人間の集団について 改版: ベトナムから考える (中公文庫 し 6-47)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122026841

感想・レビュー・書評

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  • 内戦下のヴェトナムの取材を通して、国際政治、20世紀のアジア、人間の集団などにまつわる問題を論じています。

    読んでいて少し衝撃を受けたのは、料理屋で給仕をしている男性が著者に語った言葉です。24歳の時に日本軍が故郷に入るのを見たというその男性は、「あれからもう二十八年になります。まだベトナムでは戦争がつづいているのです」と語ったといいます。

    太平洋戦争から朝鮮戦争を経てヴェトナム戦争に至るまで、アジア・太平洋地域で起こった一連の戦争を、「三十年戦争」と捉える観点があるということは知っていたのですが、それは日本のアジアへの侵攻からポツダム宣言の受諾を経て、アメリカとソ連の冷戦に至るまでの国際政治の流れを把握する、大きな枠組みを設定したときに初めて見えてくるものだと思っていました。ところが、くだんのヴェトナム人にとって、それはけっして国際関係を鳥瞰する抽象的な捉え方ではなかった、むしろはっきりとした実感を伴う見方だったと知って、驚いたしだいです。

    もう一点気になったのは、巻末の「解説」の中で、フランス文学者の桑原武夫が述べている言葉です。桑原は、「私はつねづね日本に政治史や政治学説史の研究は盛んだが、現実の政治評論は乏しいのではないかと思っていた」と語ります。しかし、このことはむしろ逆の方向から捉えるべきではないでしょうか。つまり、自分の立っている場所から同心円状に理解を広げていくような情緒的な政治評論ばかりが溢れていて、政治史を踏まえて他者の立ち位置から見えてくる風景を理解しようとする努力が十分におこなわれてこなかったのではないかと考えます。

    先のヴェトナム人の男性は、典型的な日本人が自分の立っている場所から同心円的に理解を広げていくことによっては捉えがたい、「他者」としてのヴェトナム人の生の声を語っているのではないかという気がします。

  • 現在のメコンデルタってどうなってるんでしょうか

著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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