危機の構造: 日本社会崩壊のモデル (中公文庫 こ 25-1)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122017863

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  • 小室直樹の2冊目に挑戦。本作はやや難易度が高めにも感じたし、事例が古いのだが、それはそれで読み応えあり。日本社会崩壊のモデルとして、機能集団が同時に運命共同体の性格を帯びることで、社会組織の隅々に魔力にも似たエネルギーが発生し、拡大再生産され続けるという現象を指摘。日本人の思考・行動様式や集団機構の原理が戦前と変わらないという観点から、構造的な問題点を明らかにする。

    キーワードはアノミー。小室直樹の著書では、度々登場する。アノミーとは、無規範な状態とされるが、小室は戦後社会がアノミー状態にあるとし、個人が孤立感や無力感を感じる社会状況を生み出していると。このような状態は、高度成長期の日本での家族や村落共同体の解体、そして企業組織が運命共同体に転化し、成員の全生活・全人格までをも支配する「日本的な仕組み」を産み出したと言っている。

    アノミーという概念は、社会学の思想デュルケムによって提案されたものであり、政治学及び社会学における最も有効な分析用具となっている。規範の全面的解体を意味する急性アノミーと、規範の葛藤を意味する単純アノミーとを区別した。

    デュルケムは自殺について研究した。急激に生活が悪化したときに自殺率が上昇することを確認したが、急激に生活が向上したときにも自殺率が上昇することが発見された。人間の欲望は無限でありながら、常に有限の充足しか得られないから、社会的歯止めが必要である。この歯止めの機能を果たすのが規範。規範により、無限の欲望が制約を課せられ、人は足ることを知るようになる。この意味で規範は、心理的安定の条件でもあった。

    ナチスを生んだ社会的条件も社会の底辺におけるアノミーであり、ナチ指導者はモルヒネ中毒者のゲーリング、男色のヒムラー、酒乱狂のライなどノーマルな社会意識から排斥される異常者の集まりだった。また、支持者の多くもアウトローやデイクラッセであったと言う。

    運命共同体は個の自律性や多様性を否定する。この状態では、適応力やレジリエンス、進化への糸口を見失うのであり、これはつまり、「出る杭は打たれる」というITベンチャーへの潰し行為、天才が出現しない社会、故に、日本社会崩壊にも繋がるのであり、警鐘を鳴らしたものなのだろう。少し単純化し過ぎだが、今でも新鮮な気持ちで読める本だった。

  • 1976年出版 オイルショック・ロッキード事件を危機とし
    日本の対応力の不足を問う
    1.戦前から「科学的対処力」の弱さ 太平洋戦争
     日華事変で取り返しが効かなくなり、
     真珠湾攻撃で国家滅亡へ
     戦術大勝利、戦略理解できず、国家戦略は能力外
     軍事官僚が国政を担うとき、国家滅亡は必然
    2.だれもが無責任体制
     権力者が官僚しかない
     オーナーシップは明治維新の勲功者だけ
     維新後の官僚には胆力はなく、己の栄達のみ
    3.経済学は無力
     合理的経済人の前提が現実から遊離させる
     サミュエルソン 近代経済学の基礎
     2020年からみると「世界資産の規模」桁違い
     FACT・DATAを見えていない

  • オイル・ショックの後に書かれた、やや時評的な性格を持った論考を収録しています。

    戦後の日本社会のあらゆる領域でタコツボ化が進行し、人びとが官僚化していった結果、個々の狭い共同体への忠誠と、共同体の外部に対する無関心が蔓延していったことに対する危機感が、著者の議論の背景にあります。これが、日本のアノミー状況を特徴づけており、戦後日本社会は大きな変容を迎えたにもかかわらず、戦時中の軍部や政府と同じような、各機能集団間のディスコミュニケーションを発生させていることを、鋭く批判しています。

  • 今の日本の状況を理解するためのバイブル

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著者プロフィール

1932年、東京生まれ。京都大学理学部数学科卒。大阪大学大学院経済学研究科中退、東京大学大学院法学政治学研究科修了。マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、ハーバード大学に留学。1972年、東京大学から法学博士号を授与される。2010年没。著書は『ソビエト帝国の崩壊』『韓国の悲劇』『日本人のための経済原論』『日本人のための宗教原論』『戦争と国際法を知らない日本人へ』他多数。渡部昇一氏との共著に『自ら国を潰すのか』『封印の昭和史』がある。

「2023年 『「天皇」の原理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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