観点から、生命において動的秩序が形成されるプロセスについて具体的に解説しているのですが、エントロピーについて一般的な解説をおこなっている箇所はともかく、著者自身の研究について触れられている箇所は理解できないところも多く、流し読みになってしまいました。とはいえ、「はしがき」に「どうか、細部にあまりこだわらずに、全体の流れを楽しんでくださるようお願いします」と書かれているので、こうした読み方でもかまわないのだろうと一人で納得しています。

    増補版刊行の際に付け加えられた本書の第二部では、意味の創発という問題への展望が語られており、著者自身の提唱する「場の生命論」の基本単位となる「関係子」という概念についての説明がなされています。ただ、第一部の生物学的な議論と第二部の意味にかんする議論とのあいだには、もうすこし説明によって埋めるべきギャップがのこされているような印象はいなめませんでした。

  • 著者は筋肉収縮の分子機構についての独創的研究で得た「動的秩序を自律的に形成する関係子」を出発点に、生命システムの普遍的な性質を「自ら情報を創り出す能力」という観点から捉える。そこから複雑で多義的な大脳や、環境の知的な働きの底に存在する法則性を動的に追求していく。

  • 987円購入2001-10-00

  • (2007/5/2)
    西垣先生著のデジタルナルシスの中からリファーされてたので,これを機会に読んでみた.

    リファーのジャンプの動機は清水博流の「情報の意味論」を知りたかったからなんです,清水博の生命理論を学ぶこととなりました.

    なんといっても,この生命論は僕が他の経路から間接的に他の先生,他の著書から学んできたこととの公約数で覆えるようなことだった.

    つまりは,その他の先生や,他の著書に強い影響を与えていたのが,この清水博先生と言うわけですね.

    計測自動制御学会の創発コミュでお世話になってる,東北大のY野先生のお名前が本書の中で結構出てきていて,知らなかったオシゴトを拝見いたしました.

    前半は非常にまとまっていて,綺麗な理論でしたが,増補でたされていた分はさすがに,
    細かな議論では到達できない領域に触手を伸ばした様子がでており,前半とはカナリ色合いの違う書になっておりました.

    意味論の世界を相手にしている私としてはその後半的な清水理論をもう少し読んでみようかとおもったり.
    (読んで納得いくんは前半なんですけどね.)

    しかし,なんだか東大な臭いがぷんぷんするのは私だけでしょうか?なんか,最近,東大と京大の学風の違いが理論・
    議論から,感じが違うんですよね.なんなんだろう,この感触・・・.

  • 得意先の人に勧められて購入するも数年積読。ようやく乗ってきて読了。すごく刺激的な本であった…!名著。難しいところもあるが、大枠の主張は文系頭でも読み取り可能だと思われる。生命は分けてもわからなくって、「生きている」というのはグローバルな性質、「相」なのである、と。目から鱗というのはこういうことですね。なんとなく感じてはいても、それを科学的な手法で確かめたり表現していくということができるんだ!と。感動ものです。そしてここにもセイゴオさんがいる…。この人すごいな。

  • 生きているとはどういう状態か。そんな素朴な疑問から出発し、出発点がそれだから知らないうちに分野を横断し、生物学、数学、物理学、果てには哲学の国境をなきものにする。その一個の精神のゆらぎを追体験できることこそ、本書の醍醐味だと思った。

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著者プロフィール

清水 博(シミズ ヒロシ)
デル株式会社 執行役員 広域営業統括本部長
横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。日本法人として全社のマーケティングを統括。現在、従業員100名から1000名までの大企業、中堅企業をターゲットにしたビジネス活動を統括している。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。早稲田大学、オクラホマシティ大学でMBA(経営学修士)修了。

「2018年 『ひとり情シス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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