人間の集団について 改版: ベトナムから考える (中公文庫 し 6-47)
- 中央公論新社 (1996年9月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122026841
感想・レビュー・書評
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内戦下のヴェトナムの取材を通して、国際政治、20世紀のアジア、人間の集団などにまつわる問題を論じています。
読んでいて少し衝撃を受けたのは、料理屋で給仕をしている男性が著者に語った言葉です。24歳の時に日本軍が故郷に入るのを見たというその男性は、「あれからもう二十八年になります。まだベトナムでは戦争がつづいているのです」と語ったといいます。
太平洋戦争から朝鮮戦争を経てヴェトナム戦争に至るまで、アジア・太平洋地域で起こった一連の戦争を、「三十年戦争」と捉える観点があるということは知っていたのですが、それは日本のアジアへの侵攻からポツダム宣言の受諾を経て、アメリカとソ連の冷戦に至るまでの国際政治の流れを把握する、大きな枠組みを設定したときに初めて見えてくるものだと思っていました。ところが、くだんのヴェトナム人にとって、それはけっして国際関係を鳥瞰する抽象的な捉え方ではなかった、むしろはっきりとした実感を伴う見方だったと知って、驚いたしだいです。
もう一点気になったのは、巻末の「解説」の中で、フランス文学者の桑原武夫が述べている言葉です。桑原は、「私はつねづね日本に政治史や政治学説史の研究は盛んだが、現実の政治評論は乏しいのではないかと思っていた」と語ります。しかし、このことはむしろ逆の方向から捉えるべきではないでしょうか。つまり、自分の立っている場所から同心円状に理解を広げていくような情緒的な政治評論ばかりが溢れていて、政治史を踏まえて他者の立ち位置から見えてくる風景を理解しようとする努力が十分におこなわれてこなかったのではないかと考えます。
先のヴェトナム人の男性は、典型的な日本人が自分の立っている場所から同心円的に理解を広げていくことによっては捉えがたい、「他者」としてのヴェトナム人の生の声を語っているのではないかという気がします。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
現在のメコンデルタってどうなってるんでしょうか